EPISODE374:勝利へ導け・三つの光明
「ケーッケッケ! 殺ったぜ、お前らを殺すことぐらいちょろいもんだ!」
「む……村上さん……」
石河が哄笑する中、宍戸をはじめとするオペレーターたちが村上に駆け寄る。血を流していて苦しそうだ。
「き、君たちは……逃げろ。退路を絶たれるその、前に」
「ですが村上さんひとりを放っておくわけには……」
「命令だっ!」
介抱されながら起き上がった村上は自分だけここに残る代わりに、宍戸たちオペレーターへ避難を命じた。
自分を放っておけない彼女らを一喝してまでだ、それだけ部下を思っている証拠。それが耳障りに感じたか石河は憤り、「うるさいんだよクソアマ〜〜!」と目を赤く光らせた。
「きゃあ!?」
「あ……ああ……っ!?」
「要、落合!? 宍戸!?」
石河が放ったコカトリスペトロフラッシュによって宍戸たちの体は石に! 嗚呼、石に! たとえメガネが無くとも、村上の目にはその悪夢のような光景が嫌というほど焼き付けられた。
「ケッケケケケ! 黙ってさえいりゃあカワイイ顔してるじゃねえか。前言撤回だ、気に入った! こいつらは俺様のコレクションに加えさせてもらおう!」
「コレクションだと……貴様、人の命をもてあそぶのがそんなに楽しいのか!?」
こんな悪魔の所業、許されるはずがない。怒る村上は拳銃を抜いて石河にその銃口を向け――数発、射撃した。
「絶対に許さない! この……人間のクズがッ!!」
「ケエーッ! 気に入らねえ、お前などコレクションにする価値もない!」
――弾かれた。エンドテクターの前には対シェイド用にカスタムした拳銃さえも通じない。わかっていたはずだが、それでも村上はあの悪魔を撃たずにはいられなかった。
石河は顔を歪めて憤りブレイクフックを飛ばして村上を切り裂く、更に対策課内の会議室へ吹っ飛ばした。
「死にたくなけりゃあパワードテクターの設計図を出せ!」
「誰がやるものか!」
「じゃあぶっ殺してやる! ひとつの肉片も残さずズタズタにしてなァ〜〜!」
目的のブツを渡すように脅迫するも除けられたため、石河は逆上しブレイクフックを振り上げる。村上は目をつむった。
そのときだ! 石河が片耳につけていた赤いサポーターアイのスクリーンに三つの点と対象のステータスを表す数値が映し出された。
「な、なんだ? 強力なエスパー反応がすぐ近くにある、警官どもはほとんどがとっくにズタボロのはずだぞ……」
血相を変えて驚く石河、村上は心当たりがあったか口元を綻ばせる。戸惑いながらも石河は村上を殺してしまおうと彼の首を掴み上げ、左手のブレイクフックを突き付けた。
「こりゃあ、助けが来るかも……な……」
「へっ誰も救援になど来るものか! 死ねえ!」
ところが、とどめを刺そうとした瞬間に石河の背後にビームが撃ち込まれ直後にキック、よろけたところにレイピアの乱れ突きや盾による殴打や渾身の体当たりが炸裂。
サポーターアイやエンドテクターの一部を壊す勢いで石河を突き飛ばしたのは――健に葛城あずみ、市村であった。健はカジュアルな格好で、葛城は上下をデニムにしてキメて来ており、市村はファー付きのジャケットやジーパンでかっこつけていた。
「き、貴様らは!」
「みなさん、ようやく……来てくれましたね……」
石河が目を点にして驚く一方村上は安堵の息を吐く。
「忌々しい『光の矢』め、また俺たちの邪魔をしに来やがったな!」
「わたくしたちは不破さんや村上さんから緊急で連絡を受けて、こちらへ来た次第です」
「それにお前らの悪さを止めんのがわしらの趣味!」
「デミスの使徒、覚悟はいいか!」
「やかましーい! グレアリングフラッシャー!」
「まずいわ!」
「みんな伏せて!」
健たちが啖呵を切ったことへ対し歯ぎしりしてから、石河は全身からまばゆい閃光を放った。
健と葛城はそれぞれ盾で激しいフラッシュを防ぎ、市村と村上はとっさに盾を持つふたりの後ろに伏せた。
「貴様らまとめて死ねやー!」
「お前がな!」
「お断りッ!」
フラッシュが収まると同時に石河がブレイクフックを振り上げて突撃してきた、健と市村はそれを斬撃とビームで迎え撃ち、その間に葛城は村上に駆け寄って癒しの芳香――アロマヒーリングを発動し、村上の傷を癒す。
