EPISODE372:どうせみんな石になる! コカトリスの瞳
神戸で健たちがリッキィらと戦闘を繰り広げていたその頃、大阪府警・シェイド対策課関西支部にて――。不破ライはシェイド対策課・関西支部長と話し合っていた。
「赤星支部長、現在開発中のパワードテクターの件ですが……」
「日本全国の警察の技術者が警視庁に集められて作っとるっちゅうアレか?」
「はい」
関西支部の支部長を務める赤星――コワモテで体格も大きくぶっきらぼうな性格に加え、声にもドスが利いている男だ。しかし、根はやさしく面倒見のよい人物であるため、部下をはじめ周囲のものたちからは慕われていた。
「もしかして設計図かいな? それやったらお前と一緒に出張してきた葦原が持ってったぞ」
「葦原が? ありがとうございます!」
「それと婦警からも何人かプロジェクトに参加させとるからそこも心配すんな」
「重ね重ねありがとうございます!」
「ええってことよ」
赤星支部長に礼を告げた不破は、彼から告げられた通り葦原がいると思われるモニタールームへ足を運ぶ。
何を隠そう大阪府内にも、東京と同じように一万個近い隠しカメラが設置されているのである――。ここで、不破が探している人物――葦原が作業をしていた。
「こいつなかなかしっぽ見せないな、お前が万引きしようとしてんのはわかって……」
「よっ、アッシー!」
独り言を呟きながらコンビニの店内を映したモニターを見ていた葦原の背後から不破が声をかけ、彼は驚いて振り向く。
このアッシーこと、本名・葦原賢人は少しハネッ気のある赤毛とまあまあ整った顔、少し控えめな性格が特徴の草食系だ。
元々、科捜研にいたが昨年のクリスマスの後、その高い技術力を評価した警察幹部らによってシェイド対策課へヘッドハンティングされた経歴を持つ。まだまだ配属されたばかりの彼だが、今回は忙しい宍戸に変わって技術面で不破のサポートをするように村上から依頼を受け、共に府警へ出張してきたのである。
「な、なんだ不破さんか。おどかさないでくださいよー」
「ちょっと来い、話がある」
「え、いやちょっと待って!? ちょっとでいいですから!」
「なにメガネ外してたんだよー!?」
「ブルーライト浴びたくないんです!」
どこか嬉しそうな不破に引っ張られながらも、葦原はメガネを外して置いてから不破についていく。モニタールームから廊下へ出た不破は、その隅で葦原に詰め寄る。
「な、なんなんですこんなへんぴなところまで連れてきて!?」
「アッシー、君に話がある! 設計図のことだ!」
「せ、設計図? パワードテクターのですか?」
「支部長いわくお前が持ってるらしいじゃないか。いっぺん見せてみろ」
「ひッ! し、白峯博士から聞いてないんですか? あれはまだ仮の設計図であって採用するかどうかは上層部が調整・会議中だって……」
戸惑っている葦原がパワードテクターの設計図を持っていると断定、問い詰める不破だったが彼の口から採用するかどうかについてを聞いて怪訝な顔になり、葦原の肩から手を離した。
「そ、そうかい。責めちまったりなんかして悪かったな」
「ホッ」
「もどろうぜ」
と、胸を撫で下ろした葦原を連れて不破はモニタールームへ踵を返す。このときは彼のみならず、誰もがまさかあのようなことが起こるとは思いもしなかった。
不破が葦原とともにモニタールームへ戻ろうとした頃、執務室のガラスが割られ、煙幕弾が投げ込まれた。煙幕が執務室中に煙幕が広がり、警官たちは煙が目に染みて何も見えない。咳き込んで、更に身動きがとれない中――突如波動を伴うビームが放たれ、警官のひとりに命中。一瞬激しい電流が体内に走ってから、彼の体は――爆発した。
「うぎゃあああああ!?」
「た、たすけ……」
それだけでなく怯えていた警官が背後からワイヤーつきのカギ爪のようなもので胸を貫かれ、血を噴き出しながら息絶えた。
残った警官たちは逃げ出そうとしたが、その先でロボットの兵隊――マスプロイドに行く手を阻まれ、慈悲も心も持たぬ彼らの手によって皆殺しにされた。
