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同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第2章 敵は非情のセンチネルズ
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EPISODE44:新たな気配!

 翌日――。


 京都の西大路では、早朝からとばりがシャワーを浴びていた。朝風呂だ。

 彼女の生活上よくありがちなことだがうっかり先日の夜、

 研究に没頭しすぎたが為に入浴するのを忘れていたのだ。もっとも人間、

 1日ぐらいは風呂に入らずとも大丈夫ではある。しかしそれを差し引いても、

 朝風呂というのは気持ちがいいものだ。

 浸かれば体の芯から暖まり、仕事などでたまった日々の疲れやストレスも自然にとれていく。

 『風呂は命の洗濯』と比喩されることもあるが、まさにその通りだと言えよう。

 もう十分なところで湯船から上がり、バスタオルで体を拭いてそれを裸体に巻く。

 濡れた黒髪をドライヤーで乾かしてタオルをカゴに放り込み、

 代わりにバスローブを羽織ってリビングへ。ふかふかのソファーに座り、ゆっくりとくつろぐ。

 風呂上がりの艶々しい黒髪にはわずかに水気が残っており、

 はだけた襟元からはメロンかスイカほどはある大きさの乳房がのぞいていた。

 髪色に対して雪のように白い肌に、隠れていて見えないものの、

 チェリーのようなピンク色とのコントラストが美しい。

 上がるついでに持ってきたカップには、紅茶が淹れられていた。「ふぅ」と一息つくと、

 液晶テレビの電源を点けてチャンネルを回す。今の時間帯はとくに面白い番組がやっていないようなので、とりあえずニュース番組を観ることにする。


「昨晩未明、奈良の御門山みかどやまで原因不明の山火事が発生しました。火の手はエネルギー研究機関・センチネルズ本部の付近から上がり、瞬く間に広がっていきました。なお現在火は消えており――……」

「……えっ? どういうこと」


 女性アナウンサーが冷静に、真摯にそう読み上げる。ちなみに御門山(みかどやま)とは、

 奈良にある山のひとつ。春夏秋冬、どの季節でもまったく趣旨の違った美しい風景が売りの場所である。

 秋なら紅葉が秀逸で、更にリンゴやキノコなどのおいしい味覚も採れると評判だ。冬は言わずもがな、一面が銀世界である。


「……次のニュースをお伝えします。たった今、奈良県警にセンチネルズの緑川和人(みどりかわかずと)氏が出頭したとの情報が入りました」


 思わず目を疑った。かつてセンチネルズにいた頃にチラッと顔を見ただけだが、

 少なくとも自分の知る緑川は自ら警察に出頭するような奴には見えなかった。

 周囲が言っていたように、ひたすら浪岡に従い、

 冷徹なまでに与えられたミッションを忠実にこなす男だと――そういう印象をずっと抱いていた。

 だから、この報道は自分にとっては意外だった。

 警察に出頭するという行為は彼からしてみれば、組織の機密情報をみすみす外部に洩らしに行くようなもの。

 だからそうしようとした奴は容赦なく殺す。

 そうやって緑川はセンチネルズで生きてきた。

 見た目こそ好青年だが、その中身は浪岡に負けず劣らずの性根がねじ曲がった冷酷な男だった。

 それが何故――。

 気になるのは緑川だけではない、センチネルズ自体はいったいどうなったのだろうか。

 報道だけでは分からないことも多い。

 ――そうだ、こうしよう。不破か健くん辺りなら、何か知っているかも知れない。

 少なくとも自分が知っている中でセンチネルズに自ら喧嘩をふっかけに行くような勇猛果敢な人物は、彼らしかいない。

 いちど聞いてみよう、そうしよう。以前交換しあった電話番号を入力し、健へと繋げてみる。


「アニメみよーっと!」

「よそ様に見られても恥ずかしくないものにするのだぞ」


 同時刻、健は自宅のパソコンでのんびりとネットをしていた。

 なけなしの金で買ったノートPCだ。色はクールで渋いネイビーブルーで、

 マウスは外付けタイプ。隣には、オレンジジュースのペットボトル。これは水分補給用だ。

 他にもビスケットが小皿に置いてある。これは、言うまでもなくおやつだ。


「なんも無い……」


 彼は動画サイトにアクセスしていたのだが、お目当ての動画がまったく見つからなかった為にテンションがいつになく下がっていた。一生懸命探したのに、なんだかなぁ。と、拗ねていると、携帯電話のランプが激しく点滅しだした。


