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同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第3章 ターニング・ポイント
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EPISODE61:異形の花

 身の毛もよだつような唸り声を上げながら、巨大な植物がその人間の胴回りほどはある触手を横に振るった。

 地面がえぐれるほどの威力だ、盾ではとても防ぎきれそうにない。次から次に繰り出される攻撃をかわしながら、健は反撃のチャンスを窺う。


「ヤツの動きは大振りだ、腕を振る前に叩いてしまえ!」

「分かった!」


 確かに威力は凄まじいが、冷静に見てみれば隙も多かった。

 こちらから仕掛けて一気に叩けば十分いける――かもしれない。

 確信を得た健は、一気に畳み掛ける戦法に出はじめた。


「うわっ!」


 そう思った矢先、あの大きな口から毒液が吐き出された。

 大したダメージは受けなさそうだが、毒に冒されてしまうと危険なことに変わりはない。

 転がってかわし、隙を突いて毒液を吐いてきた花びらに飛びかかりながら斬りつける。

 頭部を斬られたこと、炎が燃え移ったことによって激痛が走り、頭部に当たる花びらが悶絶しながら唾液を吐き散らした。


「よし!」

「いいぞ! 今のうちに片腕を切り落とせ!」


 アルヴィーの指示通り、相手が炎上して苦しんでいる間に片腕を切り落とすことにする。

 地面に飛び降りて回り込み、跳躍して触手を切り上げる。

 切り落とされた触手が地べたに落ち、炎上していく。怒った花びらが唸り声を上げると、地中からいくつもの根っこが突き出され健を遠くへ弾き飛ばした。


「ゆ、油断した……」

「困ったの……健、今度は慎重に出る必要があるぞ」


 こうなった以上、迂闊に近づけば根っこが絡み付いて動きを封じられてしまう。

 だが、かといって手を出さないままでは戦いが終わらない。

 今の状況は非常に危険で、なおかつ切り抜けるのが難しい。

 遠距離から攻撃するべきだろうか? しかし、その手段は限られている。

 何より自分の得物は剣だ、近距離に特化している。では、どうすれば?

 ――いや、そこまで難しく考えることはない。細心の注意を払いながら根っこを切って、切って、切りまくればいいのだ。

 それか、凍らせて動きを封じてしまってもいい。どちらにせよ、攻めるに越したことはない。


「健、じっとしている場合では……!」

「ああ、そうだった!」


 熟考している隙を狙い、犇めく根っこのうちの一本が襲いかかった。

 転んでかわすとそれを切り落とし、燃やしていく。だが、切られた痕から根っこが再生した。

 ならばこうするまでだ、と、健はオーブを入れ替えた。どう出ようとしているのだろうか?


