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同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第2章 敵は非情のセンチネルズ
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EPISODE43:フュリアス・フレイム PART3

「みゆき!」

「健くん! 怪我とか、大丈夫?」

「大丈夫! ……か、よく分かんないや」

「でも、来てくれて嬉しいよ」


 不破と交代した健はアルヴィーと一緒にみゆきの元に戻り、彼女の身辺を固める。

 悲しいことに、最近の悪者には傍観者をみすみす見逃すほど、優しいヤツはそういない。

 ひょっとしたら浪岡以外にも敵がいて襲ってくるかもしれない。

 そんな状況では、か弱い乙女である彼女は誰よりも心細いはず。

 きっと誰よりも恐怖を感じているはず。だから守ってやらなくてはならない。

 身を挺してでも人々の盾となる覚悟はできている――。

 彼はその為に、エスパーとして戦う決意をしたのだから。さっきすりむいた膝のケガなど、

 彼女の恐怖心に対すればしょうもないものだった。あの時自分たちが駆けつけなかったら、

 そのまま浪岡にもてあそばれて辱しめられていただろう。そう考えるとつくづく助けに来てよかったと思える。


「――感動の再会はあとだ、まだ安心はできないぞ」


 人の姿に戻ったアルヴィーが促し、健が「確かに」と返事した。

 新手で浪岡の手下か、シェイドが襲ってくることは十分に推測できる。というか、思ったそばから襲ってきた。


「かかれッ!」


 緑色の髪を束ねた男――緑川とその手下だ。

 狡猾にも二人の手下にケガを負っている健を襲わせ、羽交い締めにする。


「お主、卑怯だぞ!」

「卑怯もクソもあるか。手段を選ばないヤツだけが生き残れるんだ!」


 緑川が殴りかかる。アルヴィーは攻撃を軽くかわし、顔面にパンチを入れる。


「チッ、やるな。だが、女だからといって容赦はせんぞ!」


 素手でかなわないなら、と言わんばかりに懐に忍ばせていたコンバットナイフを取り出し、

 何度もそれを突き出す。華麗なバックステップを踏み、アルヴィーはことごとくナイフによる突き出し攻撃を軽くかわした。やがて、ナイフを突き出したまま緑川が全速力で突撃してきた。


