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同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第20章 果てしなき激闘の軌跡
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EPISODE386:オペレーション・スキュータム PART3

 同本拠地内、マリエル軍団のラウンジ。そこはロギア軍団のそれと比較すると内装が全体的に青く、備品もすべてきれいに整っていた。統率がきちんととれている証拠だ。散らかっているものは何もないし、上司に隠れて賭け事をやっていた痕跡もない。何より全員きちんと位置についている。

 決して、ロギアの統率能力が調子に乗っている不良中学生(ガキ)と同じ――ということを言っているわけではない。彼は彼で有能な戦士であり、リーダーシップ抜群である。


「まずは本作戦のおさらいと行きましょう。都庁がいくつかの区画に分かれていることは皆もご存知の通り。中央に位置する第一本庁舎とその上に立つ展望室。そこから見て西に位置する第二本庁舎とふれあいモール、その屋上のヘリポート。第一本庁舎と同じく中央に点在する都民広場に、都議会議事堂。ほかには駐車場が屋外・屋内にいくつか。――こんなところね」


 そのマリエルは、iPadを上手に使い部下たちと作戦会議を進めていた。とてもスムーズだ。いつもの白いロングコートはハンガーに同じデザインのものがたくさん吊り下げられており、中には色違いで青と黒を基調としたものも。

 そんな彼女の丁寧で自然ではっきりした説明を受けて、ただただ直属のエスパーたちは聞き入った。具体的に何をすればよいのかを知りたくなって挙手したものも出てくるだろう。冷酷ながらも、わからないことを聞けば気兼ねなく教えてくれるような部下に優しい雰囲気がマリエルにはあった。


「まずは余裕があるうちに総力をかけて真正面から攻め込み、そこから状況に応じて区画ごとに部隊をわけることになっているわ。我々は都民広場と第一本庁舎を中心に行動する――。何か意見のある者は?」


 ――そこで部下のうち、白いコート姿でアシンメトリーな髪型をした女性が手を挙げた。リッキィや石河と共に二重作戦を行い、シェイド対策課関西支部を壊滅に追いやった、【移り行くトランスポーター】榊夕実だ。


「マリエル、私を向かわせてください」

「榊、リターンマッチを挑むにはまだ早いわ。あなたはシェイド対策課関西支部を破壊してまだ間もない。もう少し休養を取るべきよ――」


 マリエルのために働きたい榊であったが、当の彼女からは出動を禁じられ表情を曇らせる。が、マリエルは口を緩めた。


「けど後方支援だけならば参加させないこともなくってよ」

「はっ。ありがたき幸せ……!」


 厚意を(たまわ)った榊は思わず満面の笑みを浮かべて、おじぎをする。次にマリエルは視線をiPadに戻し、更なる策を練ろうとする。


「ほかに意見がある者は?」

「わたしも本作戦に参加したく思っております!!」


 次に挙手し、前に出たのは青黒い髪の青年だった。服装は白黒を基調とし、青で縁取られているローブだ。襟にはファーが使われていて暖かそうだ。――もとい、幹部の風格がそこにある。


「この駿河(するが)は以前神田ニシキによってはずかしめを受けました。今回の作戦にもヤツが現れ我らの行く手を阻むでしょう。……そんな気がしてならんのです」

「その根拠は?」


 榊を相手にしたときから一転して、マリエルは上目遣いかつ静かに威圧する視線を駿河へと向けた。


「わたし自身の直感がそう告げたのです!」

「まあいいわ。今後展開されるであろう新たな作戦に参加することを考えても、戦力は温存しておきたいし」

「……ありがとうございます!」


 ため息混じりに微笑んだマリエルは駿河が作戦に参加することを許可した。駿河は一礼して後ろへ下がると、その手に握られたミミズクのクレストが刻まれたデバイスを眺めて、期待に胸を膨らませた。


「マリエル様、方針がだいたい決まってきましたね。……今回の都庁襲撃作戦には俺も出よう。他に参加したいものがいれば声をかけてくれ」


 マリエルの側に立つ蒼黒と白を基調としたジャケットを着た青年が爽やか且つ凛々しい声で名乗り出る。髪型は青で前髪が左に流れている長髪、瞳は黄色。ベルトのバックルは銀色だ。彼が参加することは事前に決められていた。背には両手持ちの大剣の鞘――それもふたつだ。

 青年は、ミントグリーンの逆立った長髪をした、腕組みしている男性に目を向ける。――以前の二重作戦の際、健たちに追い込まれたリッキィを助太刀したシルバークラスの鉱物使い・クライストだ。


