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薬師は探索は苦手なのです。

作者: akiyama

花花と明明と呼び合うほどの親しい人に頼まれてしまいました。

いやいやながら囮役になり、困った事態に陥ります。

 

 

 低い声の美声が耳元で囁いた。

 

 


 「ご気分はいかがですか」

 



 仕方なしに重いまぶたを持ち上げると苦手な副隊長の陳道明(チェンダオミン)の顔があった。

 

 体が熱を持ってきている。 

 

 思わず仲の良い従兄弟でこの作戦の指揮官の顔を探す。

 

 隊長ならば首領一味を搬送中です、とどことなく不満げな声で告げられる。

 

 確かにこの頼みを引き受けたのは私自身だった、後悔はしていない。

 

 でも、ああ。


 



 


 東と西を結ぶ交易と商人の街、翠玉(ツイユー)は砂漠にありながら豊かな水資源に恵まれている。

 

 遠くから見れば翠色をした玉の様に輝いていて実に美しく旅人も多い。

 

 財政も多いに潤うが良い事ばかりではなく犯罪も多々ある。

 

 旅人や街の人間を犯罪から守るために警備隊が作られた。

 

 全部で四つある警備隊は守る地区が決められている。

 

 南を守る朱雀組の隊長は従兄弟で名前を黄明志といい、脳筋気味だが武術の腕は優れている。

 

 性格は明朗にして快活、一言で言うならば単細胞。

 

 しかし不正を許さず、上役に媚びず、部下を甘やかさないが厳しすぎるわけでもない要するに良い奴である。

 

 子供からお年寄りにも大人気で信頼は厚い。

 

 女性にモテる気配すらない少々残念な従兄弟ではあるが。





 黄明志(フゥァンミンジー)が美声の副隊長を連れて私の店に来たのは一週間前のことだ。

 

 薬を主に扱っているが若い女性向けの小物も扱っている薬と雑貨の店が私の職場であり財産である。

 

  

 保湿効果の高い香油水は我が店だけの独占販売(プライベートブランド)の品でいつもだったら女性


 販売員の説明を熱心に求め購入してくれる

 


 若い女性の心を奪っているのは従兄弟の連れに違いない。

 

 従兄弟も不細工ではないが……。

 

 このままでは店の売上にも影響を与えるであろう従兄弟と連れを奥の私室に連れていくしかなかった。

 

 従兄弟と比べるとどこが違うのかと問われると言葉に詰まる。

 

 しかし差は歴然としていた。

 



 


 二人共剣に例えるとすると従兄弟は大振りで無骨な堅固な代物だとして副隊長はもっと東方で造られる


 優美で細身だがやたらと切れ味が鋭そうな剣である。

 



 どちらがどちらより優れているとは言えないが。


 女性受けが良いのはどちらかということだけははっきりしている。

 

 従兄弟に同情して涙ぐんでしまったのは内緒だ。

 

 どうみても引き立て役……。

 


 


 


 久しぶりに会うというのに挨拶も早々に用件を話し始めた従兄弟の話を要約するとつまり、


 従兄弟は薬屋として私の意見を聞きにきたらしい。 

 

 美容液といつわり習慣性のある薬を用いた若い女性を拐かす犯罪が多発しているらしいのだ。

 



 


 「唯一手に入れた証拠品がこれなんだ」

 

 


 従兄弟が無骨な手に取り出したのは可愛らしい玻璃(ガラス)の小瓶だった。

 

 

 綺麗な薄紅色のそれには液体が揺れている。

 

 私は従兄弟の許可をもらい蓋を開け匂いを嗅いだ。

 

 ふわりと立ち上ってきたそれは甘い匂い。

 

 少しだけ舐めさせてもらったら蜂蜜で味付けをしてあるが酒精(アルコール)も感じる。

 

 


 


 「主な成分は薬草、薬草は多分催淫効果があるもの、それに酒精(アルコール)も入れられていて



 蜂蜜を入れることで味をごまかしている」





 習慣性が高いのは少量の麻薬が入れられている可能性アリ。

 

 これ以上はこの小瓶だけではわからない。

 

 しかし玻璃の小瓶をこの街で扱っている問屋は一軒しかない。

 

 大量に出回っているとしたら何らかの形で関わっていることを告げる。

 

 これだけ手がかりを与えても何か言いたげな従兄弟の様子に嫌な予感は、したわ。

 

 どうやらこの小瓶を持って問屋で聞き込んで欲しいらしい。

 

 



 要は囮じゃないの。 嫌よ、明明(ミンミン)~私は薬屋であって探索者ではないのよ。

 


 武術はおろか剣のひと振りも握ったことのない私に何を望んでいるのか、この脳筋め。

 


 力強く断れたのは従兄弟が借金のことを持ち出してくるまでだった。

 

 



 私と従兄弟の属する一族は代々が研究か学術に携わる者が多い。

 

 私のように薬師の仕事をするものはいても女性用の小物を売ったりするほど商売熱心な者はいない。

 

 故に私が商売をするといって店を出すにあたっての資金面で頼ったのはこの従兄弟なのだ。

 

 黄一族においては武術系の仕事をする者も珍しいので我々は似たもの同士だったりする。

 

 「頼むよ、花花(ファーファ)~」

 

 私が思わず従兄弟の幼い頃の幼名で呼んだらすかさず私の幼名を持ち出すところが幼馴染の嫌な所だ。

 

 