「侵入者発見、侵入者発見! 戦えるものはただちに戦闘の用意を! 繰り返す、ただちに戦闘の用意を!」
「なにッ!? 葦原、安全なところに隠れとけ! あとはオレや戦闘班が片付ける!」
サイレンが廊下、いや関西支部内に鳴り響き、同時に侵入者が現れたことがアナウンスされた。不破は葦原に避難を促し、侵入者を撃退すべく廊下を駆ける。
そうしている間にも予期せぬ侵入者――デミスの使徒の魔手は支部内に広がり次々に警官たちは殺され中には血の海と化した区画も出てきた。
「石になれーッ!」
「うううぅぅぅ! か、からだが!?」
侵入者、その片割れである黄土色のニワトリとヘビを掛け合わせたような形状――つまり怪物・コカトリスを連想させるエンドテクターと赤いサポーターアイを身に付けた男の目が赤く不気味な光を放ち、バトルスーツを着用したひとりの警官の体が石になっていく。
「クケケケ、ゴミめ。お前ごとき俺様のコレクションに加える価値もない」
生気を感じぬ青白い肌に、頭頂部から左目にかけて大きな傷痕がある――不気味な外見のその男は、エンドテクターに付属したカギ爪フックを石となった警官へ向けて何度も叩き付け、削ぎ落とし、砕く。とどめに彼は残った頭を踏み砕いた。鼻を鳴らした彼の背後に、光を伴いながらもうひとりの侵入者――今度は女性が姿を現す。
右側に長い前髪が流れていて左側はベリーショートという、アシンメトリーな髪型だ。髪色はダークブルーで瞳は切れ長で赤色。これにより彼女のユニセックスな雰囲気がより引き立っている。
藍色をしたエンドテクターはハクトウワシを模した形状でスカート状のパーツがついており、比較的上位に位置していそうな雰囲気を漂わせている。ベルトのバックルは銀色、コカトリスのほうは銅だ。つまり、彼女のほうが石河よりもはるかに格上ということである。ちなみにサポーターアイは黄色だ。
「ケッケ、これは榊様! 派手にヤってこられたようで!」
「石河、パワードテクターとやらの設計図について知っているものだけは殺すな。肝に銘じておけ」
「ケケ、了解!」
「わかれば好きにしてよろしい」
榊と呼ばれた女は、猫背で中肉中背の平均的な体型をした石河を諌める。手をかざすと、榊は光線を放って石河を任意の場所――赤星支部長の部屋へ転送。彼女自身も関西支部内のどこかへへテレポートした。
「ケケケケケ。シェイド対策課・関西支部長の赤星だな?」
「な、なんやお前らは!?」
「俺はデミスの使徒、『邪眼のペトロマニア』石河よ!」
赤星のもとへ転送された石河はカギ爪を飛ばして赤星を攻撃、胸ぐらを掴む。
「貴様らが俺たちへ対抗するための兵器を作っていることはとっくに調べがついている! 設計図を渡せ!」
「そんなもん誰が渡すかい!」
業を煮やす石河は歯ぎしりし、赤星をぶつと「出さないならこのビルを、いや街を破壊し尽くすぞ!」と脅す。
「そこまでだ侵入者め!」
「コケッ!?」
侵入者の石河を止め、赤星の命を守るべく扉を強引に開けて不破たち戦闘班が突入。時間が無いため着られなかった不破以外は全員バトルスーツを装着しており、サブマシンガンやレールガン、ライフルなどで武装していた。
「そこのニワトリの出来損ない! ただちに赤星支部長から離れろ、でなければ撃つ!」
「ケケケ……、そうはいかない。こいつから聞き出さなければならないことがあるからな。パワードテクター……とか言ったか? それの設計図のありかだ!」
「! どこでそれを……?」
「さあな。お前らがやろうとしていることなど容易に想像がつくわ! ケッケッケッ」
張り詰めた空気の中で不敵に笑う、石河はカギ爪――ブレイクフックを赤星にあてがい人質にとった。弾除けにでもするつもりか。
「そういうわけだ! 離してほしけれは設計図を渡してもらおう!」
「――残念だがここにパワードテクターの設計図は無い」
「え?」
「これ以上教えてやるつもりはない。わかったらすぐさま武器を捨てて投降しろ!」
凛々しい不破の言葉にいきり立った石河は、「ケッケケケケーッ! 誰が投降などするかぁぁーッ!」と、ブレイクフックを振り回して不破に襲いかかる。
