EPISODE369:神戸・イッチー捜索の旅
それからというもの日を改めて健たちは風のオーブを力を借り、神戸の三ノ宮駅周辺に降り立った。
京都や大阪と同じかそれ以上ににぎやかで、人混みが苦手なものには耐えがたいものがある。しかし健たちにとっては気にならなかった。東條健は、むしろこういうにぎわったところが好きな男だからだ。
「建ち並ぶビル! 山と海に囲まれた地形! そして全体的に漂うこのオシャレな雰囲気! 神戸、キターッ!」
嬉しいあまり健はいきなり叫び出す。しゃがんでから立ち上がって、両腕を大きく上げるという力の入りようだ。いぶかしがるアルヴィーはそれを咎めようとまず健の肩を叩く。
「健、私たちは遊びに来たんじゃないぞ。たこ焼き屋の市村を探しに来たんだ」
「いやあ、それはわかってたけど神戸に来んの中三のときの修学旅行以来だから、つい」
ため息を吐いてアルヴィーは「やれやれ、仕方のないヤツよな」と呆れた笑顔で呟く。
「そんなのいいから、早く探検がてら市村さん探そ!」
まり子のその一言を皮切りに、市村の捜索――という名の実質神戸観光が始まった。
「おーっ! 跳ねたぞ!」
「しかもくぐったぁ!」
たとえば、須磨まで行って水族館でイルカショーを見たり、
「中華まんウマかったねー!」
「あそこの唐揚げおいしそう、次あそこにしよ!」
「私は回鍋肉が食べたいの――」
中華街――南京街で食べ歩きを楽しんだり、
「イエーイ♪」
「いい笑顔だ。まだ撮るか?」
「もち!!」
とある駅の前にそびえ立つ巨大な鉄人を前に記念撮影を行ったり、
「ハッハッハッハーイ! 気分はライダー!」
「そっちもよいが水上バイクもなかなかのもんだぞ」
「フフッ、いいじゃないここー!」
カワサキワールドという、車やバイク、ロケットに電車や船といった様々な乗り物がほぼ実物大で展示されている博物館で遊んだり、神戸が誇る名物のひとつ・そば飯を食べたりと彼らは大いに楽しんだ。
楽しんだはよかったのだが――肝心の探し者が見つからない。電話をかけてもつながらないという始末だ。となればあとはなるようになるのを待つしか、他にはない。
「のぅ、二人とも。付き合ってしまった私も私だが、そろそろ真剣にたこ焼き屋を探してみないか?」
「そうしたいのは山々だけど電話つながんないしなあ」
「さっきはたまたま忙しくて出れなかっただけとかじゃない? 今なら通じるでしょ」
「こういう場面で便利な文明の機器を使わんでどうする。宝の持ち腐れもいいとこだぞ」
「よ、よーし。確かに二人のいう通りだ、かけてみるか」
陽射しの暖かい昼ごろ、神戸メリケンパークオリエンタルホテルを臨む海辺の公園に佇んでいた一同、健はまり子とアルヴィーから念を押され再び市村に電話をかけてみることにする。
アドレス帳から電話番号を選択した。つないでみた。今度こそ、と、一同は期待に胸を躍らせる。――結果、またも応答なしだ。「なーんだ、またか……」と健は落胆、あとの二人も首をかしげる。しかし三人には気に病んでいる時間などなかった――。
「ひょええええッ! お、お〜た〜す〜け〜〜〜〜ッ!」
「! シェイドか!?」
平和な神戸の街にシェイドが出たのか!? 悲鳴を聴いて健は至急シェイドサーチャーを確認。
――ところが、反応していない《・・・・・・・》。
「反応がない、ということは――デミスの使徒か! アルヴィー、まり子、行くぞ!」
「うむ!」
「はーい」
ヒーローに欠かせないスキルである超速理解で状況を理解した健は、二人を連れて悲鳴が聴こえた方角へ。
直行すればそこには、色が違う個体を先頭に隊列をなした機械の兵隊――マスプロイドたちがひとりの気弱そうな青年を追い詰めていたではないか。
マスプロイドたちは全員、メイスや鉈、ブーメランや斧などで武装している。放置しておけば言うまでもなく青年は殺されるだろう。
「クックックッ……。モウ逃ゲラレンゾ」
「ひ……た、助けて! なんでもする、だから命ばかりは!」
「ナンデモスルッテ? ジャア死ネ!!」
マスプロイドたちを率いていた、他とは色が違うリーダーに当たる個体が青年に鉈を振りかざす。
首が切り落とされる――その寸前に駆けつけた健が横から突っ込んで隊長マスプロイドをぶっ飛ばした。同じく駆けつけたアルヴィーの蒼い火炎と、まり子の放った念動波が隊長以下の数体も吹き飛ばす。
「ケガはないですか?」
「は、はひぃ」
「下がって。あとは僕たちがなんとかします!」
襲われていた青年を後ろに下がらせ、健はマスプロイドたちをにらんで長剣エーテルセイバーを向けて、挑発。
先ほど健に突き飛ばされた隊長マスプロイドは立ち上がり、「ヤツヲ殺セ!!」とノイズの混じった声で叫び号令を出した。
「ガガー!」
