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同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第4章 夢のジャムセッション
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EPISODE79:覚醒! 雷の剣

 健の力強い意志に呼応するかのように、バチバチ! と、剣にほとばしる電気が激しく弾け飛ぶ。

 恐れを成したキャモレオンは透明になって背景に溶け込み、逃亡を図ったが――稲妻の剣で大きくなぎ払われてひるんだ。まるで自分の居場所を見破られたかのように。

 なぜわかった、と言わんばかりにキャモレオンは取り乱し、懲りずに健へ突っ込む。しかし剣から稲妻を伴う衝撃波が飛び、キャモレオンを吹っ飛ばしてコンクリートに壁に叩きつけた。

 ものすごいスピードだった、それでいて威力も生半可なものではない。なんというパワーだ、これが自分が手にした新しい力なのか?

 ――自分自身でも信じがたいそのパワーを発揮した黄金の剣をまじまじと見つめながら、健は思わず我が目を疑っていた。そして勝てるという確証を得たのか――固かった口元を持ち上げて笑った。


「……いけるッ!」


 気がつけば彼は、計り知れないパワーを宿したその刃をまるで自分の手足のように振り回していた。先程までのぎこちない動きが嘘のような機敏さだ。

 形成も完全に逆転し、優勢だったキャモレオンはあっという間に窮地に陥った。こうなれば遠慮はいらない、反撃を許さないほどに押しきってしまうまで。


「ひぃぃぃ、冗談じゃねえ!」


 体がしびれてうまく動けないキャモレオンは後ずさりし、透明化して逃れようとしたが――できない。何度やろうとしてもそれができなかったのだ。


「と、透明にならねぇ……!」

「教えてやろうか、キャモレオン! お主の透明化能力は保護色だけでなく、光を屈折させることにより周囲から姿を消すことが可能な能力であったな」

「そ、それがなんだ!」

「稲妻による激しい光を浴びた影響でお主は姿を消せなくなった。たったそれだけのことだ!」


 アルヴィーが何も原因がわかっていない哀れなキャモレオンに理由を説明してやると咆哮を上げ、口から吹雪を吐き出す。

 身も凍り付きそうなほど強力で、実際にキャモレオンは下半身が凍ってしまった。そんな状態で逃げようとしたために上半身が倒れ込み、起き上がれなくなってしまった。

 こうなるともはや、逃げることは不可能――振り返ればうしろには、雷の剣を携えて疾走する健の姿があった。


「うおおおおーーッ! ライトニングフラッシュっ!!」


 そして健はそのまま跳躍し、稲妻を纏った剣で大きくキャモレオンの体を切り裂く!


「こ、この俺様があああああッ!!」


 閃光と共に大爆発が起き、キャモレオンは跡形もなくこの世から消え去った。爆発の残り火が燃える中、健は剣を携えたまま立ち尽くしていたが、やがて疲労から地面に崩れ落ちた。

 剣を杖がわりにして立つのがやっとの状態だ。疲労に喘ぎながら、健は隠れていた市村のもとに向かう。このときアルヴィーは人の姿に戻って、健の肩を持っていた。


「な、なんちゅうパワーや……一撃で倒してまいおった」


 ――強い、強すぎる。もしかしたら今の自分よりずっと強いのではないか? 少なくとも今の自分では勝てる気がしない。

 健が見事手に入れた新たな力――雷の剣の圧倒的なパワーを前に、市村は戦慄を覚えていた。下手すれば殺されるのでは、自分はとんでもないヤツに手を出してしまったのでは――と、密かに怯えながら。


「あのー……市村さん」


 市村がそんなことを考えていることなどつゆ知らず、健は気軽に話しかけた。背後から声が聞こえたため、市村は驚いて飛び上がった。


「な、なんやあんたか。脅かすなや」

「カメレオンはやっつけました。僕らと一緒に帰りましょう」


 「ニッ」と笑って市村に手を差し伸べる。だが市村は健の手など借りずに、一人で立ち上がった。お世辞などいらない、または立つことぐらい相手の手を借りる必要はない――とでも言いたげな、拗ねた表情をしていた。


