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同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第19章 終焉(デミス)への序曲
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EPISODE375:禁じ手!! 花霞の幻影

 戦いは激化をきわめ、舞台はついに庁舎内から警視庁の外部へと飛び出した。まず、石河の攻撃を食らった市村と葛城が受け身を取り、次に外壁を内側からぶち抜いて不破が飛び出し、榊が彼の胸の真上にテレポートして思い切り踏みつけて急降下。轟音と土煙を上げて地面に大きな窪みが出来た。


「ケッケッケッケ! な〜〜にが『浪速の銃狂い』に『ナイト・オブ・ローゼス』だ、笑わせやがって! お前たちのようなチンピラと箱入り娘の女の子ちゃんなど、魔獣コカトリスのルーツたるシェイド、クックトリスと契約している俺様の敵ではないわ!」

「あかん、こいつの強さリッキィとは比べ物にならん!」

「あのシラーズなどよりもずっと強いわ!」

「おっと。俺をあのマヌケ面どもと一緒にしてもらっては困るな。ムカつくから目ェつぶしてやらあ!!」

「いけない目を閉じて!」


 先に戦って敗れたふたりと一緒にされたことに腹を立てた石河が、目からグレアリングフラッシャーを放つ。

 視界のみならず全神経に悪影響を及ぼしダメージを与えるこの技だが、放たれた閃光が網膜を通ることはない。わかりやすく言えば目を閉じればダメージは受けても視界は悪くならない、ということだ。


「ハッ! あいつどこ行った……次出てきたら、フライドチキンにッ!」

「ケエーッケケケ、俺様はここじゃあ〜〜〜〜!」

「石河ッ!?」

「まずはセオリー通り、さっきおかしな技で傷を癒していたお前からだぁ!」


 いつの間に上空から現れた石河はブレイクフックで葛城を乱れ打つ! 服が裂けた、肩が露出した、胸や太ももが見えた! 石河は思わずうっとりして攻撃の手を緩める。

 が、その間に市村がビームを乱射。更に足払いやゼロ距離からのチャージショットもかまされ、石河は電柱へ顔からぶつかった。


「あずみちゃんを石にはさせへん」

「ウギギ……石になれえ!」

「市村さん目を閉じて!」

「うっ……あ、あかん、間に合わ……へん……」


 憤慨した石河の目が突如として赤く光り、間近でそれを浴びてしまった市村の体が冷たい石となっていく。


「ああっ、市村さんが石に!」

「ケッケ! だから言ったろう、俺様に逆らったやつぁこうなるんだ! こうなって、こうなって、こうなるんじゃあ〜〜っ!!」


 石河はたったいま石に変えた市村の体を足蹴にし踏みつけた。もっと踏みつけ、もっともっと踏みつけた。

 ――もしや、あの男はこれまでにもああやって人々を石に変えてもてあそんできたのか? だとすればシェイド対策課関西支部を壊滅させたのはなおのことますます許せない。葛城はある決断を下そうとしていた。


「お前も石にしてやろうかあ!」

「誰がッ!」


 葛城は図に乗り出した石河のコカトリスペトロフラッシュを盾で防ぐ、そして――決心がついた。かつて母から教わったもその恐ろしさから自ら使うことを禁じていた、あの技(・・・)を使うときが。


「笑止な! 市村正史が石になり東條健がとんずらかました今の状況で女の子ちゃんひとりに何が出来る?」

「――どうやら禁じ手(・・・)を使うときが来たようね!」


 静かにくすぶる葛城は声をワンオクターブ低くして唐突に両手を広げた、かと思えば花びらが足元から彼女の頭上、そして周囲に円を描いて舞い散り、花霞を作り出した。


「フローリアンイリュージョン!」

「コケッ!?」


 普段の高貴であり高飛車、しかし生真面目で誠実な彼女からは想像もつかないドスの利いた声と凄まじい剣幕。花霞の中から飛び出してからのひと突きが石河を貫いた、その中に葛城は消える。――しかし、石河はまるでダメージをまるで受けていない。


「ケケケケ。こんな子供だましなど俺様には通用せんわ!」


 花霞が晴れた。向こうには石になった市村だけでなく、葛城やなぜか健の姿も。石河は下卑た笑みで残ったふたりを捉えた。


「おおーっ! いつの間にやら東條健が! この際不破ライは後回し、まとめて石になるがいいぜ! このコカトリスペトロフラッシュでなァ〜〜!」

「うぐ!」

「あ……ああああっ」


 石河の邪眼から放たれた赤い光が健と葛城に浴びせられる。苦悶の表情を浮かべながらふたりは石となっていった。

 これで残るは不破ライを倒し無能な警察を石にするだけ! 楽しい夢を見ているようだ、でも夢なら覚めないでほしい! ――石河は大いに喜び舞い上がった。しかし、何かがおかしい。都合よくことが運びすぎている。

 足の爪先に違和感を覚えたので見てみると――こともあろうか徐々に石となっていた。


「あぴっ!? あ、足が! て、手まで!」


 唐突な石化は足からだけでなく手からも始まっていた。まるで毒が回るように――。

 焦燥に駆られ顔がひきつり出した石河に追い討ちをかけんとばかりに、今度は石にされた三人の――目だけがギョロリ、と動き始めて、一斉に哀れな石河を見つめた。


「あぐ……お、お前ら……なぜ……!?」

「自分が石になっていく気分はどうだ?」

「今まで人を石に変えて命をもてあそんできた報いを受けなさい」

「や、やだ、石になりたくない! 俺は石になりたくない、そんなの……ウゲェエエアアアアアアアァ」


 絶叫する石河、そのとき――彼の体は完全に石となった。



「その顔――さぞや恐ろしい幻を見たんでしょうね」


 ――ところがどうしたことだろう、石河は白眼をむいて茫然と立ち尽くしているが石になってはいない。


「フローリアンイリュージョンは相手を花霞で惑わしてから神経に作用する突きを放ち、おぞましい幻を見せて相手の精神を砕く剣技――その恐ろしさゆえ自ら封印した『禁じ手』。既にあなたの神経はズタズタでしてよ」

