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同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第6章 ロリータ女王と捨てられぬ矜持
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EPISODE92:たとえ火の中水の中草の中


 故郷である滋賀でしっかりと羽目を外し、自宅アパートに帰った日の晩――健は、夢の中で今まで戦ってきた敵のことを回想していた。


 ――お前のようなクズとはわけが違うんだぜ!――

 ――いつまでガードし続けるつもりかな? それはちょっとつまらなくないのかなぁ!――

 ――卑怯もクソもあるか。手段を選ばないヤツだけが生き残れるんだ!――


 最初に思い出したのは赤木、青山、緑川――三人ともエネルギー研究機関・センチネルズに所属していた屈強な男たちだ。

 この頃の健はまだ未熟で、彼らと戦う度に苦しめられた。それでも勝つことが出来たのは、アルヴィーのお陰であることに他ならない。


 ――これは、我ら人類の進化に貢献することにもつながる。とても有意義なことだ――

 ――だが、進化についていけないものはどうなると思う?――

 ――時代遅れだからいらない、一掃される――

 ――そう、その通りだ。そして私は進化を遂げた人類の支配者となる!!――


 センチネルズの総統――浪岡十蔵。表向きはエネルギー研究の第一人者で、日夜新エネルギー開発に心血を注いでいる優れた科学者。

 だがその実態は己の能力を試すためだけに連続発火事件を起こし、不破の恋人である倉田美枝をはじめ多くの罪なき人々の命を奪った冷血漢にして筋金入りの大悪党。

 その真の目的は古代に封印された鉄を金に変える禁忌――錬金術を復活させ、文明を発展させると共に世界を支配することだった。だが、今はもういない。幾度に渡る死闘の末に、不破に倒されて死亡したからだ。


 ――何が同じような目にあわせたくねーだぁ? もう恐怖感じてるじゃねえか、お前のお友達がなァ!!――


 このねずみ色の髪に黄緑の瞳と、ストリートギャング風のカジュアルな服装に身を包んだ男は三谷。健がはじめて戦った上級シェイドだ。

 しつこい上に卑怯で小物くさい相手だったものの、その実力は高く上級の名に恥じぬものだった。そして何より、最大の特徴はその異常なまでのしつこさ。

 少なくとも四回は戦った。しかし、こいつも既に健に引導を渡され爆死したため、もうこの世にはいない。


 ――オレ様の美しい顔を汚しやがってェェェェ!!――


 このスイセンマン――もとい、スイセンのような、邪悪な道化師(ピエロ)のような敵は花形。スイセンの上級シェイドだ。

 普段はオネエ口調で軽妙に喋っていたが、その本性は下品なチンピラそのもの。みゆきをさらったことが命取りとなり、激昂した健や市村によって(おもに顔を)完膚なきまでに叩きのめされ、

 「おムコにいけない!」などと悲痛な叫び声を上げながら全力で逃げ出した。実に情けない。その後彼がどうなったか、健もアルヴィーも知らない――。


 ――他にも鎌瀬という悪党とも戦ったことはあるが、健にとってそんなヤツはどうでもよかったらしくひとかけらも思い出さなかった。

 正確には、思い出したくもないというのが正しいかもしれない。並み居る強敵たちとの戦いを回想していたはずの健だったが――気付くと彼はイメージトレーニングを行っていた。

 設定はこうだ。健はアルヴィーと共に雷雲轟く荒野で、浪岡率いる悪の軍団と対峙する。その中には彼に洗脳されて寝返った市村や不破の姿があった。

 ちなみに鎌瀬はいない。というかそんな奴は知らぬ。――では、気を取り直して。これからちょっとヒーロー番組チックなイメージトレーニングの様子をご覧いただこう。



「ハッハハハ! 久しぶりだなぁ、東條健ゥ! この数ヶ月間、どれほど貴様を憎んだことか!!」

「貴様は……浪岡! なぜ貴様がここにいる……?」

「生き返った理由が知りたいかね? 錬金術だよ……。こんなこともあろうかと、それを応用して死んでも一度だけなら復活できる術式を、己の肉体に施していたのだよッ! ハーッハッハッハ!!」


 生き返ったトリックを説明し、浪岡が高笑いを上げる。笑いすぎで咳き込んだような気もするが、恐らく聞き間違いだろう。これだけの人数だ、そうなってしまうのも仕方がない。


「つまりリレイズか……許さん! もう一度やっつけてやる! 行くよアルヴィー!」

「うむ! 今度こそトドメを刺してやろうぞ!」


 アルヴィーが女性の姿から猛々しい白龍へ姿を変えると同時に、剣と盾を構えた健が浪岡率いる悪の軍団へ勇猛果敢に突撃する。


「バカめ、貴様らに何ができる。……殺れッ!!」

「ウオオオオオ!!」


 浪岡の号令と共に、赤木や青山、三谷といった悪党どもが雄叫びを上げて突撃する。だが、健は彼らを難なくいなして突き進んでいく。


「こ、こいつ……つえぇ!」

「ぼ、僕たちではかなわない! 浪岡様、あとは頼みましたよ」

「おれらは先におさらばします! うぎゃああああああ〜!!」


 赤木、青山、そして三谷。三人並んできれいに爆散していく。「ええい、この役立たずどもめ!」と憤った浪岡は、次に花形をけしかける。スイセンの怪人体に変化した花形は手強く、蔓のムチで剣を絡めとられてしまう。


「あら、その程度であたくしに勝てるとお思いで?」

「くっ……!」

「健、これを使え!」


 苦戦する健にアルヴィーが、赤いビー玉のようなものを授ける。それは炎のオーブだった。隙を見て柄に装填し、刀身からあふれでる炎の力で花形を焼き尽くす!


