EPISODE385:オペレーション・スキュータム PART2
会議が終わり夕方になってからというもの、村上は未だに休憩室で頭を抱えていた。いったいなにが彼の頭痛のタネとなっているのか? 一番は筒井管理官だが、その次は――壁に取り付けられたテレビの画面にうつっている。
「8年前全世界を恐怖と混乱の渦に陥れたデミスの使徒については皆様もよくご存知でしょう! 昨夜、自衛隊が入手した情報によりますと、彼らは新宿都庁を強襲する作戦を立てていたとか! 善良なる市民の皆様を悪党の魔の手から守る使命を帯びている我々が、これを放っておくわけにはいきません! そこで我々警視庁は思いついた! 最先端の技術で作り上げた武装! 我が国が誇る自衛隊の精鋭たち! 各国より応援を募った同志たち! 全力を挙げて考案した史上かつてない大規模統一作戦、名付けて――、『オペレーション・スキュータム』!!」
先日「エスパー警官とシェイド対策課の手は借りない」などと村上たちを散々こき下ろした、あの筒井管理官が公衆の面前で雄弁を奮っていたのである。演説をしている自分に酔いしれているいるだけでなく、勝手に作戦名までつけている始末だ。
「彼奴らが都庁を侵攻しに現れる時刻は深夜0時ちょうど! その魔の手から東京を、いや、全世界を守ってみせましょうぞ! 私、筒井は今ここに必ずや邪知暴虐のデミスの使徒めをッ! 完全にッ! 完膚なきまでにッ! 鎮圧してみせると誓います――……」
呆れてものも言えなくなった村上がため息をついた。
と、そんな彼のそばに対策課でオペレーターを担当している婦警の宍戸が寄り添う。
「村上警視、おケガのほうは……」
「あ……ああ、だいじょうぶ」
「まだ頭痛が続いてるみたいですけど……本当にだいじょうぶで? 何が原因なんだろ」
「……アレ」
上司を苦しめているものは何なのか、それを心配してくれている宍戸のために村上はテレビ画面を指差す。まだ会見中の筒井の顔だ。
「お前の気持ちわかるわー。あのオッサンってばオレたちのこと散々ボロクソに言ってくれやがったもんな」
村上と志を同じとしているエスパー警官の不破もまた、筒井の横暴に呆れた様子で彼に寄り添う。片手にコーヒーを持ち眉をひそめていた。
「で、どうすんの? このまま黙って指をくわえてるわけにゃあいかねーだろ?」
「ああ。だから筒井管理官の目が及ばないところで作戦を立てよう」
「お前たちの手は借りない」と謹慎を命じられて、ここでそのままくさるような村上ではなかった。あきらめない彼の言葉に勇気づけられたふたりは口をそろえて、
「「その言葉待ってました!!」」
◇◆◇◆◇◆
エスパー警官――というより、シェイド対策課を快く思わぬ筒井に見つからないように作戦を立てるには、やはり、水面下で――つまり警視庁の地下にある彼らの活動拠点で会議を開くしかない。
つい先日デミスの使徒が送り込んできた冷酷無比の襲撃者・榊および石河に荒らされたモニタールームや会議室はようやく復興して犯罪者やシェイドの監視・作戦会議が出来る段階にはなったが、完全に回復させるにはやはり時間がかかる。
筒井という一部の無能が口うるさく幅を利かせてはいるものの、費用は上層部が出してくれている。問題は――自分たちだけでどこまでやりきれるのか。
そこで会議室に集ったのは村上や不破、宍戸、アッシーこと葦原賢人。ほかには宍戸と同じくオペレーターを務める女性警官や、個性にあふれる捜査官たち。斬夜耀司に関する一件以来、警視庁の上層部は100%信頼できるものだけを招集した。
その結果集まったのが科警研からヘッドハンティングを受けた葦原や海外でも活動していた、捜査官たちなのである。
「――これより都庁防衛作戦で我々対策課が行動を起こすための、会議を始めたい。まずピエール、装備のほうは?」
「ご心配なく! どの銃火器も対シェイド・暴徒鎮圧用にカスタム済みです」
