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同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第20章 果てしなき激闘の軌跡
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EPISODE377:ほんの余興


「我が組織で最強を誇る五戦騎が先日集結したそうだ!」

「なんだと! それならばお会いしに向かわねば!」


 デミスの使徒最強の五人――デミス五戦騎。彼らが全員集合したという報せは瞬く間に本拠地中に、それどころかいまだ世界各地に散らばる構成員たちに届いた。

 司令室には現在、いつぞやのようにおびただしい数のエスパーや悪しき科学者たちが集っている。彼らの首領たる、禍々しい邪眼を模した鉄仮面やプロテクターに黒いローブを身に付けた謎の男――ダークマスターの御前には、仮面と黒マントを身に付けた五人の男女が並んでいた。

 左から順に、丸みを帯びたプラチナブロンドのショートヘアーで喜びに満ちた仮面をつけた少女、何かに対し治まらぬ憤怒を抱いている仮面をつけた巨漢、金髪で口が張り裂けそうなほどの叫びを上げている仮面をつけた青年、紺色の足元につきそうなほど長く垂れた髪をポニーテールにして束ねている哀しみに満ちた仮面をつけた長身の女性、紫色の天然パーマで何かを企んでいるような悪意に満ちた表情の仮面をつけた男性――。彼らはデミスの使徒内において最強を誇る『五戦騎』。階級は全員最上位に値するゴールドだ。


「我が忠実なるしもべたちよ、今宵はよくぞ集ってくれた! デミスの使徒最強の五戦騎よ、前に出よ! 今一度その威光を私の前に示せ!」


 ひざまずいているブロンズクラス、シルバークラスのエスパーや科学者たちの前に五戦騎たちが足を踏み出す。


「渇きと飢えをもたらす砂の王子――ロギア!」


 金髪の青年――ロギアが仮面を外し、前に出る。鋭い金色の瞳は威圧的であり、並みの者を寄せ付けぬ攻撃的オーラを放っている。マントの隙間からは黄色と黒を基調としたジャケットが見られる。


「水のように優雅にたゆたい、時に氷のように冷酷な蒼海の魔女――マリエル!」


 続けて、紺色のロングポニーテールの女性――マリエルが仮面を外す。妖艶で穏やかな雰囲気だが、少しつり上がった切れ長の瞳には氷のように、いや、氷そのものあるいは、光さえ届かぬ海の底のような冷たさを秘めていた。


「デミスの使徒随一の頭脳をもって的確かつ冷徹に敵を追い詰める霧に隠れし学究――サリヴァン!」


 三番目は、何かを企む仮面を外した天然パーマの――サリヴァンだ。仮面の下には左目に幾何学的な紋様の入ったゴーグルをかけていて、これを髪に乗せて赤い瞳を見せた。仮面だけでなく、その顔もいかにも企んでいそうな悪い顔をしている。


「その素晴らしき手品の数々は三千世界に輝き、見るものを魅了する変幻自在の大魔術師――マーガレット!」


 四番目、丸みを帯びたプラチナブロンドのショートヘアーの少女――マーガレットが仮面を外し、両手を大きく広げた。エメラルドグリーンの瞳が燦然と輝き、その笑顔をより一層まばゆく仕立て上げている。黒マントの下には大魔術師を名乗るに相応しい小綺麗な燕尾服を身に付けている。普段の彼女はシルクハットも被ってきているのだが――今日は被っていないらしい。


「そびえ立つ岩山を砕く剛力といかなる攻撃も弾き返す鉄壁の防御力を備えし盤石の鉄鋼将軍――オブシディアン!」


 そしてトリを飾るのは、二メートル五十センチはあろう五戦騎一の巨躯の持ち主――オブシディアン。憤怒の仮面を外した彼はその強大さを示さんばかりに腕を組み、ひざまずく下のものたちを見下ろした。


「最強のデミス五戦騎と諸君が一同に会した今、もはや我らに敵はいない。愚か者どもに思い知らせてやるのだ! 我らの絶大なる力を! 崇高なる思想を! この腐りきった現世を終焉へ導かんとする我らこそ正しいということを!!」


 演説を行うダークマスターの雄弁が絶頂に達して彼が拳を天に突き上げたのを合図に、五戦騎やその下位のものたちは一斉に拳を突き上げた。



 ――しばらくして、構成員たちはそれぞれ与えられた任務を遂行すべく解散。司令室には五戦騎とダークマスターのみが残った。


「久々に五人集まったところで悪いが、誰か次の作戦は立ててあるのか」

「はい、既に立ててありますとも」


 巨躯を誇るオブシディアンがダークマスターからの問いに答え、自身の背後に視線を向けながら指で合図を行う。すると物陰から小柄な男性と小柄な彼より身長が低い男が現れた。

