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同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第19章 終焉(デミス)への序曲
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EPISODE368:確実な手がかりを


 家に戻った健たちは訓練や趣味、今後のことについて考えるなどして過ごした。残るは不破と市村。不破はまだ、しばらく関西にいるしパワードテクターに関するプロジェクトについては知っているだろう。よって後回しだ。

 問題は市村だ。あれから忙しいのかなかなか連絡が取れない。顔を合わせたのはネザーワールドへ乗り込み、ともにカイザークロノスを討ち取ったときが最後だ。

 いま彼はいったいどこにいるというのだろうか。思い思いに過ごしながらも健はずっとそう考えていた――。



 そうして夜が明けた。


「もしもし、市村さん。もしもーし」


 朝方、早速市村へ電話を入れてみた健だが何も返事は返ってこない。返ってきたのは留守電のメッセージだけだ。


「こんな朝からどうした、健?」

「市村さんと連絡がつかないの。パワードテクターとかのこと話したいのに」

「ふーむ。それは困ったの」

「もしかして既に……いやいや。んなわけないな、彼に限って」


 朝食を摂りながら、健は「市村は息絶えているのでは」と、あらぬ想像をしてしまう。

 しかしそんなことばかり考えていては、せっかく作った目玉焼きとソーセージ、それから麦ごはんとカップ麺が喉を通らない。

 気持ちを切り替えて、ソーセージを噛んだら肉汁が飛び出してきて、これが熱い。目玉焼きは黄身がトロトロとしていて柔らかく、この食感がたまらない。

 それらと一緒に麦ごはんを食べたらこれまた絶妙な味がして、我ながらこれも母から料理を教わった賜物か、と、健は感激した。ほかの二人もあまりのウマさに、「ウマい!」「やっぱりおいしーい!」と、歓喜していた。なおカップ麺はいつも通りの味がした模様。


「今井さん、『いちむら』ってたこ焼き屋ありましたよね? だいぶ前にアサガオ公園に停まってましたけどあれからどこかで見かけませんでしたか?」

「いえー、わたし見てません」

「そうでしたか、ありがとうございました。時に浅田さん、『いちむら』さんどっかで見かけませんでしたか?」

「ごめーん。あたしも見てないなあ」

「ありがとうございます。ジェシーさん、『いちむら』さんってたこ焼きの屋台お見かけしませんでしたか?」

「それだったら私も見てないわ。お役に立てなくてごめんなさいね〜」

「いえいえ。三人ともご協力、ありがとうございました!」

「『いちむら』さん、見つかるといいですね〜」


 バイト先の昼休み、健はOL三人娘をおもな対象として聞き込みを始めた。聞きたいことはもちろん市村の手がかりだ。

 しかし残念ながら三人とも見かけていないようで、健は手がかりを得られなかった。


「フッフッフッ……。テキ屋じャなイケど美男子ナらココニいるヨォ」

「はっはっはっは。係長いい歳して何言っちゃってんですかー」

「シャラップ! 給料下ゲッぞ!」

「うっぷす!」



 ◆◇◆◇◆◇◆◇



「みゆき、市村さん見なかった?」

「見てないよー」

「そっか……」


 雨が降り注ぐバイトからの帰り、ファミレス『トワイライト』に寄った健はまだ勤務中のみゆきに市村の行方を訊ねた。彼女も知らなかったようで、健は落胆。

 気分を直そうと、注文していたミックスグリルに食指を伸ばした。ハンバーグだけでなくコーンやマッシュポテトまでついていて、贅沢すぎる逸品だ。


「じゃ、仕事戻るね」

「うん。ありがとう」



「なかなか見つけらんないなあ、手がかり」


 トワイライトを出た健は傘を差して雨が降り続いている中を歩く。

 雨音はけたたましいが日常の雑音と比べたら、まだ聴いていて落ち着けるほうだ。しかし今は冬場、冬に降る雨は冷たい。雪よりはマシかもしれないがそれでも冷たい。

 なにか体が温まるものはないか? ファミレスで夕食を済ませた直後なのだが、健はコンビニに立ち寄ってホットコーヒーかホットなお茶でも買おうと考えた。入る前に軒下で雨宿りしながら、葛城に電話を入れる。


