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同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第2章 敵は非情のセンチネルズ
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EPISODE37:縁切りと仲間


 日中だというのに雨が激しく降り続き雷鳴が空で(とどろ)く、この悪天候の中。

 相変わらず薄暗く、怪しいムードの漂う大久保生体研究センター。そこの所長である大久保俊樹教授の部屋へ、円錐(えんすい)状の槍――ランスを持った男が乱暴に押し入る。


「何の用だね?」


 座ったまま振り向かず、何らかの機械をいじりながらその男に用件を訊く。

 ここは関係者以外立ち入り禁止だ、関係者以外でそこへ入ってこれるのはスポンサーか、

 または知り合いのみ。だが、男はいずれも当てはまらない。では何か? ――協力者だ。縁もゆかりもなく、利害が一致したから組んでいるだけに過ぎないだけの。


「あんたと手を切りにきた」


 金色に染めた髪に赤い瞳の筋肉質な青年――不破の目的はひとつ。

 大久保との協力関係を断ち切ることだ。センチネルズのアジトがどこにあるか分かった以上、

 もはやこの男と組む必要などない。そもそもシェイドの細胞と戦闘データを回収し提供するというわけがわからなくて辛気臭いことをやり続けるのに、もううんざりしていた。だから縁を切る。短い付き合いだったが、こいつに会うのもこれで最後だ。こいつのうさん臭い顔を拝まずに済む。


「そうか……。ちょうど、私も君を鬱陶しく思っていたところだ!」

「だったら話は早い。お別れしましょうや……大久保さんよォ!!」


 罵声を交え、不破がランスの穂先を大久保の喉へ向ける。

 悪の芽は育つ前につまんでおかなければならない、余程のことがなければしないだろうが、いざという時はこの危険人物を殺すことも考えている。


「何のつもりだ……? まさか、私を殺す気かね? そんなことをしてみろ。君に協力する人物は誰も……」

「いるよ。あんたなんかよりよっぽど信頼に値する……、仲間ってヤツがな!」

「な、なんだと!」

「そう言いにきただけだ。研究の邪魔して悪かった……じゃあな」


 大久保の甘言をはね除け自信満々に、清々しく笑いながら不破は言い切った。

 彼はもう孤独ではない、れっきとした仲間がついているのだ。快活で子どもっぽい天才女博士とばり、料理好きで優しくてかわいい風月みゆき、そしてまだまだ荒削りだが叩けば伸びる後輩の東條健と、そのパートナーである白龍のシェイド・アルヴィー。まだまだ知り合ったばかりだが、得体の知れない怪人物である大久保より彼らといた方がよっぽど楽しいし、心も安らぐ。

 ランスを下げ、肩に担ぐと不破は帰っていく。一人だけになった研究室で、『手駒を失った』と、大久保はむなしく憤慨していた。



◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎



「ハッ!」


 街中のスポーツジムにて。

 膝まで流れるように伸びた髪が翻るほど勢いよく、女性が鋭い蹴りを繰り出す。

 健は体をそらし、蹴りをかわす。当たれば顔面に直撃し大ダメージだ。なんとかかわせてよかった。

 だが、そんな安堵の息をつく健に今度は空を裂くほど強力なパンチが浴びせられる。頬にめり込むほどの鉄拳だ、空中で切りもみ回転しながら健は転倒。


「油断しすぎだ。これで100回は死んだぞ」

「そっか……僕、あと何回死ぬんだろ」


 角を生やした白髪の女性・アルヴィーが膝まで届くその超ロングヘアーをなびかせ、

 どこかで借りてきたホワイトボードに書き込む。記念すべきか忌むべきか、今書かれた『正』の字で50個めだ。これまでに攻撃を受けて死亡した回数――という設定で書き込まれていた。


「健、そろそろ休憩せんか? ほどほどにしておかねば体を壊す。無茶はするな」

「で、でもさ。不破さんは毎日やってるんだよ。身の危険を(かえり)みないくらい、厳しいトレーニングを……」


 殴られたあとやばんそうこうをあちこちに貼っている健が起き上がり、アルヴィーに異を唱える。

 だが、アルヴィーは言うことを聞かない健を力ずくで引っ張り、律儀にもホワイトボードの字を消してから部屋の外へ連れていく。


「た、健くん!? その傷、どうしたの?!」

「ああ、これね……ちょっとやりすぎた」


 待ち合い室へ戻ると、一緒についてきたみゆきが待っていた。

 救急箱を開けると、応急措置を施し健の傷を治す。


「ありがとう……ところで不破さんは?」


 元々、このジムには不破に連れられてやってきた。ここは不破の行き付けだ。

 もっとも、よくサンドバッグを壊しているためたびたび注意されているが。だが、その不破がいない。ジムのどこかで訓練中なのだろうか?


「不破さん? さっきグローブつけてボクサーパンツはいて、サンドバッグ殴りに行ったみたい」

「そうなんだ。でもなんでボクサーに……?」

「チャンプに勝ちたいんではないのか?」


 どうやら、そんな奇抜な格好でサンドバッグを殴りに行ったらしい。なんとも滑稽な話である。三人いっせいに爆笑し、笑いの渦が巻き起こった。と、そこへ戻ってきた不破が現れ――。


「今オレを笑ったな!」

「いえいえ違います」

「はてさて、何のことやら」


 笑われて怒った不破を相手にしらばっくれる三人。

 元々つり上がっている目を更につり上げて、不破が苛立つ。


「いーや、確かにさっき笑われた気がするぞ!」

「知りませんって」

「わたし、そんなの知りません!」

「そんなもん知らぬ」


 面白がった三人は、更に不破をいじり倒す。やるからには、とことんやる。中途半端は嫌いだ。


「ホントか?」

「ホントですって。プッ」

「ホントよ〜、うふふ……」

「ウソは言っとらんぞ……くっ、くくくっ」


 もう我慢できない。三人とも思わず吹き出し、大爆笑。不破の怒りは大爆発。


「お前らなああああああァ!!!」

「わっ、逃げろー!」


 たまりにたまった怒りのマグマを爆発させる不破をよそに、

 三人とも蜘蛛の子を散らすように逃げていく。結果、不破はおいてけぼりにされた。ボクサーみたいな格好のままで。


「オレって何やってんだろうな……は、ははは」

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