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同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第19章 終焉(デミス)への序曲
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EPISODE370:追跡中〜逃亡者を追い詰めろ〜

「とばりさんが言ってた通りだ、銃が二挺に増えてるっ!」

「へっへっへ! おかげさまで戦いも捗ってますわい」


 健と言葉を交わし豪快に笑い飛ばす市村。市村が加勢したことによってあえいでいる場合ではないと立ち直った女二人が、先ほどリッキィによってタコやイカに変えられた衣服のボタンやスカートの裾を投げ捨て立ち上がった。

 健は闘志を失わず、右手にエーテルセイバーを、左手にはワニのパペットに変えられたヘッダーシールドを持って、市村とともにリッキィを威嚇する。

 ――と、そこでワニのパペットが元のシールドの姿に戻った。リッキィがミキサーハンドによって人やものを別のものに変えられるのは一定時間のみのようだ。


「おっ、元に戻った」

(や……やべ……こうなったら)


 並び立つ四人の眼光がリッキィを捉える。こうなっては卑怯卑劣が売りのリッキィも、今や蛇ににらまれたカエルも同然。一歩、また一歩と足が後ろに下がり――。


「逃げるが勝ちィ〜〜!」

「待てリッキィ!」


 リッキィは一目散に逃げ出したのだった。ヤツは世界を終わらせようとしているデミスの使徒の一員、逃がしてなるものか。

 風のオーブをエーテルセイバーにセットし風の力を身に宿すと健は加速してから走り出す。続けてアルヴィーが白龍の姿となり、市村とまり子はその背に乗ってリッキィのあとを追う。

 卑劣だが逃げ腰な性格でもあるリッキィの逃げ足は、以外にも速かった。その健脚を持っていながらなぜ、陸上競技の選手にならなかったのか? と、疑問を抱きたくなるレベルだ。神戸の街中を逃げ回る彼が行き着いたのは、神戸中に張り巡らされた高速道路――その高架下だ。一息吐こうとしたら次の瞬間には、行き先を探り当てた健たちが飛び出してきてリッキィは腰を抜かした。

 怯えるリッキィへ健と市村は間髪入れずに容赦なく斬撃やビームを浴びせ、圧倒。厄介な能力の持ち主ではあるがどうやら、直接的な戦闘能力はさほどではないらしい。


「じっとしてろ!」

「ひィ!! く、来んな、さわんな!!」


 また逃げようとしているリッキィは健と市村を振り払って抵抗する。

 二人が攻撃を当てやすくするために人間態に戻り掴みかかったアルヴィーを必死に振りほどいて、リッキィは再び逃走を開始。その直前、まり子は手を伸ばして――なにかを飛ばしていた。


「またか! なんちゅう速さや!」

「速さならこっちが上だ、逃がすか!」

「二人とも待って!」


 逃げてばかりでまともに戦おうともしないリッキィに業を煮やした健と市村をまり子が呼び止める。


「そんなにあわてなくてもいい。さっきわたしの卷属を一匹、あの人の体にくっつけたわ。それを発信器がわりにすれば見つけるのは簡単よ」

「発信器……」

「あの逃げ足の速さだ、追いつくだけでも労力をするゆえ、なるべく力を温存しておきたいだろう?」

「そら、そうやね。見失ったらかなんで」

「発信器となった子グモの反応をたどった先に敵がいる。見つけ次第叩きのめして、悔い改めさせてやろう」


 アルヴィーとまり子が作戦を説明したところで、まり子は――小さいクモに姿を変えて健の服の襟に飛び込んだ。


「ホントのわたしはでっかいクモなんだけど、手のひらサイズのほうがなにかと便利でしょっ」

「……わざわざそうする必要あった? 人の姿のままでもよかったんでない?」

「気にしない気にしない♪」


 まり子以外が苦笑いしたが、かくしてリッキィ追跡作戦が開始された。――補足しておくと別に、人間の姿でもリッキィの居場所は感知できたのだが、移動面がなにかと不便であったのと情報をより迅速に伝えるためクモになったのだ。



