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同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第3章 ターニング・ポイント
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EPISODE59:ただいま追跡中


「どうか見つからんよーに……」


 小声でそう呟きつつ、市村は植え込みや電柱の裏などに隠れながら二人を追跡していた。

 このままついていけば、二人について何か分かるかもしれないからだ。


「うん……?」


 彼がある程度尾行を続けているところで、ターゲットの一人であるアルヴィーに感付かれた。


「どうしたの?」

「今誰かいたような……」

「気のせいでしょ。いこいこ」

「そうだの」


 ――かに見えたが、どうやら勘違いだったようだ。


(ほんまビックリしたぁ……東條はんがアホで助かったわ)


 危うく見つかるところであったが、この場はなんとか凌げた。

 引き続き、極力見つからないことを肝に銘じて市村は進む。しかし、彼は肝心なことに気づいていなかった。ニット帽やジーンズはともかくとして、暗めの金色と濃い青色のスカジャン――今の自分の服装が、すこぶる目立つものであることに。


(こいつらさっき飯食うたトコやのに、もうコンビニ行くんかい……)


 追跡中、健とアルヴィーはコンビニに立ち寄った。

 雑誌か、飲み物か。それともエッチな本か? 何を買おうとしているのか、それはまだ分からない――。市村はとりあえず、窓の雑誌の棚の裏に当たる位置に張り付いて様子を伺うことにする。


「パチンコの雑誌買うようには見えん。マンデーとかドンドンとか買うようにも見えん。ちゅーことは、ゲームの雑誌かアダルトのどっちかやな……」


 市村がブツブツと独り言を呟きながらショーウィンドウに張り付いている姿は、端から見ればまるっきり不審者のようだった。

 というか、今時わざわざこんなことをするような輩もそうそういない。やがて見回り中の警官が市村を発見し、


「おい! そこで何をしている」

「ひええええッ」


 彼にとっては予想外の出来事だった。


「くそ、どこに消えた……?」

「あ、あぶなぁーっ」


 危うく警官に捕まりそうになったものの、電信柱の上へ登ってやり過ごす。

 警官が通り過ぎたことを確認すると地上に降りて先程のコンビニへ戻る。流石にもういないか――と、思った市村だったが。


「なんや、まだおったんかい」


 呆れたような安心したような、曖昧なため息をつくと再び物陰に身を隠す。

 今度は店の手前に立て掛けてある看板だ。足さえはみ出さなければ見つかることはまずないので、隠れるにはちょうどいい役物だ。


(何を買うたかしらんが……続行や!)


 二人がコンビニを出てからも市村は追跡を続ける。

 この間は、生業のたこ焼き屋は休業だ。更にもしものときの為、得物である銃も持ち歩いていた。


「……むぅ」


 その途中やはり後ろが気になったか、アルヴィーが振り返った。

 植え込みに隠れていた市村の背筋に、おぞましいほどの悪寒が走る。慌てた市村は、シャッターが閉まった店の軒下へしがみつく。


「どうしたの?」

「いや、その……なんだ。誰かにつけまわされている気がしてならんのだ」

「つけまわす……ハッ!」


 怪しい男に捕まり衣服を剥がれて嫌がらせを受けるアルヴィーや、倉庫に閉じ込められていじめられるアルヴィー、あられもない姿をパパラッチに撮られてしまうアルヴィー……健の脳裏に、よからぬイメージが次々と浮かんでいく。そうしているうちに居ても立ってもいられなくなり、


「うがーっ! 変態ストーカー野郎殺すッ!!」

「ま、待て。落ち着け!」


 憤りを感じて暴れだす健を、アルヴィーが取り押さえる。

 その光景を見て市村はおびえていた。そして確信を得た。見つかれば殺される、と――。それだけはまぬがれたい彼は、考えた末にとっておきの策を思い付いた。


「へへっ、コレ最強や!」


 それは段ボールに潜みながら匍匐前進(ほふくぜんしん)で進むこと。

 スニーキングの基本である方法だが、同時にかなり有効なテクニックでもある。


(あの伝説の傭兵も使うた方法や……こっちからヘマせぇへん限りは絶対に見つからんで!)