 借金のこともあるしそれにこの従兄弟には他にも借りがあったりする。 

 

 上手く事が運んだら借金を帳消しにしてくれるという約束を取り付けた。

 

 小瓶を持って問題の問屋の辺りをこれみよがしにウロウロと聞いてまわり犯人をあぶり出す。

 

 




 妹が行方不明になって探している姉という設定にしたのだが。

 

 一日目は全くの無反応だったので探す方向が間違っていたかと考えていた。

 

 三日目になると怪しげな人影につけまわされ、さらにその人影を警備隊の面々がつけまわす。

 

 若い女性達を隠しているはずの場所が見つからない。

 

 もっと露骨に小瓶を見せびらかすようにして探してみたら五日目にしてようやく動きがあった。

 

 拐かされたのだ。

 




 警備隊の隊員達は隠れ家の近くでまんまと撒かれてしまったらしい。

 

 次の日になっても警備隊が探しにくるといったこともなかった。

 

 このままでは埒があかないと考え用意した色付き煙幕弾を派手にぶちまけた。

 

 私のお手製の煙幕弾は大層綺麗な観ものだったらしい。

 

 周辺の民家の人の声で大騒ぎになったのがわかった。

 

 驚いた犯罪集団達は下っ端達は焦って逃げ出したのだが首領はさすがというべきだろうか。

 

 騒ぎの張本人の私に怪しげな薬を服用させてから逃走を図ったのだ。

 

 

 例の小瓶の物と違う薬草を使っているが多分媚薬つまり催淫効果のある薬のはず。

 

 何も言わなかったが男のニヤついた顔でわかった。

 




 

 自分の部屋ならば解毒か中和できる薬を調合できる自信がある。

 

 しかし、一人で帰るのは無理。

 

 気心の知れた従兄弟がいないのならば良く知らない副隊長にすがることにした。

 

 良くは知らない副隊長だがこの数日間私の側に張り付いて護衛をしてくれたのは彼だ。

 

 副隊長は現場の後始末を部下に言い置いて私の肩を支えるようにして歩きだす。

 

 距離はそんなにないので歩いて四半刻(さんじゅっぷん)

 

 それくらいなら何とか間に合うと計算をして歩きだしたのだが、私は忘れていた。

 

 今日は月に一度の街中大掃除の日であることを。

 

 これから始まることを知らせる(サイレン)が鳴らされた。




 街の上にある溜め池(プール)から水を放ち街中の砂を洗い流す習慣があるのだ。

 

 定期的に街が潤い砂埃が貯まるのを防ぐ習慣を今この時ほど恨めしく思ったことはなかった。

 

 私の家までは間に合いません。

 

 副隊長も同様にうっかりしていたらしく舌打ちをすると私を肩にかつぎあげ踵を返して走り出した。

 



 街中の人間が既に屋内にて待機しているらしく私と副隊長は誰とも会わなかった。

 

 着いたのは大きすぎず小さすぎない一軒家だった。


 


 副隊長の家らしいその建物の簡素な卓と椅子が置かれてある部屋に下ろされた。

 

 私は呆然としながらも椅子に座っていたのだが唐突に体の奥からソレがやってくるのを感じてしまっ


 た。

 


 



 お茶の用意をしてくれているらしい副隊長に声をかけようか迷いながらも私の体は耐え難いほど熱くな


 り頭の奥が霞みがかっていった。

 



 「……っ」

 

 



 もう声を抑えているのがやっとという頃になって副隊長が戻ってきた。

 

 心配そうに顔を覗かれるのは我慢できるのだが低い美声で話しかけられるのは勘弁して欲しかった。

 

 熱はますます上がり耳元で囁かれるだけで感じてしまう。

 

 私の様子を妙だとは思ってもどうしたら良いのか測りかねている様子の副隊長に私は聞いてみた。

 

 薬もなしにこの薬の効用を失くする方法は一つしかないのです。



 「陳副隊長、奥様か恋人はいらっしゃいますか?」

 



 「いません」





  あまり動揺の様子も見せないのはさすがと思いながら私は話を切り出す。

 




 「もしお願いできるなら私を……ああっ…んんっん……抱いてくだ……ああんっ」

 

 


 薬を服用させられたことを告げるのが精一杯だった。



 最後まで言わせずに私に噛み付くように口づけをしているのは陳副隊長に見えるけどそっくりの別人か


 も。





 互いに貪るように口づけを交わしていると副隊長もいつもの冷静さをなくしてきました。 

 

 感じてくれているのを嬉しく思い伝えると苦笑しながら抱き上げられ寝室に運ばれ、衣服を剥ぎ取られ


 ました。

 

 お風呂に入っていないので気になるのですが副隊長の勢いも止まらず私も薬の効果で辛い。

 


 私も初めてというわけではないのですが経験豊富と誇れるほどではありません。

 

 経験値ということでははるかに負けているのをひしと感じました。

 

 媚薬が効いて感じやすくなっている私の体を副隊長は翻弄し続けてくれたものです。

 

 結局薬の効果がある程度落ち着いた私がお風呂を借りていると強引に副隊長も乱入してきました。

 

 淡白そうな顔をしているのに意外と……。

  

 一目惚れでしたって言われても……しかも従兄弟との仲を疑われていたのですか。


  だから時々睨んでいたと。

 

  えっあだ名で呼んでみたい? 花花ですか……

 

一族の中でどちらかというと異端の二人なのですがだからこそ気の合う従兄弟を助けたかったヒロインなのです。


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