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同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第3章 ターニング・ポイント
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EPISODE56:高給取りと苦労性

 

 姿を消し、消えては現れる。カメレオン型のシェイド――インビジレオンの踊るような軽妙な動きは、不破の苛立ちを更に募らせようとしていた。

 ただでさえ今怒らせたら手がつけられなさそうな状況であるにも関わらず、インビジレオンは彼を挑発するような行動をとるばかりだ。

 これから自分がどうなるかなどまったく知らないでいるのだろう。あまりにも哀れというか、愚かしいというか。


「こんにゃろー……」


 辟易した様子でそう呟くと、左手に握ったランスを天にかざす。

 穂先から放たれた稲妻が荒れ狂い、周囲にほとばしる。

 その稲妻がカメレオンに直撃し、感電する。


「おらっ!」


 そこへ容赦なく鋭い突きがひとつ――いや、ふたつ。

 いやいや更に多く、疾風怒濤の勢いで秒間に何百回も突きを繰り出す。

 相手は体が痺れて身動きがとれないため、全弾命中。

 一方的に痛め付けられ逆上したカメレオンは、奇声を上げてその長いしっぽをくねらせる。


「くっ」


 それはランスの穂先に、がっしりと分厚く締め付けられた。

 武器を奪われては状況が瞬く間に不利に変わる――何とかこの逆境を切り抜けねば。


「うおおおおおッー!」


 腰に力を入れてしっぽが太くしめつけられたランスを引っ張り、雄々しく叫ぶ。

 周囲からガテン系と認知され、自らも硬派な肉体派を名乗る不破は、腕力に自信があった。

 パワーでは東條に負けているものの、このくらいは余裕だ。


「ゲゲェー!」


 しっぽが豪快に引きちぎられ、ドロドロとして気色悪い黄土色の体液が周囲に散乱する。

 ちぎられた痕から全身に耐え難いほどの激痛が走り、カメレオンが悲痛な叫び声を上げた。


「ゲゲゲ! ゲヒャァーッ!」

「ぐおっ!?」


 情け容赦なく襲いかかってくる姿に恐れをなしたか、カメレオンは不破を突き飛ばして地下道の外へ逃亡。

 このまま野放しにしておけば、奴は間違いなく誰かを襲うだろう。

 警察官としても、エスパーとしてもそうするわけにはいかない。一刻も早く追いかけねば!



(くそ、どこに行った? 一刻も早く見つけ出さねえと……!)


 地下道を出て、自身が住んでいるマンションの付近へ。

 やり場のない焦燥に駆られ、キョロキョロと辺りを見渡す。

 しかし、この夜の闇の中だ。街頭などの明かりも点いていて極端に暗くはないものの、なかなか見つからない。

 苛立ちながら三日月を背に受けていると、地下道入口の屋根の上から長い舌のようなものが飛んできた。


「そこか!」


 しめつけられる目前で掴み取り、そのまま舌を伸ばしてきたカメレオンを地面へ叩きつける。

 更に、思い切り舌を引っ張り引きちぎった。浴びたくもないグロテスクな唾液が、豪快に散乱する。

 そのまま胴体を切り上げて宙へ浮かし、狙いすませた突きを一閃!