「もしもし、東條です」

「やっほー、健くん!」

「あっ、とばりさん。おはようございます!」

「ニュース見た? センチネルズがさ、なんかすっごいことになってたわよ。もしかして、健くんがやったの?」

「えっ、まあ……そういうことになりますね。不破さんもその時一緒でした」

「そうだったんだ〜……んー」


 電波の向こうで、とばりが右の人差し指を手にそえて考え事をはじめた。

 ……気がした。なんとなく、頭の中にそんな光景が浮かんだのだ。


「ねえ、今そっちに何か予定とかある?」

「あっ、ないです」

「じゃ、こっちまで来て詳しいこと聞かせてくれない? お友達と一緒でもいいわよ♪ じゃあね〜」


 電話が切られたことを確認。目の色を変えてノートPCの電源を切ったかと思えば、

 すぐに服をよそ行きのものに着替え、瞬く間に準備を終えた。眠りこけていたアルヴィーを叩き起こし、彼女にも大急ぎで支度をさせた。

 二人はみゆきも電話で誘い京都駅で合流。三人で電車に乗り、とばりの家へと向かう。

 ちなみに不破も誘ったが、断られた。恐らく彼には、他にやるべきことがあったのだろう。今はそっとしておいてやろう。なにせ、センチネルズの件で、一番辛かったのは彼のはずだから。


