EPISODE376:集結! デミス最強の五戦騎
四人のうち健と市村はフェミニストであるため女性には手を出せなかったが、対する榊の攻撃は容赦が無く念動力によって四人の体はぶつかり合いをさせられ、パルスビームや手刀に電撃も浴びせられ、石河と戦った際のダメージも響いて四人はすっかり追い込まれた。
榊には目立ったダメージはまったく見られない。攻撃されても手で受け止めたり回避したり、バリアーで防いだりと身を守る手段には困らないからだ。当然攻撃にも。
「はあ……はあっ……」
パルスビームが着弾して起きた爆風にあおられ、健たちは吹っ飛ぶ。不破はもはや汚いボロクズのように横たわっていて彼らの役には立てない状態であった。
そんな中で光のオーブを使用した影響による著しい疲労に襲われながらも、健は榊は立ち向かわんとする。
「女の人に手を出したくはない。けど、ここでやらなきゃ、みんなが……うおおおおーッ!」
腐心しながらも健は、雄叫びを上げて榊へ突撃。斬りかかろうとする。葛城ら三人を守ろうと寄り添っていたアルヴィーは彼をあえて止めようとはしなかった。そして真顔でたたずむ榊に剣が振り下ろされ金属同士がぶつかり合う音が鳴る!
「っ……はあ、はあ」
「……上出来!」
――彼には女を斬ることは出来なかった。もしシェイドなら迷いは無かったが、今回は人間でしかも女。フェミニストである健には分が悪い。
対する榊は肩のパーツに小さい傷が入った程度だ。しかしそれに憤慨するどころか彼女は健に対して称賛するような言葉を口にした。もっともその六割ほどは皮肉なのだが。
一笑に伏す榊はプラズマエネルギーを凝縮しふた振りの剣の形にすると、両手に握り――まずは健の左上腕に突き刺す。次にもう片方で健の右半身を――切り裂いた。苦悶するとともに鮮血を噴きながら、健はその場に崩れ落ちる。
葛城たちは健の名を呼びながら一斉に駆け寄り、彼を介抱する。怒りから市村は二挺のブロックバスターを向けるも――撃てない。フェミニストゆえに敵であっても女は撃たないというポリシーと、女子供であれ悪は倒すべきという怒りと闘争心の間で葛藤しているからだ。
その間に榊はふた振りのエナジーブレードを解除、両腕を光らせ掌にエネルギーを溜めはじめた。
「仲良く地獄へ行け!」
凶悪な笑みを浮かべ榊が四人に必殺技を放とうとする、が、そこに――サポーターアイに通信が入った。榊は怪訝な顔で技の発動をキャンセルし、サポーターアイのスイッチを押す。
「榊、いったん退いて」
「しかし……」
「退きなさい」
「……承知しました」
通信は上司であるマリエルからのもので、通信の内容は撤退命令であった。石河はしくじった、回収せずともよい――と判断した榊は、不敵に笑う。
「お前たち、命拾いしたな?」
「な、なん……だと?」
「気にする必要はない。こっちの都合だから」
どういう意図かを訊ねてきた健にそう返答して、榊は何度めかの冷たい笑顔でこう言う。
「次は容赦しない」
そして榊は消え、直後健は気を失いすぐに病院へと搬送された。なお、榊が撤退した際にマスプロイド部隊もまた姿を消したという。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
デミスの使徒・本部へ帰還した榊はダークマスターやマリエルたちに結果を報告。もちろん石河の件やパワードテクターの設計図が無かった件についてもだ。
「――報告は以上です。私が石河をフォローしきれなかったばかりに……申し訳ございません」
「そう。まあ、いいわ。あなたほどの有能な人材でもしくじることはあるものね。それに石河がやられたのも、しょせん彼はそこまでの男でしかなかったということなのだから」
「パワードテクターの件は残念だったが、関西支部を全滅できたことは大きな功績だ。賞賛に値する」