「いいアイディア浮かんだ!」

「……え?」


 まだ余裕があるのか、健がのんきにそう言った。そんな彼を見て、アルヴィーは目を丸くした。


「簡単なことさ……」


 犇めきあう根っこが、槍の鋭くくねりながら健を襲う。だが、それをものともせずに健は斬りかかる。


「うねうね動くこいつらを……凍らせるっ!」


 冷たく輝く氷の斬撃を浴びた根っこが凍結し、その動きを止める。同様に他の根っこにも次々斬りかかり、動きを封じていく。


「そういうことか。流石だの、健!」

「いやー、それほどでも」


 アルヴィーから賞賛の言葉を贈られ、健が照れる。

 その隙を狙って、敵の本体の触手が凍り付いた根っこをなぎ倒し、粉砕しながら健に襲いかかった。

 油断した隙を突かれて空高く打ち上げられるも、すぐに体勢を立て直し一回転して剣を振り下ろす。切られた先から凍り付いていき、やがて砕け散った。


「危ない危ない……」

「いいぞ健、あともう一息だ!」


 両腕をやられ、もはや巨大植物は息も絶え絶えだ。


「よーし、一気に行くぞ!」


 オーブを入れ替え、炎の剣に変えるとケリをつけるべく、健が走り出した。

 巨大植物も最後の悪あがきと言わんばかりに、まだ残っていた根っこを地中から次々に突きだし、くねらせた。それでも健は突き進み、本体を前にすると空高く跳躍。


「でやああああああ!!」


 丁度よい位置で激しく燃え盛る剣を斜め下へ突き出すと、そのままオーラをまとって降下し巨大植物を貫通。

 苦痛に喘ぐような断末魔の叫びを上げながら、巨大な肉食植物――ブルームマンチャーは爆発四散した。

 根源を絶たれたことにより、この空洞や清水寺に犇めいていた根っこが枯れ、塵と化していく。

 早期に討伐されたためか引きずりこまれた人々は解放され、全員もとの暮らしへ戻っていった。


「あっ、根っこが!」

「ふふっ。これでひと安心、だの」

「うん! 国の重要文化財も無事……じゃないけど助かったしね」

「重要文化財……? ああ、しみずでらのことか」


 もう名は覚えていたはず。しかし、それでもアルヴィーは言い間違えてしまった。


「違うよ、清水寺!」

「すまんのぅ……」

「頼むよー……そういうところかわいいけどさ」


 二人で談笑しあいながら、彼らは地上へ戻ろうとしていた。

 だが、こんな地の底からどうやって帰ろうというのか? その答えは簡単だ。隙間から異空間にダイブし、適当なところで外に出るだけ。

 無事に地上に出た二人は、仲良く我が家へ向けて歩き去っていく。

 その後ろでは、空に浮かぶ夕陽が沈もうとしていた。茜色の雲とオレンジ色の空は美しく、赤い夕陽と相俟って酔いしれそうなほどに優美な夕焼けを演出するのに一役買っていた。




 真っ暗闇に覆われた、どこかの礼拝堂のような部屋。

 唯一の明かりである中央の特殊なもやを、幾つもの黒い人影が取り囲んでいた。


「どういうことだ。あんなモヤシみたいな小僧がどでかいシェイドを倒しちまったぞ。奴ら、いったいなにもんだ!」


 低い男性の声で、大柄な影がうろたえた。暗くてハッキリと顔は見えないが、口調からして少なくとも粗野で豪胆な性格であることが窺える。


「違うな、あれは武器とパートナーの力だ。あの小僧が強いのではない」


 うろたえる影を、冷静な壮年男性の声でもう一体の影が落ち着かせた。うっすらと見えるメガネの奥で、水色の瞳が冷徹に光っていた。雰囲気から察するに、一つ前の影とは比べ物にならぬほど知的で狡猾、それに頭も速く回りそうだ。


「彼は見たところまだまだ未熟だ。しかし今後伸びる可能性があります……どちらにせよ警戒するに越したことは無いですね」


 今度はメガネの男性と同じくらい知的な男が冷静に分析。やはり暗くて顔がよく見えなかったが、上着を何着も着ているのがかすかに見えた。


「そんなことより見たかよ、あのマヌケ面を! イヒヒヒ……」


 メガネの男のふたつ隣には、舌なめずりしながら下品に笑っている男の影がいた。人を食って掛かっているよな目つきをしており、他者をイライラさせるのが得意そうな雰囲気だ。実際に周囲の者たちは不快感を露わにしていた。他に比べると三下のように見える。


「それはお前も同じじゃないのか」


 その向かいの影が、嘲笑うようにそう言った。少しやさぐれているような、悪意のある口ぶりだった。彼も先程の下品な男ほどではないが、この中での地位はやや低そうだ。


「うるせええええええ!!」

「騒ぐな!」


 いきり立って自分を笑った男に襲い掛かろうとする影を、若い男性の声が諌めて場を静まらせる。

 その男は黒装束を纏っており、沈着冷静で頭の切れる雰囲気を漂わせていた。

 皆の姿がこの暗闇のせいで視認できない中、この男だけはハッキリとその容姿が見えていた。

 男にしては長く、女から見れば短い髪にサングラス。瞳は青緑色だ。


「悠久のときを経て現世に蘇った武具とそれを振るう小僧」


 若く知的な男の右に、健が握る剣・エーテルセイバーのイメージ映像が映し出される。


「我らを裏切り愚かな人間どもに味方する白龍」


 そして左手には、その白龍・アルビノドラグーンと、人間体である白髪の女性のイメージが浮かび上がった。どういうわけか彼は眉をひそめ、表には出さなかったものの心の中で憤っていた。


「どちらにせよ我らの敵ではない。今は精一杯泳がせておけ――」


 眉を釣り上げたまま、若い男は悪魔のように冷酷で残忍な笑みを浮かべた。

 ただならぬ威圧感、得体の知れぬ謎の影――いったい、彼らは何者なのだろうか。

◆ブルームマンチャー

◆植物型のシェイド。

 肉食植物がそのまま怪物化したような外見をしており、無数に伸びた根っこを影や隙間から通ずる異空間から伸ばして獲物を捕食する習性を持つ。

 清水寺の地下深くに根を張り京都中の人々を食らおうとその根っこを犇かせたが、地下へ駆けつけた健のファングブレイザーにより爆破された。

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