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同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第3章 ターニング・ポイント
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EPISODE49:倒せ、カラーギャング

 それから2日が経った――。


「えー、そんな~……。本当にそんなことが?」

「それがホントの話なのよ、困ったもんよねぇ……」


 昼休み。健が呑気にネットサーフィンをしている傍ら、ジェシーと浅田が何やら世間話をしていた。ふと目を向けてみるとその雰囲気と表情から、あまりいい話題ではなさそうなことが窺えた。


「すみません、何の話をしてたんでしょうか?」

「最近この辺でギャングがうろついてるんだってさ。それもヤバイことばっかりしてる連中らしいよー……」

「ぎゃ、ギャング? なんでまた物騒な……」

「強盗、殺人未遂、老人虐待、性的暴行、ホームレス狩りにおやじ狩り……酷いことばっかりですよね。同じ人間と思えないわ」

「確かにそれは許しがたい! でもそこまでやらかしてるなら、警察も黙っちゃいないはずなんですが……」


 健がその疑問を口にすると、ジェシーも浅田も顔を曇らせた。もしや――?


「それが、そのギャングのリーダーがエスパーらしくて警察も下手に動けないそうなの」

「エスパー!?」

「わっ!?」


 信じられなかった。何故人を守るべきエスパーが、ギャングなど率いて人々に暴力を振るったり略奪行為を行ったりするのか。浪岡と同じようなヤツが他にもいたということか?

 黙っていられない、そんなこと許されるはずがない。懲らしめなければ――。そう言おうと思ったが、自分がエスパーである事は浅田達にはナイショだ。絶対に言えない。くすぶる怒りを押さえて、心の中で呟くだけにした。


「ビックリした~……突然大声上げてましたけど、どうしたの?」

「い、いや。エスパーって僕ら一般市民より絶対強いですから、そりゃあ警察の人たちも迂闊に手が出せませんよね……は、ははは」

「もう、東條くんったら。脅かさないでよー」


 眉毛を〝ハ〟の字にして浅田が笑い、ポンと健の肩を叩いた。ジェシーもいつもの優しい笑顔に戻り、暖かく微笑んでいた。


「そんなわけで帰りは危ないですから、十分に気をつけて帰ってくださいね」

「はい!」


 ジェシーから催促を受けた二人が元気よくそう答えた。

 彼女らには隠しているが、健はエスパーである程度経験も積んでいるのでまず負ける事はない。

 だが、浅田やジェシー、それにみはるらは本当に非力な一般人。彼女らにとってシェイドと同じくらい、街のチンピラやギャングは危険極まりない存在だ。もし浅田達が襲われていたらどうすべきか、健はもう分かっていた。その際は正体がバレてももう仕方がない。彼女たちも自分の顔や特徴はよく知っている。故に誤魔化すつもりもない。


