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同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第4章 夢のジャムセッション
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EPISODE75:シビれる新兵器登場

「ちょ、ちょっ……それホントですか!?」

「ええ、ホントよ!」


 ――オーブを作った。確かに白峯はそう言っていた。

 二人とも驚愕のあまり言葉も出なかった。未知の力を凝縮した結晶であるオーブについて構造を解析するだけではなく、実際に作ってしまったのだから。


「ところで明日空いてる?」

「え!? は、はい! 明日はバイト休みです」

「そう。じゃあ、あたしの家まで来てもらえないかしら」

「はい!」

「じゃあねー♪ お茶とおかし用意して待ってまーす」


 そこで通話が切れた。二人の表情には戦慄が走ったままだ。

 このまま顔が凍り付いて二度と表情を変えられなくなりそうな勢いだった。

 とはいえ、白峯のことだ。彼女がウソを言っていたとは思えない。

 彼女は文字通り『天才』な上にかなりの美人。研究に没頭するあまりオシャレはあまり気にかけていないものの、同年代のヘタな女優よりも綺麗かもしれないほどの美貌を持っていた。

 それでいて年齢不相応なほどに子どもっぽく、快活。世間の荒波に揉まれて曲がりなりにも曇っていそうなものだが、瞳は澄んでいてある種の純真さも感じさせる。

 そんな彼女にうそつきなどと勝手にレッテルを貼り付けて目の前でそう呼べるだろうか? そんなことはできない。そもそも――仮にやるとしても実行する気も起きやしないだろう。

 だから、彼らは白峯は信じる。とくに健に到っては、浪岡が生前率いていたセンチネルズの本部から共に脱走してきた仲だ。雨が降ろうが槍が降ろうが、隕石が落ちてこようが――今更彼女を疑うことなど、彼には出来なかった。


「コケコッコー!!」


 ――そして天に日が昇ると共に、ニワトリの高らかな鳴き声と小鳥のさえずりが朝を告げた。それと同時に枕元に置いてあった携帯電話から大音量でアラーム音が鳴り響き、おぼろげに健が目を覚ました。

 目が半開きで右目は閉じており、まだまだ眠たそうだ。窓のカーテンを開けると、眩いばかりの日光が部屋の中に注ぎ込まれた。

 あまりに眩しかったので、つい思わず手で遮ってしまった。その後ろでは、これまた眠たそうにアルヴィーがうめいていた。

 窓の前で日光をたっぷりと浴びている健の後ろで、少しだけ開かれた彼女の紅い瞳の中に光が差し込んだ。白くて長い髪と一緒に体を揺り起こすと、足で立たずに膝で健のそばまで歩み寄った。


「眩しい……いや、暖かい。早起きして損はなかったのぅ」

「まだ寝てて良かったんだよ。僕も今日はバイト休みだし」

「ははっ。そうだったなぁ」


 寝癖でボサボサになっていた髪をなで上げ、アルヴィーがくすりと笑った。時間がかかりそうだが、その背中を覆いそうなほど長い髪をくしで整えてやりたいと思った。

 少し浮いているかもしれないが――どこか現実離れしたこの妖艶な雰囲気が彼女の最大の魅力だと彼はそう思っていた。

 更にまだ起きたばかりで気付いてはいないだろうが――前髪で右目が隠れ、よりミステリアスな雰囲気を醸し出していた。

 口に入りそうなくらい長く伸びた前髪が1本だけちょろんと出たいつもの髪型もいいが、このヘアースタイルもカッコいいのでありかもしれない――と、健は感じていた。



 準備を済ませた健とアルヴィーは、期待に胸を膨らませながら西大路へと向かった。そして白峯家に辿り着き、玄関のインターホンを鳴らす。

 相変わらずの広さと大きさだ。既に何度か来ているとはいえ、見るたびに思わず我が目を疑ってしまう。

 わくわくしながら待っていると、やがてとばりが玄関のドアを開けた。全員にっこりと笑いながら家へ入っていき、靴を脱いでリビングにお邪魔させてもらう。


「相変わらず広いですね~」

「そうでしょ~。あたしもこの家にして正解だと思ってるわ。狭かったら研究用の機材とか本棚とかあまり置けないしね」

「さすがはとばり殿。賢明な判断だと思うぞ」


 せっかく来たのにいきなりオーブの話をしてさっさと帰ってしまうのは少し失礼な気がした。なので二人は雑談で盛り上がり、ゆとりのある空間と茶と菓子をゆっくりと心行くまで味わわせてもらった。

