EPISODE382:網を食いやぶれ!
一年間戦い抜いた戦士特有の精悍な表情をして、健は高台から飛び降りて華麗に着地――カールトンらデミスのエスパーをにらんで――愛剣エーテルセイバーの切っ先を向けた。
「貴様らかッ! 僕の大切な仲間を傷付けたのは! 貴様らだなッ!?」
「ペーッ。だったら、どうしたってんだ!」
武者震いしていたカールトンは平静を装い唾を飛ばす。お人よしの健はカールトンが虚勢を張っていることを見抜いたか気にも留めず、右手にエーテルセイバー携え歩み寄る。カールトンは汗を流しながらも、こう挑発。
「そういやおめー、東條明雄のガキらしいな? 親父はそれはもうブザマに死んじまってたぜ、助けてくれとかなっさけねぇツラで命乞いしながらよぅ!」
「父を侮辱するな……」
「はぁーーん? 聞こえんなあああ〜〜、もっとデケェ声出せっつんだよまぬけェ! 大好きなパパをバカにされたのがそんなに悔しかったでちゅかああ〜〜!?」
調子に乗ったカールトンは健の神経を逆なでするように挑発を続ける。耳に手を添える仕草で健をコケにしたそのとき、顔面に怒りの鉄拳がぶちこまれ――カールトンは叫びながら岩にぶつかった。
「東條健がカールトンをぶっ飛ばしただと!?」
「いいやあのくらい普通だろ? あたしらより下の連中をことごとく倒して、過去にはカイザークロノスやセンチネルズを潰していることを思えば不思議じゃないよ」
ミューラーが驚き、ニルバーナは冷めた視線で語る。前者は日本人だからという理由で見下し、後者は年下の青ちょびたガキだから侮ってはいけないと考えていたと思われる。
――と、そんな健を不破や葛城たちは頼もしげな視線で見ていた。健ならあとを任せても安心だ! きっとそう考えていたのだろう。
「こ、このガキ……オレ様をコケにしくさって」
「名前は知らんが、大切な仲間をいたぶりあまつさえ父を侮辱した貴様のような悪党には! 容赦せん!」
「便所のネズミのクソみてぇなオッペケペーが偉そうにごたく並べてヒーローぶってんじゃねえよ! テメーみてぇな生意気なガキ見てっと、虫酸が走らあ!!」
醜悪に口汚く罵詈雑言を吐き散らしたカールトンが腕についていたブーメランを引き抜く、さすると同時に両肩や背中についていたブーメランも宙を舞う。
「食らわせる前に教えといてやるが、オレのブーメランはマスプロイド百体分、マスコマンダーにして十体分に匹敵するパワーだ。こいつにかかればお前もズタボロよ」
「ハッタリだな」
「ほざけ!」
カールトンが鋼鉄のブーメランを暴投、五つものそれが空を裂きながら縦横無尽に飛び交い健へと襲いかかる。なお、先ほど健に砕かれた分は含まれない。
やがて五つのブーメランが自分へ飛んできたのを見てから、健はエメラルドグリーンに輝く風のオーブをエーテルセイバーに装填――当たる寸前で風の力を借りて加速し――避けた。土とんが上がってブーメランが戻ってきたことから、カールトンは健に攻撃を当てたつもりで汚ならしく笑った。まさかやられたのか? いやそんなはずはない。彼はこんな程度の技でやられるような男ではないからだ。不破たちはそう信じて自分を落ち着かせる。
「勝ったッ! 第20章完ッ!」
と、カールトンが勝ち誇ったとたんに健が煙の中を突き抜けてカールトンをすれちがいざまに切り払う! 一度だけでなく、二度も三度も四度も。カールトンを突き飛ばして、そのまま健は空高くジャンプした。
「ヘンッ! 隙を見せたなマヌケがあッ! 今度こそおめーの首掻き切ってサッカーボールにしてやんよおおぉぉ〜〜!」