 前者は緑色の髪と褐色の肌にガゼルを模した紫のエンドテクターをまとっておりそれなりに端正だが、後者は鼻がでかく前歯が飛び出しておりしかも卑しい目付きをしている。身もふたもないことをいうと後者ははっきり言って、ブサイクだ。エンドテクターはガマガエルを模している。共通点はどちらもベルトのバックルが銅――ブロンズクラスということだ。


「――センチネルズのことは覚えておいででしたかな」

「うむ、忘れもせぬ。私から古文書を奪った田舎者の……」

「そう、それです。このオブシディアンにはセンチネルズから足を洗ったある若者と、少しばかり因縁がございまして」

「直属の部下を持たないオブシディアンにせがまれて仕方なく、このサリヴァンが部下を貸し与えた次第です」

「ほう」


 作戦を考案したのはオブシディアンだ、しかし彼にはとくに直属の部下はいないためサリヴァンが部下のひとり――小柄で褐色の男性、ベルナールを貸し与えたのである。

 ちなみにオブシディアンはサリヴァンに「部下をよこせ」とせがんだわけではなく、サリヴァンは手柄を自分のものにする魂胆で自分から持ちかけていた。


「オブシディアンいわく、彼はエスパーではないもののなかなかの実力を持っていて素質のある青年だそうです。もし探し出して仲間に加えることが出来れば、そのときはこちらのほうで訓練を受けさせましょう」

「その人エスパーにしてエンドテクターもあげたら、頼もしい戦力になること間違いなしだと思いますよー!」


 微笑みをたたえ腕を組むマリエルと、期待に胸を寄せるマーガレットがそれぞれダークマスターに意見する。


「――よかろう。ベルナール、ドブロク。オブシディアンとの間に因縁のあるという青年を見つけ出し私のもとに連れてくるのだ」

「ハッ! おおせのままに!」

「ゲヒゲヒ、我々にお任せをーっ!」


 ダークマスターから指示を受け、褐色の小柄な青年ベルナールと、ブ男のドブロクが任務を遂行するため出撃した。それを見届けたダークマスターたちだが、ロギアはひとりだけ今回の作戦に疑念を抱いているようであった。


「果たしてうまく行くかね?」

「どうしたロギア」

「お前が言ってた因縁のあるヤツがそうすんなり俺たちの仲間になるとは思えないんだが。当然スカウトに失敗したときのことも考えてあるんだろうな?」

「なんだと? 貴様、オレが立てた作戦のなにが気に入らんのだ」


 ロギアがとった不遜な態度が癪に障ったかオブシディアンは、ロギアに歩み寄り掴みかかろうとする。彼なりに義憤に駆られロギアを咎めようとしたのだろう。


「立場をわきまえなデカブツ。まさかとは思うが、まだあのときのこと(・・・・・・)を引きずっているのか?」

「……!」

「五戦騎のリーダーはお前じゃない、この俺だ。マリエル姐さんとマーガレットを見てみろ、あのふたりは俺がリーダーであることに納得してる。サリヴァンに至っては強いほうにつく主義だから、お前より強い俺につくのは当然だ」

「だからなんだと言うのだ。オレは生涯貴様などには従わんぞ」

「これ以上逆らうようならこの場で切り捨ててもいいんだぜ、オブシディアンさんよ」

「図に乗るな、本来ならば貴様ではなくオレが五戦騎のリーダーとなるはずだったのだ!」

「ウドの大木は黙ってろ!!」


 言い争うふたりの雰囲気は徐々に険悪なものとなっていき、殴り合いに発展しそうな段階になった。端から見ていたマーガレットは「まーた始まっちゃった……」と手のひらを上向きにして呆れ、サリヴァンは焦りを覚え、ダークマスターは首を横に振った。そしてマリエルは小競り合いを快く思わぬ顔をして――ふたりに高圧の水流をかけて黙らせた。その青い瞳は冷酷で殺気に満ちた輝きを放っている。


「ふたりともいい加減にしなさい」

「ね、姐さん……」

「毎々言ってるでしょ、もう過ぎたことでいつまでも争わないでくださる?」

「だがマリエル、オレは……」

「らしくなくてよ……オブシディアン。あなたもロギアも、少しは頭も冷えたでしょう。敵は光の矢なのよ、仲間同士で潰し合いなんてしてる場合かしら」


 マリエルから咎められたオブシディアンは歯がゆそうにしながら立ち尽くし、ロギアは不快極まりなさそうに舌打ちして引き下がる。ひとまず気分を切り替えた五戦騎は、ダークマスターに視線を集中させる。


「――そういうことだ。何にせよ今回はオブシディアンの裁量に任せるとしよう。それに……」


 いったん言葉を切ってから、ダークマスターは次にこう言った。


「今回の作戦はほんの余興に過ぎぬ。そうであろう?」

「……フッ。そうでございましたな」


 オブシディアンがニタァと笑ったのを合図に、その場にいた全員が不敵な笑みを浮かべた。


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