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同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第6章 ロリータ女王と捨てられぬ矜持
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EPISODE95:無垢なる魔女

「何はともあれ、これで一件落着! かな」

「……いや、そうでもないようだぞ」

「え? どういうことでっか、(あね)さん?」


 戦いは終わった。男二人と龍一匹の熱い夜も終わりを告げようと――していなかった。


「そうだよ。敵は殲滅したからもういないはず……」

「まだ残っているんだ。一匹だけ――それも飛びきり強くて大きいのがな」

「ホンマや、わしのレーダーもビンビンに反応しとる! えらいゴッツイぞー!」


 一匹だけ強くて大きいものが残っている――そうアルヴィーから言われて気付いた市村が、懐からレーダーを取り出す。外見はある漫画のあのレーダーにそっくりだ。それとの違いは対象がドラ○ンボールか、シェイドかだけ。と思いきや色も違っていて、なんと青色だ。クールで使い勝手が良さそうな印象を与える。


「……それ、ドラゴンレーダー?」

「ちゃうちゃうちゃう! そんな大層なもんやない。こいつはシェイドサーチャーや! あのエビちゃんと契約(ディール)したらついてきたんや。あんたも似たようなモン持っとるんとちゃうか」


 市村が持っているシェイドを探知するための機械――シェイドサーチャー。スイッチひとつで周りにシェイドがいないかサーチし、ほったらかしにしてもシェイド反応をキャッチすれば音で知らせてくれる優れものだ。

 それと似たようなものを持っていないかと訊ねられ、健は懐から一枚の白いウロコを取り出す。はじめてエスパーになった時、バイトに行こうとしてアルヴィーから止められた際にもらったものだ。

 彼女が自分の体から無理矢理はがした為に出血したものの、すぐに傷がふさがったあの場面は今でも印象に残っている。それからお守りがわりに持ち歩いていた健だが、今になって最近使っていないことに気がついた――。


「これでっか?」

「はい。お守りがわりに持ち歩いてます。自動で温度調節もしてくれるんですよ」

「エエの持ってるなぁ……ま、わしのレーダーのがカッコええけどな」


 自慢するように市村が豪快に笑う。少しむかっ腹が立ったか、健は不機嫌そうに頬っぺたを膨らませていた。「これはこれでカッコいいのに……」と思いながら。



 市村が『秘密兵器』による爆撃で壁を吹き飛ばした倉庫から出て、近くにある別の倉庫に向かう。錆び付いた扉を開いて、薄暗い倉庫の中へ入っていく。ここも恐らくは、建物の老朽化や衛生上の問題などでやむなく廃棄されたのだろう。


「あんたら気ィつけなはれやー。敵さんはいつどっから襲ってきよるか、わからんからなぁ」

「はい。言われなくてもそのつもりです」

「ええこっちゃ。それでええ」


 健は長剣――エーテルセイバーを構えながら、市村は大型の銃――ブロックバスターを構えながら、それぞれ廃倉庫の内部を進んでいく。

 外からわずかに差し込む光と、炎のオーブを装填したことで炎をまとった剣の刀身だけが頼りだ。周りの景色に溶け込むこと、つまりカモフラージュが得意なタイプの敵や、暗闇でも問題なく視界が確保できるタイプの敵からしてみれば、これほどまでに動きやすい場所はない。だからこの場所は危険なのだ。


「敵かッ!?」


 ガサゴソ……と、何者かが物音を立てる。音が聞こえた方角に市村は発砲し、撃たれたものがポトリと、地面に落下した。落ちた方向に行くとそこにいたのは、こういった場所に良く住み着いている小動物にして害獣。

 病原菌をよそから持ち込んできているため、噛みつかれたら何らかの病気にかかると言われている嫌な相手――ネズミだ。あの国民的アニメの青いタヌキもとい、猫型ロボットも嫌っている。理由はネズミに耳をかじられたのがトラウマになったから、だ。


「なんや、ネズミか……おどかしおって」

「今はネズミよりシェイドです。先に進みましょう!」

「せやったな、早よぉ倒しにいかな!」


 勘違いで殺ってしまったネズミに黙祷を捧げながら、彼らは更に奥へ奥へと進んでいく。ちなみに先程のイセエビメカは市村が引っ込ませたようだ。あの巨体だ、あのまま引き連れていれば建物を必要以上に破壊してしまっていただろう。引っ込めたのは賢明な判断だといえる。


 やがて二人と一匹は、クモの巣がそこら中に張られた不気味な区画に足を踏み入れた。市村が持つレーダーの反応も、より一層強くなっていく。例の強大なシェイドに近づいているという証拠だ。やがて彼らは道をふさぐ巨大なクモの巣を発見する。