「さて、ギャングはとりあえずおいときましょ。そういや最近、話題になってるたこ焼き屋さんがあるらしいよ。みんな知ってる?」

「市村さんでしたっけ。あの人のたこ焼きおいしいですよね! あたし、ほっぺた落ちちゃいました」


 おしゃべり好きの浅田がすかさず新しい話題を振った。今話題のたこ焼き屋のことだ。

 その話にみはるが乗っかってきた、どうやらその〝市村〟のたこ焼きを食べたことがあるらしい。


「そう、市村さん! あの人男前だし料理も美味いし、きっとモテるタイプだと思うよー」

「私も何回か行ったことありますよ~。本当においしいですよね♪」

「そのお店ってどこにありますか? まだそこで食べたことなくて」

「あら、東條さんもたこ焼きがお好きなんですか? 私と気が合いそうですね~♪」

「えへへ~♪ 実はそうなんですぅ」


 このとき健は、ジェシーから気があいそうと言われた喜びのあまりやましい事を妄想していた。

 口を開けたジェシーにたこ焼きを運んだり、その逆でたこ焼きを口の中へ運んできてもらったり――。そんな至福の光景を思い浮かべて、思わずにやけてしまった。


「あの~、東條さん?」

「わっ!? な、何でもないです」

「今やらしいこと考えてたでしょ? このイケズぅ!」

「ち、違います!」


 浅田にからかわれた健が否定しながら、顔を真っ赤に染める。

 まるでいじられ役だが、かくいう本人はまんざらでもないようだ。


「ところでそのお店、どこにあるんでしょうか?」

「それがさ、市村さんって移動屋台なのよねぇ。日本各地回ってるらしいから、もしかしたら会えないかも」

「えー……」

「でも、当分は京都で営業するそうだから大丈夫ですよ~。今はアサガオ公園前でやってるみたいですから、一度行ってみてください」


 アサガオ公園とは――健が特訓をしたり、以前不破と揉めて乱闘をしたりした場所である。

 大きな噴水を中心とした広めの公園で、坂道の途中に建てられている。自然が多く景色もきれいなため、デートスポットや子どもたちの遊び場にはもってこいの場所だ。


「そうだったんですか。よかったぁ~……また今度行ってみます!」

「是非寄ってみてくださいね、本当においしいですから♪ うふふ~」




◆◆◆◆




 その晩――。以前健に懲らしめられたホームレス狩りの不良どもが、

 仲間をゾロゾロと引き連れて性懲りもなく悪さを働いていた。今度は若い女性を標的に、バッグや金品を奪おうとしていた。


「ねえちゃんよォー、そのバッグくれよォ。そうすりゃ何もしないからさァ……」

「や、やめてよ!」

「そう言わないでさぁ……」


 不良の一人がニヤニヤと汚らしい笑みを浮かべ、いやらしく手を伸ばす。

 あろうことか女性の乳房を狙いを定め、揉みしだこうとしていた。


「ヒヒヒ……へ?」


 その目前、後ろから何者かが割り込んでセクハラしようとした男の肩をつかんだ。

 そしてそのまま下がらせ、無理矢理自分の前にを向かせる。


「て、てめえは!」

「お前ら、まだこんなことを……!」


 不良どもに憤りを覚えつつ、すぐさま襲われていた女性をかばいに行く。

 幸いケガはしていなかった。女性の前に立ち、いつでも剣と盾をかまえられるよう臨戦態勢に入る。


「このヤロー、邪魔しやがって!」

「ブッ殺しちゃれぇぇぇぇ!!」


 命知らずの悪党どもが徒党を組んで健に襲いかかった。相手はこの前は3人だったが、

 今度はそれに4人が加わって7人もいた。だが、どちらにせよ今の健の相手ではない。殺すのではなく、あくまで懲らしめる目的で健もその剣を振るう。

 

「へげえええええええッ」


 まず一人を切り上げ、そのままもう一人めがけて吹き飛ばす。これで2人。


「うおっきえぇぇ」


 次に寄ってきた2人を切り払い、気絶させる。これで4人。


「なめんじゃねええええ!!」


 残った3人のうち一人がナイフを突き出すが、健はそれを首を動かすだけでかわした。

 ナイフの男の腹を蹴飛ばし、残った二人を料理しにかかる。


「はああああッ!」


 最後に回転斬りで残った二人を蹴散らし、これにて終局。女性も無事に助かった。


「ありがとうございます……」

「もう大丈夫です。さ、早く逃げて」


 女性を逃がし、倒れた不良どもの一人に近寄る。


「これでもう懲りただろ、もう悪さしないな」

「う、うるせえ! 説教垂れてんじゃねーぞ! お前なんかリーダーにかかれば一発だ!」

「リーダーだと……? そいつはどこにいるんだ!」

「し、知るかよ!」

「意地でも言わないつもりだな?!」


 そう言って不良は口を割ろうとしない。出来ることならあまりやりたくないが、首根っこをつかんで脅してでも聞き出そうとする。


「ひぃぃぃぃ! こ、この先の路地を曲がったところに昔使われてたバーがある。そ、その辺が俺らのアジトだ! リーダーもそこにいる! だ、だが、オメーが行ったところでリーダーにゃかなわねえぜ……へ、へへへっ」

「この先の路地にあるバーだな?」

「あ、ああ……ば、場所言ったんだから離してくれよ!」


 もがく不良を離してやると、再三悪事を働かないように促して走り出す。健に成敗されたギャングたちは皆すっかり腰を抜かしておびえており、健が走り出した頃には一目散に逃げ出していた。

 そして、健が今目指しているのは彼らの溜まり場となっている路地と、そこにあるバーの跡地だ。なるほど、ギャングの溜まり場にはちょうど良さそうだな――と、健は心の中で呟いていた。

 やがてその溜まり場と思しき路地へと辿り着くと、バーの入口にいかつい風貌の男が立っていた。さっき倒したギャングは全員緑色の服装で、この見張りと思われる男も緑色のジャケットを着ていた。間違いない、さっきギャングの一人が言っていたことが本当ならここが連中がアジトにしているバーだ。まず男に近寄り、通じそうもないが一先ず話し合いをもちかけてみる。


「すみません、ここのリーダーさんに用があるんですけど……」

「なんだアンタは? ここは関係者以外立ち入り禁止だ。あっち行け、シッシ!」

「僕、路上であなたの仲間の人がみすぼらしいホームレスの人たちを襲ってるのを見て、かっこいいなーって思って。それで僕もああいうことしてみたいなぁって思ったんです。どうしてもリーダーさんに会って仲間に入れてもらいたいんです。そこをなんとか!」

