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同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第1章:バイト君と白龍
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EPISODE2:お父さんのゆくえ

「いきなりすまんな。しかし初対面の相手に上着を貸してくれるとは、お主はいいヤツだの」

「ハハッ、困ったときはお互い様さ。それにさっきの恩返しもあるしネ」


 このあと『下着くらいは穿いておけばよかったかな』と女性は呟いた。コートを貸したので、当然ながらアパートに着くまで寒かった。今は師走の一歩手前、死ぬほどとまでは行かずとも冷え込んでくる時期。

 それはもうブルブル震えたし、足も同じように震えた。しかし、自分のすぐ近くにはもっと寒そうなナリの女性がいた。これが助けずに放っておけるだろうか。せめてレディーにだけでも親切にしないと。相手はハダカだったというのもあるが――。


「ところで、ここはどの辺りかの?」

「京都駅の付近だよ。この近くのアパートで部屋借りてるんだ」

「ふふ、京都か。わびさびがあっていいな。私も好きだぞ。ところでお主はどこの出身だ?」

「ぼく滋賀県民」

「ということは……お主は関西人か」

「せやな、そーゆーことになるわ。大阪も行こかな、って思ったんやけど、ヤのつくオッサンたちが怖そうな気ィしてやめたんや」


 そんな理由で京都にしたのか、と女性は笑いを含みながらそう言った。なぜか、律儀にネイティブな関西弁で喋ったことについてはスルーされた。話題にはなると思ったがそうもいかなかったようで、少し残念だ。

 ちぐはぐなやりとりをしているうちに、健たちはやがてアパートについた。このアパート、『みかづきパレス』は4階立て。健はそのうち、2階に部屋を借りている。


「寒かったでしょ。お風呂沸かすから、どうぞあったまって」


 健はせっせと風呂に水を入れ、ささっとワイシャツとジーンズを取ってくる。何も持たざるものである彼女の着替え代わりだ。


「ごめんね。男の独り暮らしだったからさ、女物の下着はないんだ。ホントごめん……」

「いや、いい。恩に着る」


 照れ臭そうに紅潮しながら、女性はそう言った。


(今の横顔……なんてセクシーなんだろう)

「お主の父上も今頃は……喜んでおるだろうな」

「……ちょっと待って。おねーさん、父さんのこと知ってるの!?」


 小学5年生の頃に家を出たきりいなくなった、敏腕の商社マンだった父親。多忙な為になかなか家に帰って来ず帰ってくれば面白おかしいことばかり言っていたが、家族思いの優しい父だった。そのオヤジのことをおねーさんは知っているのだ。どういう関係だったんだ、まさかエスパーってことは――。


「……知りたいのか?」

「知ってるんだったら教えてよ!」


 この時、彼は半べそをかいていた。涙が溢れそうなのを必死で抑えていた。本当はすぐにでも泣きたかった。だがまだ泣くには早い気がしてならない。


「今後ずっと立ち直れなくなるかもしれぬぞ。それでもよいか?」

「それでもいい。教えてくれ、オヤジのことを!」


 いつになく健は真剣になった。――不思議だ、白髪の女性の方も話すのをためらっているように見えた。なぜだ? 元々、この人はヒトではないのに。ヒトならざる者・シェイドなのに。まるで人間の心と理性、そして優しさを持っているように感じられた――。


「……承知した。すべて話そう。お主の父上……明雄は、お主が幼い頃に何も言わずに出ていったきり、行方不明となった。ここまでは知っているな」

「うん。確か中学に入ってしばらくした頃だった」

「……明雄はエスパーだったのだ。お主ら家族には、危険に巻き込まぬよう『ビジネスマン』とウソを言っていたようだがの」

「え? ……父さんが……エスパー!? ってことは、あのとき契約できたのは……」

「目敏いのぅ。察しの通りだ」


 彼はようやく気がついた。自分が女性と契約(ディール)できたのは父からエスパーとしての血を引いていたからだったのだ。そうでなければ、健は今頃エスパーにはなれていないし、あの時バケモノどもに食われてそこでおしまいだった。


「ヒトの心に善と悪があるように、エスパーにも善し悪しがあっての。明雄は善きエスパーだった。私は元々ヒトを嫌っていたが、明雄は傷ついた私に優しくしてくれた。そんな明雄の優しさに触れて、私は変わることができた。――明雄とシェイド、そして悪しきエスパーの戦いは激しくなっていった。やがて、悪党どもを統べていた闇のエスパーに……明雄は殺されてしまった……。すまぬ、私が知っているのはここまでだ」

「そうだったのか……! 道理でなかなか連絡をよこしてくれなかったわけだ。死んでたら、あの世に逝ってたら電話なんてできるわけ……!!」


 遂に事実を知った。その時にはもう泣くのを我慢できるような状態ではなかった。限界を迎えた健は思い切り泣き崩れた。声が枯れるそのときまで――。


「……どうして? どうして父さんはどうして何も言ってくれなかったんだ? 家族みんなで相談に乗ってあげられたのに、なんで一人でそんな辛い思いをし続けて……ううっ!」

「これ、情けないぞ。大の男がくよくよしてどうするんだ? 私のおっぱいでもしゃぶって落ち着きなさい」

「からかうなよぉ。僕は赤ちゃんじゃない……」

「……なら、これで涙拭いて、鼻をかめ」


 泣きじゃくる健を慰めようとからかい半分で、女性は箱ティッシュをとってきた。少しばかり嫌な気分だった。人が泣いてるときにからかうなんて不謹慎じゃないか――と。けれど、あとで彼は気付いた。彼女は――冗談を言って、健を笑顔にしようと気を遣ってくれていたのだ。口先と見てくれだけではない、本当に主人想いの優しい女性だった。


「……あ、ありがと。ところで……」

「なんだ? 遠慮せずに言ってみよ」

「おねーさん、なんて名前なの?」

「……【アルビノドラグーン】というシェイドだ。個人としての名前はないがの。言うなれば、名無しのごんべえさんのようなものだ」


「そっか。じゃあ……アルヴィーなんてどう?」


 一瞬空気が固まった。すぐ元に戻ったが――。


「またえらく、かわいらしい響きだの。もっとこう、中学生がつけそうなネーミングでもよかったんだが……気に入った。採用だ!」



 悲しい空気が一転、瞬く間に明るいものへと変わっていった。初めて同じ屋根の下で共に飯を食べ、共に一晩を過ごしたその翌日――。


「朝が来たぞー。そろそろ起きなさい」

「ねむねむ……あと、五分」


 かくして、白髪の女性……改め、東條健とアルヴィーお姉さんの共同生活がスタートした。

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