表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第2章 敵は非情のセンチネルズ
43/394

EPISODE41:フュリアス・フレイム PART1

「ご気分はいかがかな? お嬢さん」


 センチネルズ本部・所長室のベランダ。浪岡が十字架に縛り付けられたみゆきを見上げながら、

 ご満悦そうに問いかけた。この言葉には気遣いなど一切感じられず、

 心のこもっていない冷血な口調だ。


「こんなことして、いったい何が狙いなの!?」

「東條健……あの男は甘すぎるんだよ。あれだけの力を秘めておきながら、それを解放しようともしない。あのままもてあましていては宝の持ち腐れというものだ。何とかして、彼に眠る絶大なパワーを引き出せないものか……そこで私は考えたのだよ」

「っ……」


 自分に酔いしれるように、浪岡がべらべらと語り出す。みゆきは浪岡を、至極嫌そうな目で見ていた。


「奴にとって大切なもの……家族や知人を手にかけたら、奴はどうなると思う? 怒りで力が目覚めて、瞬く間に最強クラスのエスパーとなる! そこに私がつけ込んで最強の尖兵へと変えてくれよう」

「……正気じゃないわ。そんなこと……!」

「ぬるま湯に浸かりながら生きてきた小娘に何が分かる? 目的のためなら、手段は選ばん。如何なる手を使ってでも、私はこの国の頂点(トップ)に登る!」


 浪岡はサングラスをかけなおし、くくりつけられたみゆきを見上げる。

 自信過剰で冷酷な、いやらしい目線を集中させた。


「そんなの絶対おかしい、間違ってる!!」

「うぬぬ……」


 憤りを感じたみゆきが、吐き出さんばかりに叫んだ。

 空気が裂けそうな勢いだ。わめく彼女に苛立ちを隠せなくなった浪岡が、

 赤いボタンが浮き上がったスイッチを取り出す。


「力なき虫ケラが、この私に向かって偉そうにほざくなッ!!」

「きゃああああああっ!!」


 浪岡によって十字架に電流が走る。

 同時に耳の鼓膜が張り裂けそうなほどの悲鳴が、部屋中に響き渡った。


「人が下手に出ればいい気になりやがって……この浪岡様をなめるなよ!」


 ヒステリーを起こしたためにその端正な顔が、いびつな形にねじ曲がった。

 罵声を浴びせると、浪岡は更に電流を流す。


「何よ、偉そうにしてるのはそっちじゃない!」

「口の聞き方すら知らぬのか! よほど死に急ぎたいらしいな。いいだろう、一思いに殺してやる!!」


 浪岡がヒステリックにそう吐き捨てた。右の掌が燃え始め、みゆきへとその魔の手が向けられる。

 茶番は終わりだ。文明に革命的な進化をもたらし、人類を進化させる。進化についていけない、

 愚かで劣った旧人類は皆殺しにしてやる。進化についてきた連中は、

 新世代の支配者たりえるこの私がすべて統制する。逆らうものは無論皆殺しだ。

 根絶やしにしてくれる! だがその前に、この小娘を私好みの女にせねばな。

 可憐で主人に従順、積極的に貢いでくるような女に!

