EPISODE388:オペレーション・スキュータム PART5
試作型パワードテクターを装着した健ら四人は神田と伊東を連れて都庁の敷地内へと突入。それまでに立ちはだかったマスプロイド部隊はなで斬りにした。
「一回しか言わないからよく聞いてほしい! 知っていると思うが、今、筒井管理官が結成した自衛隊の大規模統一部隊はデミスの使徒と都庁内の各エリアで交戦中だ。そこで君たちには各エリアへ援護へ向かい敵部隊を叩いてほしい……。東條さんと葛城さんは、第一本庁舎と都民広場へ! 不破は都議会議事堂へ! 市村さんと伊東さんは第二本庁舎とふれあいモールを頼む! 神田さんは、状況を見て各エリアを転々としながら戦ってください。君たちの健闘を祈っています……」
「了解!」
村上からの指示を受けた健たちは各エリアへ分散――それぞれ援護とデミスの使徒の掃討をしに向かった。都庁内どこを見渡しても、マスプロイドの残骸や戦死した自衛隊員の死体だらけだ。都議会議事堂へと向かった不破は「デミスの使徒をナメきっていたから当然の結果」だと割り切りながらも、その胸中にはやるせない思いが沸き上がっていた。
「なにが正義の大盾作戦――オペレーション・スキュータムだよ。これじゃあただの、一方的な大虐殺じゃあねーか……」
不破は既に息を引き取った自衛隊員を看取りながら悲痛な思いを口に出す。そのとき――空を飛ぶデミスの使徒の偵察機が彼らの反応を感知していた。
「『光の矢』ト 思ワレル 増援えすぱーノ 存在ヲ 確認……」
「よろしい。全機攻撃を開始しろ」
偵察機に乗った黄色のマスコマンダーからの報告を受け取ったロギアは爆撃命令をくだし――すぐさま地上へ向けての機銃掃射と爆弾の投下がはじまった。
「ッ!!」
死体に鞭打つ、どころか、蹴りを入れるような非道――命を落とした兵士たちの分も生きねばならぬことを誓って不破は走る。爆撃を回避するため議事堂内へと突入、しかしそこには先客が待ち伏せていた。
「……増援が来たとの報告を受けて警戒していたが、そうか、貴様らだったか。『電光石火の暴れ馬』不破ライ」
「!? そのゴールドのバックル……! まさか緑川和人が言っていた!?」
「フッ……あいつめ、オレのことを話したようだな」
元々身長が高い不破と比べても見上げんばかりの巨体を誇るデミスの使徒の大幹部、五戦騎がひとりオブシディアンである。彼の背後には黒やグレーの装甲に包まれたマスプロイドたちが大量に待機していた。
「いかにも。オレはデミス五戦騎がひとり、『盤石の鉄鋼将軍』オブシディアン。ふふふ……お前も哀れだな。私欲のために寄せ集められた有象無象どものためにオレたちを討つか? 電光石火の暴れ馬よ」
「あったりめーだ。てめーらの非道のために、これ以上犠牲者を出してたまるかよ!」
「愚か者め。死ね、不破ライッ!」
まさに一触即発、問答を終えオブシディアンは大剣を振り下ろし衝撃波を巻き起こす! 不破は衝撃波を走って回避。しかし、彼の周りを囲んでいたマスプロイドたちはすべて巻き添えだ、ああ無情!
「我がアダマンタインの前に砕け散れ!」
「断る!」
通常の鋼よりもはるかに分厚く堅牢なアダマンタインはオブシディアンの盾の代わりに不破の攻撃を受け止め、オブシディアンは不破に左の豪拳をぶちかます。不破の体は天井へ吹っ飛びそのままめり込んだ。すぐに落ちた。
試作型パワードテクターには亀裂が入っており、その防御力のおかげである程度軽減されていたといえどその身に受けたダメージは想像にしがたい。もし生身ならば不破の体はとっくにボロボロとなり瀕死状態に陥っていたであろう。
オブシディアンが片目につけたサポーターアイは今対峙している不破ライのデータを正確に映し出していた。しかしオブシディアンはそれを過信しない。戦いにおいては情報データに頼りすぎてはいけない、この目で実際に相手の力量を確かめることにしているからだ。
「ずいぶんなご自信で。いいさ、生意気な口を聞けなくしてやろう」
◇◆◇◆◇◆◇◆
その頃、第二本庁舎とふれあいモール方面ではサリヴァンが残っている自衛隊の兵士たちの駆逐に乗り出していた。破壊と死と悲鳴を楽しむその趣向、その姿勢はまさに人間性のかけらもない悪魔そのもの。世界終焉という大義名分のもと手段を選ばぬ冷血なるデミスの使徒の大幹部を名乗るにふさわしい。
しかしこの世に巨悪が栄えたためしはない。現に! サリヴァンの凶行を阻止すべく市村と伊東がそこへ駆けつけた。
「おいッ! デミスの使徒! 都庁メチャクチャに荒らすんのもそこまでにせい!」
「ほう。政府のカスどもが残りカスを絞り出してきたかぁ?」
不遜な態度を崩さぬサリヴァンはその手に握られた死霊剣・ボーンガッシャーの切っ先を伊東と市村に向けて、威嚇する。奇妙な模様の入ったサングラス越しに市村と伊東の大阪人コンビをひと睨みだ。
「俺はデミスの使徒が誇る五戦騎がひとり、『霧に隠れし学究』サリヴァン! お前らカスどもはおとなしく駆除されていればよいのだ!」
霧を発生させサリヴァンはその中に姿を消す。
「あの陰険メガネ消えよった!」
「それよりなんやこの霧! これじゃあ周りが見えへん!」
