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同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第3章 ターニング・ポイント
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EPISODE48:雷光のリスタート

 翌朝、午前8時30分、警視庁捜査一課。

 警察官の朝は早く、早朝から既に何人かオフィスに入っていた。

 その中でもとくに目を引いたのは、銀縁メガネに紺色のダブルスーツを着こなした知的な青年――村上だった。


「あ〜あ、ついにこの日が来てしまったか……」


 息混じりに村上がそう呟いた。神経質そうに腕時計を何度も見ては、

 オフィスの出入口の方向を見返していた。その意図は分からないが、

 少なくとも誰かを待っているようには見えた。


「警部補、おはようございますっ!」

「うわっ!!」


 そんな村上のうしろから、たいへん元気の良い黄色い声が聞こえた。

 声の主は、少し緑がかった黒髪のショートヘアーに赤い瞳の婦警だった。

 それなりにふくよかな胸を除けば、可もなく不可もない標準的なスタイルに、

 ミニスカートの警察の制服がよく似合っていた。


「な、なんだ宍戸か……驚かさないでくれよ」

「あわわっ! も、申し訳ありませんでした!」


 良かれと思い元気にあいさつをしたもののかえって村上を驚かせてしまった快活な婦警が、慌てて謝った。

 ――彼女の名は、宍戸小梅(ししど こうめ)。彼女はかの宮本武蔵と戦ったとされている、

 鎖鎌を得物としていた盗賊・宍戸梅軒(ししど ばいけん)の血を引いているらしい。

 だがあくまでそれは本人の弁であり、実際に彼の子孫なのかどうかは不明である。というのも、

 祖先に当たる梅軒自体が小説内に登場する架空の人物であり、そもそも架空の人物なら実在などしていないはずなのだ。

 なのに彼女は、自分が『梅軒の子孫』であることを否定せず、それどころか(かたく)なに強調しているという。謎は深まる一方であり、それ故か警察内でも彼女のことはたびたび話題に挙げられていて、同僚の間ではしばしば彼女に関する談義も行われているほどだ。