「クライスト、お前も来てみないか?」

「待ってルキウス」


 そのクライストを誘おうとした蒼黒のジャケットのルキウスにマリエルが「待った!」をかけた。ルキウスはキョトンとした顔でマリエルを見つめる。


「お言葉ですが今回は総力戦なのでしょう。彼にも助力を願ったほうが――」

「何が不安なの。彼を入れない分を私やあなたたちで補えばいい話でしょう」


 ルキウスを安心させる、あるいは、威圧するようにマリエルが告げる。自分とその配下への確固たる自信がそこにあった。ルキウス、榊と並んで、子飼いの中でも抜きん出て強いほうであるクライストを残しておきたい意図もあるのだろう。


「ワタシ、クライストはそれで構いません。が、アルマーズやジッツたちはどうなさるおつもりで」

「ご心配なく。どの道ロギアたちの軍団と連携するし、それに彼らも全員を投入することはしないでしょうしね」


 当のクライストはどちらでもなかったが、自信に満ちたマリエルの顔を見て彼女を信じて本部で待機・警備を担当することに決めた。名を呼ばれたアルマーズとジッツもクライストと同意見だ。

 iPadを手にしながら微笑むマリエルの佇まいからは、比較的、協調性と連携を重んじる姿勢を感じさせる。そこに秘められた彼女の考え――『今回のあと』のことについて既に思考を巡らせている――。その意思をルキウスは、『読み取る』ことができていた。伊達に長年、彼女と(こころざし)を共にしてきたわけではないということだ。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「緑川和人ッ! やっぱり(・・・・)僕らのことを騙していたんだな!」


 京都府内、とある総合病院――の、503号室。ミューラーたちデミスの使徒のエスパーから解放されるもひどく負傷していた緑川はそこに運び込まれ、体を休めながら健に隠していたことを打ち明けた。結果、このように彼を怒らせてしまったというわけである。

 ――知らなかったのは、前の警視庁での戦いで負傷した関係で、緑川を救出に向かうまで入院していた健だけ。見舞いに同列して来ていたあずみ、不破、市村は既に事情聴取済みだ。アルヴィーとまり子も健と同じであったが、きちんと割り切れていたので怒ったりはしなかった。


「イデデ! ちっ違う! そうじゃない! 俺はお前たちがオブシディアンの魔手にかからないようにと思って――!?」


 まくし立てられながら胸ぐらをつかまれた緑川が激しく抗議! 抵抗する! 怒りに震える健の目はすわっており、歯ぎしりもすごい。髪の毛にいたっては怒髪天を衝きそうだ。


「健、その辺にしておいたほうが――」


 止めに入ったのはアルヴィーだ。


「ハーッハーッ! まったく、病人になんてことしやがる……」


 突然キレられたので動揺しつつも、緑川は呼吸を整え、複雑そうな顔の健に、なぜ本当のことを黙っていたのか、その真相を話す続きをはじめる。


「――とにかく、そのオブシディアンという男はデミスの使徒のゴールドクラス。『五戦騎』と呼ばれる組織内で最強の大幹部たちのひとりだ。かつてはセンチネルズにも在籍していて恐ろしく強かった……。あんときの(・・・・・)、カイザークロノスを倒す前のお前たちじゃ倒せるかどうかも怪しいほどだ」

「!」


 健は動揺するとともに背筋が凍りついた。同時に、あのとき――去年の夏、京都府内のコンビニで働いていた緑川に会ったときの彼の心境を――『オブシディアンのことを話して、戦いに行かせて死なせたくない』という配慮を察することができなかった自分を諌めた。


「そうか……。それじゃ、僕らに黙っていたのも無理ないよな。……すまなかった……」


 四角い頭を丸くして己の非を認め受け入れた健は、頭を下げて緑川へ謝った。緊迫していた緑川の顔は憑きものがとれたかのように和らいでいた。


「ふーっ、わかってくれりゃあそれでいいんだよ」


 その様子を暖かく、既に事情を知る不破たちは見守っていた。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇



 デミスの使徒・本拠地。どっしりと玉座に屯するダークマスターの前には、五戦騎が率いる大軍団が整列していた。

向かって左より、ロギアが率いる黄色・緑のエンドテクターをまとうエスパー軍団、マリエル率いる青・白のエンドテクターを着たエスパー軍団、サリヴァン率いる紫のエンドテクターをまとうエスパー軍団、マーガレットに率いられた赤のエンドテクターを着装したエスパー軍団、そして配下を持たぬ孤高の巨人オブシディアンと、無数のロボット戦闘兵――マスプロイドとその隊長格・マスコマンダーたち。戦闘兵たちも軍団ごとに黄色・緑、青・白、紫、赤、グレー、黒――と、鮮やかに別けられていた。


「皆の者――今宵こそ、我らの力を愚かなる民衆の前に示すとき! 決起せよ! 深夜0時をもって世界の終わりがはじまるのだ!!」

「「「「「おお――――ッ!!」」」」」


 聴くがいい、本拠地内すべてを揺るがすほどに大きく響き渡る、邪悪なるエスパーたちの禍々しきシュプレヒコールを――。世界終焉への第一章が今まさに、幕を開けようとしている!