 この場にみゆきを誘っていないのが残念なくらい楽しいひとときだった。次は彼女も呼ぼう――と、健は考えていた。


「あっ、いけない。今日はオーブのことで尋ねてきてくれたのよね……ちょっと待ってて。すぐ持ってくるから」


 しばらくしてふと思い出したようにとばりが、オーブの話題を持ちかけた。

 彼女の言うとおり少しの間待っていると――ゴム手袋をはめたとばりが黄色いビー玉のような物体を持ってきた。

 バチバチと、微弱ながら電気が弾けているのが見える。球体の中でも稲妻が激しく轟いている。


「お待たせー」

「こ、これが昨日言ってたオーブですか!?」

「ご名答♪ 電気の力を凝縮した雷のオーブよ。不破君に協力してもらったの」


 とばりからオーブを受け取り、早速触ってみる――。

 バチッ! と、静電気が指先から全身に伝わった。思わず肩が少し浮き上がってしまった。


「し、シビれる……!」

「本当か!? 私にもソレを」


 静電気にやられたおかしな表情のまま、アルヴィーに雷のオーブを渡した。

 彼女にもバチッ! と静電気が伝わり、一瞬だけ全身が痺れた。

 もし握ればどうなるだろうか――いや、ここはやめておこう。感電して下手したらそのまま死んでしまうかもしれない。

 わざわざとばりがゴム手袋などを着用していた理由もこれでようやく分かった。迂闊に触らないほうが賢いといえるだろう。両者ともそう判断を下した。


「でもこれ、すごいなあ! すぐに使えますか!?」

「それなんだけど――」


 新しいオモチャを買ってもらった子どものような表情で訊ねる健に対して、白峯は少し顔を曇らせた。

 しばし目を閉じて沈黙した後、突然目をカッと開いて、


「すぐには使えないわっ!」


 と大声で叫んだ。突然とばりに大声を出されたことにより二人は思わず腰を抜かした。

 とくに健はすっ転んだあまり尻もちをついてしまい、尻を痛そうに掻いていた。


「ど、どうしてですか?」

「それはね、ハッキリ言っちゃうけど……本来あなたが持っている能力じゃないからよ。それとこれは出力がだいぶ強めだから、そうね。体力と精神力、どちらも今の二倍は無いと使いこなせないかも」

「なるほど……」


 ゴム手袋をはめたまま雷のオーブを見つめながらとばりがそう説明した。

 不破と共にこれを開発したとばり自身も、このオーブを高出力にして本当に大丈夫なのか危惧していた。

 しかし、シェイドを倒すためには生半可なエネルギー量では許されない。使用した反動で健の肉体にダメージが及ぶ危険性があることも予測していた。

 それでも――とばりは出力を高めることを実行したのだ。健くんならきっと、これを必ず使いこなしてくれる。そう信じていたからこそ起こせた行動だった。


「今の二倍……大丈夫かな」

「そう不安にならないで。健くんならきっと使いこなせるわ。あなたにはそのくらい高い素質と才能が備わってるんだから――努力して開花させないとね!」

「はいっ!」


 ――またも彼に、成長の(きざ)しが見えた気がした。一見冴えない若者ではあったが、そのダイヤモンドのように純粋な輝きを放つ心と強い意志、そして活力に溢れたその瞳。

 努力を肯定し、己を良い方向に導くための努力を怠らないその根性。そして、明るい笑顔と優しい心。

 彼はこれからも強くなり続けるだろう、やがて父親のように誰からも慕われる人物に成長していくのだろう――。

 腕を組みながら佇むアルヴィーの紅い瞳は、今日もまた健を見守っていた。


「これから大変だのぅ。まあ、ぼちぼちとやっていこうではないか」

「うんっ!」

「頑張ってね。応援してるわ!」


 新兵器ともいえる『電気』を宿した黄色のオーブ。失われた超古代の技術で作られたそれが、現代となって人の手で新たに作り出された。

 まだ若いながらも独自に構造等を解析し、このようなものを作り出した白峯とばりは、やはり正真正銘の稀代の天才だといえるだろう。

 彼女自身も生まれ持った知識と技術力が誰かの役に立てて、嬉しかったに違いない。



 その頃――。雷雲が覆い稲妻が轟いている空の下、岩山の切り立った崖に古びた洋風の城が建っていた。ところどころ朽ちかけており、左半分は機械的な部分がむき出しになっていた。

 その古城の中で、例の黒装束の男が玉座にふんぞり返って見下すような視線で眼前に集った同志たちを見ていた。

 ねずみ色の髪に黄緑の瞳の男が酷くおびえた様子で、顔を下げながらまっすぐに黒装束の下に歩いていく。


「二度のみならず三度も……よくも私の顔に泥を塗ってくれたな、三谷!」

「ひ、ひぃぃぃッ! た、頼む。もう一度だけチャンスをくれぇ! この汚名は必ずそそぐ! だ、だから……」


 甲斐崎が冷酷な視線を三谷を浴びせた。細身ながらもおぞましいほどの威圧感を彼は漂わせていた。

 周りのものが思わずすくんでしまうほどだった。元々、小心者である三谷はそれが顕著で、際限なく生まれ出る恐怖心によって全身を震わされていた。


「何を言っているんだお前は? 言ったはずだぞ……もう次はないと。お前が使えない奴だということは今回の件でよーく分かった。ここまで醜態を晒してしまった以上もう言い逃れは出来ないぞ。それでもまだお前は、俺に対して見栄を張る気か?」

「うっ……」

「まあいい。こっちへ来い……」


 手ぐすねを引いて三谷を自分の近くへと誘う。甲斐崎の隣にいた包帯を巻いていて素顔をうかがえない男が、甲斐崎に毒々しい紫色の液体が入った怪しげなアンプルを手渡した。

 こんなものを摂取しても大丈夫なのか――? 三谷は得体の知れぬその薬品を前に、唾をゴクリと呑み込んだ。


「これは増強剤だ。頭が足りないなら力で補うんだな」


 鋭い目で三谷を睨んだまま、甲斐崎が嫌味を含んだ冷たい笑みを浮かべた。

 三谷に怪しげな『増強剤』を手渡し、引き下がらせる。


「それを飲めばパワーも、スピードも、能力も……何もかもが3倍に増幅する」

「さ、3倍!? スゲェ!」

「最後のチャンスをやろう。これを使って東條健を八つ裂きにしてこい」

「ありがてぇ! ヒャッハー!!」


 使えば能力が3倍強化される――そう聞いて三谷は大いに喜び、大いに騒いだ。そして意気揚々と玉座の間を飛び出していった。



「……バカめ」


 そんな三谷を見送り、彼がいなくなった途端に彼はそう呟いた。

 どす黒い悪意がこもったような、他者を陰で嘲笑う冷酷な悪魔のような笑顔だった。

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