「いくら上級シェイドといえども、今はか弱い女の子チャンだ! 俺の相手ではない!」


 何度もナイフで切りかかる。もちろんアルヴィーはすべてかわしたが、

 一度だけナイフが頬をかすった。雪のような白い肌に開いた傷口から、

 赤い血が光るように流れ出ていく。やった、と、緑川はぬか喜びした。


「……ほぅ。こいつ、やりおる」


 手で血を拭き取り少しだけ見つめる。きゃつは一瞬の間とはいえ、自分とほぼ互角に戦った。

 それだけの実力と格闘センスがありながら、なぜ浪岡のような悪党に従っていたのだろう。

 ――と、考えながらも、すぐに緑川を見て睨みを利かせる。


「お主、こんな傷をつけて満足か? 小さい奴だのぅ」

「なにッ! どういう意味だ!」

「知りたければ自分で考えてみろ」

「人をコケにしやがるのもいい加減にしろォ!!」


 緑川がいきり立ち、みたびナイフを振りかざして襲いかかる。

 最初こそ戦闘のプロのように見えたが、それはまやかし。

 その中身は、ただ刃物を振り回して暴れているだけのチンピラ。

 今や取るに足らない相手だ。軽くいなしてやるか。


「オレを侮辱した罪は重いぞー! 串刺しか(こま)切れか、好きなほうを選べぇッ!」


 ナイフをめちゃくちゃに振り回しながら、緑川がジリジリと迫る。

 アルヴィーはいとも簡単にナイフを避け、健を羽交い締めにしていたセンチネルズ構成員の二人につかみかかる。


「お主ら!」

「ひっ!」

「いつまで!」

「ひぃぃっ!」

「野郎同士で!」

「ひええええッ!!」

「絡んでおる!!」


 健の腕から強引に引き離され、ゴチン! と二人の頭をぶつけてごっつんこさせる。

 気絶させた構成員の服の袖をつかみ上げると、肩に力を入れはじめた。


「よそへ行けぇ〜!」

「のーん!」


 そしてともえ投げ。もう一人の方もつかまり、空へ空へと思い切りぶん投げた。

 哀れ、彼らは空の星となったのである。これでようやく健は解放された。


「こいつ、できる……!」

「さて、と。次はお前だ!」


 ナイフを弾き飛ばすとその勢いで緑川を押し倒し、そのまま馬乗りになる。

 ニヤリと笑い、「覚悟せい」と言い放った。羽交い締めから解放された健と、

 ずっとアルヴィーの戦いぶりを見て応援していたみゆきは、思わず息を呑んだ。これはすごい、と。


「でぇーい! これでもか! これでもか! これでもかぁ!!」

「痛い! 痛い! いたくない!」


 馬乗りになったまま、左右から交互に鉄拳が飛び交う。

 それと一緒に、アルヴィー自慢の爆乳も激しく揺れ動いていた。

 つまり緑川には拳だけではなく、己の顔よりも大きい乳房も当たっていたというわけだ。

 まあなんというべきだろうか、凄まじくけしからん光景であった。


「そら、そら、そらぁ!」

「痛い、痛い、いやいたくない!」

「とどめだ!」

「やっぱり痛ェ!!」


 きっつい一発と包まれるような幸福感。それらが顔面に交互に当てられ、

 気付けば緑川はアルヴィーに魅了されていた。そして、とどめを刺された。


「これで懲りたか?」

「も、もう悪いことしません……」


 とどめのあとは、『ぱふぱふ』で仕上げだ。

 『ぱふぱふ』とは――、ご両親に聞くなりして、自分で意味を調べてほしい。

 ただ、青少年をドキッとさせるものであることは明言できる。


「こっ、これはスゴい……」

「ほ、ホントね」


 二つの大きな脂肪の塊――といえば、聞こえが悪い。

 しかし、いざこの大きな『おっぱい』に挟まれてみれば、

 何事にも変えがたいほどの心地よさが俺を優しく包み込んでくれた。

 冷酷な淑女に見えたあの女は、本当は地上に降りてきた翼なき女神だったのかもしれない。

 少なくとも、俺はそう思う。女神から生まれるのは天使だと相場が決まっている。

 なぜなら、今この場で俺がそう決めたからだ。では、女神は実在するのだろうか?

 そんなの、わざわざ聞くことではない。もしかすれば死ぬ間際に見た幻かもしれないが、

 間違いなく女神は存在する! 俺がこの目にしかと焼き付けた以上、これは夢ではない。現実だ、奇跡だ!


 ――何より彼女の胸は、極上の乳だ!!


「ああ……オレっち幸せだなぁ。もう浪岡さんとかセンチネルズとかどうでもいいや。おっぱいに顔を埋めて死ねたら本望だぜ〜」

「あれま、この人アルヴィーにメロメロだよ」

「ありゃりゃ。いいなー、わたしもぱふぱふしたいなー」

「健、今うらやましいと思ったろう?」

「ドキッ」

「心配せんでもあとでやるから、安心せい」

「健くん、いやらしいーっ!」


 さながら寸劇のようなやりとり。そこに緊迫した空気はない。

 やんわりとした感触の空気が代わりに漂っていた。

 敵だったはずの緑川はまさかの色仕掛けに完敗してセンチネルズをほっぽり出し、

 健はただの色ボケとなり、みゆきはそんな健を少しからかい、アルヴィーはそんな彼らを暖かい目で見ていた。




「みっ緑川!? ええい、あのメストカゲにたぶらかされおってがぁ!!」

「人のことに首突っ込んでる場合かッ!」


 不破が隙を突いて浪岡を突き飛ばした。そのまま走って追い詰め、

 ランスを振り回して更に吹き飛ばす。そこからまた走って接近し、何度も突きを繰り出した。

 素手で十分などと、浪岡は根拠のない余裕をこいている場合だろうか。

 不破は全身全霊を込めて浪岡に真っ向からぶつかっている。状況的には浪岡のほうが追い詰められていた。


「ぐぬぬ」


 前言撤回。素手で不破を倒すと豪語したにも関わらず、

 浪岡が歯軋りしながら仕込み杖から長ドスを抜く。すばやく巧みに攻撃を防ぎ、

 隙あらば反撃を加えていたが、所詮は悪あがき。その速さは、所詮スピードに特化した不破には及ばない。


「バカな。この前までとは明らかに攻撃の精度が違う!?」

「ヘッ、変わったんだよ!」


 血にまみれた長ドスに火を灯し、未だなお抵抗を続ける不破にそのまま斬りかかる。

 しかし何度斬ろうが突こうが叩こうが、

 何度血を流そうが不破はあきらめるそぶりなどまったく見せない。

 理由は、死ねないから。浪岡を倒し、

 恋人をはじめとする犠牲者の無念を晴らすまでは死ねないからだ。

 浪岡を前に不破は連続突きを繰り出し、ひるんだ隙にキツい一発を叩き込む。

 更に三人に分身し、三方向から助走しながらのドロップキックを浪岡にぶち当てた。その衝撃で武器が遥か遠くへと吹っ飛んでいく。


「ぐっ……ぬうううぅッ」


 血を吐きながらよろめく浪岡。

 もはやまともに動くことすらままならない状態で立ち上がった。

 目を見張った先には、自分へ向けてボルトランサーを構えて穂先へ電気を充填している不破が。


「うおおおおお!!」


 狙いは一直線、高電圧の稲妻をまとった槍が浪岡を貫く。更にそれだけではなく、

 天に槍をかざし雷を落とすと、共に己のパートナーであるシェイドを呼び出してその背中に搭乗する。その姿は全身に装甲をまとい角を生やした機械的な黒い暴れ馬であったが、ひとたび手綱を握ると途端に大人しくなった。


