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同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第2章 敵は非情のセンチネルズ
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EPISODE42:フュリアス・フレイム PART2

 ――健は憤怒していた。といっても、浪岡の自分勝手なヒステリーなどとはわけが違う。

 仲間を一方的にいたぶったことへ対する、正義感が強く仲間思いで心優しい彼だからこその『怒り』だ。目の前の悪党へ刃を向けたその表情からも、決意の固さが伺い知れる。


「貴様ぁ、この期に及んで私をとことん邪魔立てしたいらしいな! 鬱陶しいヤツめ!」

「……はあああっ!」


 憤慨した浪岡が次から次へと火弾を放つ。狙いは正確、ターゲットはすべて健だ。

 だが、健は氷のオーブを剣に装填すると火弾を次々と打ち消し或いは『凍らせて』いく。ますますありえない、なんなんだこいつは。


「ば、バカな。気体を凍らせただと!? そんな非科学的なことなど……!」


 凍てつく冷気を放つ氷の剣を掲げ、氷の上をスノーボードで滑るようになめらかに滑空していく。

 大気中の水分を凍らせ、即席で氷の道を作り出したのだ。浪岡の背後に回り込むと、唐竹割りを浴びせ吹き飛ばした。


「ぐほっ……ば、バカな。ありえん。貴様のような虫ケラふぜいが、何故にこれほどまでの力を発揮しているんだッ!?」

「そんなこと……」


 仕込み杖を抜き、心臓めがけて突き刺す。だが、健はそれをいとも容易く弾き返した。


「自分で考えろッ!」


 攻撃を弾き、そのまま鬼のような猛攻を浴びせる。

 滅多切りにされた浪岡は、なおも立ち上がり指をパチンと鳴らしてピュラリスを呼び出す。


「図に乗るなよ! さっきはどうやって防いだか知らんが、大方仲間を盾にして身を守ったのだろう? 美しい友情だなぁ!!」


 この時は、皮肉を浴びせた――つもりでいた。

 ピュラリスの口がゆっくりと開き、口内が赤々と輝きはじめる。先程と同じように、熱線による爆破攻撃を繰り出そうとしていたのだ。


「それとも違ったかな? ――……まあいい、お望み通り木っ端微塵にしてやろう!」


 「焼き払え!」と、浪岡がピュラリスに指示を出した。赤々とした高熱レーザーが周囲を焼き払い、爆発炎上。ヤツはそこそこはやってくれた。だが、結局は無駄なあがき。

 これで二度目だ。今度こそ生きてはいまい。浪岡が高笑いを上げた。だが、彼の思惑通りに事は運ばなかった。


「危ない、危ない……」


 噴煙が収まると、そこには今度こそ灰塵に帰したはずの健がいたのだから。


「ギギギ……貴様、私を何だと思っているんだ! 仲間の身を顧みずに防いだのではないなら、どうやって防いだ!」

「あいにくだけどね、盾なら間に合ってる!」


 防御体制を解き、健が立ち上がる。


「とばりさんが盾にバリア機能をつけていたんだ――それでレーザーから身を守った。それだけだ」


 浪岡が放った、すべてを焼き払う灼熱のレーザー。

 周囲を爆発炎上させ地面が内側から吹き飛ぶほどのすさまじい威力だったが、

 健はバリアーを張ってそれを防いでいた。盾にもオーブをはめる穴があり、

 そこにオーブをはめればその属性に対応したバリアーが発生するシステムとなっていたのだ。

 しかし、シェイドとの戦いをはじめてからそれなりに経ったものの、健はこれを知らなかった。

 だが、以前泊まった際にとばりがこの機能を解明し教えてくれた。だからとっさに、みゆき達を守ることができ、自分の身も守ることができたのだ。


「あ? あ……? あの女狐めェ……。何故だ? 何故想定外の事態ばかり立て続けに起こる?」


 信じられない。自分にとって、取るに足らない足元にも及ばない相手だと思っていたのに――。

 何故だ。何故こいつは死なない? ありえない。ありえなさすぎる。こいつのようなぬるま湯育ちの小僧ごときが、何故この私を圧倒している? 怒りで甘さが抜けたからか、それとも仲間が傷つけられたからか? わからん。何故だ? ありえない。ありえない。ありえない!!



 ア リ エ ナ イ ! ! 



「ふ、ふふ……ふふふふふふ」


 気がふれて頭がおかしくなったか、浪岡が突然笑い出した。

 だがすぐにその表情は、身勝手な怒りに満ちた鬼の形相へと変わっていく。


「ふざけやがって! まとめてブッ殺してやる!!」


 ヒステリックにそう叫ぶと、放物線を描くように火の玉を飛ばす。

 更にピュラリスが、口から火炎の息を吐き出した。火の玉は健に向かって飛び、強力な火炎は広範囲に渡って周囲のものを焼き尽くす。波状攻撃にたじろぎ、ついには炎に囲まれてしまった。


「ハッハッハ! もう逃げられんぞ。そこで見ておくがいい、仲間が焼け死んでいく光景を!」


 今度こそ、と、浪岡が笑った。だが健は、勇気を振り絞り炎を切り抜けて仲間の元へと戻る。舌打ちした浪岡はそれを阻もうと、火の玉をいくつも空中に打ち上げ雨のように降らせていく。


