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同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第1章:バイト君と白龍
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EPISODE4:まるでダメなおにーさん

「実は昨日ねー……」

「す、すごーい!」

「でしょ、でしょ? それでね……」


 昼休みのことだった。一仕事終えて昼食にがっついていると、先輩の浅田達が何やら世間話をしてワイワイ盛り上がっていたのだ。何の事を話しているのか聞きに行ってみたら――。


「浅田さーん! それにみはるさんとジェシーさんも。何の話をしてるんですか?」


 あとで苦しむハメになる事など露知らず、食後すぐに駆け寄りながら健がそう言う。すると3人とも嬉しそうな表情をしながら、ほぼ満場一致でこう言ってきた。


「昨日の晩、白いドラゴンが出たらしいですよ~!!」


 ――と。


「あ、なんだ。そっちか……」


 健は胸を撫で下ろした。やはりアルヴィーはあの時、みんなに見られていたのだ。何しろ、本来の姿でいるときの彼女は巨大だ。図らずも目立ってしまう。

 そんな彼女が降臨する様子をカメラは捕らえた、ということでファイナルアンサーだろうか? だとしたらまさに特ダネ! 雑誌や報道で取り上げられても違和感は無いのではないか。


「髪ブラでヌードで、セクシーダイナマイトなおねえさんの方じゃなくてよかったです」


 やらかした――。でも事実だ。しかしどっちにせよまずいことをした。彼の唐突な発言が原因で、場の空気は一気に凍りついてしまったのである。あまりに寒く、どこかで誰かが悲痛な叫びを上げながら氷漬けになっていそうだった。

 先輩方は3人とも引いているような視線を俺にぶつけていた。

 やめて、そんな目で見ないで! そ、そういうつもりで言ったんじゃありません――。

 周囲の冷たい視線が痛い中、必死で謝った。しかし、謝りすぎがたたって周りの人々はますます困ってしまった。

 またも自分の悪いクセが出てしまったようだ。昔っからこうなんだよね、ダメなところは直さないと……。


「はあ~~~……」


 そして、退勤時間が訪れた。職場のみんなは落ち込む健を励ましてくれていた。だが肝心の彼はこの体たらくだ。しきりにため息をついている。

 更には空気を読めなかった自分を戒めるため、人の話を聞いていないフリをする。でも実際こんなことをしてはダメだ。人の話もろくに聞けないやつはクビにされるのだから。


「そう落ち込まないで、東條さん」


 しかし、そこへこの事務室の女神であるジェシーが健にそっと近寄り、やさしく声をかける!


「誰にでも失敗はあるわ。次からその失敗を活かして、成功に変えれば大丈夫ですよ~」


 ――癒される。健は心の底から感じていた、心地よいゆらぎと安らぎを。自分のようなろくでなしにも慈悲をくださるとは、あなたが天使か。いや女神様か。

 女神の微笑みの破壊力にはすさまじいものがあり、現金にも健はすぐに立ち直った。こんなに美人でかわいい女性が、忙しい中わざわざ声をかけてきてくれたのだ。

 たとえ自分がそんな気分ではなくとも、ここは笑顔にならなければ失礼というもの。あたたかい笑顔には、誠意を持って笑顔で答えねばなるまい。それが常識だ。鉄則だ。ルールだッ!


「あ、ありがとうございます! 恩に着ます、ジェシーさん!!」


 抑えきれない高揚感を抱えて健は全力で職場から出る。すぐさまバス乗り場へと向かった。腹が減った彼は、今日の晩メシをどうするか考えようとした、だが――残念なことに



 す ぐ に そ ん な こ と を 考 え ら れ る ほ ど 彼 の 頭 は 回 ら な い 。 だって、 バ カ だ も の 。 仕 方 が な い 。


 (ハッ、待てよ。ここはひとつ、みゆきがバイトしてるレストランへ行こう。アルヴィーにもそう連絡しようかな……)


