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同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第4章 夢のジャムセッション
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EPISODE73:姿を変えしモノ

「……ん? 今のは……」


 都内のとある廃棄されたビル。その中で変装を解いたのではなく、姿形を変え――つまり変身した男と、彼と会話を交わす者たち。

 そこでの一連の流れを、カメラはしっかりと捉えていた。いくつも画面が並ぶモニタールームの中で、男が別の姿に変身する瞬間を目撃した男性オペレーターは、他のオペレーターの方を向いて


「おい、さっきの映像巻き戻してくれ」


 と頼んだ。普通ではありえない光景を見たからか、少し動揺しているように見えた。


「はい! ちょっと待ってください……」


 女性オペレーターが映像を巻き戻す。もしかしてあれは、単なる見間違えだったのではないか? 変装を解くのが早すぎて姿自体を変えたのではないか?

 どちらにしても一度見ただけではすぐに事態は飲み込めない。だから、彼はもう一度同じ映像を見て事実を確かめたかったのだ。


「……あっ、そこそこ。そこでいったん止めて」


 そしてくだんの、男が姿を変える場面。画質が粗いため見辛いが、目を凝らしてみると変身する瞬間に姿がモザイク状に光りながら、確かに『変身』していた。

 なんらかのトリックを使った……とも考えられるが、あからさまに人間業ではない。男は実はタヌキか何かで、カメラを化かしたのではないか?

 事の真相が気になって仕方がない男性オペレーターは、食い入るようにモニターを見つめていた。


「おはようさん。……どうしたんだ、朝からモニターに引っ付いて」

「あっ、警部補。これを見てください!」

「なんだぁ? もしかしてカワイコちゃんのビデオでも見てたのか?」

「ま、まさか。違います! とにかくこれを!」


 気さくに喋りながら村上がモニタールームに入ってきた。片手には難しそうな内容の本を持っており、今日もダブルスーツに銀縁眼鏡の必殺おすましスタイルが決まっている。

 持ち前のインテリさと端正な顔立ち、そしてエリート気取りで嫌味ったらしい雰囲気。この村上翔一(むらかみしょういち)という男性が持つ魅力すべてを引き立てている最高のプロポーションだ。そんな彼の部下であるオペレーターたちが、彼に先程自分達も見ていた映像を見せる。


「お、おい。これは――」


 やはりというべきか、初見では信じがたい。きょとんとした顔をしながらも、村上は眼鏡のブリッジを上げて


「さっきの映像を最初まで巻き戻してくれ」


 と、オペレーターに言った。女性オペレーターが映像を巻き戻す。


「……変装を超高速で解いたとかじゃないよな」

「はい、どう見ても変身してるように見えましたよ」

「なあ、宍戸ちゃん。この男は他に、どこのカメラに映ってた?」

「少し待ってください。えっとね……」


 女性オペレーターこと――、宍戸小梅(ししどこうめ)が他のカメラが捉えた映像を再生する。いくつかのモニターの映像が、宍戸の操作に応じて差し替わっていく。


「ここです。確か、……芝浦!」

「芝浦? あのサイのライダーかい? あいにくだけど僕、あいつ嫌いなんだよねェ」

「それは芝浦さん違いだと思いますよ」


 少し困った笑顔で宍戸が答えた。そのライダーらしい芝浦は大学生であり、経済学部にいて頭は良いが性格がもう最悪。

 戦いをゲーム感覚で楽しむ幼稚さと強い残虐性の持ち主であり、どんなお人好しでも彼の極悪非道ぶりを目にすればこう言うだろう――『最低』だと。

 まあ、そんな彼も火遊びが過ぎたのが運の尽きだった。何を血迷ったか、よりによって一番危険な爆弾に火を点けてしまったのだ。

 その最期であったがどう反論しても、どう考えても自業自得であった。何しろその爆発物の近くにいた彼が悪かったのだから。悲しいことだが、ライダー同士の戦いはこういうものである。