 カメレオンの体は仰向けになり、そのまま吹っ飛んだ。

 しかし、尚もカメレオンは立ち上がる。


「ヘッ、シッポに続いてベロまでとられたらもう……ん?」


 ――しっぽがある。綱引きの要領で引きちぎったしっぽがある。

 何故だ、あのとき確かにちぎったはずなのに。

 ――この時不破は、底知れない違和感を感じていた。

 同時にあることに気付いていた。こいつはさっき相手にした奴と違う個体なのでは、と――。

 案の定違う個体であり、背後からもう一体が不破に襲いかかる。

 寸前で振り下ろされたツメをかわし、槍で捌く。

 こちらにはしっぽが生えておらず、感電して焦げたあとが体にあった。


「2体1組か……ハッ、おもしれえ。やってやろうじゃねえか!」


 自信たっぷりにそう言うと、跳躍してカメレオン2匹を飛び越す。

 かなりのスピードであったため目が追いつかず、キョロキョロと辺りを見渡す。

 不破がどこに行ったか分からなくなった2匹には、ただひたすら戸惑いながらキョロキョロすることしかできなかった。


「おーい、どこ見てる!」


 不破の声に2体が反応し、声が聴こえた方向へ攻撃を仕掛ける。

 しかし、そこに不破はいなかった。

 それもそのはず、不破はお得意の超高速移動でカメレオンの周りをグルグルと回っていたのだ。

 姿が見えたときにはもう遅く、仮に攻撃が届いたとしてもそれは残像。

 何をしてもまったく通じず、戸惑うカメレオン2匹をすれちがいざまに攻撃していく。


「ほらほら、こっちだ!」


 一閃。


「どうしたどうした?」


 また一閃。


「遅すぎるぜお前ら!」


 更に一閃。


「ああもう、まどろっこしいな」


 そして跳躍。丁度よい高さでランスを真下に構え、蒼く輝く三日月をバックにそのまま一直線に降下する。

 弾ける稲妻と空気の摩擦が合わさり、とてつもないエネルギーとなって穂先へと集中していた。


「2匹まとめてブッ飛べやぁーッ!!」


 地面へ激突し、一気に大爆発!

 2匹のカメレオンは跡形もなく吹っ飛び、灰燼に帰した。

 むなしく燃え続ける残り火をあとにし、不破はマンションの自室へと向かう。




 手洗いうがいを欠かさずきっちりと行い、シェイドが吐き散らした溶解液などで汚れた上着を洗濯機へ放り込む。

 長袖のシャツを羽織り、リビングへと戻る。ソファーに腰かけてテレビの電源を点けるが、とくに面白い番組がやっているわけでもなく、すぐに消してしまった。

 ――かと思えばやはり気になったか、またすぐに電源を入れた。今は独りぼっちでただでさえむなしいのに、これから晩飯を食べるのに無音では味気が無さすぎて飯が喉を通らないというもの。

 明日も早いので、とりあえずすぐに食べられるもの――カップ麺とコンビニで買ってきた鮭おにぎりで済ませることにする。


「みんな高給取り、高給取りっていうけどよ……」


 食事の最中、口からぽつりぽつりと独り言が勝手に飛び出していく。

 テレビを見ながらカップ麺をすすり、ひとり呟く姿はどこか哀愁があった。


「高給取りが金持ちとは限らねーんだぞ……」


 高級感溢れるいいマンションの快適で過ごしやすい部屋。

 それとは不釣り合いなほどに質素な飯。そしてそこに住んでいるのは、周囲からやれ高給取りだの、やれ金持ちだのと、勝手に憧れられたり嫉妬されたり、なんやかんやで持ち上げられている不憫な男。

 それもひっきりなしに、毎日のように行われるため、不破は心底うんざりしていた。


「っあー、全然落ち着かねぇ」


 日々、同僚から無理難題を押し付けられ――もとい、激務を引き受けさせられ、清涼剤となる存在がいないわけではないものの、帰るのが遅かったり朝は早かったりで自宅についてもまったく落ち着けないでいた。彼に安息は許されないのだろうか?


「なんだろなぁ。オレ、復職しない方がよかったかもなぁ」


 晩飯と呼ぶにはあまりにも質素で、庶民的というか貧乏くさい食事を終えて不破は大きくため息をついた。


「あぁ、疲れた。今日は早く寝ますかね……」


 ボヤきながらさっさと歯みがきをすませると、風呂もシャワーですませて五分も経たないうちに上がってしまった。

 寝間着に着替えるとリビングに置いてあった自分のケータイを携え、電気を消してそのままベッドへ直行。

 どうにも頭がスカッとしないので、今日はこのまま寝てしまうことにする。



「ぐがー、ぐがー」


 でかいイビキを立てながら、不破はぐっすり眠ろうとしていた。

 どうせ独り暮らしで自分以外は誰もいないのだ。

 だから自分では立てたかすら分からないイビキを立てたところで、誰にも聞こえやしない。

 できればこのまま朝まで眠りたかった。眠りたかったのだが――。


「んぁ……電話ァ?」


 どうも現実は彼に冷たいようで、まったくといっていいほど優しくしてくれない。

 枕元で鳴り響いたケータイの着信音が、彼の眠りを妨げた。


「もしもし、警視庁捜査一課の不破ですがぁ」


 安眠妨害にイライラしながら気だるげにそう応えると、


「あっ、不破くん? おやすみ中だった?」

「し、しっ、白峯さん!?」


 相手はなんと、白峯とばりだった。

 村上でなくてよかった、奴だったら胃に穴が開いて死んでいたところだった――と、不破は心の中でそう思っていた。


「急な用事で悪いけど、明日あたしんちまで来てもらえないかしら?」

「えっ? べ、別にいいですけど……」

「じゃ、そういうことだから。また明日ね、バイバーイ」


 そうしてとばりからの連絡が切れた。

 不破の魂が再び抜け、ケータイを手にしたまま仰向けに倒れ込んだ。


 それにしても、とばりのいう急な用事とはいったい何なのだろうか?

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