「ぐぎゃああああああァ! あっちいいいいい! うおおおおおおぉ!!」

「くそッ、貴様もか! こうなれば仕方あるまい……」


 花形を火葬し、残るは浪岡ひとりだけとなった。真っ赤に燃える長剣を構えながら、健は浪岡へ立ち向かう。歯ぎしりする浪岡は、腰に忍ばせていた日本刀を鞘から抜き、その鋭い切っ先を健へと突き付ける。


「私が自ら貴様を闇に葬ってやるとしよう! 死ねェェェェ!!」

「それはこっちのセリフだ!」


 剣と刀とがぶつかりあい、火花を激しく散らす。やがて浪岡が刀から炎を発し、健を切り払って吹き飛ばす。


「ファハハハハハ! 愚か者め。炎で私に勝てるとでも思っていたのか?」

「くっ……強い。どうすれば……?」


 同じ炎では浪岡にはかなわない。では、どうすればいい? 炎と相反する氷の属性なら立ち向かえるかもしれないが――。


(頼む……氷のオーブよ、僕に力をくれッ)


 確証はない。だが、今はやるしか他はない。健は己の可能性を信じて氷のオーブを柄に装填する。浪岡に殺された仲間――不破や市村の為にも、彼は戦わなければならなかった。


「うおおおおおおッ!!」


 氷のオーブを装填した瞬間、健の周囲に強力な冷気が発生し吹雪を巻き起こす。すさまじい力だ、浪岡も思わず目を丸くする。


「な、なんだこの力は!?」

「行くぞ、浪岡ァァァァ!!」

「図に乗るな! 貴様ごときに負ける俺ではないわ!! 身の程を思い知れェ!!」


 青白く輝く氷の力まといし長剣。それと対峙するは紅蓮の炎をまとった日本刀。再び両者は激しくぶつかりあい、つばぜり合いへと持ち込まれていく。

 はじめは浪岡が優勢だったが、次第に状況は健にとって有利な方向へ傾いていく。やがて、浪岡の刀から炎が消えた。


「ば、バカな……我が炎を消し去っただと!?」

「これで終わりだ! うおおおおおお!!」


 高く跳躍し氷の剣を振り下ろし唐竹割りを繰り出す。切り裂かれた浪岡は爆発し、その場に転倒する。


「うぐ……これで勝ったと思うな……俺が死んでも悪は滅びぬ! 光ある限り闇もまたある!!」


 浪岡が死に物狂いで叫ぶ。電流が体にほとばしっており、闇に溶けかけようとしていた。


「お前が私から勝ち取った平和などほんのひとときのモノでしかないのだ! 終わらぬ戦いという呪縛に囚われ続けるがいい……! グオオオオオオォ――――ッ!!」


 雄叫びを上げながら浪岡は爆死した。大爆発のあとに残った火の中に立ちながら、健は人間の姿に戻ったアルヴィーと共に空を見上げる。


「……これですべて終わったな」

「ああ。……不破さん、市村さん、みゆき……戦いは終わったよ」



「ぼきゅはへいわをとりもどしたんだぁ……Zzz 」

「おーい、健」


 ――と、ああいう感じの夢を見ながら健は爆睡していた。先に起きていたアルヴィーは既に朝飯と洗顔をすませ、彼の布団の前に居座っていた。


「ふぇ? おはよう、アルヴィー。いま何時ぃ?」

「朝8時だぞ。お主、急がんでいいのか?」

「何いってんだよぅ。今日はまだ休みじゃないか」


 眠たくて目をこする健。頭は寝癖が目立ち、ボサボサだ。まだ半分寝ているような状態ともいえる。


「あー……一応言っとくがの、今日は月曜だ。確かバイトに行く日だったはずだが」

「……えええええええええええええ! ヤバい、遅刻しちゃうよォォォォ!!」


 今日は休日ではなくバイトに行く日だった。このままでは遅刻だ、急がねば! 大慌てで健は支度をすませ、食パンを加えてアパートを出ていった。ダッシュで京都駅へ向かう健。急ぐあまり彼は気付かないでいた。自分を物陰から見つめる、あるひとりの少女の存在に――。



「不思議ねぇ。あのお兄ちゃん……懐かしい感じがする」


◆補足の為のQ&Aコーナー◆


Q:どうして浪岡さんはノリノリなの?

A:このサングラスのおじさんは、きっと久々にシャバの空気を吸えてご機嫌になっていたのです。たぶん。


Q:なんで緑川だけ浪岡軍団にいないの?

A:いい人になったからです。Vol.3のラストで奈良県警に出頭しましたが、現在は釈放されてると思います。

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