 もぞもぞと段ボールが動く様子は人目に目立つが、そういうときはピタッと動きを止めればいい。

 何より、市村には絶対に見つからないという自信があった。何故そう思ったのか、その根拠はどこにもないが――。要するに当てずっぽうである。

 彼には、この方法が健やアルヴィーに通じなかったときを見越して別の方法を考えるほどの知恵はなかった。つまり、そこまで対策を立てられるほど頭が良くなかったということだ。


「ふへへへ〜」


 薄ら笑いを中で浮かべながら、市村は性懲りもなく二人を追い続ける。

 段ボールがもぞもぞしながら動いている上に笑い声を上げたとなれば、ますます気味が悪くなり、余計に目立つようになる。もちろんそんなことなどお構いなしに、彼は動いたり止まったりを繰り返しながら、健とアルヴィーを尾行する。


「……のう、健」

「なんだい?」

「やっぱり、つけられているような気がするのだが……」

「気にしすぎじゃない? けど……」


 脇道にあった怪しげな段ボールに、健が近付いた。前屈みになって中を覗こうとする。


「ここまであからさまに怪しいと気になるよねぇ」


 そういって段ボールの穴を覗きこむ。中が暗くてよく見えなかったが、何者かの目が光っているように感じた。


「確かにこれは、のぅ」


 アルヴィーも屈んで、不思議そうな顔をしてその中を覗きこむ。乳房が膝に当たりそうだ。


「ひえっ」


 肩に悪寒が走り、市村が思わず声を上げた。

 間違いない、誰か隠れている! そう確信した二人は段ボールを持ち上げ、中にいた市村を見て


「い、市村さん!?」

「お主……この前のたこ焼き屋か?」


 見つからない自信があったのに、なぜ――市村は冷や汗をかいてビクビクと震えていた。


「な、なんで分かったんや!?」

「だって怪しいし……」

「そんなに道端にある段ボールが怪しいんかい」

「その段ボールが動いたら、普通怪しいと思わんか?」

「うっ……」


 言葉が詰まり、何も言い返せない。どもる市村を壁際に追い込んだアルヴィーは、彼に脅しをかけるように問い詰めはじめる。


「答えろ。何故お主は我々をストーキングするような真似をした?」

「あ、あんたらのことをもっと知りたいからや……」

「ほぉ〜?」


 気のせいか否か、その視線は殺し屋のように冷徹だった。表情も冷たい笑みを浮かべており、するどい瞳も相俟って、見るもの全てを震え上がらせそうだった。


「それだけか? 返答次第では二度とたこ焼きを焼けなくすることも考えているぞ……」

「ほ、ホンマや! 嘘やない!」

「分かった。詳しくは家で聞こう」




 それは市村にとっては願ってもいない幸運だった。

 見つかって怖い目に遭ったとはいえ、向こうから彼らの住居に連れていってくれたのだから。そこへ至るまでの過程はどうあれ、結果として彼は得をしたと言えよう。


「さあ吐け。吐くんだ!」

「お主は本当に我らのことをもっと知りたかっただけなのか?」


 もっとも今の状況と待遇は良いものとは言い難く、まるで取り調べを受ける容疑者のそれであったが――。

 ご丁寧にも机には古ぼけた照明と蓋つきのどんぶり鉢まで置いてあった。ただし、どんぶりに中身は入っていない。


「へん、そう簡単に教えてたまるかい」

「うわっ! 何なのこの人、僕んちに案内までさせといてこの態度だよ。あつかましいヤツ!」

「コイツ最悪だの。いったいどんな教育を受けてきたのか、聞いてみたい気分だ」

「なんやと! 人をバカにしくさって」

「嫌なら白状せい」

「できれば罪を軽くしたいでしょ!?」

「ひぃぃぃ」


 二人とも未だ口を割らない市村に顔を近付け、それぞれそう言って揺さぶりをかける。

 ふてぶてしい態度をとっていた市村も、もはやあとがないことを察知したのか、


「ほ、ホンマに東條はんや姉ちゃんのこともっと知りたかっただけなんや。ら……ライバルのことをなんも知らんとケンカ売るのもなんかアホみたいでカッコ悪いしな。せやないと、お互いに正々堂々とした勝負がでけへんしなぁ」

「……なんだ、そういうことだったのか」


 しきりに事情を話した市村の真剣な眼差しを見て、アルヴィーが呟いた。

 この時既に、先程までの鬼気迫る表情ではなくなっていた。


「せ、せや。べ、別にあんたらと友達になろうやなんて思うてないんやからなっ!!」


 顔を真っ赤にしながら市村がそう言った。素直になれないあまり、彼は好意を突っぱねるような態度をとったのだ。彼自身、あくまでも健とは友達ではなく、ライバル同士でいたいと考えていた。


「あ、市村さんってもしかしてツンデレ? 分かりやすぅー」

「ちゃ、ちゃうわい!」

「ライバルというのは大抵ツンデレだからのー。このたこ焼き屋も例外ではなさそうだぞ」

「そんなんやない!」


 顔をゆでダコのように真っ赤にして市村が叫ぶ。


「もうええわ、ワシ帰る!」


 やがているのが恥ずかしくなり、市村は健の部屋から猛スピードで飛び出していった。


「……こりゃあ、デレたときが楽しみだね。悪い人じゃなさそうだし」

「まったくもって同意だ」


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