 ――そのときである。十字架を前にみゆきを燃やし尽くそうとする浪岡の背後で大爆発が起き、壁が吹き飛んだ。


「ええい、何事だッ!」


 彼が怒るのは至極当たり前、たしなみを邪魔されたからだ。

 燃えていた右手の火をおさめ、爆発した方を向いて怒鳴る。

 噴煙の中から現れたのは長剣と盾を持った青年とその青年よりも大柄な、

 ランスとバックラーで武装した男だった。


「き、貴様ら……ッ!?」


 浪岡が怒り心頭で歯ぎしりしながら、乗り込んできた青年たちを睨み付ける。

 青年たちもすこぶる険しい表情をして浪岡を威嚇していた。

 そのうちの、剣を持った方がその切っ先を浪岡に向ける。


「健くん……助けに来てくれたのね!」

「ああ、もう大丈夫だよ。――みゆきを返せ、浪岡!」


 青年――東條健から、すさまじい威圧感を感じた。この前までの腑抜けとは、

 明らかにオーラが違う。なぜ、これほどまでに強い覇気を放つようになったのだ。

 怒りがそうさせたのか、それとも――。


「ま、待て。白峯と交換する約束だったはずだぞ? あの女はどこにいる」

「あいにくだが浪岡。オレたちゃ、お前との約束を守る気はないんでね。白峯さんは置いてきた」

「くっ……!」


 なぜ白峯を連れてこなかったかを不破から告げられ、


「ふざけやがって!」


 と、浪岡が舌打ちした。

 せっかくの取引も、これでは台無しだ。そもそも、話が通じなさそうなこいつらに取り引きを持ちかけたのが間違いだった。


「そっちがそうなら、こっちも約束を破らせてもらうぞ。あの小娘を血祭りにあげてくれる!」

「卑怯だぞ、浪岡!」

「黙れ小僧! 今更止めようとしても無駄だ!」


 それでも阻止しようと健が飛び出す。その傍らで「頼む、間に合ってくれ」と呟き不破が加速。

 健が横から浪岡に飛びかかるも、既に浪岡が火弾を放ったあとだった。


「しまった!」

「うわははは、バカめ。だから無駄だと言ったんだ!」


 ほくそ笑む浪岡。そうはさせじと、十分に加速した不破が空高く跳躍する。


「これ以上犠牲を出してたまるか! もう誰も……死なせやしない!!」


 空中でランスを薙ぎ払い、みゆきを縛っていた鎖を断ち切る。

 そしてその両腕にみゆきを抱き、地上へ着地する。俗に言うお姫様抱っこだ。

 ギリギリで外れた火弾が虚しく、十字架に命中し爆炎をあげる。

 みゆきを下ろし健のそばへ寄せてやると、不破はランスの穂先を焦燥に駆られた浪岡へ突きつけた。


「観念しろ! 今日ここで、美枝さんの無念を晴らす!」

「ぐぅお!」


 疾風のごとき速さで浪岡へ突撃し、その勢いで窓ガラスを破壊し外へ飛び出す。

 みゆきを抱きかかえながら、健もそのあとを追って飛び降りる。

 多少の痛みを我慢して林を駆け抜けると、その先では不破と浪岡が戦っていた。

 手出ししない方が良さそうと思い、健はみゆきと共に岩陰から不破を見守ることにする。

 火の玉が弾け飛び稲妻が飛び交い、拳と長槍がぶつかりあう。

 息をする暇もまばたきする暇もないほど激しく、目まぐるしく展開していく。

 なんというべきか、ハイレベルだ。とてもじゃないが、今の自分ではついていける気がしない。


「ファハハハハ! その程度かぁ! 怒りや憎しみでは私は倒せない!」

「うるせぇ、貴様だけはオレの手で倒す!」


 掌や指先から放たれた炎を自慢の超スピードで切り抜け、不破が浪岡を切り上げる。

 確実に仕留めるべくひるんだ浪岡の急所を狙い、一か八かの突きを繰り出した。

 しかし、浪岡が腰に忍ばせていた杖から長ドスを抜く。仕込み杖だ。杖をはじめ、

 普段から持ち歩いている多種多様な日用品の中に刀が仕込まれている。

 マニアックなものでは、傘や三味線にも入っているものもある。

 更にこの長ドスは鍔がない『長脇差』と呼ばれる刀の一種であり、

 その中でも長さが一尺八寸、つまり54.5454545cm以上のものを指す。時代劇をはじめ、

 任侠映画などでもよく見られるシロモノだ。


「スピードだけじゃ勝てんよ」

「う……お、おっ……ううっ!!」