村上の問いに金髪七三分けの捜査官――ピエールが自信を持って答えた。頷いた村上は続けて、ヘーゼルのセミロングで前髪がクロスした女性捜査官に視線を向けた。
「続いて……。サツキ、我々のトレーラーを都庁付近のどこに隠すかを記した地図を渡しただろ。アレ見てくれた?」
「はい。細かい調整はわたくしどものほうで行います」
小岩井サツキ捜査官からの報告は以上だ。頷いた村上は手を眼前で組み、その前にメガネのブリッジを押し上げて頭を整理する。次に彼はスマートフォンをスーツの胸ポケットから取り出して手に取って、ある人物あてに電話を入れた――。
「もしもし村上警視ですが……白峯博士はおられますか?」
「来てます!」
いつの間にか西大路の自宅を出て警視庁に来ていた、メカニックにして天才女性科学者――白峯とばりの声はシリアスなムードを一気にぶち壊した。
突然の登板だったため、対策課のメンバーは全員すってんころりん!と、ずっこけた。当然本人には悪気などなかった。
起き上がった一同の視線は白峯にクギ付けだ。頭が良ければ料理もうまい、おまけに美人でスタイル抜群。男女を問わない憧れの的だから――というのもあったが、もうひとつの理由は――。
「――おほん! パワードテクターあったでしょう。そちらはどうなりました……」
「『試作機』をヒヒイロカネ以外の材料を使っておろしてみたわ。ただ、テスト運用するには時間がないってところね」
「実戦投入してデミスの使徒相手に試せばいいんじゃないですかね?」
「待って村上くん」
それでいいのか――? 村上の提案に白峯は首をかしげた。
「まるでまたあの子たちを戦いに向かわせるような言い方だけど――そのつもりなの?」
「そうじゃない。なるだけ自分たちの力だけでデキるところまでやってみたい。それでももし、ダメだったなら彼らを呼ぼうと……」
デミスの使徒と率先して戦ってくれているとはいえ、また東條健たちを警察の都合で振り回すのか、と、白峯はその意図を込めて村上に意見した。
非力な自分らではかなわないから自分らよりも強い健たちに頼ろう、そうしよう。――という考えに「待った」をかけたかったのだ。
村上は、眉をしかめて悔しげに、複雑な思いを胸に白峯へこう続ける。
「僕らが非力なのは重々承知です。ヤキモキしてますけど、今はそうするしかないんですよ――」
「……わかったわ。私も自分にできるだけの努力はやってみる。結果がどうなってもいい、やることに意味があるもの」
疑ってかかってしまったことを反省し自分の考えを押し通したうえで、白峯は納得。村上の意見に賛同した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
一方、絶海の孤島に点在する――デミスの使徒本拠地。黄色を基調としたラウンジでは、ロギアの配下のものたちが賭け事で盛り上がっていた。
大きなテーブルには次の作戦に関する資料が置いてあるが、そんなものはお構いなしだ。赤毛にハチガネの男、大柄で筋肉質な黒人男性、ザンバラ頭の不気味な青年らが中心となって、賭け事それもポーカーに没頭している。
このうちハチガネの男と筋肉質な男はベルトのバックルが銀色――シルバークラスであり、ザンバラ頭の青年は格下のブロンズクラスだ。ほかのメンバーは今、別件で任務があってラウンジにはいない。
「スペードのフラッシュ……!」
「やったフルハウスだッ! 今日はツイてるぞ~HAHAHA☆」
「くっ、おれは……ワンペアだッ」
「俺の勝ちだな。ユーのベットはすべてit's mine! 俺がもらおう」
ポーカーに従事していたもののうち、赤毛にハチガネ、古びたマントにダボダボのコートを着た男性が、ザンバラ頭の不気味な男性からベットをすべて没収した。
「その程度で俺に勝とうとはナンセンス。出直してきな」