「フーッ! ここまでくりゃあ、大丈夫だよな」

「そこだなリッキィ!」

「じぇじぇェェ!?」


 健たちは早速、リッキィが逃げ込んだ先である王子動物園へ直行、斬りかかって転倒させた。


「ふ、不法入園だ! 出てけ!」

「そっちがね!」


 健と市村がいちゃもんをつけてきたリッキィを攻撃、リッキィはベンチを鉄骨に変えて投げつけて反撃。

 健は鉄骨を斬って真っ二つにしたがリッキィには逃げられてしまった。三人は苦虫を噛み潰した顔を浮かべたが、健のうなじを伝ってまり子が健の頭の上に出た。


「リッキィは神戸フラワーパークに逃げたわ!」


 まり子が言った通りに健たちは神戸フラワーパークへ瞬間移動、花畑の付近に潜んでいたリッキィを攻撃する。

 リッキィはまたも逃走し、健たちにイライラを募らせていく。


「次は南京街よ!」


 続いてリッキィが逃げ込んだのは神戸が誇る中華街・南京街だ。


「逃げんなや!」

「げェ! なんでわかったんだ!?」


 瞬間移動で南京街へ移動した一同、市村はリッキィを発見したとたんにビームを乱射しリッキィに著しいダメージを与える。更にアルヴィーが腹部に鉄拳をぶちかまし、健が背後から飛び蹴りをお見舞いした。リッキィは目玉が飛び出すほどのダメージと衝撃を受けた。


「こ、これでも食らえェー!」

「わっ!」

「あたっ……」

「グエー!?」


 焦燥に駆られるリッキィはバケツを鉄球に変えると一同へ向かって投擲。健とアルヴィーは紙一重で避けたものの市村は避けきれず顔面に直撃してしまい、激痛のあまり表情を歪めた。

 その上リッキィには、またまた逃げられてしまった。


「ちきしょ〜、あいつの辞書に『正々堂々戦う』っちゅう言葉は無いんかい!」

「普通の辞書には『正々堂々』までしか載ってません! それよりまりちゃんあいつどこ行った?」

「トリンビアパーク神戸の付近!」

「よーし、次こそブッ飛ばす!」


 まり子からリッキィの行き先を聞いた一同はトリンビアパーク神戸――酉麟麦酒(トリンビール)工場付近にワープ、パイプが入り組んでスチームが噴き出す工場の敷地へワープした。


「そこだろリッキィィィィイイイ!!」

「すわ!? しつけえな、いつまで追っかけてくるつもりだッ」


 長い間走ったり隙間から異空間へ入って瞬間移動を繰り返していたために疲労が蓄積していたリッキィを、瞬間移動で追い付いた健たちが容赦なくパンチやキックに斬撃、ビームの弾幕で襲いかかる。リッキィはようやく反撃する気になったか右手の巻き貝型の武器を回転させビームを乱射した。


「くたばりやがれ、スピンガトリング!」


 リッキィが放った必殺技から仲間をかばおうと、健がとっさにヘッダーシールドを構えて前に飛び出す。


「ケヒャヒャヒャ、これでお前らも蜂の巣に……!?」


 いやしく笑うリッキィ。しかしヘッダーシールドの防御力はスピンガトリングを凌いでおり、健たちは無傷。盾から硝煙が上がっているだけだ。


「な、なにィー!?」

「覚悟しろ!」


 健が左手をかざして真空波を放ち、市村は後押しするように極大のビーム弾を撃ってリッキィに攻撃。

 宙に舞ってから木に打ち付けられると同時にエンドテクターのヘッドパーツが吹き飛び、顔の右半分が露となった。ピンクの小型電子スクリーン――アイサポーターは右目につけられていたようだ。


「クソッ! こんなヤツら相手にしてられるかよ!」


 起き上がったリッキィの体はひどく震えており、またも逃げ腰になった彼はガトリング射撃を放って地面に放って健たちを足止めすると木陰に潜って逃走。健たちは唸りあるいは舌打ちする。


「まりちゃん、リッキィどこ!?」

「落ち着いて。彼は神戸空港に逃げたみたい」

「さすがの私もこれ以上は我慢ならん。次こそリッキィを追い詰めなくては」


 まり子からリッキィが神戸空港に逃げたことを聞いた三人は、神戸空港へとテレポート。

 国外へと高飛びされてはまずい、ヤツが特殊能力を悪用したら何をしでかすかわからない。――止めねば。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆



 神戸空港――滑走路と外を分け隔てるフェンスの付近で、逃げすぎですっかり走り疲れたリッキィが腰を下ろして一服していた。

 正直、胃がもたない。思ってた以上に強すぎる。まさか東條健も市村正史も、自分たちブロンズクラスはおろか、シルバークラスに、いや――ゴールドクラスにも(・・・・・・・・・)匹敵する実力者だとは予想もしなかった。