「まあ、それはおいといて。……さっきの男が別の男と一緒に映ってるわね」

「なんだこいつ? 宍戸ちゃん、拡大してみてくれ」

「はい」


 宍戸が昨晩芝浦で録られた映像を拡大する。

 先程の変身男が化けているスーツ姿の怪しい男と、逆立った派手な髪型の男がそこにいた。このうち髪が逆立っている方はギターを持っている。


「あれ、この怪しいやつの隣の人って……ちょっと、やだ! 狩谷シンジじゃない! かっこいー!!」

「狩谷シンジ? 誰それおいしいの」

「ご存知ないんですか!? 彼こそロックバンド『アルペジオ』の元ギター兼ボーカルで今では脱退したギター王子、狩谷シンジですよ!」

「……えっ? 狩谷シンジって、あのアルペジオの!? だったら超有名人じゃないか!」


 村上が驚愕するあまり目を丸くした。いつも冷静沈着な彼とは思えないほどに動揺し、床にしりもちまで突いてしまった。

 しかしすぐに立ち上がり、ホコリを手で払い体勢を立て直す。わざわざやる必要性は微塵も感じられないが、このとき眼鏡のブリッジも指で上げていた。


「おい、チミ達! 狩谷シンジだぞ、狩谷シンジ! どこぞの高給取りさんなんか霞んで見えるぐらいの有名人だぞ! もちろんみんな知ってるよなぁ?」


 さりげなく不破の悪口を交えながら、村上がその場にいる全員にそう呼び掛けた。

 どこか調子外れで妙にテンションが高く、普段の彼らしからぬ言動だった。周囲のメンバーは一瞬戸惑ったが、すぐに空気を読んで


「知ってます!」


 と、一斉に口を揃えて答えた。その様子はさながら、カエルの合唱である。聞いた方もこれには驚き、目を丸くして口を細めていた。


「まあ、なんだ。そんなことはどうでもいい……狩谷シンジとあの男がどういう関係か調べてくれ」

「はいっ」

「それから……変身していた方は人間ではない可能性がある。こっちも念入りに調べろ。それと、そいつと話していた集団についても調査してほしい」

「分かりました!」


 おどけた空気が一転、村上の表情が険しくなった。

 口調も厳格になり、その冷徹なまでに真剣で確固たる信念を感じられる表情はシェイド対策課をまとめるのに相応しいものだった。



 その晩――。都内の銀行に一つの怪しい影が忍び込もうとしていた。周りに誰もいないことを確認すると、ずかずかと銀行内に侵入していく。


「いらっしゃいませ、どのようなご用で……」


 その姿は、人間のものではなく……二本の足で立ち、左手にまさかりのような武器を持ったカメレオンの姿に変わっていた。

 異形の怪物が目に留まり、銀行員たちが悲鳴を上げて逃げ惑う。そのうちの足をつまずいた男性に詰め寄り、カメレオンの怪物は喉元にまさかりをあてがう。


「用件はひとつだ。金を出せ!」

「し、しかし……ここにあるお金はすべて、お客様から預かっている大事なお金でして……」

「うるせー! んなこたァどうでもいい!」


 いきり立って金切り声を上げたカメレオンが、銀行員の男性の腹を思い切り蹴飛ばす。苦しそうなうめき声を上げて壁に叩きつけられた。追い討ちをかけるように詰め寄り、カメレオンは壁にしがみついている銀行員に顔面を急接近させた。


「早くこの銀行のカネ全部持ってこい! さもないと……ここ一帯に血の海が出来上がるぜぇ〜!!」

「ひえーっ! わ、分かりました、いくらでも出します! ですから命ばかりはぁーッ!!」

「へっへっへ……中々ものわかりがいいじゃねえか」


 銀行員を脅したり、或いは姿を消してセキュリティを潜り抜けたり――あらゆる手段を使って金銭を強奪した。

 ただ、透明化の件はあくまで姿を消しただけであり、レーダーにはもちろん映ったし、赤外線センサーにもばっちり感知されていた。

 両手でも持ちきれないほどの現金が入った袋ごと隙間に飛び込み、そのままいずこへと移動する。そして行き先は――どこかの地下駐車場。

 広々としており天井も比較的高く、隠れるにはちょうどよさそうだ。かなり重たそうな様子で金の入った袋を持ち上げて置くと、随分と萎えたような顔でため息を吐いた。

 周りに誰もいないことを確認し、姿を変えてゆく。カメレオンの姿から――今度はスーツを着た怪しげな男性になった。そして携帯電話に誰かの電話番号を入力し、電話をかける。



 ところ変わり――若者の街、渋谷。きらびやかなネオンが輝きを増す中、『×』の形にクロスした特徴的な交差点の中を多数の人々が歩きすれ違っていく。

 その人混みの中に一人、逆立った髪型でギターケースを背負った若い男性がいた。生きていくのに疲れたような、ふて腐れたような複雑な表情を浮かべていた。

 やがて交差点の人混みから、人気がなく薄暗い交差点へと反れていく。それから転々と街中をさまよい、最終的に高架をのぞむ河原へと躍り出た。

 河のほとりに座って、淡々とギターを弾きはじめる。まるで今の彼の心情を表しているような、哀愁が漂う音色を奏でていた。

 違う、今奏でたいのはこんな湿った音ではない。違和感を感じ、焦って音程を変えようとする。だが、それでも上手く音を奏でられない。苛立ちが募ったミュージシャンの男は、やがてギターの打ち込みをやめた。