 苦し紛れに健はそう思いつく。嫌らしくにやけながらアルヴィーの携帯電話にメールを打つと、彼は早速みゆきが働いているレストランの方へと走っていった。



「ふわぁ~……何か、おもしろい番組はやってないのかの。おやつのおむすびせんべいも、もう底を尽きてしまったぞ。……ん? メールか、健からだな。……なにッ!?」


************************************


 FROM:健

 To:アルヴィー


 ごめん、今日みゆきがバイトしてるファミレスで食べて帰ってくる。

 おいら晩ご飯いらないから、てきとーに何かその辺のもん食べといてね。

 またおかず買ってくるし安心したまえb

 あ、みゆきってのは僕のカノジョなんだ! byあなたのご主人様


************************************


「あやつ、カノジョ持ちだったのか……まあそれはおいといて。あとで説教攻撃をおみまいしてやる!」


 この時彼は気付いていなかった。良かれと思ってやったことが、かえってアルヴィーの機嫌を損ねてしまったことに――。



「ご注文は以上でよろしかったでしょうか?」

「以上です♪」

「それでは少々お待ち下さい~」


 ファミレスに着いた健は笑顔で店員にそう告げる。店員の女性も清々しそうに笑っていて、たいへん気持ちが良かった。彼が今来ているのは、ファミリーレストラン『トワイライト』。全国にチェーン展開しているほど人気のレストランで、お客さんも多い。

 ちなみに彼は、なけなしの金を払いハンバーグとライスのセットを注文。ドリンクはメロンソーダだ。これがまたおいしくて病み付きになってしまうのである。しかし問題はそんなことではない。ここへ来ても必ず、みゆきに会えるとは限らない。そのぐらい彼女は忙しい。常識を逸する働きぶりゆえに将来を約束されている。


「お待たせしました~、ハンバーグとライス、ドリンクのセットです」


 店員の女性は、手馴れた手つきでせっせと注文したセットをテーブルへ置いた。『やはりプロは違うな』と、健はしみじみ感じ取った。


「他にご用件がありましたらお伝え下さい♪」

「あ、あの……」

「なんでしょう?」


 『?』マークを浮かべ、きょとんとした顔で店員は首をかしげる。


「ここで、風月みゆきさんって人は働いてませんか?」

「そのみゆきさんと同じ人かどうかは知りませんけど、最近新しく入ってきたアルバイトの女の子がよく働いてくれて~」


 間違いない、ここだ。ここに彼女は勤めている。この前みゆきは『トワイライトで働いてる』と言っていた。同僚、いや先輩に当たるウェイトレスからそう聞けた以上ここで確定だ。


「あ、ありがとうございました!」

「? いえいえ、どういたしまして~」

「さあ、メシ、メシ!」


 さて、ようやくランチタイムが訪れた。健は早速がっつりハンバーグに食らいついた。舌をやけどしたので、肉をきっちり食べてから水を飲んだ。

 メロンソーダと水は別なのだ、他のドリンクもそれは同じ。腹いっぱい食べ終わり、無事帰宅。スキップしながら玄関のドアへ行き、開けてみると――?


「お帰りなさ~い♪ ……待っておったぞ、健! お主におしおきをするこの時をな!!」

「あ、あ、アルヴィー……さん? なななな何故そんなに怖い顔をしていらっしゃるんです……か?」


 腕を組んで玄関で仁王立ちしていたアルヴィーが、健が喜色満面で部屋へ入ることを許さなかった。頭から角を生やしていて、まるで鬼のようだった。更に殺し屋のような鋭い視線でこちらを睨んでおり、余裕で体が震え上がった。


「なんだあのメールは? いったいどういうことなのか説明しろ!!」

「め、メールのことで怒ってんの!? あ、アレは、その……」

「やかましいわ! こっちへ来い!!」

「うわなにをするやめ……」


 おしおきと称して健を部屋の中へ連れ込み四の字固め。彼女は細腕ながら力が強く、ホネが折れる――どころではなかった。全身に激痛が走ってホネが砕けてしまいそうだった。

 それから休む暇もなくコブラツイストへ派生する。頼むから息をさせてほしい。だが彼女はかんかんに怒っている。話など今は聞いてくれそうもない。トドメに彼女は健を押し倒し、その大きなおっぱいを顔面に押し付ける。押し付ける。押し付けるッ!


「そ、それ以上はらめええええええええええええええええッ!!! 死んじゃうううううううううゥ!!!!」

「ホレホレ、これでもか!」


 ああ、至福のときだ――。この巨乳に顔を埋めたまま死ねるのなら本望である。

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