が、不破はランスをひと振りして石河を突き飛ばした。
「コカトリスペトロフラッシュ!」
「ぐえーっ!?」
「西脇ィ!?」
戦闘班のひとり、西脇に対し石河は目を赤く光らせ――彼を石に変えてしまった。
「くそっ! デミスの使徒め、よくも西脇を!」
「次に石にされたいヤツはどいつだあ!」
怒る不破たち、対する石河は狂喜する。石河から逃れようともがく赤星だが、エルボーを食らい黙らされた。
「ふふふ――我々のお目当てのものはすべて東京にあったのか。おもしろいことを聞かせてもらった」
唐突に冷酷で慈悲の無い女性の声が聴こえ出した、石河と不破たちの間に声の主――榊が姿を現す。
「女のエスパー……貴様もデミスの使徒か!?」
「いかにも、私は榊夕実。人呼んで『移り行くトランスポーター』だ」
榊は両手をスパークさせながら、不破たちの前で名乗りを上げる。
「ここに設計図がないとなれば用はない。だが手土産のひとつはいただいておきたいね」
「手土産……?」
「この関西支部は殲滅させてもらう。我らの目的はシェイド対策課の殲滅にあるのだからな!」
榊の手からパルスビームが放たれ、警察の紋章が描かれた垂れ幕を焼き尽くす。のみならず石河が目からコカトリスペトロフラッシュを放ち赤星を石化させた。
「赤星支部長ぉー!?」
「クッ! 貴様らああああああ!!」
「許さんぞ! 絶対に、絶対にいいいい!!」
逆上し発砲する戦闘班、不破は雄叫びを上げて榊に突撃し斬りかかる。榊は涼しい顔でそれを左手で受け止め、戦闘班に転送光線を放ち――どこかへと飛ばした。
「みんな!? 榊、いま何をした!」
「私が別の場所に飛ばしてやったのよ。今頃断崖絶壁にでも立っているんじゃないか?」
「く、くそう!」
「ふふッ」
榊は不破の斬撃をひらりとかわす、不破の背後から飛ばされた石河のブレイクフックが不破の背や肩を切り裂いた。
「トランサーボード――」
「!? な、なんだこれは」
榊の右手から青紫の光が放たれ、それは9×9マスのボードのような形をした陣形を作り出した。イクスランサーをかざして電撃を放つ不破だが、彼の体はトランサーボードの先に立つ榊から斜めに5マス離れた位置へ飛ばされた。
加速して振り切ろうとすれば、今度は支部長の部屋から屋外の高所へと飛ばされた。
「ど……どうなってる? どういうカラクリだ……」
「トランサーボードは、転送光線と同じで私が飛ばしたい場所へ相手を飛ばせる。その先のボードの範囲外であってもだ」
テレポートしてきた榊が不破の前に現れ、不敵な笑みとともに語る。不破は、沸き上がる怒りを抑えながら笑ってみせた。
「へ……、わざわざご親切に教えてくれるとはよほど自信がおありらしい!」
「む」
「覚悟しろ! ジャベリンシュート!」
不破は余裕を崩さぬ榊へ向かって稲妻をまとうイクスランサーを投げた、当たる寸前で榊はテレポート。イクスランサーをキャッチしたがきょとんとする不破の背後へ回った。
「バカな……」
「天国か地獄か。お前はどこへ行きたい?」
「悪いがどっちにも行くつもりはない……死神に、嫌われてるらしいんでね!」
「ではもう少し遊んでやろう」
榊は不破ごと屋外から会議室へテレポートし、ぶつかり合いをはじめる。石河も榊を追って加勢し、戦況は変わらず不破にとって不利だ。
「榊ィ!」
「おっと」
長机をまたいで攻撃を避ける榊、不破は榊へ長机を蹴飛ばすが榊は宙返りしながらパルスビームを数発撃って反撃。
「ぐわああああああああああ!?」
「グレアリングフラッシャー!!」
不破は爆風に煽られ、血しぶきとともに吹っ飛ぶ。長机を叩き割りながらも立ち上がる、が、しかしその前に立ちはだかる石河が全身からまばゆい閃光を放ち不破の目をくらませる。
「ううッ! 目が、目がアアアアアア!!」
それだけではない。石河のグレアリングフラッシャーは、急激にまばゆい閃光を放ち相手に浴びせることによって、視界だけでなく全身の神経に悪影響を及ぼし肉体的にも精神的にもダメージを与えるのだ! コワイ!