「もしもし葛城さん?」

「健さんですか? どのようなご用件でしょうか」

「市村さん見てない? なにか連絡あった?」

「いいえ、とくには……。もしやあれから、市村さんとはお会いしていらっしゃらないんですか?」

「そうなんだよー。そっちもクリスマスパーティー以来音沙汰なしだったんだね」

「なるほど。ということはわたくしたちに顔を合わせている余裕がないんでしょうね」

「ごめんね、忙しいところに電話入れちゃって。またね」

「はーい」


 葛城との通話が終わり、健はコンビニの中に入った。温まるコーヒーはしっかり買ったが、さすがにエロ本は買わなかったようである。



「本当に市村さんどこ行っちゃったんだろうなあ……」


 ホットな缶コーヒーを飲み干して、ちゃんとゴミ箱に捨てた健は再び傘を差して帰路に着く。市村のことが気がかりだ。誰か、彼の行方を知る者はいないのか。アルヴィーとまり子に作ってやる晩のおかずはどうしようか。悩み、考えながら雨の中を歩く。

 ここでもし市村の行方を知っている誰かが出てきてくれたら、などと、健は考えてしまったがそんな都合のいいことが起こるはずが――。


「乗ってく?」

「白峯さん!?」


 ――起こった。雨の中を走って健の前にやってきた車に乗って運転席から顔を出したのは、白峯とばりその人だ。いつもの屈託のない笑顔とは趣向の違う、小悪魔的な笑みで迷える健を夜のドライブに誘っている。健は「家まで送ってくださいっ!」と、自ら誘いに乗って車に乗らせてもらった。



「そっか、市村さん探してたんだ」

「職場の人から友達まで、知ってそうな人に片っ端から聞いて回ってたんですけど誰も見てないって」


 助手席に座らせてもらった健は、運転席の白峯に事情を話していた。ウソでもいいから悩める健の助けになってやらねばと、白峯はなにやら心当たりのありそうな顔で指をアゴに当てる。


「そうだ〜。そういえば、一週間前だったかな。市村さんウチに来てたよ」

「えっ……そっそれ本当ですか!?」


 市村が一週間前に自分の家を訪れていたことを話したところ、健から大声でそう訊かれたので白峯は急ブレーキをかけてクラクションを鳴らしてしまう。

 健はショックで目が飛び出し心臓が止まりそうになった。危ないところであった、白峯は何気に容赦がない。


「はーッ。おどかさないでよぅ」

「ごめんちゃい。そ、それよりさっき言ってたことって――」

「ホントよ。私がこんな状況でウソつくと思う?」

「詳しく教えていただけますかっ!?」

「オッケー! その前に運転再開していいかな」


 しょんぼりしていた健を元気付けるためのウソではなく、本当に心当たりのあった白峯はエンジンを入れてから健に詳細を話すことに決めた。

 健のアパートには何度か足を運んでおり行き慣れているため、白峯は健から詳しい場所を教えてもらわなくてもいいし、健はわざわざ教えなくともいい。


「市村さんね、もし今後今まで以上に強い敵が出てきたときのために確実に勝てるように、私にブロックバスターをもうひとつ(・・・・・)作ってほしいって頼み込んできたのよ」

「も、もうひとつ!? それで作ったんですか?」

「ええ、彼とても喜んでたわ。一晩徹夜して作った甲斐があったってもんよ」

「す……すンげえ〜」


 誰がこの天才科学者にそれほどの優れた英知と技術力、類希にみる才能を与えたもうたのか。車がワイパーでフロントガラスを拭き取りながらの走行中に、健は震撼した。


「そうだ、市村さんがどこに行くか聞いたりしませんでしたか?」

「観光がてら、しばらく神戸に滞在するって言ってたよ。せめて関西の中だけでも自分の名前をもっと売り込んでやろう、って思ってたみたい」

「神戸かあ……いいなあ……」


 うっとりしながら、神戸の華やかな街並みとその中でアズサを連れて遊ぶ市村の姿を思い浮かべた健。妄想にどっぷりと浸りかけた寸前、目を見開いて我に帰る。次に彼はこう言う。


「って、神戸ぇ!?」

「デカイ声出さないでよ。そうです、市村さんは神戸に行きました。もしかしてパワードテクターの件、話してくれるの? お願いねー、つい話すの忘れちゃってたから」

「はい、ありがとうございます!」

「もう。お礼ならアパートに着いてからでもよかったのに、ふふふ」

「エヘヘっ」


 鼻の下を伸ばして健は笑った。――それからというもの、無事アパートまで送り届けてもらえた健は嬉々とした様子で市村の手がかりを掴めたことを二人に報告したという。なお、六割は白峯と二人きりでドライブが出来たという喜び、四割は音沙汰がない市村の行方がわかったことへ対する喜びだったようだ。健に同性を愛する趣味など、ない。

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