「わしをガキんちょ扱いするなや。一人で帰れるわい」

「そうは言うがの……お主、そんな傷で大丈夫か?」

「心配ご無用! わしゃあこの通り、ピンピンしてまっせ」


 アルヴィーが心配しているように、市村は強がってはいるものの体の方は満身創痍であり、文字通りボロボロだった。

 しかし傷はそれほど深いものではないようなので、応急手当を受ければ何とかなるかもしれない。それにエスパーは、常人より傷の回復も早いときている。少なくとも死にはしない――はず。


「ところで(あね)さん、あとでおっぱいもませ……げふっ!」


 ヘラヘラと笑う市村の顔面にアルヴィーの情け容赦のない鉄拳が炸裂し、めり込んだ。鼻血を流した情けない顔でうめき声を上げながら、市村は気を失う。

 彼自身としては、軽い気持ちで言った冗談のつもりだった。問題は男同士でそれを言うならともかく――、近くに女性がいるにも関わらずそのような下品な言葉を口走ってしまったことだ。あきれた様子で市村を肩に担ぎ上げ、彼女は健にこう問いかける。


「……健、病院までたこ焼き屋を連れていくぞ」

「うん、そうだね。それがいいね……」


 苦笑いしながら健が答える。彼は内心殴られた市村を気の毒に思っていた。しかしよく考えなくとも悪いのは、市村のほうである。

 市村でなく自分が言ったり、実際にそれをやったりしたのなら許されたかもしれないが――やはり言ってはいけないことだったのだなぁ、と、健はそう思った。



 同時刻、黒い雷雲が上空で轟く岩山の切り立った崖にそびえる古城。その内部で三谷――キャモレオンが倒される光景を、特殊な方法で見ているものたちがいた。


三谷(みたに)め。死におったか」


 苦虫を噛み潰したような顔で憤慨するように、神父風の格好をした壮年の男性が呟く。メガネの向こうで濁った瞳が光る。仲間の死を嘆いていると言うよりは、役に立たなかった三谷に対して舌打ちしたような口調だった。


「惜しいところまでいったのにねェ」

「まあ、あいつは悪知恵はあっても戦いはからっきしだったからなぁ」


 神父風の男性に続いてしゃべったなよなよしたファンキーな服装の男とジャケットを着たワイルドな男も、大して仲間のことを気にしていないような様子だった。

 彼らに共通している事項だが、まだ余裕があるような雰囲気も感じられた。ちょうどそのとき、部屋の奥の影から黒装束の男性が歩いてくる。

 礼拝堂らしきこの部屋で怪しげな身なりの集団が話し合う姿は不気味なこと極まりなく、ある種の異様な雰囲気を醸し出していた。


「何の話をしている。もしや三谷のことか?」


 黒装束の男を除いた三人がうなずく。


「それなら気にする必要はない。奴は最初から捨て駒にするつもりだったからな……」


 黒装束の男――甲斐崎が笑った。これまた三谷が爆死したことを蚊ほども気にかけていないような、冷徹で余裕のある笑みだった。


「……社長ォ~ん」


 おどけた口調でなよなよした男が言う。腰を曲がりくねらせながら甲斐崎に近寄る姿は、このメンツの中でもひときわ異彩を放っていた。


「次は(あたくし)にお任せを。三谷なんかと違ってあたくしは単細胞おバカじゃありませんから」

「いいだろう。お前の好きにしろ、花形」


 花形(はながた)――と呼ばれたファンキーな服装の男性が歓喜した。


「ははっ、ありがたき幸せーーッ! ららんら、らーん」


 大はしゃぎしながら花形は礼拝堂の出口に向かい、スキップしながら立ち去った。花形が去ったのを確認すると、残った三人は一斉にため息を吐いた。


「いいんですかい、あんな頭のおかしいやつに任せちまって」

「あなたが何の考えもなしに任命するとは思えないのだが……」


 バンダナを巻いたワイルドな男と神父風の男性が同時にしゃべった。声が重なったために驚いて、二人はお互いの顔を一瞬見つめ合う。

 男同士で見つめ合うことに薄気味悪さを感じ取り、すぐに甲斐崎のいる方向に向き直した。しばしの沈黙のあと――甲斐崎がその重たい口を開く。


「……別に任せても大丈夫だろう」


 ところが彼が見せた反応は至って普通のものだった。切れ者である甲斐崎らしいクレバーな返答を期待していたが、とんだ期待はずれであった――。肩透かしを食らった二人は、汗をかきながら唖然とする。