「ごめんくださーい」

「さ、どうぞ上がって」


 目を見張るほどに広い敷地を通って玄関に上がると、とばりが温かく出迎えてくれた。

 見た目は完全にアダルトな雰囲気を漂わせる妙齢の女性なのに、

 相変わらず明るくて愛嬌がある人だ。見ているこっちも思わずにっこりしてしまいそうだった。


「わざわざ来てくれてありがとネ」

「いえいえ。僕もとばりさんには世話になってますから。それにあなたのお(うち)にいると安らげますし」

「もう、お世辞が上手いんだから!」


 リビングへ移動し、出してもらったお茶とおかしを味わいながら楽しいひとときを過ごす。

 そのうちとばりからセンチネルズの話題を振られたので、あの時起きたことを洗いざらいすべて話した。

 少し深刻そうにしていたが、すぐにいつもの屈託のない笑顔に戻った。


「――そっか。そういうことがあったんだ。じゃあ全部……終わらせてきたのね」

「はい」

「とにかくすごかったんですよ〜! 最初どうなるか心配で心配で……。でも、健くんが来てくれたお陰で助かりました!」

「ちょっと〜。あなた、とっても感謝されてるじゃない? 照れちゃって、この、この〜♪」


 楽しげに、とばりが健の頬を突っついた。健がみゆきに好意を抱いていることと、

 みゆきもまた健に好意を抱いていること――。彼女の鋭い観察眼の前にはすべて、お見通しだった。


 なかなかウブなやつだ――、決めた。

 お互いに初恋であろう彼と彼女の行く末を、酸いも甘いも経験してきた自分が見守ってやろうじゃないか。

 でもただ見守るだけではつまらない。ちょっとからかったりして、恋心を刺激してやらないと――。

 甘くて切ない男と女の密かな恋。それを見守る女。そこにあったのは少しのいたずら心と、温かくやさしい微笑みだった。



◆◆◆



 おびえた様子で路地裏を歩いている、一人の若い女性。彼女は追われていた。

 うかうかしていられない。きっとまた、私を殺しに〝奴〟がやってくる。

 こうしちゃいられない、早く逃げなきゃ。

 でも、どうやって? この先は袋小路。私を狙うアイツは残忍なハンター。

 狙った獲物は執拗に追い回し、何が何でも絶対に逃さない。けれど悩んでいる場合じゃない。

 でも、もうダメだ。私は殺される。生きて帰れない――。ほら、もう足音が近くまで――。

 死んでたまるか、と、女は全力で走った。だが、石につまずき転んでしまった。

 地面に座り込んでしまった女の右手から、べちゃっ――と、水か何かに触れたような音がした。

 恐る恐る右手を見つめると、女の手を濡らしたのは、水ではなく――さらさらできれいな赤色をした『血』。


「ひぁっ……」


 真っ赤に染まった右手を見て、女が恐怖に泣きわめく。

 足音を立て、ゆっくりとハンターが女に歩み寄る。その手に握られているのは、

 自分の頭と同じくらい大きな(ナタ)。女には、自分の運命がどうなるかもう分かっていた。

 2本足で立つ黒ヒョウのようなハンターが持った鉈には、既に誰かの血がこびりついていた。

 つまり、自分もこれからこのハンターの刃のサビにされようというわけだ。

 鉈が今、自分に振り下ろされた。一寸先は闇。もう、助からない――。


「グアオオオオオオオォ!!」

「えっ?」


 そのとき一発の銃声が鳴り響いた。左目を撃ち抜かれ、視界を失った黒ヒョウが激痛に悶え苦しむ。

 何が起こったのか分からない女は、ただおびえるばかり。底知れない恐怖に震えていると、

 更なる銃声が響いた。今度は神経が集中している肩を撃ち抜かれ、黒ヒョウはもう何も出来なくなった。


「ここ危ないで。はよう逃げてや!」


 やがて黒ヒョウに銃を撃った男が颯爽と現れた。身長は女より頭ひとつ分大きかった。

 被害を受けた女には優しく声をかけ、その場から逃げるよう促す。

 だが、女を襲った加害者には一転して容赦はしない。

 女が無事に行ったことを確認すると、銃を向けて何度もヒョウに発砲する。


「どないや、痛いか?」

「ぐウゥ……」

「痛いかって聞いとんじゃァ! このボケェ!!」


 頭を、胴を、足を。そして仕上げに、心蔵を。あわれな黒ヒョウの目には何も見えていない。

 頼れるものは嗅覚と本能だけ。肩を壊し両目を失い自慢の足も失った彼には、ただひたすらに弾を受け止めることしかできなかった。

 皮肉にも弱い者に暴力を振るっていた狩猟者(かがいしゃ)は、今、銃撃主の前で被害者となったのだ。


「うすらトンカチがぁ、なんぼ言うても分からんらしいのぉ。よろしい、せやったらワシにも考えがあるわ」


 そして今、男が銃の引き金を引いた。グッと、力強く。

 重厚な銃身の先が光り出す、狙いは無論黒ヒョウだ。


「弱い者いじめはアカン。口で言うても分からんなら、今からオノレの体で分からせたる」


 そして、人差し指を離した。


「死ねやァァァ!!」


 巨大なエネルギー弾がバチバチと火花を散らしながら黒ヒョウへと飛んでいく。

 身動きできぬ黒ヒョウの体を焼き尽くし、大爆発。残された火が激しく、

 静かにメラメラと燃えていた。銃口から煙が上がり、それを息を吹きつけて消す。


「まったく迷惑なやつやった。ほな、帰ろ」

◆シェイド図鑑


◆ラヴィッジジャガー

黒ヒョウのシェイド。ナタと自慢の俊足を武器に獲物を狩る狡猾なハンター。

自分より弱そうな相手、それも金目のものを持っていそうな者ばかりを狙う。

健の前に何度か現れては撃退され、ある晩ひとりの女性を執拗につけまわしていたところを謎の銃使いに見つかり爆砕された。

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