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同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第3章 ターニング・ポイント
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EPISODE45:オレの新生活

 〜3日後〜


 遠くから海を臨む丘。そこは見晴らしがよく、花が咲き誇り、

 すさんだ心を癒すには最適な場所だった。小高いその丘には、

 『せめて死者に安らぎを』とでも言いたげに、荒涼とした墓地が建てられていた。

 その中でもひときわ縦に長いのっぽな墓石の前には、花束を抱えた、

 ほどよく鍛え抜かれた体つきをしていて背が高い男性が静かにたたずんでいる。

 眼前の墓石には、『倉田家之墓』と刻まれていた。花束をたもとに置いて、黙祷を捧げた。


「……美枝さん。オレ、仇を討ったぜ。やっと君の無念を晴らすことができたんだ。君がいなくなってから、ずっとひとりで戦ってたんだ。すげぇ辛かった。けど、そんなオレにも仲間ができたんだ。お陰で浪岡の奴を倒せた。君と過ごした幸せな日々は長いようで、あまりにも短かった。だけど、君との思い出は数えきれないほど残ってる。天国でも達者でな。愛してるぜ、美枝さん」


 天国へ逝った恋人へ向けて、儚げに微笑んだ。不器用な自分なりに彼女に贈ってやれるものは、

 他には花束だけ。でも、十分だった。安らかに眠れるようにと祈り、

 愛する気持ちが天に届けば十分。彼女が喜んでくれるのなら、それで良かった。


「さて、行くか」


 恋人への報告と供養を終え、気持ちの整理が出来たところで、不破は墓地を去る。

 これでやっと、ケジメがついた。墓地から少し歩いたところに停めてあったバイクを駆り、

 己の古巣である東京へ戻る。以前に住んでいた京都のマンションから、

 東京の新しいマンションへの引っ越しも既に終えていた。心機一転、

 自分が生まれ育った東京(まち)で新しい暮らしを始めようというわけだ。更に彼は、

 今の生活がもう一段落ついたら警察に復職することも考えていた。

 もともと恋人の仇をとりたいあまり、勝手に警察を辞めてしまったクチだ。だから、

 勝手なことをした償いがしたい。二年間のブランクは大きいが、

 今度はいち警官としてだけではなく、エスパーとして役に立ちたい。

 ただひたむきに人々を化け物(シェイド)から守ろうとする東條や、そんな彼を支える周囲の人間を見て、

 思った、痛感したのだ。人を守るという、警察官として当然の義務が果たせていなかった。

 復讐にとらわれるあまり、少々利己的になりすぎていたのだ――と。

 青春真っ只中の学生、ちゃらんぽらん且つオシャレにストリートファッションを着こなした若者、

 美しい容姿ながらも近寄りがたい雰囲気をかもし出すキャリア・ウーマン、

 スーツに身をくるんだサラリーマン、だいぶ昔から生きてきた杖を突く老人――。

 たくさんの人々でごった返す、混沌とした都会の雑踏。きわめて真剣な面構えで、

 不破が人ごみの中をくぐり抜けていた。雑踏を抜けて路地を歩いていると、やがて向かい側から歩いてきた男と肩がぶつかった。


「おい、気を付けろよ! ……って、不破じゃないか?」

「ゲッ、村上! お前だったのか」


 その男、村上翔一(むらかみ しょういち)。警視庁捜査一課の警官で、階級は警部補。

 青髪に赤紫色の瞳で、前髪に入っているピンクのメッシュがアクセントになっている。

 知的な銀縁の伊達メガネに、きっちり着こなしたダブルスーツが、

 スマートにひきしまった彼にはいやというほど似合っていた。おまけにハンサムだった。今風にいうならばイケメン。


「やっぱりな。人に肩ぶつけといて謝らないのは、君しかいないだろうなあって思った」

「道理でなぁ。オレも人に対してそんな嫌味な言い方する奴は、お前ぐらいしかいないだろうなって思ったぜ」


 お互い感じていた、やはりこいつは読めないと。

 人前でプライベートに関わる話を延々するのもアレなので、

 馴染みのバーで酒でも飲みながらゆっくりと他愛もなく話し合うことにする。

 不破はアーリータイムズを、村上は生ビールを注文した。酒は、大人だけのたしなみだ。

 未成年が味わうには強すぎるほどの刺激と快感が、そこにはある。

 クセは強いが、一度はじめるとなかなかどうしてか、やめられない。止まらない。かっぱえびせん。

 ただ、その快感に溺れて昼間から酒びたりの毎日を送るものも中にはいるが――。


「聞いたよ。警察に復職するらしいじゃない」

「ああ。この2年間、遊びすぎたからな。そろそろ仕事しねえと、って思ってよ」


 不破が酒を少し飲む。


「そりゃあいい、僕は力仕事は苦手だからね。ホントに助かるよ。まあこれからお給料減らされるんだと思うと、正直ゾッとしちゃうけどさ」


 対する村上は、そう言うとビールをイッキ飲み。


「なんで?」

「寝ぼけてんじゃないよ。君が高給取りだからに決まってるだろー!」


 一気に半分まで飲み干すと、声を大きくしてそう叫んだ。知性派な見た目ながら、

 こういうときは意外と豪快――というか、はっちゃけるようだ。

 人は見た目によらないとは、こういうことを言うのだろう。


「それと高給取りだったってことが、どう関係あるんだよ?」

「あるね! あんたが復帰したら、僕らの分の給料がその分だけ、け、けずらるる! まマスター、もう一杯!!」


 酔っぱらったからか、村上の滑舌が著しく悪くなっていた。

 ものすごい勢いでビールをお代わりし、村上は最終的に泥酔。

 終いに暴れだそうとする彼を、不破が何とかすべく取り押さえる。


「おいおい、落ち着け!」

「うるひゃい、ぼかぁ酔っ払ってなんかいないのら〜……」

「うわっ、面倒なことになったぞ……」


 泥酔した村上の分もマスターへ支払うと、村上を背負って店から出ていった。

 そして村上の酔いを覚ましてやろうと、水をいっぱい入れたバケツを用意して顔を突っ込ませた。


「あ、あれ。僕は何をしてたんだ? 何だか顔が冷たいんだが……」

「……はいはい、やっと目覚めたか。お前さっき、真っ昼間からビールかっくらってただろ」

「そうだっけ?」

「おいおい〜、覚えてないのか? しっかりしろよォ」


 村上の酔いを覚ましたところで、今日はひとまず彼と別れてマンションへ戻ることにした。

 その前にビールやおつまみを買い込み、意気揚々とマンションの自室へと入った。


「うげえ、整理整頓忘れてた……」


 まだ引っ越してきたばかりゆえ、部屋の中は荒れ放題。ろくに片付けも出来ていない。

 プチプチ付きの梱包や私物が入ったままのダンボール、新聞紙に配線がつながっていない電化製品――。とにかく、様々なものが散乱して辺りを埋め尽くしていた。

 このままでは折角のマイルームが台無しだ。どうせ住むならきれいな部屋がいい。

 大急ぎで荷物をあるべき場所へせっせと運び、ひとりで雑巾がけし、カーペットを一人で頑張って敷き、

 ローラーをコロコロしてホコリを取り、最終的に掃除機をかけ――。これではまるで大掃除だ。終わるまで一苦労であった。この大作業を終えた不破は汗にまみれながらも達成感を噛みしめ、清々しい笑顔を浮かべていた。――しかし馴れない掃除で体力が限界を迎えたか、しばらくして床へ豪快に倒れ込んだ。そして、そのまま夜を過ごした。端からみれば、なんとも言いがたいマヌケな光景である。

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