「セイ、ヤー! タアッ!」
自分に向かって突撃してきたマスプロイドたちを、健は斜め、横一文字、更に両手持ちからの振り下ろしを炸裂させ先頭にいた個体を一刀両断。
おまけに衝撃波もお見舞いして後ろにいた五、六体のマスプロイドも撃破。爆炎の中にマスプロイドたちは消えた。
アルヴィーも負けてはおらず回し蹴りでマスプロイド一体の頭を蹴飛ばし、更に別の個体の体を持ち上げてアルゼンチンバックブリーカーを決めた。おまけにまた違う個体の頭をわしづかみにして地面にこすり付けた上、群れているマスプロイドたちのもとへ放り投げまとめてなぎ倒した。
「失せろ!」
「ガー!?」
まり子は念力で難なく、マスプロイドたちをもてあそんだ上で念力のみで対象を爆発させた。
その間に健は隊長マスプロイドと一対一の勝負に持ち込んでいた。
「そら!」
「グヌヌヌ……」
「お前、ほかよりちょっと強いな!」
「ヤカマシイ!」
「わっ……と、っと!」
挑発して余裕を見せながら隊長マスプロイドが振るうブレードを盾で弾き、怯ませたところにひと突き、続けて両手持ちからの振り下ろし攻撃、とどめは回転斬りだ。
一年間戦ってきた中で経験を積み重ね、磨き上げてきた健のパワーとテクニックを前に隊長マスプロイドは手も足も出ず爆散し、物言わぬクズ鉄と化した。同じタイミングで残る二人もほかのマスプロイドを全滅させたようである。
「もう大丈夫です。敵はみんなやっつけました」
「あ、ありがとうごぜぇますぅ……」
気弱そうな青年が立ち上がり、優しく呼びかける健たちに礼を告げる。
「なんつってなあ!!」
「ウワッ」
――かに見えたその瞬間、青年は不気味に笑いながら健の顔を平手打ち! 油断していた健は一瞬よろけたがすぐさまアルヴィーとまり子に支えられ片目をつむって青年をにらんだ。
「ケヒャーッヒャヒャヒャ! 甘ェなあ、甘ェよ東條健ゥ〜〜」
「あなた、もしかして!」
いやらしく笑う青年は着ていた服を脱ぎ捨て、その下からは、なんと――巻き貝の特性を有したエンドテクターが露になった。色は赤と青のツートンカラーで、ヘッドパーツは顔の右半分が隠れた形となっている。両肩から両胸にかけ、それぞれコードも巡っている。
更にこの青年よく見ると虫っぽい顔をしており、その卑劣でいやらしい性格が表に出ていた。
「俺はブロンズクラス、『万物を作り替える者』リッキィ! 貴様らを粉々にしてやるわっ!!」
「くっ、デミスの使徒だったのか!」
名乗りを上げたリッキィは健に殴りかかる。が、健は盾で防いだ。もっともこの程度のパンチなどまともに食らったところで大したダメージにはならない。
しかし次の瞬間、盾がもぞもぞとうごめいて光り、なんとワニのパペットに変わったではないか。
「なんだこれは!?」
「俺をそこらのザコと一緒にするなよ。俺がこの手でさわったものは別のものに変わるのさ! クーックックッ!」
一見、大したことがなさそうに見えるリッキィの能力は――『ミキサーハンド』。
手に触れたものの原子や遺伝子などを組み換えて自動的に別のものに変えることが可能だ。
たとえ使い手が貧弱だったとしても、この能力の使い方次第によっては十分に脅威となりうる。
「これで貴様の防御力はゼロ! リッキィ様の敵ではなーい!」
「くっ!?」
右手に巻き貝のドリルのような武器を装着して、リッキィは健へ攻撃。足払いもかけられて健は転んだ。
「この……ッ!?」
「ヒョー! でかくてやわらかい!」
「ううーーっ」
「お兄ちゃんから離れなさい!」
「お前もいいケツしてるなあ!」
「やっ……!?」
リッキィは健を援護すべく攻撃に出たアルヴィーとまり子には胸や尻などをさわるという度しがたい行為をした上、服のボタンやスカートの裾がタコやイカに変えた。
胸や尻に触手が絡み付き、二人は悶絶! 健はこの状況で鼻息を荒くするが、今はそんな場合ではないと誘惑を振り切った。だが視線がつい女二人に向いてしまう。
「きっ、きたねーぞ!」
「ハッハッハッハーイ! どうだい、恐れ入ったかあ!!」
そのときだ。すばやい射撃がアルヴィーとまり子の体を傷付けずタコとイカだけを撃ち、更にリッキィの急所を撃ち抜いた。突然の奇襲攻撃に驚きを隠せぬリッキィの前に現れたのは、二挺の大型銃を構えた青髪の若い男性だ。
「ま……まさか貴様は……!」
「あ、あなたは……」
「浪速の銃狂い!?」
「市村さん!!」
「「たこ焼き屋!?」」
リッキィも含んだ一同が驚き、声を大にして叫ぶ。
「さっきから黙って聞いてたけどなあ、確かにこいつは甘い。アマアマやけどよお、わしにとってはお前のほうがよっぽど気に入らん」
鋭い眼光を光らせた市村が握る二挺のブロックバスターの銃口は、どちらもリッキィに向けられた。