「ダメだ。こりゃあ、ソロデビューしても長くはもたねぇ」


 ため息混じりに河原へ続く坂道で寝転び、ギターケースを枕がわりにして夜空を見上げる。

 星々が光っているもののあまり鮮明とは言い難く、彼の気分はさっぱり癒されなかった。

 むしろ、ますますブルーな気持ちになったぐらいだ。そこに電話がかかり、携帯電話が震えて着信音をかき鳴らしていた。


「もしもし。狩谷ですけど」

「私だ。いきなりですまんが、君と二人で話がしたい」

「なんでまた……場所はどこッスか?」

「今から言う場所にきてほしい……」


 声の主は、以前マネージャーになりたいと言って近づいてきた男性だった。彼に言われるがまま、ミュージシャン――狩谷シンジは指示された場所へ向かう。

 やがてその指示された場所である――地下駐車場に足を踏み入れた。熱気が籠っていて、少し蒸し暑い。

 マネージャーになりたがっていた男を探し回ってしばらくすると、大量の現金を大きな袋やトランクに積めて待っていた怪しい男を見つけた。断言できる、こいつだ。


「あ、あんた、そんな大金どこで……!」

「細かいことは気にするな。全部君のものになるんだからな……手に入った経緯なんてどうでもいいだろう? 宝くじで一等が当たったといえば回りの連中は誤魔化せるさ」


 マネージャーを名乗る怪しい男がにやつきながら舌なめずりする。

 やはり心配した通りだった、こいつは怪しい。そう確信した狩谷の背中に、おびただしいほどの悪寒が走った。


「……やめだ」

「なにィ?」

「こんな怪しい金積まれてプロデビューなんかゴメンだぜ! この話はナシだ! 一人でプロ目指す夢は捨てる! ……けど、アルペジオの皆と一緒にプロ目指す夢は……捨てねぇ!」


 スーツの男が舌打ちし歯を食い縛る。駐車場から走って逃げ出そうとする狩谷の前に、そうはさせじと怪しい男が回り込んだ。


「捨てるだと? そんなのもったいないだろうが。お前に捨てさせるくらいなら……」


 スーツの男が黄緑色に発光し、その姿をモザイク状に歪曲させていく。

 ねずみ色の髪をした不気味な青年になって不敵に笑った。かと思えば、今度はカメレオンの怪物のような姿に変わり、うろたえる狩谷を殴り飛ばして壁に叩きつける。飛び散った血が壁にこびりついた。


「そんな夢ブッ壊してやる!!」

「うわあああああっ!!」


 鋭利な爪を生やした腕を振り下ろされた。もうダメだ、逃げられない! 身を守ろうとして悲鳴を上げた狩谷だったが、――おかしい。確かに鋭い爪で引き裂かれたはず、なのにこうして生きている。

 それどころか、血を一滴も流してもいなかった。不審に思い、腕をどけて冷静に前を見てみると、目に映ったのは激しく狼狽しているカメレオンの怪物。そして――ランスを構えた金髪で長身の男性。紺色のジャケットをハードに着こなしていた。

 細身ながら筋肉質でだいぶ戦い慣れたような、頼りがいのある雰囲気を醸し出していた。


「危なかったな……あんた、狩谷(かりや)シンジだったか? 医者にケガ治してもらって、早く仲間のところに戻りな」

「あ、あの……」

「礼ならいらねえよ。ほら、今のうちに逃げろ!」


 金髪の男性に逃がしてもらい、狩谷は駐車場の外に走っていく。彼が無事外に出た事を確認すると、金色に髪を染めた男性――不破はランスをカメレオンに突きつけた。


「あちこちの銀行から通報があったんだ。化け物が金を盗んだとか、銀行員を脅して無理矢理現金を出させた……とかな」

「ヘッ、そんなの嘘っぱちだ。証拠はあるのか」

「証拠? んなモン数え切れねえぐらいあるよ。たとえばてめえの後ろとか、他には……カメラとかな!」


 自信満々にそう言い放った。気を取り直し、不破はカメレオンに再度ランスの穂先を突きつける。


「さて。盗んだ金、返してもらおうか」

「断る! 俺様は大金持ちになるんだ! あれだけありゃあ、当分遊んで暮らせるぜ! ひゃーっはっはっはっはっはっ……あれ? なんもない」


 唾を飛ばしながら、下品にカメレオンが笑った。ところが、その直後。後ろを振り返ると――盗んできた金がすべてなくなっていた。

 いつの間に消えた? いったいどこに行った? カメレオンが呆然としている中、不破はまたも余裕たっぷりに笑っていた。


「悪いな、お前から被害者を守るまでにすべて回収させてもらった。今頃きっと輸送車の中だろうな」

「こ、この野郎……!」


 怒りを露わにしたカメレオンにランスをみたび突きつけ、今度は目をカッと開いて睨みつける。

 表情も真剣そのもので、それだけではなく――非道な行いに対する激しい怒りも感じられた。


「おしゃべりはここまでにしようぜ……腐れ外道さんよォ!」


 さあ、戦いだ!

どうも。このたび人気投票を設置いたしました!

といっても、実はだいぶ前から作って設置してあったのですが…(^^;

目次や各ページの下から飛べますので、よければ投票してください。

投票していただけるとSAI-Xのモチベーションが上昇しますし、更にその結果が本編の内容に反映されるかもしれません。


では、投票に限らず評価と感想、そして質問をお待ちしております!

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