「ぴっ……うぴぃああああ〜〜〜〜っ」


 そう、葛城が語ったように花びらが舞って花霞が作られ、突きが命中してからのすべての出来事は幻だった。あまりの恐怖から白眼をむいて汗を流したまま、石河は身動きがとれない。

 それだけには終わらない。今度は上空に太陽が――ふたつ。


「太陽がふたつ……今度は現実のようね」

「や……やめてくれえ! もうたくさんだあ!」


 指先でどつかれて倒れ込んだ石河がおびえ、静かなる怒りに震えていた葛城は微笑んだ。

 彼女自身もよく知る優しさと温かさ、勇気とオーラがそこにあったからだ。


「ほう……」

「あれはひょっとして、いや間違いなく!」


 思わず、不破と交戦中だった榊も手を休め空を見上げた。空で輝くそれがなんなのかは不破にもわかった。


「お待たせッ!」


 まるでもうひとつの太陽のごとくまばゆい輝きを放っていたのは――黄金色のエンペラーアーマーをまとい黄金龍の背に乗った健であった。

 彼は立ち上がると黄金龍――アルヴィーの背を勢いよく滑り、歯車のごとく回転しながら宙を舞う。さすれば白金の光の刃が無数に飛び交い、地上に落ちたものは地を走り石河と榊それぞれの方向へと向かう。


「ぐっへええええ〜〜!?」

「ふっ」


 結果石河は奇声を上げて壁に激突。榊は波紋のような電磁バリアーを作って光の刃を防いだ。


「健さん!」

「遅れてすまない! 来る途中で石にされた人たちを大勢見かけた、村上さんが言うにはあいつの――」


 微笑む葛城に事情を話す健。が、既にのびている石河を見かけてきょとんとする。


「って、もう終わってた?」

「いえ、まだみたいです!」


 それは唸り声か、恐怖にわななく声か? 神経をズタズタにされてもなお石河は体を震わせながら起き上がる。


「う……ううう〜〜っ、来るな、こっちに来るな! あっちに行けーーっ!」

「わっ!」


 石河はおびえているあまり健をバケモノだと思い込みグレアリングフラッシャーを放った。

 しかし健はとっさにミラーシールドでガード。まばゆい閃光は鏡に跳ね返されなんと、技を出した石河自身がそれを受けてしまった。

 石河の肉体に激痛が走り全神経に悪影響が及ぼされる! よって石河は必然的に目を押さえて苦しみ出した!


「ぎゃぴっ、ぎゃぴっ、ぎゃぴい〜〜〜〜! 目が、目がああああァ〜〜!!」

「今だ! 石河、人々や大切な仲間を石にしたお前には情けも容赦もいらない!!」


 エンペラーソードを掲げ、激しい怒りと闘志を燃やす健はエンペラーソードを投げた。回転しながら飛ぶエンペラーソードは石河にぶつかり、宙へ放り出す。そしてヘッドパーツを砕かれた石河は頭から地面へと落下する。


「うぎゃっぴいいーーーーっ!!」


 石河はしめやかに、無惨に爆発! 爆炎の中から飛び出た体は地面を転がり、コカトリスを模したエンドテクターは全壊した。


「あ……私、元に戻った!」

「やっと動ける!」


 同時に石にされた人々は元に戻り、先ほど石になった市村も元通り。


「やったぜ!」

「これでみんな元通りですわ!」

「おー、東條はん来てたんか!」

「市村さん!」

「あんたが石河をやったんか?」

「はい! だから元通り!」


 勝利の喜びを分かち合うふたり、そこに市村も混ざり簡単な状況解説も行われた。


「それにしてもさっきの技、なんという威力だったんでしょう。名付けて……サンバーンストライクフィニッシュ、とでも呼ぶべきかしら」

「えーっ! そんな大げさなっ」


 健が放った新たな技にも名前がつけられ、あとは丸く収まる――はずだった。


「健、肝心なことを忘れておらんか?」

「! そ、そうだ。まだ終わってない……」

「不破さんいわく、敵はひとりだけではないと……」

「気を付けろ、もう片方が来るぞ!」


 そう、敵は石河だけではない。榊がまだ残っていたのだ。死力を尽くして戦ったが次の相手は石河よりも遥かに――遥かに強い。



「ふっ、残念だがまだもうひとりいるぞ……」


 残り火が燃え盛る中、榊が健たちのすぐ近くへテレポートしてきた。その片手にはズタボロにされて血まみれの不破が――。


「ふ、不破さん!?」

「ま……まさかお前が!?」


 変わり果てた不破の姿に驚嘆する三人、鼻で笑う榊は不破を近くに放り捨てる。目を開けるのがやっとの不破は、うめきながらも三人へこう伝えた。


「す、すまん……みんな……」


 彼らの精神をえぐるように冷たい笑みを浮かべる榊、同時に健の体からエンペラーアーマーがはずされ、光のオーブはアルヴィーの体へ戻った。したがって剣と盾も元に戻り、健は著しい疲労からその場に崩れる。



「次はお前たちだ」


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