「見てみぃ、でっかいクモの巣やで」

「ホントだ……でかい。このままじゃ通れそうにないぞ……」


 その辺に落ちていた角材や鉄パイプで叩いてもくっつくだけ。銃からビームを撃っても弾かれる。手は尽くしたが、何をしてもダメだった。いったいどうすれば――? そんな折、健はあることを思いつく。


「待てよ……燃やせば……」


 それまで松明がわりにして掲げていた炎の剣を振りかざし、行く手を阻むクモの巣を切り裂き焼き払う! 斬られた箇所から全体に火の手が伝わり、巨大な壁のようなクモの巣はきれいに全焼した。ある種の芸術のような光景だった。


「っあー……その発想はなかったで」

「なんで気づかなかったんだろうなぁ。ゲームとかだと良くある方法なんですけどね」


 それからも似たような光景が何回か続いたが、そのたびに炎の剣やアルヴィーの青い炎で焼き払ってきた。最初はサッパリわからなかったが、対処法がわかってしまえばこっちのものだ。


 クモの巣だらけの不気味な区画を抜けると、何やら広い空間に出た。市村が持っているレーダーが、これ見よがしに発光しせわしなく音を立てる。


「オオッ! ……東條はん、来ましたでェ。ゴッツイ反応がすぐ近く!」

「そうみたいですね。……準備、いいですか?」

「もちろんや! そーゆーあんたは?」

「僕も……バッチリ!」

「右に同じだ。気を引き締めていこうぞ」


 覚悟はできた。勇気を出して飛び出すと、そこは広い道だった。景色から察するに、どうやら外へ出たようだ。他の倉庫やコンクリートの地面と、その近くには林が見える――。

 道なりに歩いていき、曲がり角に差し掛かると、突如クリーパーが飛び出してきた。身構える二人と一匹だったが、敵の様子がどこかおかしい。胸を押さえて苦しんでいるように見える。その左肩からは――紫色の血がどくどくと溢れ出していた。


「なんやこいつ……誰かに噛まれたんか?!」

「ウ……ウオオオオォ」

「あぶないッ!」


 銃を向ける市村に手負いのクリーパーが襲いかかる。彼を守ろうととっさに守りに入った健だったが、クリーパーが腕を振り上げた瞬間に――その体は灰となって地面へ崩れ落ちた。もしかすればそのクリーパーは、助けを求めていたのかもしれない。


「えっ……? アルヴィー、今のどうなって……」

「ふむ……いま死んだあやつは、体が灰になるほどの致命傷を負っていたのではないか? それにあの噛まれた(あと)――あんなに弱っていたのは何者かに、血か、あるいは体液を吸われたからという可能性があるぞ」

「……なるほど。つまり吸血鬼っぽいのにやられたってことかな」

「そうなるのぅ」


 アルヴィーが冷静に推測する。その話を聞いて理解できたような、できないような曖昧な表情を浮かべながら角を曲がる。

 途中で見かけた紫色の血痕に、心の底からゾッとするような戦慄を覚えながら。林に面した道を進んでいると、誰かが何かをかじって食べているような、生々しい音が二人と一匹の耳に飛び込んできた。

 食事中か? と、耳を疑いながら近づいていくと――そこにいたのはシェイドの死骸をむさぼる、黒服を着た幼い少女。

 その青紫の髪や色白の肌、クモの巣のような意匠がある黒服には紫色の血液がびっちりと付着していた。相手の存在に感付いたか、腕で口についた血を拭き取ると健たちの方を振り向き、


「…………誰?」

「き、君こそ誰だ。ここは危ないから早く逃げた方がいい」


 何が起きるか分からない。健も市村もそれぞれ武器を構え、警戒を強める。


「逃げる? なんで逃げなきゃダメなの?」

「なんでって……危ないからに決まってるやろ。早よぉせんと、お嬢ちゃん、わるーい怪物に食われてまうで!」


 市村が叫ぶ。こんないたいけな少女を死なせて何になるのか。きっと、まだ生き続けたいはずだ。ところが少女は避難を呼びかける健や市村を気にもとめず、その場から離れようとしない。