 早いところ本部へ帰還しよう。と、リッキィは思っていたが現実は非情にもヒーローたちを呼び寄せた。


「そこまでだ!」

「ひええええェーー!?」


 なんと、リッキィの真下から健たち三人が白龍と化したアルヴィーに乗ってリッキィを吹っ飛ばしながら現れたではないか。

 リッキィは怯えてフェンスにしがみつきながら、足をふらつかせて逃げようとする。しかしリッキィをにらんでいる一同の眼光はこれまで以上に鋭く威圧的なものとなっている。


「観念せいやこのヤドカリ野郎」

「や、やなこった……」


 二挺のブロックバスターを構えて迫る市村から、リッキィは行き止まりのフェンスの一部を変えて逃亡を図ったがその先には健と人間に戻ったアルヴィーがテレポートで先回りしており行く手を阻まれた。

 隙間や影から逃げようにも本部に帰還するまで体力が持つかわからない。詰んだ。


「もう逃がさないぜ……」

「ひいィィ」


 このままリッキィにとどめを刺すかと思われた瞬間、健たちはどこからともなく銃撃を受け、飛び空からは鋭いエネルギー弾の雨が降り注いだ!

 健たちが銃撃が放たれた方向に振り向くと、そこには銃撃手のデルタゴーレムと、健たちはまだ知らない青や白にピンクを基調とした女アンドロイド――サイが陽炎の向こうから歩いてきた。


「生体エネルギー反応アリ――」

「デルタゴーレム!? もう片方は……女の子型かっ!?」

「ワタシの名はセクレタリーノイド・Ψ(サイ)。死に行く前に、その身に刻みなさい」

「デミスの使徒に仇なすものは、撃滅! 殲滅! 絶滅させる!!」


 デルタがお決まりの口上を述べればサイがウィングユニットを展開させて空へと舞い上がり、追尾式のエネルギー弾を射出。

 「助かったあ!」と叫びながらデルタに駆け寄るリッキィを健は追うが、当然デルタはそれを許さず銃を乱射し更に左膝からミサイルを発射! 健は爆風にあおられ吹っ飛ばされた。


「リッキィ様、我々が馳せ参じましたからにはもう安心です」

「ワタシたちがリッキィ様に変わって奴らを排除いたします」

「よ、よーし、それなら……行けっマスプロイドォ!」


 二体のメカ生命体に守られて安心しきったリッキィが乾電池型のカプセルを投げれば、カプセルが割れて大量のマスプロイドが飛び出した。しかし隊長(リーダー)マスプロイドはいない。


「この俺を敵に回したのが間違いだったのさ! お前らはそいつらと遊んでろ!」

「くっ……デルタとロボット兵はともかく、ああも人間の女の子にそっくりだと……」

「落ち着け東條はん、躊躇してたらあかん」

「気持ちはわかるが、見た目は人間のおなごそのまんまとはいえヤツもまたメカ生命体。ためらえば死ぬぞ」

「そう、だよな。やるしかないんだよな……!」

「もし手を出せないっていうなら、あのお人形はシロちゃんに任せてお兄ちゃんはリッキィと三角のロボットを倒すのに集中してもいいのよ」


 女性には手を上げない主義ゆえに一瞬躊躇した健であったが、市村とアルヴィーから激励を受け決心する。

 まり子からもフォローを受けた健はうなずき、既に銃口を向けていた市村に遅れてエーテルセイバーの切っ先を向けた。


「うるさいやつらめ! 殺れ、お前たち!」


 リッキィに命じられるままデルタとサイ、マスプロイド部隊が駆け出す。健は風のオーブの力で加速しマスプロイドたちの中を突き抜け、すれちがい様にその約半数を撃破し爆炎を巻き起こす。一気に本丸を叩きに向かう。リッキィはすぐに余裕をなくし歯ぎしりする。