「まあいいさ。他の手はいくらでもある――」



◆◇◆◇



 三谷を打ち破ってから3日が経った。

 通勤電車の混み具合や、夏期が近付いたことで上昇しつつあるに不平不満を抱きつつ、健は今日もまたバイト先に向かっていた。

 いつもの市役所の事務室だ。見慣れた先輩方も同僚も、みんなとくに異変もなく至って平和だった。


「おはようございまーす!」

「オゥ、東條サン! 今日もエネルギッシュですねー! そんなユーにプレゼントがありまーッす」


 荷物を置いて朝のあいさつをすると、ケニー係長が最初に話しかけてきた。プレゼントがあると言われ、淡い期待を抱きながら彼の席に行くと――プレゼントされたのは、ライブチケットだった。


「こ、これって……」

「察しがいいネ。もう1枚オマケにドウゾ」


 そう言ってケニーは1枚のみならず、もう一枚ライブチケットを手渡した。彼の分のはずだが、なぜ健に渡したのだろうか。

 理由は説明するまでもなく簡単なものだった。予定がごった返していてライブになどいけないからだ。


「あ、ありがとうございます。でもコレ……」

「ダイジョブね。おトモダチと一緒にエンジョイしてきてくらさい」


 ケニー係長が陽気に、豪快に笑い飛ばした。そこにジェシーら三人娘も現れ、場の雰囲気がより明るいものへと変わった。


「あっ。東條さんももらいましたか?」

「じぇ、ジェシーさん。これってあのバンドじゃ……」

「そう、『アルペジオ』ですよぉ~」



「ほぉ~。それでチケットを貰ってきたから折角だし行ってみようというわけか」

「そうなんだよアルヴィー! しかもアルペジオだぜ、アルペジオ! つい最近トラブル起こしてギターが離脱して一時はどうなることかと思われたけど、この前ギターが仲直りして奇跡的に解散を免れたあのアルペジオ!」


 帰宅後、嬉々とした様子で2枚のチケットを見せびらかしながら健はアルヴィーに語りかける。その興奮ぶりとくればもう、酒でも入ったかのような勢いだった。

 滅多なことでは動じないアルヴィーも、あまりに健がエキサイトしていたためにこのときばかりは流石に引き気味だった。


「そのアルペジオのギターって誰だと思う? 狩谷シンジだよ狩谷シンジ! この前駅前でギター弾いててさ、そんとき声かけちゃったんだよー! 僕男だけど、あの人カッコいいと思ったよ!」

「そ、それは良かったのぅ。それで、どこがどうカッコよかったんだ?」

「そうさね……声? あとやっぱり、あのロックなファッションとワイルドな無精ヒゲ! 茶髪ブロンドに染めてるのもチョーCOOLだぜ!! さすが狩谷シンジだ、僕達に出来ない事を平然とやってのけるッ! そこにシビレる、あこがれるゥ!」