 ニヤリと笑い、ランスによる急所狙いを刀で巧みに防ぐ。

 そのまま弾き返すと、不破の左肩に刀を突き刺した。刀を抜かれ出血する左肩を押さえながら、

 不破が苦悶する。更に至近距離からの火炎を食らい、

 健とみゆきが見ている付近まで吹き飛ばされてしまう。


「虫ケラめ。もうスタミナ切れか?」


 掌で炎をくすぶらせながら、浪岡がゆっくりと横たわる不破へ近寄る。

 しかし不破は臆することなく立ち上がり、


「まだだ!」


 浪岡へ向けて何度も走りながらの突きを繰り出すが、すべて避けられてしまった。

 嘲笑うように、浪岡が「引導を渡してやる」と宣告。彼の背後で炎が激しく燃え上がり、

 蛾のような巨大なシルエットがゆらめきながらその姿を現す。


「も、モスラぁ!?」


 浪岡以外、みな口を揃えてそう驚いた。

 燃え盛る炎をまとった巨大な蛾のようなシェイドが、

 ハッキリとその異様な姿を露にしたからだ。


「あんなチンケな怪獣と一緒にするな。見よ、この美しい姿を! 我が最高の下僕(パートナー)たるシェイド、ピュラリスだッ!!」

「うっ、きもち……わるい」

「なにィ!?」


 みゆきが吐き気を催すようにそう洩らした。

 無理はない、そもそも蛾というのは害虫に分類される羽がついた無脊椎動物の一種。

 おもにきれいなチョウチョと間違えられることが多く、

 蛾と気づかれたときにはとくに気味悪がられやすい。毒を持ったものも存在しており、

 なおいっそう嫌われやすい哀れな昆虫だ。一般人にも蛾を嫌うものは多く、

 みゆきも例外ではなかった。ただ、それだけのことだ。


「虫ケラめ、このセンスがわからんというのか!? 焼き払え!」

「ヤバい、伏せて!」


 己の美的感覚を否定された浪岡が、怒りのままピュラリスへそう命じる。

 口から熱線が放たれ、だ円形に焼き払うと周囲を爆発炎上させる。爆風から皆を守るべく、

 健が盾を前に構える。爆発がおさまると、辺りに煙が漂い始めた。

 あれほどの威力だ、生き残れる確率はほぼゼロに近い。


「これで終わりだな」


 満月を背に、勝ち誇ったように笑いながら浪岡がそう言った。邪魔者はいなくなった。

 これから世界に改革をもたらしてやる。まずはこの消毒液臭い日本列島から、

 じっくりと作り変えてやろう。一面赤茶けた焦土に変えてから、錬金術の偉大なるパワーを使う。

 瞬く間に焼け野原に緑が戻り、愚かな人々は私に感謝し崇め始めるだろう。

 やがて人々は私を祀りたて、私は新世界の王者となるだろう!

 すべてが私にひれ伏し、私にのみ従う。

 そこにあるのは今のような腐りきった日本ではない。発達した科学と元通りの自然が調和した、

 私の為の私による私の為の理想郷(ユートピア)だ!

 刀剣を収め邪魔な連中がくたばったことを確認すると、本部である研究施設へ戻るべく歩き出す。


「――なっ」


 その途中、さわやかで涼しげな、凍てつくような音が聴こえた。足の方からだ。

 まさかと一瞬思ったが、気にせず歩き続ける。しかし、何かがおかしい。

 どんどん足が鈍り、しまいには身動きできなくなってしまった。いったいどういうことだ?

 ふと足元を見ると、足が凍っていたではないか。


「これはいったいどういうことかな? 説明していただきたいのだが……」


 にわかには信じがたかった。まさか、そんなはずはない。確かに叩きのめしたはず。

 あの熱線攻撃による爆発に巻き込まれて、助かったものを見た事は今まで一度もなかった。

 生きているはずがない――まさか。まさか。まさか!


「なぜ答えない。貴様に口は無いのか? 答えろと言っているだろうが――!」


 激しい憤りを感じた。こんなことはどう考えてもありえないのに。

 なぜその『ありえないこと』が私の目の前で起きているのだ? なぜだ。分からない――なぜだ!


「とっ――」


 なぜこいつは生きている?


「とっ!」


 なぜこいつは私に刃を向けている!?


「とうじょォォォォォォォ!!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