「クソッ! クソッ、クソッ、クソーッ!! なんなんだよお前はァ!!」

「悪をくじき弱きを守るものだ!」


 リッキィの腹に鋭い蹴りを叩き込み、盾で下半身から顎にかけてを殴打して袈裟斬りを繰り出す。

 一方の市村は残ったマスプロイドとデルタを相手に、二挺のブロックバスターを乱射して奮闘していた。


「オラオラ、気合いが足りんぞ! そんな程度では相手にもならん!!」

「汚ならしい! 失せろ、失せろオリジナル(・・・・・)!!」

「ほう、お前俺のコピーやったんけ!? こんなんにパクられるとは俺も落ちてもうたのう!!」

「では貴様から蜂の巣にしてやる!」


 激しく弾を撃ち合う中でデルタとマスプロイドに囲まれるも、市村はデルタにムーンサルトキックを放ちながら同時に発砲し、周囲の敵を蹴散らす。あっという間にマスプロイド部隊は全滅した。


「やはり強いな……」

「サイとやら、降りてこい」


 空を高速で飛び回るサイへ、アルヴィーは右手から蒼い炎を放ち攻撃。一発目はかわされたが二発目はかすり、三度目の正直でクリーンヒットしサイは緊急で地上に降り立つ。

 サイがアルヴィーからの攻撃で受けたダメージは再生していない(・・・・・)


「どうやら自己修復は出来ぬようだな!」

「その代わりに優れた機動力を授かったのだ!」


 サイは肩に刺していた青色の柄にピンクのスラッとした刀身を持つ銃剣――サイブラスターを抜き、ウィングユニット付属のブースターを稼働させ超スピードでアルヴィーに接近。

 アルヴィーの表情には一片の焦りも見られず、研ぎ澄まされていてまったく動じない。サイはアルヴィーを周囲を回って撹乱してから斬りかかる、アルヴィーの瞳孔はサイをしっかりと捉え――武骨な龍の爪に変えた右手でアッパーカットを繰り出した。


「見切った! セイ、ヤァァ!!」

「くっ!?」


 サイの体にアッパーカットはしっかりと叩き込まれ、地上に激しく打ち付けられる。ボディの各部を損傷した。


「お主のようにすばやく動き回るタイプに対しては下手に動くよりも相手の攻撃を待ってから攻撃したほうが当てやすい。それに――」


 肩で息をしているサイへ、アルヴィーは真顔で吹雪を放つ。サイの足が凍り付き飛び立てなくなった。


「こうすればより確実だッ!!」

「うわああああああああああああ――――ッ」


 凍ったところにアルヴィーの鋭い回し蹴りが炸裂、サイの体は宙に放り出されコンテナが積み上げられた貨物ターミナルへと落下した。


「オラオラオラオラアアアアァァァァ!!」

「グオアアアアアアアァ!!」

「うおりゃあああああああ!!」

「げひゃあああああああァ!?」


 同じタイミングで市村がデルタを、健はリッキィを吹っ飛ばし彼らも貨物ターミナルの付近へと場所を移した。追い詰めたつもりが逆に追い詰められ、リッキィらデミスの使徒は窮地に立たされた。

 健は土のオーブを剣にセットして気合いを溜め、市村は二挺のブロックバスターにエネルギーを充填、アルヴィーは腰を落とし右腕を前に構えて気合いを入れた。まり子は健にくっつきながら三人に念力でエネルギーを分け与え補助した。


「アースフューリー!」

「ダブルチャージショット!」

「ドラゴニックフレア!」


 三者三列、それぞれの必殺技が悪党どもにとどめを刺す!



 いつもなら(・・・・・)そうなるはずであった。



「「「「!?」」」」


 必殺技がリッキィらに当たる一瞬の間に空から閃光が落ち、攻撃を――遮ったのだ。煙が晴れると、閃光に乗って現れた者が姿を見せた。

 その者は薄緑、水色、紫といった色とりどりの宝石状のパーツがゴテゴテしない程度に散りばめられた濃いブルーのエンドテクターを身に付け、薄緑色の逆立った長髪、切れ長の紫の瞳に整った顔立ちをしており、左目には青いサポーターアイをつけていた。

 必殺技を受け止めたとされる左手からは硝煙が上がっているが無傷だ。ベルトのバックルはデザイン自体はリッキィらと同じだが、色は銀色――つまり彼らよりもランクが上ということだ。周りのコンクリートは必殺技を受け止めた影響か三日月の形にえぐれている。


「な、何者だッ!?」

「――ワタシはシルバークラス、『水晶鉱脈の軍神』クライスト。以後お見知りおきを」


 動揺する健の問いに、薄緑の髪の男――クライストは余裕の笑みと低音の美声とともに名乗りを上げた。

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