 そんなやや電波ゆんゆんな彼女だが、意外や意外、生い立ち自体は到って普通で何も問題はないようだ。

 ちなみに盗賊の子孫である彼女が何故警察、それも捜査一課に入ったのかは不明である。


「ところで警部補。〝アノ人〟が帰ってくるって本当ですか?」

「〝アノ人〟? 帰ってくる? 誰のことだい宍戸ちゃん?」

「ヤダな~、高給取りのあの人ですよ! 警部補ならご存知のはず!」

「……ああ、そういうことか!」


 今や、捜査一課をはじめ警視庁内の全課が『アノ人』の話題で持ちきりだった。

 何でもその人物は誰もが嫉妬し憧れたほどの高給取りで、その上犯人の検挙率が高く、

 バリバリの硬派な肉体派でしかも高身長で美男子だったらしい。


「おはよーございますッ! 皆様、お久しぶりですッ」


 そしてその美男子が、満を持してオフィスに入って来た。あいさつを一通りして回ると、

 村上と宍戸がいる辺りへと歩き出す。


「よお、帰ってきたぜ!」

「ほら、主役の登場ですよ!」

「お帰り、元高給取りの不破ァァァァ!! 復職おめでとおおおおぉ!!」


 知的な印象を与えていたはずの村上が、どういうわけか凄まじい形相で不破へ絡んでいった。

 一瞬暴言を吐いたかと思えば、すぐに席へ戻って何事もなかったかのように仕事を始める。

 これには不破も宍戸も、少しばかり驚いていた。


「ず、ずいぶん手荒い歓迎だな……ところで君は?」

「ああ、そういや君と彼女が会うのは今日がはじめてだったな……。ほら、コイツにあいさつしてあげて」


 不破が宍戸へそう言った。不破は彼女とは面識がない故、必然的な反応だ。

 村上に催促された彼女は前に出ると、背筋をピンと正して職場に於ける基本の姿勢をとり、


「村上警部補の部下の宍戸小梅です! よろしくお願いします!」

「本日付けで捜査一課に復職した不破だ。よろしく頼む」


 お互いあいさつを交わし、宍戸が再び村上の傍らへつく。

 村上と宍戸へのあいさつも終えたので、2年前に自分の席があった場所へ行く。

 ダークグリーンのジャケットを脱いでカッターシャツ姿になり荷物をいったん机に置こうとしたが、

 そこへ村上が来て不破を止めた。


「悪いが君の席はそこじゃない」

「え? どういうことだ?」

「それはこれから説明しよう。宍戸、一緒に来てくれ」

「はい!」


 そこは自分の席ではなくなっていた。

 脱いだ上着と荷物を背負って村上の引率のもと、廊下に向かう。

 エレベーターに乗り込むと、村上が地下フロアを指定。

 そのあと、ボタンを無闇やたらに押し出した。


「お前何やってんだ! そんなメチャクチャに入力していいわけ……」

「まあ見ててくれ」


 苛立って注意しようとしたが、目前で宍戸に止められた。

 「大丈夫です、信じてください」と言いたげな視線と笑顔を向けられ、憤りをなんとか押さえ込む。

 そうしている間にもエレベーターはどんどん下へ下がっていく。

 やがてアナウンスが入り、地下の終点へと辿り着いた。ハイテクな扉を抜けると、

 そこは無数のモニターが取り付けられたモニタールームだった。

 オペレーターがせわしそうにキーボードを打ったり、真摯にモニターと睨めっこをしたりしていた。


「す、すげえ。なんだこれは?」

「東京二十三区に設置された1万台のカメラ……それが捕らえた映像はすべて、このモニタールームに映し出されるんだ。だからここにいれば、いつでも東京中の様子が見られるってわけなのさ。情報収集と容疑者の監視・発見には欠かせないね」

「なるほど……ってことは、シャワールームとかも覗けるんだよな?」

「確かに出来るけどのぞきはいけないなあ。そんなこと言うぐらいだったら、君、警察辞めたら?」

「うっ……」


 悔しいが言い返す言葉が出ない。冗談で場を盛り上げようとしたら冷たい皮肉で返され、

 後輩の宍戸からはあからさまに嫌そうな目つきで見られ、とにかくいいことがなかった。

 よかれと思いやったことが裏目に出てしまったのだ。

 なんとも不運な結果を招いてしまったものである。

 後悔する間もなく引率され、今度はモニタールームから更に奥の部屋へと案内された。

 近未来的な設備が施された広い部屋の中には、中央に会議用のテーブルと椅子がきちんと並べられていた。

 どうやらここは、会議室か何かのようだ。3人とも席に座った事を確認すると、村上が


「ようこそ、シェイド対策課本部へ!」

「へぇ、そういうことか。今度のオレの職場はオフィスじゃなくてここってか……」


 遠い目をしながら不破がそう呟いた。


「やだなあ。そもそも君、どっちかといえば小難しい事務仕事(デスクワーク)より肉体労働のほうが得意だろう?」

「まあ、一応な」

「それに君は、シェイドとの戦いを幾度となく重ねてきたエスパーじゃないか。ピッタリの仕事だと思うよ~?」


 村上が言うとおり、彼はどちらかといえば肉体労働のほうが得意だ。

 それに極端に苦手というわけではないものの、デスクワークはあまり得意な方ではない。

 だから村上は、不破を対策本部へ引き入れてシェイド討伐を依頼したのだ。

 もともと厭味(いやみ)――もとい、自分に正直で思ったことを口に出す故に、

 余計な事をつい口走ってしまう村上だが、何だかんだで不破との付き合いは長く彼の得意・不得意は分かっていた。

 つまりは彼なりに不破を信頼しているからこの仕事を頼んだ、ということだ。


「それだけじゃなく、この対策本部は機動隊みたいに暴徒鎮圧も担当しているんだ。手間かけるけど、そっちもよろしく頼むよ」

「あいよ。とりあえず期待に応えられるようにはする」

「そう言っていただけると、あたし達も嬉しいです! すっごい助かります!!」


 この張り詰めた空気を緩和するかのように、宍戸がにっこりと笑った。


「ウチは武器や装備は充実してるんだけど人手不足だからね、不破君みたいな一騎当千クラスの強豪が来ればそれだけでも大助かりさ」

「なあ、その武器って誰が作ったんだ?」

「よくぞ聞いてくれた。宍戸ちゃん、こいつに紹介してやって!」

「はいっ!」


 村上から指示を受けた宍戸がいったん外へ出る。

 すぐに彼女は藤色のワンピースの上に白衣を着た女性を連れて戻ってきた。


「なッ……!? この人は……!」


 見覚えがあった。明らかに一度会ったことのある人物だ。

 確か研究所も兼ねた立派な家を持っていて、東條と面識のある人物だったはず。

 自分も何回か会っていて世話になっているが、東條の方がよく知っているだろう。


「紹介しよう。我々、対シェイド部隊を何かと技術面でサポートを行ってくれている、IQ160の天才でおまけに美人な……白峯博士だァァァッ!!」


 やっぱりか! と、心の中で不破が呟いた。そして、ひとり悶絶した。


「こっちでもよろしく~♪」

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