霧に覆われて視界を封じられた中、サリヴァンは唐突に姿を現しボーンガッシャーで不意打ちをしかける。左手にガードナーカノンを持ち防御態勢に入った市村だがその必要はなかった。
瞬時にトランスメタルをシールド型に変形させた伊東が市村をかばいに入ったからである。不意打ちをしのげたもののトランスメタルには切れ込みが入っている。次に攻撃を受ければもう持たないだろう。
「伊東!」
「はよ行け市村! ここは俺が食い止めたるさけぇ!」
「言われんでもわかっとらあ! くたばんなや!」
「ヘッ!」
過去に一度敵対したこともあってかふたりとも喧嘩腰ではあったが、その刺々しい言葉の中には彼らなりの信頼が含まれていた。
「フン! 数人がかりでなければあがくことすら出来ん半人前のカスどもが、栄えあるゴールドクラスであるこの俺に勝てると思っているのかぁ!」
「半人前やったらここまで生き延びてへんわい!」
ふれあいモールから第二本庁舎へと向かった市村を見送った伊東は、トランスメタルを剛剣の形へと変化させ持ち前のフットワークを発揮せんと動き出す。サリヴァンはただ慢心しているだけではない――それ相応の実力を持った恐るべき冷酷無情の戦士なのだ。
◆◇◆◇◆◇
第二本庁舎内部のホール。普段ならば多くの人で賑わっているか、あるいは、厳粛な空気を漂わせているであろうそこは現在、多くの死体や残骸が散らばる阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。市村はその惨状を目の当たりにし顔をひきつらせる。
「これ全部……あいつらの仕業か……」
「どいつもこいつもすぐくたばっちゃってつまんない。退屈ったらありゃしない」
そこにふらりと、戦闘ステッキ――ファンタジスタを手にしたマーガレットが現れる。しかしその可憐さと女好きの性分ゆえに市村はすぐには気付けなかった。彼女がデミスの使徒の五戦騎だということに。
「これからショーを見せようかなーって思ってたトコなのに、ねー」
「何ぬかしとるお嬢ちゃん! ボケっとしたこと言ってんと早う逃げい!」
「ハァ?」
退屈そうにしていたマーガレットは市村のすっとぼけた言葉に噛み付く。
「あー、そっか! おニイさんもしかしてわかんない? これみんなワタシがやったんだヨ」
「!? お嬢ちゃん、まさか……デミスの使徒!?」
「無理ないよねー、ふつーの人ならベルトの色見ても区別がつかないもんね」
能天気なこの男もやっと状況を呑み込めたか、と、言わんばかりにマーガレットは小笑いした。刹那、市村の頭上へ瞬時に移動する。そして間もなく――ステッキから伸ばしたレーザーエッジを叩きつけた。
「ふつーの人なら……ねッ!!」
「どわあ!?」
狂気じみた笑顔を浮かべたマーガレットの奇襲攻撃に吹き飛ばされ市村は柱に激突。その周辺には敵兵の残骸や既にやられた自衛隊員の死体、そしてトランプ・カードが散らばっていた。市村はこの物騒な雰囲気には場違いなカードの存在を訝しがる。
「トランプ!? ここになんでトランプがあるんや!」
「そのトランプはワタシが巻いたの」
散らばっていたトランプはマーガレットが指をパチン! と、鳴らすと同時に炸裂。火花を飛び散らしその中には爆発を起こすものもあった。更に追加で破壊エネルギーを込めたトランプ・カードを各所にばら撒き、爆発させる。
「それも、それも、それも! ぜーんぶ、ネ!」
「うっ!」
トランプカードから弾け飛んだ火花で威嚇されている間にマーガレットは市村へ新たなカードを一枚投げた。すぐに気付いたため頬をかするだけで済んだが、瞬間、単に攻撃されただけでなく体力を奪われたような悪寒が走った。マーガレットの手元に戻ったカードは淡い光を放ち彼女を――回復させた。
「えっ……ええッ!?」
「おニイさんの元気をちょっとわけてもらったヨ。ちょうどさっきの戦いでハデにやりすぎてたところだったんだよねー!」
動揺する市村を更にいたぶってやろうと、次にマーガレットはハートのQのカードに姿を消す。同じスートのカードから出たり消えたりと転々とワープを繰り返し、戦闘用ステッキ――ファンタジスタの先端から火球をいくつか飛ばした。火球はいずれも火柱となって、倒れた兵士たちを焼き尽くしながら市村へ迫る。
「そのアーマー着けてたらこれくらい耐えられるっしょ? 耐えられない?」
「にゃ、にゃろーッ! もう女とは思わん!! ブチかましたるぞッ!」
ついにあの女好きの市村が女であっても遠慮せずにぶちかます覚悟を決めた――と、思われた矢先、それまでニコリと笑っていたはずのマーガレットが舌打ち。むすっとした様子でこう言った。
「……さっきも同じこと言う人がいたっけねー。ワタシさ、そういう風に扱われんの大ッキライなんだよネ」
先ほどまでとは一転、ドスの利いた声とともにマーガレットはシルクハットを脱ぎ――なんでも取り出せてなんでも隠せる四次元空間となっているそのシルクハットの中からハトの群れを飛ばす。それもただのハトではなく――彼女が契約しているシェイドの眷属である!
「ワタシのかわいいハトに突かれて逝っちゃいな!!」
「うっ!」
火柱と凶暴なハトの群れによる波状攻撃だ! 市村がこんがりと焼きあがるのが先か、ハトがフライドチキンになるのが先か――。その運命は誰にもわからない。