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同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第3章 ターニング・ポイント
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EPISODE53:まっすぐじゃない男

「そ、そんな。市村さんがこの前の……!?」


 一同、愕然とした視線でたこ焼き屋を――市村を見つめた。

 恐怖に震えるみゆきや目を丸くしている健を見て、市村は勝ち誇ったように笑った。


「どや、恐れ入ったか!」

「……そうか、そうか。それがお主の正体だったというわけか、たこ焼き屋よ。くすくす」


 だが、アルヴィーはこの程度の脅しなどには動じなかった。

 腕を組んだまま、いきがる市村を見て皮肉な笑いを浮かべていた。

 それも気取ったものではなく、大人の余裕を感じさせる笑みだ。


「滑稽だのぅ。ぷっ……くくく」

「な、何がおかしいんやネエちゃん!?」


 もはや笑いをこらえるのに必死だった。

 市村に突っかかられても、彼女は微動だにしない。


「あーっはっはっはっはっ!!」


 遂には左手を口に添えて大笑いした。

 端から見れば高飛車で嫌な女に見える図だが、彼女自身としてはただ単に市村があまりにも面白かったので笑っただけに過ぎない。


「うわはははははは!」

「うふふ……」


 誰かが笑うとついつい釣られて笑ってしまうものだ。

 さっきまで恐怖に震えていたみゆきは口を綻ばせて微笑しており、健にいたっては銃を眼前に突き付けられているのにも関わらず、腹を抱えてゲラゲラ笑っていた。

 何故こんなにも笑っているのか、市村にはさっぱり分からなかった。


「も、もしかしてワシのことナメとんのか!?」

「いや、そうではない。今のが笑いどころだったから皆で笑っただけだ。のう、みんな?」


 アルヴィーが左手を口に添えたまま、健とみゆきに問いかける。

 二人とも嬉しそうに、こくりと首を縦に振った。

 呆然とした市村の手からは、握られていた銃がストンとコンクリートの地面へ落っこちた。


「こ、こんちくしょ〜ッ!!」


 銃を拾うと、実に悔しそうな様子でそう叫ぶ。全速力で屋台へ逃げ込み、


「きょ、今日のところは勘弁しといたる! 覚えとれよ、忘れんなよーッ!! おしりペンペーン!!」


 結局彼は、何がしたかったのか。

 喧嘩を売って健たちに脅しをかけたかと思えば鼻で笑われ、悔しさのあまり移動屋台も兼ねた車に逃げ込む。

 逃げ足は速いらしく、市村はさっさと店を畳んで車を飛ばし、どこかへ去ってしまった――。


「あちゃー、逃げられてしもうたか。まあ、過ぎたことを気にしても仕方がないのぅ」

「よっしゃ、次行こう。二人ともどこ行きたい?」

「うーん。そうだ、商店街いこーよ!」

「私もみゆき殿に賛成だ。共に参ろうぞ」

「じゃあ、商店街で決まりだねッ」


 次に行く場所は決まった、多種多様な店が所狭しと立ち並ぶ商店街だ。

 故に品揃えは豊富である。きっと優雅に、京都らしくはんなりとしたショッピングを楽しめることだろう。



 ~同日同時刻 本庁~



 機械が随所に轟く、対策課本部をたずさえた地下室。

 両手いっぱいに資料が挟まれたファイルを重たそうに持ちながら、不破は廊下を歩いていた。


「む、村上。ドア開けてくれ」


 苦悶の表情を浮かべながらうめき声を出すようにそう言うと、ドアのロックが解除された。

 自動ドアゆえ、重たい荷物で手が塞がっていても安心のつくりとなっているのだ。

 村上の白々しいしたり顔と宍戸のほがらかな笑顔を交互に目にしながら、

 運ぶ際に四苦八苦したほどの大荷物を机に置いた。

 置いた際に、ズシン! と大きな音を立てて部屋が少し揺れた。


「ごくろーさん。疲れたろう、座ってくつろいでもいいよ」

「お気遣いどーも」


 村上のねぎらいに対してすこぶる嫌そうな顔をして答え、パイプ椅子に腰掛ける。

 肩が凝ったのか軽く回したり、自分で叩いたりした。

 結果、余計に痛めてしまった。


「し、宍戸。悪いがマッサージしてくれないか」

「はい、ただちに!」

「おいおい、僕じゃダメなのかい? 同僚じゃないか~」

「野郎に揉んでもらっても嬉しくねえよ、バカ」


 不破は呆れるように即答した。

 女性に肩を叩いてもらったりするのがよほど気持ちよかったのか、

 村上が声をかけてきたとき以外は至福そうな顔を浮かべてリフレッシュしていた。


「ところで女タラシの不破君」

「今度はなんだ!?」

「君にひとつ、やってもらいたい仕事があるんだが……」


 村上が頼みごとをしてきた。

 宍戸のゆったりとした肩揉みを満喫しながら、必死で資料の山を漁る村上を凝視していた。

 ひたすらに、ジーッと。ときにボーッと。気付けば不貞寝していた。


「起きんしゃい!」


 そんな彼を一喝して叩き起こすと、説明用に作った書類を手に説明を始めた。


「いいか、一度しか言わないので聞き漏らしがないように。我が部隊で使用する武装、その種類は拳銃から特殊警棒、バズーカまでさまざまだ。なんだが……」

「なんだが?」

「中には扱いが難しいものもある。そこで、だよ」


 いったんその多弁な口を止めると、少し格好つけた動作を取りながら分厚い冊子のようなものを渡した。

 B5サイズのムック本かテレビゲームの説明書を連想させるようなデザインで、表紙には『シェイド対策課専用特殊武装取扱説明書』と書かれていた。

 早口で読めばすぐにでも舌を噛みそうな、長くてしかも字数の多い名称だ。


「おい、まさかオレにこのいかにもパズル並みに難しそうなマニュアルを読んで来いっていうのか?」

「目ざといねえ、正解! それを今晩中に読破してきてもらえないかな」

「えー!?」


 思わず声を上げて目を丸くしてしまった。

 別に読書は苦手ではなくむしろ好きなほうなのだが、流石にこんなのは読めるわけがない。

 抗議しても別に文句は言われないはずだ、だから今ここでさせてもらう。


「冗談じゃない! なあ、これってしおりとか挟めないのか? 別に明日あさってでもいいだろ?」

「そんな怠惰な人は我が部隊のサポーターに相応しくない。いやなら帰ってくれ」

「な、なんだとー! ぐぎぎぎぎ……」


 頭が村上の理不尽な仕打ちへ対する怒りで沸騰しつつある。

 できれば我慢したいが、なぜか抑えたくても抑えられない。

 しかし、宍戸に肩をもんでもらうとなぜか落ち着く。

 もし俺が怒ったら、宍戸があまりの怖さに泣いてしまいそうだ。

 女の涙は見たくない、ここはひとつ抑えよう……。


「怒っちゃやーよ、元高給取りさん」

「そ、それもそうだな。分かった、3分で読んでやる」

「本当だなぁ?」


 もちろんこれは冗談だ。

 本当に3分で読めたらそうしている。


「じゃ、そういうことだから頼んだよ。あとよろしくね、宍戸ちゃーん!!」


 くるっと回って二人を指差し、ウィンクしてクールに決める。

 言いたいことをすべて言い尽くすと、村上はさっさとその場から去っていった。

 実に強引で唐突なヤツだ。その上口がよく動く。警察官ではなく、

 漫才師を目指した方がいいのではないか――と、不破は思った。


「……村上警部補っていつもああなんですか?」

「いっつもああなんだよ。ところでオレ、耳疲れちまったよ……」

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