唾を汚ならしく飛ばしながら、カールトンはいくつもの鋭く研ぎ澄まされた鋼鉄のブーメランを一気に投てき。対する健はその場から動かず、すばやく手短に――土属性の力を秘めた琥珀色のオーブを装填した。
風のオーブの力で空中を浮遊している健は剣に力を込め――みるみるうちに剣を巨大化させた。ひとふりで自分へ向かってきたブーメランをすべて打ち落としたと思えば、彼は巨大化させた剣を振り下ろして勢いよく落下する。
「カールトンよけな! さすがのあんたもこれはかわさないとまずいよ!」
「こ、こんなのこけおどしィ!」
ニルバーナの忠告を無視するカールトンは完全になめきった姿勢で戻ってきたブーメランを操り――身を守る体勢に入った。
そう、カールトンのブーメランは思念波によってカールトンが思うがままに動く。そのことを応用して防御に転用することも可能なのだ。カウンターや相手の拘束にも当然、使えるというわけだ。
「――エアリアルタイタンブレードッ!!」
「うぎええええぇぇぇーーーーッ!?」
空中から勢いをつけて振り下ろされた巨人の剣がカールトンのブーメランガードを貫き、そのまま圧倒的パワーをもって切り抜け、殴り抜ける!
結果ブーメランは鉄くずと化し、エンドテクターは砕けてカールトンは豪勢に血を吐き出した! 衝撃で吹き飛ばされたカールトンは速攻で地面へと落下し思いきりぶつかる!
ヘッドパーツや上半身のパーツが完全に破壊され、ボサボサの髪の毛を更に乱して血まみれになった状態だ。
「く……クソガキがぁぁ〜〜……お、オレ様をどこまでコケにすりゃあ気が済むんでい……」
「すごいわ、あのカールトンを地に沈めるなんて!」
「あれからまだ、あまり傷は癒えてねえはずだが……いつもの火事場の底力か!?」
「観念しろカールトン! このままお前を警察に突き出すッ!」
「や……やなこったい!」
健の奮闘ぶりを称賛し喜びに打ち震える、仲間たち。しかし状況を覆せないと感じたカールトンは焦りから、地面に入った亀裂から異次元空間へと逃げてしまった。
次に健は崩れ落ちかけるも――駆け付けた仲間たちによって介抱され、表情も和らげた。アルヴィーとまり子も仮面を捨てて中にまじった。
「み――みんな」
「すっげえな東條! オレたちが手こずった相手をひとりでぶちのめすなんてよ!」
「でも病院から抜け出してきたんでしょう? あれほどの大技を出したら、余計に肉体に負担が――……」
「あ……あのぐらいはなんてこと無いよ」
「大方、あずみ殿たちの危機を察してきたんだろうが……あまり私たちをヒヤヒヤさせるなよ」
「ご、ごめんよアルヴィー」
「とはいえかたじけなかった。礼を言うぞ健」
仲間たちからの励ましと暖かい笑顔を受けた健の唇は自然とほころび、目は優しげな雰囲気に戻った。
「好戦的なくせに自分にとって都合が悪くなればすぐにへたれて逃げ出す。いつもの悪いクセだ」
「あの俗物と同じイギリス人だとは思いたくもないね」
――だがまだ撤退していなかったシルバークラスのふたりが、カールトンにあきれながらも動き出しじわじわと健一行へと近寄りはじめた。
緑川は焦ってそれを止めようとしたもののまだ拘束されており身動きはとれなかった。ただ、動けないことを頭でわかっていての止めようとしたのは理解してほしい。
「あんたたち、喜ぶにはまだ早いんじゃないのかい?」
「残念だがまだふたりいるんだぜクックククク」
案の定ニルバーナとミューラーは不敵に笑いながら和やかなムードをぶち壊した。
「気ぃつけよ東條はん、こいつら手強いで!」
「わかります……なにもしていなくても嫌な予感がするッ」