「リターンマッチに備えて力をつけておくことね」
「はっ。ありがたき幸せ」
鉄仮面を着けていて表情がうかがえないダークマスターと優雅に微笑むマリエルからねぎらいの言葉を受け取ると榊は踵を返して部屋の隅へと移動した。
――直後、司令室の中に妖しげな霧が漂う。その場にいた誰もが最初は怪訝な顔をしたが、すぐ不敵な笑みを浮かべた。誰が起こしたものか把握できていたからだ。
「甘いぞマリエル。失敗するような無能なヤツは容赦なく切り捨てるお前が今日に限ってどうしたのだ」
尊大な口調からマリエルやロギアと同格と断定される成年男性の声が響く、霧の中からうっすらと声の主――天然パーマが目立つ紫色の髪に鋭い赤の瞳、左レンズに幾何学的紋様が入ったゴーグルをかけた男性が姿を現した。
服装は紫のラインが入った白衣と下にはハイネック、デミスの使徒でも最上位に位置する証――金色のバックルがついたベルト、白衣と同色のグローブとブーツだ。まるで科学者あるいは技術屋のようだ。
「別に。有能な部下をすぐに捨てようだなんて考えるほど私も愚かではないわ」
「ハッ、言ってくれるぜ。血も涙もない魔女が」
生意気な口を聞くも微笑みをたたえるマリエルから無言の圧力をかけられた白衣の男性は、咳払いをしてからそっぽを向く。
「遅かったじゃないかサリヴァン。あとのふたりはどうした?」
「気の短いヤツだな。待ってればすぐに来るだろう」
一言多いが待ちくたびれているロギアにそう伝え、サリヴァンと呼ばれた男性はロギアの左隣に立つ。するとサリヴァンの言葉通りか、今度はハートのQのカードが出現。それは徐々に大きくなり、カードは光の粒子となり人の形を形成。
その姿はシルクハットに赤を基調とした小綺麗な燕尾服と、まるで手品師か大道芸人を彷彿させる格好の少女だ。おまけにマントまでつけており、更に可憐で美しいときている。
髪型は丸みを帯びたプラチナブロンドのショートで、前髪の分け目は右。その前髪は心持ち長めだ。瞳はエメラルドグリーンに煌めいている。左耳につけたサポーターアイの色は青だ。
「話は聞いたよー。確かにマリエルにしては優しかったかなー? でも、ワタシはマリエルが正しいと思うなー」
「マーガレット、それお世辞のつもり?」
「もーっ、マギーって呼んでっていつも言ってんじゃん」
人を食ったような間延びしている口調でマリエルと語らう手品師のような少女――名はマーガレットという。
一見すると今時の少女だがそのベルトのバックルは金色。言うまでもなく、マリエルやサリヴァンと同格だ。
そして、司令室の扉を勢いよく開けて最後のひとり――二メートル五十センチはあろう巨漢。金色のメッシュが入った黒いオールバックに精悍な顔付きの彼は、黒とシルバーグレイを基調としたガウンと装束をまとっている。
筋骨隆々であるがいわゆる脳ミソまで筋肉で出来ていそうなタイプではなく、思慮深くどっしりと構えていそうなタイプと思われる。もちろんベルトのバックルは金色だ。
「ワーオ、オブシディアン! アナタも来てくれたんだー」
「当然だ。我ら『五戦騎』は五人そろってこそではないか」
オブシディアンと呼ばれた巨漢はマーガレットにあいさつすると彼女の隣に立つ。
――かくしてダークマスターの御前には右から順に、オブシディアン、マーガレット、ロギア、サリヴァン、マリエルが膝を突いた。
「オブシディアン、マーガレット、サリヴァン。遠方での任務ご苦労であった」
「ダークマスター様、我ら五戦騎――この世界に終焉をもたらすべくこれまで以上に尽力していきたいと思っております」
ついに、デミスの使徒最強の五戦騎が一同に介した。彼らとの戦いは今までのようにはいかないだろう。世界終焉への序曲が、今始まる。
ついにデミスの使徒最強の五人が集結しました。
しばらく更新休んじゃおうかなーっ←