「ダメなもんはダメなの! さっさとおうちに帰ってママのおっぱいでも吸いな!」

「えー、そうなんですか……じゃあ、仕方ないですね」


 残念そうな顔をしてその場を立ち去ろうとする。

 無論、これは演技である。交渉しても通じなかった、ならば仕方がない。こうなれば力ずくだ。

 強行突破するしか他はない。立ち去ると見せかけ、剣と盾を抜いて(たずさ)える。

 見張りの大男が一瞬驚いたが、程なくして健は剣をまっすぐに構えて突進。男を巻き添えに扉をそのまま突き破り、強引にバーの中へと乱入。


「なぁ、パイオツ揉ませてくれよォ」

「い、イヤ……やめて、触らないで!」

「いいじゃねえか、揉んでも減るもんじゃねえだろ~? ウヘヘヘ……」


 一方、バーの中では表で何が起きているかなど露知らず、悪党(ギャング)どもが酒に溺れては踊り狂うわ、誘拐した女が嫌がっているのにはべらせては無理矢理マッサージするわとバカ騒ぎしていた。

 女性にセクハラして悦に浸っていたのは、鎌を片手に持ち、黄色っぽい茶髪に染めた髪に、緑色のジャケットをはじめとしたカジュアルな服装に身を包んだ男だった。三白眼で目つきが非常に悪く、ひとめでワルだと分かるような出で立ちだった。恐らく景気がいいので調子づいているのだろう。これから何が起きようかも知らずに飲んだくれている辺り、実に馬鹿馬鹿しく哀れである。


「リーダー、おいらにも触らせてくださいよォ」

「あ゛ァ? テメー、今なんつった」

「え? いや、おいらもそのネーチャン触りたいって……」

「生意気いってんじゃねえぞ」


 不機嫌そうにせがんで来た子分の右手首をつかむと、鎌で勢いよく中指までの3本を切り落とした。

 返り血が少し、鎌瀬と呼ばれた男の頬に付着した。


「今日は機嫌がいいんだ、指2・3本で許してやらぁ」


 指を切られた子分は、恐怖にわななき逃走した。その隣にいた女もまた、この男の残虐さに恐怖していた。当のリーダーと呼ばれた男は首を鳴らし、不敵に笑っている。

 ――そして、彼らにとってはまさに予想外だった事態が起きた。見張りをさせていた男ごと壁をぶち破って、大剣と盾を構えた別の男が現れたのだ。どんちゃん騒ぎのお祭り騒ぎから一転、その場の全員が突然現れた乱入者を相手に慌てふためき、騒ぎ立てることとなった。


「な、なんだてめえは!?」

「あんた達を潰しに来た……」

「ハァ? おめえバカだろ!!」


 両脇によそで捕まえた女を侍らせていたリーダー格らしき男が、己の身の程も知らずに剣を持った男に罵声を浴びせる。


「ここ、俺らのテリトリーなんだけど? 勝手に土足で上がりこんでいいと思ってんの?」

「そんなの知るか。そこの女の人を離せ!」

「ヤだね! こいつはたった今から俺の女だ。誰にもわたさねえよ!」


 バカの一つ覚えか、リーダーがあっかんべーをして挑発。しかし健は挑発に乗らず、高く跳躍するとリーダー格の男の懐へと潜り込む。抵抗する間もなく男は吹き飛ばされ、壁へ強く叩きつけられた。


「あ、あの……」

「もう大丈夫です! さ、早く」


 女性の全身を両腕を使って抱え上げ、再び跳躍して敵のど真ん中から速やかに退避。俗に言う〝お姫様抱っこ〟というヤツだ。何せよ見栄えがよくやる方もその気がなくともカッコつけられ、優越感に浸れる。


「ここ、危ないです。速く逃げて」


 先程と同じようにまず女性を逃がし、それからギャングたちに刃を向ける。

 まだ外に連中の仲間がうろついているかもしれないが、もしそうならさっさとこいつらを片付けて助けに行くまでのこと。こんな場所に長居は無用、ただでさえ忙しいのにギャングたちを倒すのに時間をかけてはいられない。


「ちきしょう、ナメた真似しやがって……」


 叩きつけられてのびていたリーダーの男が立ち上がった。まだ痛むらしく、頭に手を当てていた。怨めしそうに歯ぎしりし、仕舞っていた鎌を取って


「俺たち『グリーンスネーク』に逆らったらどうなるか、この鎌瀬(かませ)様が思い知らせてやる! 殺っちまえええええええッ!!」


 怒り狂うリーダーのかけ声に呼応するかのように、手下のギャングたちもやかましいことこの上ない叫び声を上げた。

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