「フォルマッ! それにお前ら……いつまでポーカーなんかで遊びほうけてる気だ?」
茶髪でソフトモヒカンの実直そうな男性がハチガネの男の名を呼び、彼と同じくポーカーをやっていた者たちへも注意を呼びかける。彼もシルバークラスだ。
「仕切ってんじゃねえよ、ガリアーノ。ユーはいつからこの俺に指図できるほど偉くなった?」
「きさまら、ロギア様が『俺が帰ってくるまでに次の作戦に誰が参加するのか決めておけ』と、言っておられたのを忘れたのか?」
「忘れたわけじゃあない! 俺かゲイツのどちらかが行くとさっき話し合いでFinally……決定したばかりさ」
「バカも日曜祭日に休み休み言え! そんな見え透いたウソには騙されんぞ!」
――と、フォルマと実直そうな男性――ガリアーノが論争を始めた、そのタイミングで件のロギアがラウンジの扉を開けて帰ってきた。傍らには先日健たちと戦い、シルバークラスの力を見せつけたミューラーとニルバーナがいる。
どちらも非戦闘態勢であるため、エンドテクターではなくジャケットあるいはコートを着ていた。
「オイッ! お前ら、今まで何やってたんだ。誰が都庁襲撃作戦に参加するのかを決めておけって命令したはずなんだが……?」
「こいつがゲイツやザッパを誘ってポーカーで盛り上がっていました」
眼光鋭く威圧しながらロギアが問う。ザンバラ頭の青年がうしろでプルプル震えている中、ガリアーノはひるまずにフォルマを指差した。
ゲイツとは、寡黙に振る舞う巨漢の黒人男性の名前であり、ザッパは、今まさにプルプル震えて腰を抜かしているザンバラ頭の青年の名だ。
「そうか。まあいい……決まったのか決まってねえのか、まずはそれをハッキリさせろ」
「ロード・ロギア、俺が行こう。俺はユーの軍団でモスト・ストロンゲスト! 最強の戦士だ。都庁を制圧する程度はEasy、お安いご用。ほかのヤツらは足手まといになるからいらない、俺ひとりで十分サ」
「ダメだ」
「Why……?」
フォルマがロギアに意見を否定され、フォルマは眉間にしわを寄せて彼の真意を疑う。
「たしかにお前は強いし都庁襲撃作戦は重要な任務。しかし【破軍の一太刀】と謳われたお前が手を下すほどのことではない。柔軟に物事を考えろ――」
「umm……」
「決まりだな。今度の作戦にはガリアーノを連れて行く。残ったヤツらは待機しな」
一瞬、歯ぎしりしたフォルマであったが、『やはり自分はそれほどまでに厚い信頼を得ているのだ』と思うことにより、すぐに切り替えてほくそ笑んだ。
「ロギア様は我が軍団の中でもきっての実力者たる君を後々の事を考え温存しておこうと思って、あえて君ではなく、ガリアーノを選ばれたのだ。ロギア様のご厚意に感謝することだな」
――とでも言っておけば納得していただけるかな? ロギア様が真に絶大な信頼を寄せておられるのは、あくまでこの私。あくまで私とニルバーナ。
お前ごとき野蛮人があたかもロギア様の懐刀のように振る舞うなど笑止千万。下っぱどもとおとなしく本部で待ってろ、東洋かぶれの脳ミソ筋肉ゴリラめ!
らしくないほど爽やかに微笑んで、呼びかけるミューラー。しかしその裏に隠されていた考えはこれだった。
「……そう考えさせてもらうよ……」
なにぬかしてやがる! この頭でっかちがッ! ロード・ロギアがユーごとき口先だけの軟弱野郎をメニーメニー信頼しておられると思っていたのか。
恥を知れ! ロード・ロギアの腰ぎんちゃくめ! いつかその顔、塩もかかっちゃいねえベリーベリーまずいマッシュポテトみてーにグチャグチャしてやる!
――対するフォルマも穏やかに見えて内心、煮えたぎっていた。
「フ……行くぞガリアーノ」
「ハッ!!」
対峙する二人の配下の考えを見越したように笑うと、ロギアは指名を受けたことへ高揚感を覚えているガリアーノを連れてラウンジを出た。向かう先はダークマスターが待つ司令室だ。