「そない得体の知れんもん食うてる場合とちゃう! 早よ行き!」

「――うるさいなぁ」


 眉をひそめ、気だるげに少女が呟く。刹那、謎の力が働き――市村の体が石のように硬くなり動かなくなってしまう。

 体が石になったわけではないのに体が自由に動かせなくなってしまう、いわゆる金縛りだ。銃を落とし、直立したまま市村は苦悶する。


「か、体が……ううっ!」

「これって……金縛り? いったい何が……」


 市村を見ながら健が呟く。何が起こったか見当がつかない――。ひとまず幼い少女の方に向き直すが、既にその方向には誰もいなかった。

 少女の姿もシェイドの死骸も――後者は跡形もなく喰らい尽くされたか、あるいは灰になって風に吹き飛ばされたか。それより問題は黒服の少女だ。

 「どこに行ったんだ……」と不安げに呟く健だったが、そのとき――背後から誰かに抱き付かれた。背筋に悪寒が走ったような、安心感を感じたような――ハッキリしない感覚が全身を疾走する。目を向けると健に抱きついていたのは、黒服の少女。


「驚いた? フフッ♪」

「え? あ、ああ……うん」

「あったかい! すごくあったかいよ! だけど……」


 苦笑いしながら健が答える。対して少女は、一切屈託のない心の底からの笑顔を浮かべていた。一見すれば無邪気な少女のようだ。

 しかし内面は――読めない。たとえどれほど感覚を研ぎ澄ませたものでも、彼女の考えは読みようがない。そんな少女は華奢な見た目に似合わず、しっかりと健を抱き締めている。

 まるで兄か父親に甘える、無垢な幼い妹のようだ。だが、気が変わったか少女は一転して険しく冷酷な表情を浮かべる。


「……私の邪魔、しないで」

「えっ……?」

「今度邪魔したら――――殺すよ」


 そう告げる少女の目付きはおっとりした印象を与えるタレ目のまま。だが、目だけで相手に威圧感を与える程度の威厳と迫力を存分に発揮していた。

 民衆を恐怖で支配する冷酷な女王のような冷たい視線――。だが、また気が変わったか少女はニッコリと笑い健から離れた。


「なーんてね♪ 剣のお兄ちゃん、バイバーイ!」


 嬉しそうに健へ手を振ると、少女はどこかへ去っていく。それはまさしく、過ぎ去る疾風のごとく。それと同時に市村の金縛りも解けた。


「……行っちゃった。あの子、何者なんだろう」

「どないやろ。ま、かわいかったのは確かやけどな」


 市村が高笑いを上げる。如何にも関西人らしいポジティブな思考だ。細かいことは気にしないタイプなのだろう。そうしてライバル同士で笑っていると、人の姿に戻ったアルヴィーがすました顔で「ただ、一応気を付けた方がいいぞ」


「……なんでや、(あね)さん?」

「あの女の子は――さっきお主のレーダーにも反応していた、とてつもなく強いシェイドだからだ」

「えっ!? そんな……」

「あのコが、シェイドやっちゅうんか……?」


 あの少女は大きな反応を示していたシェイドだと――アルヴィーはハッキリとそう言った。健と市村、両者に衝撃が走る。発言したアルヴィー自身もやや信じがたそうな表情をしていた。


「――要するに、目に見えるものだけがすべてではないということかの」


 アルヴィーがいつになく、深刻そうに呟く。実はこの時、彼女はあの少女にどこか懐かしさを感じていた。その理由は――本人と例の少女だけが知っていることだろう。動揺を隠し切れない3人(正確には二人と一匹だろうか……)がとぼとぼと倉庫の外周を歩いて帰路につきだすと、突然健の携帯電話が音をたてはじめる。


「もしもし、東條ですが……」

「こんばんは、東條くん! 元気してる?」

「白峯さんっ! 一応元気ですよー」


 彼に電話をかけてきた相手は白峯とばり。黒髪のロングヘアーに金色の瞳、そして雪のように白い肌が美しい女科学者だ。技術力の高さに加え、頭が良くて料理もうまい。おまけにナイスバディな美人。

 そんな優れた技術屋である彼女だが、若くして博士号をとったことを考慮しても若々しく、子どもっぽい一面も持っていた。健とは気が合うのか、彼と話しているときの彼女は妙に楽しそうである。無論健自身もそれは同じだ。


「それでご用件はなんですか?」

「そうねぇ。研究したいことがあるのよね……悪いんだけど、また武器貸してもらえないかしら」

「え? はい、わかりました。いつそちらに行けばよろしいですか?」

「また空いてる日にでも来てちょうだい。詳しい事はその時に話すから。じゃあねー!」


 そこで電話が切れた。にんまりと健が微笑む。


「な、なあ東條はん。いま話しとった白峯はんってどんな人や?」

「そうですね、頭はいいし料理は上手いしおまけに美人! だけど子供のようにかわいい一面もある素敵な人ですよ!」

「なんやてェェェェ!?」

「これこれ、二人とも取り合いはよくないぞ」

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