 ◆◇◆◇◆◇◆◇



 来たるべき戦いに向けて準備を進めているのは、デミスの使徒、ましてや筒井管理官率いる最強部隊だけではなかった。シェイド対策課の面々もまた水面下で着々と策を練り、武器防具の整備を行っていたのである――。

 モニタールームと会議室よりも奥にある研究室。宍戸や葦原らメンバーが集う中、そこのカプセルに入れられた装着式強化外骨格――を前に、ふたりの男女が話し合いをしている。村上警視と、この強化外骨格を作った白峯とばりだ。


「これがそのパワードテクターの試作品ですか?」

「ええ、いかにも」


 いつもニコニコしている白峯も今回ばかりは流石に緊迫して、それでいて余裕を保った表情で村上の問いに答えた。

 紅白を基調とし金で縁取られたもの、黒と黄色を基調とし藍色で縁取られたもの、青を貴重としシアンのラインで縁取られたもの、ピンクを基調とし赤と白で縁取ったもの――いずれも、装着者を知るものが見れば誰が装着するのかひと目で分かる。


「ヒヒイロカネが未だに手に入っていないから耐久面ではやや心もとないけれど、とはいえ、あくまで私が開発者としての一個人の視点で見た感想だからね。コンディションそのものは実戦で運用する分には何ら問題はないと思うわ」

「……あとは、彼らの健闘を祈るだけ、か……」


 展示されているこれらのパワードテクターは、とても試作品には見えない完成度の高さ。しかしこれらを着装するのは村上や白峯ではなく、健たち。悔しいことだが自分たちの力ではデミスの使徒には太刀打ち出来ない――。

 クリスマスイブに東京へ総攻撃を仕掛けてきたシェイド連中に対策課メンバーを総動員させ、勇気と知恵を振り絞って見事全滅させた村上ではあるが、今回は事情が違う。安全なトレーラー内でただ指示を下すことしか出来ない自分たちの非力さを憂う、村上と白峯。


「懸けましょう。あの子たちの勝利に、今回の作戦が誰も犠牲にならず成功することに」

「もちろんだ、デミスの使徒の好きにはさせません。――あの老害(つつい)にも」


 どこか儚い顔で白峯は迫り来る戦いに向けての想いを吐露した。その想いは届くのか――。



 ◇◆◇◆◇◆



 そして時刻は深夜0時を迎えた! 新宿都庁は予告されていた時刻よりも早く人払いが済ませられ、既に大勢の武装した自衛隊員や戦闘車両が待機していた。人払いを済ませたのはほかならぬ筒井管理官。――市民を相手に恩を売っておく目的もあったのだろうが、この辺りは腐っても警察幹部、ということか。

 とにかく、自身が思い描いた最強の兵器と最強の部隊を用意して自身なりの背水の陣を組んだためか、筒井はご満悦そうな顔をしている。やはり正義側の人物とは到底言いがたいような、下劣で欲望が表に出た顔ではあったが。


「フホホホホ~! これで万事オッケー、心配の種はゼロだ。さあ来いデミスの使徒ども。我が最強の部隊で必ずや貴様らを駆逐し、この大規模統一作戦――正義の大盾作戦オペレーション・スキュータムを成功させてみせようぞ」


 戦車の上に立って手もみをしながら筒井はにんまり笑う。


「筒井管理官、あれを!」

「フホホホ。案ずることはありませんよ、どれどれ? ……ななななななななんですとッ!?」


 ところがだ! 戦車のすぐそばにいた自衛隊員が指さした方向を、筒井は双眼鏡を持って眺める。刹那、筒井管理官の欲でギラついた邪な笑顔は吹っ飛び阿鼻叫喚の顔へと変貌した。

 自衛隊がガードをガッチリと固めた対岸には、機械の戦闘兵マスプロイドや邪悪なデミスのエスパーの大軍勢! 空にはマスプロイドやデミスのエスパーを乗せた禍々しく邪悪なVTOL機やヘリコプターの姿が見えた!

 筒井率いる合同部隊にも匹敵するとてつもない物量だ、高をくくっていた筒井もこれには顔面蒼白。諸行無常!


「ええい! 一揆だ! 勝どきをあげろ! 一斉放火だッ! 集中攻撃をしかけろーッ!!」


 虚勢が崩れた筒井は見苦しいほどに焦り出す! さあ、戦いだ。

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