「く……こ、こいつら……つええッ」
「遊びは終わりだ。この関西支部を完膚なきまでに破壊する!」
「や、やめろ!!」
「安心しな、目がくらんだお前には何も見えないからな! ケェーッケッケ!!」
グレアリングフラッシャーの影響で目がくらんで苦痛にあえいでいる不破を嘲笑うように、榊はパルスビームを次々に放って会議室やほかの施設・区画を破壊。石河もまたマスプロイドやその隊長格――マスコマンダーを率いて破壊の限りを尽くした。
やがてシェイド対策課・関西支部は爆発と炎上を繰り返し跡形もなく崩壊、瓦礫の山と化した。その前に立つ榊と石河は不敵に笑っている。
「ふっ――まずは一段階。これより作戦を第二段階へと移行する」
「ケケッ、合点承知!」
作戦を第二段階――警視庁ならびシェイド対策課・本部の壊滅に移行した榊は、石河やマスプロイド部隊を伴って東京へとテレポートした。
ふたりがいなくなってから、瓦礫の中から傷と煤だらけの不破が這い出す。もう目は見えるようになっていたが、先に飛び込んできたのはこの惨劇の現場だった。
――みんな石にされてしまった。そのうち戦闘班のメンバーはどこかへと飛ばされた。くわえて、関西支部はご覧の有り様だ。石にされたものたちはヤツらがここを破壊する過程でその身を砕かれたことは察せずともわかる。
この分では葦原も恐らくヤツらに殺されて――。責任を感じ、歯をきしる不破の目からは悔し涙が流れた。
「……?」
ゴソゴソ、と、不破の近くで瓦礫がうごめく。誰かがいる! すぐにそこまで行き瓦礫をどかせば、なんと出てきたのは――葦原だ。
「アッシー! よかった、お前生きてたんだなあ!」
「ふ、不破さん……はい、なんとか生き残れました」
「お前のほかには誰かいないのか!?」
「それが僕以外はみんな石にされるか、殺されたかで――」
「そ、そうか……」
目をやられてハッキリとは見られなかったが、あの激しい攻撃だ。生き残れただけでも奇跡的――。守れなかった負い目から、不破は少し目を反らす。
「……このままくさってられない、みんなの無念を晴らそう。葦原、手伝ってくれるか?」
「はい。バズーカ砲ならなんとか持ち出してきました」
「おし、じゃあ行くぞ東京まで!」
「え、でもどうやって?」
「異次元空間通るんだよ、異次元空間!」
決意を固めた不破は葦原を連れて、パートナーである一角獣型のシェイド――イクスギャロップを呼び出し、彼を乗せて瓦礫の隙間へと飛び込んだ。もちろんバイクに『変形』させてからだ。
(――とはいえ、ヤツらは手強いし葦原だけじゃ心もとない。いざというときはあいつらに助けを求めよう)
――こうして、翌日彼らはシェイド対策課のメンバーを今度こそ守り抜くため、榊たちと死闘を繰り広げることとなるのである。