「おー、傷が癒えた!」
「これで安心ですわ。……健さん!」
「あいよっ!」
健は石河の攻撃を剣で切り払って、互いに宙返りして葛城と交代。村上に寄り添った。
「僕は村上さんを安全なところへ連れていく! 葛城さんと市村さんは敵を!」
「はい!」
「任しとき!」
健は仲間ふたりにそう指示を出し、自身はエーテルセイバーに風のオーブをセット――風の力を借りてワープした。
「くそーッ! このままで帰れるか、貴様らの首だけでもいただくぞ!」
「へっ! 誰が差し出すか!」
「あなたこそ……お縄にかかりなさい!」
◆◇◆◇◆◇◆◇
一方の不破たちはシルバークラスのエスパーながら恐るべきステータスを誇る榊と、死闘を繰り広げている真っ只中であった。
戦場は見晴らしのよいホールへと移り、そこでも榊は不破たちを翻弄し――いいように痛め付けんとしていた。
「フッ。お前もなかなか粘るな」
「や、やっぱりつええ……だが策はある」
榊が目の前で腰に手を当て余裕を見せつけている。不破は、背後の戦闘班に混じっている葦原とアイコンタクトをかわし――宙返りして彼の近くに移動。イクスランサーを振り回し、前に構えた。
「アッシー! レールガンの弾は残ってるか?」
「はい、あと一発分撃てるだけのエネルギーなら残ってます」
うなずく葦原によればレールガンの弾は残っているという。不破はにやつき、気合いを入れはじめた。
「よーし、同時攻撃で行くぞ。オレが技を撃つと同時にレールガンを撃つんだ。同時にだぜ、いいな!」
「了解です!」
「フッ、何をしても無駄だということを身をもって教えてやる必要があるようだ」
不敵に笑う榊へ向けて、不破はイクスランサーの穂先に、葦原はレールガンにエネルギーを充填。
「みっつ数えるぞ。3……」
「2……」
「1!」
「「ゼロッ!!」」
不破の必殺技・サンダーストライクとレールガンの弾が同時に放たれた。標的は無論、榊。榊は目を見開き、両手を前に構える。
「当たれ! つらぬけえええええッ!!」
不破が力の限り叫ぶ! 全力のサンダーストライクとレールガンの最後の弾が両手を前に出して立ち尽くす榊へ、命中――
「なにい!?」
しなかった。榊は狂気をはらんだ笑みを浮かべ、サンダーストライクもレールガンの弾も両手を使い同時に受け止めていたのだ。それも小細工など一切使わずにだ。
一同は戦慄を覚え、榊は驚いている不破をもう片方の腕にパルスビームに使うためのエネルギーをまとわせたまま、手刀を放ちぶっ飛ばす。
「ぐわああああああッ!」
「ふ……不破さん!?」
柱をぶち抜いてから床に落とされる不破、次に榊は葦原の目の前にテレポート。レールガンを取り上げて見つめた。
「な、なにをする!」
「我々には数段劣るが、まあまあのテクノロジーじゃないか」
弾がなくなったレールガンを葦原に叩き付けて榊は、不破の胸を踏みつけた。
「さ、榊ィ〜〜ッ」
「おっと……」
踏まれながらも不破は、イクスランサーを榊へ向けて突き出す。が、榊は必要最小限の動きでかわし、イクスランサーを掴む。そして――右膝を貫いた。鮮血が吹き出し、血だまりが出来る。
「このランスとは相当長い間一緒に戦ってきたと見える。これで次は心臓を貫いてみるか」
「うぬーーっ」
榊は不破を蹴飛ばし、イクスランサーを投げつけて返却。テレポートすると、手をかざし――不破の体を浮かび上がらせた。
「ッ……体が勝手に、これは念動力!?」
「そのとおり――クリスクロスサンダー!!」
「おおおぉぉあああああああああああぁぁぁ!?」
「ぎゃああああああああァーー!!」
榊は目をカッと見開いて、念動力で浮かせた不破へ四方八方から稲妻を走らせ攻撃。それは葦原たちをも巻き込み焼き尽くした。
「ふっふっふ……」
榊は地面に落ちた不破へとどめを刺してやろうと、右腕をスパークさせパルスビームを撃つ準備に入った。
先ほど石河のもとにエスパー反応があったのをキャッチしていた彼女ではあるが、石河ならば東條健ら三人を相手にしても問題ない、自分は不破の相手に専念して、余裕が出来たら加勢しよう――と、判断を下していた。
どちらにせよ今の状況で榊が石河に加勢したら、苦戦は免れないし――最悪、健たちは状況を覆された挙句死に至るだろう。