「ギャロップ、変形だ!」

「ヒヒーン!」


 掛け声と共に馬が、豪快かつ精巧に形を変えていく。黒き暴れ馬は、

 漆黒の大型バイクへとその姿を変形させた。エンジン全開で、浪岡へと突っ込んでいく。


「な、なんだこれは? ふざけるなァ!!」


 左腕をかざし、手のひらに炎を集中させる。

 全身全霊をこめた一撃だ、少なくとも関西地方を焼き尽くすほど強力なパワーを秘めている。

 ただし、無事に炎を出せればの話だが。その向こうでは、

 不破がバイクに乗りながら稲妻をまとったランスを突き出していた。

 こちらは既に充填を負え、最大まで出力を上げていた。こうなればもはや勝負は見えているようなものだ。


「これで終わりだ……浪岡ぁぁぁぁぁッ!!!」

「ぐがあッ……!?」


 それは、あらぶる暴れ馬のごとく。それは、荒れ狂う雷雲のごとく。

 ――覚悟を決めた稲妻の槍が、うろたえる黒き炎を、浪岡を貫いた。

 彼の負けだ、間違いなく。皮肉にも己が他者をさんざん見下したように、

 ちっぽけでみすぼらしい虫ケラのようにその場に這いつくばっていた。


「ば、バカな……。この私が、負けたというのか?」

「観念しろ。お前ももう終わりだ」


 不破がランスを突き付け、冷酷そうな口ぶりで浪岡へ言い放った。

 ようやく、復讐が終わろうとしている。恋人の無念、浪岡への怒りや憎しみ――。

 すべてが振り切られようとしている。


「終わる、だと……? この私がか? は、ははは、はははは……!」

「何がおかしい!」

「これで終わりだと思うなよ」


 立ち上がるも戦いで負ったダメージの影響か、疲弊しきった手足は言うことを聞かない。

 どういうわけか、勝手に体が崖の方へと後ずさりしていく。


「我が理想は、我が野望は絶対に滅びぬ! 必ずや蘇り、錬金術を何としてでも、復活……させ……て……ッ」


 足元から、小石がころん、と、滑り落ちていく。恐る恐る後ろを振り向けば、

 そこはもう崖っぷち。地面はもろく、すぐにでも崩れそうだ。落ちればそこは、

 奈落の底。もはやこれまで、助かる術は何もない。


「うっ、うへああああああっ」


 非情なる男、浪岡十蔵。優れたエスパーでありながら、

 世界を支配してやろうと企んでいた希代の野心家である彼はやつれて奈落へ落ちていき、

 あまりにも呆気なく、しかし惨たらしい最期を遂げた。

 捨てきれぬ野望を、己が頂点に立つ王国の理想を抱いたまま――。

 同時刻、ダメージを負って著しく弱っていたピュラリスも消滅した。


「ヘッ、ざまえねぇな……」


 これですっきりした。確かに仇は取った。

 これで天国に行った美枝も報われる。この二年間、

 ずっと復讐の炎をたぎらせてきた俺にも、ようやく安息の時が訪れる。

 ――憎かった敵の最期を見届けると、不破もまたその場に横たわった。

 慌てて健たちが駆け寄り、その体を揺り起こす。


「不破さん! 大丈夫ですか? 不破さんッ!!」

「……ま、まあな。お前らこそ、大丈夫か?」

「はい、わたしたちなら元気です……」

「そりゃよかった」


 仲間が駆けつけてきてくれたことによる安心がそうさせたのか、

 疲労感漂う顔に笑顔が戻った。その背後で燃えていた炎は、寂しく消えてゆく。


「しかし、あやつもまた……己の力に溺れたエスパーだったというわけか。哀れみを感じるの」

「ねえ、アルヴィー。僕もああいう風になっちゃうのかな……」


 ――強くなりたい。だが、浪岡のようになってしまうかもしれない。

 力を持てあました挙句に心が歪んで、目的のために、

 強くなるために手段を選ばなくなってしまうかもしれない。それが心配だった。だから、彼女にああやって訊ねた。


「健よ、それなら心配いらん。正しいことだけにその力を使えばいい。ただし、そうと決めた以上は何があっても道を踏み外してはいかんぞ」

「……うん!」


 荒れ果てた奈良の野山。熱く激しい夜は過ぎ、東から輝かしい朝日が昇り清々しい朝が訪れた。朝焼け空を見上げながら山を歩き去る。途中で緑川も拾ってやった。

 どうやら彼はアルヴィーの虜になったどころか心も入れ替わったらしく、責任をとって自首するという。残忍冷酷だった以前の彼と、本当に同一人物なのか疑ってしまうほどに謙虚な姿勢だった。


シェイド図鑑


◆ピュラリス

ヤママユガのシェイド。3メートル近い巨体を持ち、全身に炎をまとっている。

炎を自在に操る能力を持ち、作中ではセンチネルズの代表取締役にして連続発火事件の犯人『浪岡十蔵』と契約していた。

高熱レーザーによる爆破攻撃や口から吐く強力な火炎で健たちを苦しめたが、

自分より更に大きいアルビノドラグーンにはかなわなかった。

その後、浪岡が死亡すると同時に消滅した。

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