 そこまえ言い終ると健は「ゼェゼェ……」と息を荒げた。鼻息もかつてないほど荒く、彼のトーク番組顔負けのマシンガントークに最後までつきあったアルヴィーは痛感した。

 ロックバンド、それもパンク系に憧れる辺り彼もやはり現代っ子なのだなぁ――と。しかしながら、アルヴィー自身も興味がないわけではなかった。

 むしろ一度見に行ってみたいという願望も抱いていたのだ。外出することに健は抵抗を示すかもしれないが、既に駅前の百貨店などに行った身分である。

 その気になればどこへだって行けた。だからついていってもとくに咎められるようなことはない――はず。


「……のう、健。それはどこで開かれるんだ」

「んーと、ちょっと待ってね。ふむふむ、大阪城か。しかも明日じゃないか!」

「明日か……よし、今日は早めに寝るぞ!」


 健が落ち着きを取り戻した矢先、気変わりしたのか今度はアルヴィーが興奮し出した。彼女にやたらとせかされ風呂も早めに上がり、夕飯も就寝もいつもより一段と早かった。

 あたふたしたが布団に入る頃には既にすやすやと寝息を立て、その意識は何が起こるか分からぬ夢の世界へと旅立っていた――。



「んあ……7時か。……やっべ急がなきゃ!」


 翌日――。耳をつんざくほどやかましいアラームにたたき起こされ、健は大急ぎで身支度をはじめた。

 朝食は適当なもので済ませ、服はよそ行きのものをチョイス。一通りできたところで時間を確認するとまだ余裕があったので、アルヴィーを起こしに行く。


「起きて! ライブ満席になっちゃうよ!」

「うにゅ……あと5分」


 アルヴィーの体を揺らし起こそうと試みるも、当の彼女はまだまだ眠っていたいらしく起きる気配を見せない。

 しかし今は寝かせてやっている場合ではない。一刻も早く急がねば! チンタラとやっていては間に合わない。

 その上大阪城のライブ会場までは遠い。京都と大阪はそれほど距離が離れているわけではないものの、それでも行くまでに所要とする時間は結構ある。

 とにもかくにも――健は急ぎたかった。だから彼はしつこく、アルヴィーを揺り起こそうとするのだ。

 何度もトライした末、ようやく彼女は起きてくれた。ただ、寝起きで少し機嫌が悪い様子だった。


「ほら、アルヴィーも早く準備!」

「そう焦らすでない……ところでメシは?」

「んー……ちょい待ち!」


 一難去ってまた一難、今度は腹をすかせていた。速攻で電子ジャーから白ごはんを取り出して海苔を巻いておにぎりを作り、せっせと机まで持っていく。

 アルヴィーはおにぎりを一口かじると、至極嬉しそうな表情を浮かべた。おにぎりと言えば、手軽に作れる最もポピュラーな食べ物のひとつ。

 そのままでもいけるが、味付けに塩や海苔でもつければより一層おいしくなる。混ぜ込みごはんからの派生で作ればもっとおいしくできる。


「お主……前から思っておったが料理上手だのぅ!」

「そんなにすごくないよぉ~。っていうか、あんたもスピード上げて! あっぷっぷ……」


 食べ終わったところでアルヴィーにも身支度をさせる。起床が遅かったもののいざ動き出せば彼女は早く、歯磨きも洗面も、着替えもすぐに終わらせた。

 胸元を少しはだけたワイシャツにミニスカートというやや露出の多い格好であったが、とくに支障はないだろう。

 これからの季節、どんどん気温は上がっていく。いつまでも長袖は着ていられない。

 しかしながらあまり色っぽすぎても(自分が目のやり場に)困るので、健は薄手のコートを上から着させた。

 こうしてようやく、出発することが出来る。二人とも玄関で靴を履き、駅へと向かった。

◆キャモレオン

 エボシカメレオンのシェイド。

 他のシェイドとは一線を画す戦闘力と知能を持つ『上級シェイド』の一体であり、

 三谷というストリートファッションに身を包んだ若い男性に化身していた。

 下位種が持つ保護色を使った透明化に加え、他者に変身する能力や目から蛇行する光線を放つなど多彩な技を持つ強敵。

 とくに姿を消してから体細胞から生成する斧『ハイドブッチャー』による背後からの不意打ちは脅威の一言。

 陰湿なやり方を好むが基本的にお調子者で、頭はあまり回るほうではない。


◆キャモレオン強化態

 甲斐崎から渡された増強剤を摂取したことでキャモレオンがパワーアップ。

 全身の筋肉がマッシヴに膨れ上がり、爪が鋭くなり角が生えるなど全体的に凶悪な姿となった。

 強化前を遥かに凌ぐパワーとより凶悪になった特殊能力で市村や健を苦しめたが、雷のオーブを使いこなした健の猛攻を受け敢えなく爆死した。

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