「急げ急げ! 仲間たちが消し炭になってもいいのかなァ〜〜!?」


 憤ったあまり浪岡は頭に血が上りきっていた。もはや健たちを抹殺することしか頭にない。錬金術うんぬんは完全に蚊帳の外だ。


「うあっ!」


 全力で走った。結果、路傍の石につまずいて動きがそこで止まってしまった。

 膝を擦りむいてしまった、血があおじんですごく痛い。泣き言をほざいている場合ではないのは、

 十分に承知していた。だが、すぐには立てそうにない――。足以外は動かせるが、たどたどしい。盾を構えられるかはわからない。このまま、浪岡によって自分が望まぬまま火葬される運命なのだろうか。


「はあ……はあっ。僕、死ぬのかな」


 しかし、このまま死ぬのはごめんだ。まだ死にたくない。

 生きて皆を守りたい、たくさんの人達と仲良くなりたい、家族を支えたい、みゆきに――。


「いや……、死んでたまるか!」


 そう言って糸で吊り上げられたマリオネットのようにまっすぐ立ち上がって前を向き、盾を構えて防ぐ体制に入る。

 同時に、どこからともなく咆哮が上がった。神々しく威厳に満ち溢れた白龍が現れ、風に乗るようにしてあらぶるように空を舞う。


「なっ、何だ!?」


 神か、悪魔か。全身から放たれた、神々しくもおぞましいオーラ。

 見上げるような巨体は全長十メートルを軽く超しており、人間などまるでちっぽけな虫ケラに見えるほどの威圧感があった。その腕は大きな体よりは小さいものの大きさはヒトの胴回りほどもあり、

 握り潰すことは容易。鋭く巨大な眼は紅く光っており、口には獲物を噛み砕く鋭いキバが生え揃っていた。対して浪岡のパートナーであるピュラリスは三メートル弱しかなく、軽く引っ掻くだけで吹っ飛んでしまいそうだ。『彼女』にとってピュラリスは、まさに取るに足らない相手でしかないだろう。


「やらいでかっ! だが、上級シェイドと言えども所詮貴様は育ちすぎの白蛇でしかない。私のピュラリスとどちらが強いか比べてやろうか? アルビノドラグーンよ!」


 両者睨みあった後にピュラリスが羽ばたき、全力で激しく燃えるその体をぶつける。

 だが、アルビノドラグーンはそれをわしづかみにし、そのまま地上へと放り投げた。


「なん……だと……?」


 信じがたいほどに圧倒的なパワー。それは最強だと思っていた己のパートナーを、羽虫でも叩き落とすかのようにねじ伏せてしまった。


「ええい、この役立たずめが!!」


 地べたに落ちたピュラリスに罵声が浴びせられる。自信過剰な自分が原因だとも気付かずに責任を相手に転嫁して罵詈雑言を浴びせる姿は、ある意味では清々しかった。


「まあ良い……。今はそれより、貴様を片付けるのが先だ。死ねィ東條ッ!!!」

「く……っ!」


 浪岡がいきり立ち、巨大な火の玉を健めがけて飛ばした。

 アルヴィーは高いところにいてすぐには来れないし、火の玉は盾で防げるサイズには見えない。バリアを張っても破られる可能性がある。もはや、これまでなのか?

 ――否。何故ならば、彼は独りではなかった。かけがえのない仲間がいたからだ。

 ひとりは、己のパートナーである白龍。強敵だったピュラリスを軽くいなし、窮地から救ってくれた。

 もうひとりは、幼なじみの少女。戦う力を持たない一般人だが、何より心の支えとなってくれる。家族と同じくらい大切な人だ。そしてもうひとりは――少しぶっきらぼうだが、今の自分より遥かに強く経験豊富。頼りになる上級生(せんぱい)だ。そして、ずば抜けて足が速い。


 ――その足が速い仲間、不破が間一髪飛び込んで共にその場を切り抜けてくれたのだ。


「怪我はないか?」

「不破さん……!」

「よく……頑張ったな。見直したぜ、東條!」

「ありがとうございます!」


 いつもぶっきらぼうで、粗暴な印象だった不破が優しく微笑んだ。

 信頼できる『仲間』がいたからこそできた芸当だ。


「おいおい、照れるじゃねぇか。礼はあとにしてくれや」

「ふん、虫ケラどもが何をごちゃごちゃと……」

「……さて、選手交替と行こうぜ。オレが浪岡の相手をする。お前はみゆきちゃんを守るんだ!」

「はいっ!」


 健がみゆきの元へ向かって走り出した。この際、擦りむいた膝の痛みは我慢だ。

 他人を傷つけたくなくても、人を守るためなら己が傷付くことは厭わない。だから痛がってうろたえるわけにはいかないのだ。


「さて、と……浪岡、覚悟はできたか?」

「いつまで粘着する気だ……お前の怨み言を聞く気はないぞ!」

「オレもお前の理想に同意するつもりはない。罪もねえ人々を、次から次へと殺しやがって! 絶対に許さねぇ!」

「ハッ、誰でもよかった! 私の能力が試せるのならな! お前の恋人も、たまたま巻き込まれただけのことだ! 私は何も悪くない!!」


 両者の意見がぶつかりあい、火花を激しく散らした。

 どちらも負けられない、負けるわけにはいかない。いよいよ、長きに渡る因縁にも終止符が打たれようとしていた。


「黙れ。お前だけは……お前だけは! オレが倒してみせる!!」

「図に乗るな。貴様ごときは素手で捻り潰してくれる!!」


 不破か、それとも浪岡か。果たして、運命の女神はどちらに微笑むのだろうか。


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