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同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第2章 敵は非情のセンチネルズ
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EPISODE35:傷つけられてもかまわない


 バスが混んでいたせいでだいぶ遅れてしまった、もう18時過ぎだ。

 不破はまだいるだろうか。シェイドに食われたりしていないだろうか。心配性ゆえの余計な心配を胸に、健はアパートへ急ぐ。

 自分の部屋の前に着くと、不破がイライラを募らせて待っていた。なんというべきか、予想通りだった。


「遅いぞ! 何時だと思ってる!!」

「……こんばんは。遅れてスミマセンでした……なんですけど、相変わらずピカピカの一年生に対して上から目線ですね。そうやって偉そうにして楽しいですか?」


 メチャメチャ元気そうだった。それも心配がいらなかったくらいだ。

 とりあえず腹が立ったので、辛辣な言葉を浴びせてやる。図星だったか、相手は動揺して言い返せない。ざまあみろ。


「と、とにかく。寒いから中に入れろ! 早く!! このままじゃエターナルフォースブリザードだ。相手は死ぬ!!!!」

「はいはーい」


 中に入り、相手が入ろうとした瞬間にドアを閉める。不破の悔しそうな顔が目に浮かぶ。適当にあしらってやろう。なんてことしてたら可哀想になってきた、中に入れてあげよう。


「おう、お帰り。しかし余計なものまで連れ込んで、今日はどうしたのだ?」

「ごめん、明日には段ボールに入れて元の場所に帰しておくから……ね? いいでしょ? だってポチ、可哀想だったから」

(ポチ!? なんでだ。オレは犬じゃねーぞ!)


 なぜだ。なぜこいつらは犬扱いするんだ。笑えない冗談だ。すぐにでも訴えたい。

 二人とも手洗い・うがいをすませ、テーブルへと座る。客人に対して茶も出さないのか、と、健を批難する不破だったが、見かねたアルヴィーに諌められ首を絞められてしまう。


「て、テメエら……あまり人をおちょくってるとブッ飛ばすぞ! ギギギ……」

「すまんすまん。ところで、私たちに用があるそうだが?」


 その言葉を待っていた。したり顔で答えると、不破は用件を話し出す。


「西大路の白峯って人知ってるか?」

「おっきなおうちの?」

「たぶんそれだ。この前、西大路の辺りでカエルのシェイドを見かけたんだ。それも、ただのシェイドじゃねェ。あからさまに誰かに改造処置を施されたヤツだ」

「改造……処置?」


 どうやってそんなことを。シェイドがシェイドを改造するのか? 疑問に思った健は、まさかと思いつつも不破へその疑問をぶつける。


「まさか、人の手で?」

「だろうな。よくはわからんが、昨日見た限りではセンチネルズの人間がそいつに殺された。青山っていうメガネかけたクソ野郎だ」


 青山――。青髪でメガネをかけた、この前の銀行強盗の片割れだ。

 そして、その実態はセンチネルズ構成員。電気の針を打ち出して、痺れた相手をメリケンサックで殴る卑怯者。

 一度、いや二度もボコボコにされた相手だが、アルヴィーや不破のおかげで勝つことができた。そんなあいつが、なぜ改造されたシェイドに殺されたのだろう。失敗続きが祟って、用済みになったからか?


「なあ、東條。さっき言ってた白峯って人はセンチネルズにいなかったか?」

「いました。僕が奴らに捕まったとき、一緒に脱走してきました」

「……そういうことか」


 それまで二人の話を静かに聞いていたアルヴィーが、何かに感付くようにそう呟く。


「センチネルズの目的がわかった。裏切り者と組織の秘密を知ったものを、その改造したシェイドを使って始末するつもりだろう。……とばり殿が危ない!」


 二人もアルヴィーに言われてようやく気づいた。

 元々センチネルズに所属し、秘密も知っていたであろうとばりを、普通に考えれば狙わないはずがない。

 この前のカエルのようなヤツも、元々はそのために送られてきたということか? いずれにせよ、急がねばとばりが殺されてしまう!


「今すぐ行かねえと……!」


 不破がランスとバックラーを身につけ、玄関を抜け出す。健もそれに続こうと飛び出す。だが、そんな彼らをアルヴィーが寸前で制止する。


「待たんか、お主ら! 今日はもう遅い。ゆっくり休んで、明日には向かえばよかろう」

「だけど……」

「だが、フラフラのまま行ってやられては元も子もないぞ?」


 そうだ、すっかり忘れていた。自分の武器をとばりに預けていたのだった。

 アルヴィーに言われた通り、ここは不破に任せて自分は寝ることにする。それが本当に正しいことかは分からないが――。



 ――翌朝――



 早朝からテレビで、西大路区でシェイドが暴れているという情報が入った。

 急いで向かうと、案の定例の改造シェイドがクリーパーを従えて、人々を手当たり次第に襲っていた。武器はないが、できるだけのことはやってみる。そうしてでも阻止しなければ――。


「ターゲット確認……コロス!」

「くっ、僕も含まれていたのか!」


 アルヴィーが最下級シェイド・クリーパーの群れを相手するなか、健は素手で必死に応戦していた。

 たとえ体が何度も切り裂かれて血を流そうとも、守りたい。誰かが悲しむ姿は見たくない。笑顔を守りたい。ただ、それだけのために。


「そんなに僕を殺したいなら殺せ!」


 その気になれば命を投げ出すことも考えている。命知らずなことこの上ないが、かまわない。


「他の人はやらせないけど!」


 改造されたカエルのようなシェイドに、パンチを一発ぶちこむ。

 もちろんただのパンチだ、相手に効くはずがない。もう一発浴びせようとするが、敵は素早くかわしてしまう。元々早くないゆえ、こういうのは苦手だ。

 とてもではないが、追い付ける気がしない。不破なら話は別だが――そういえば、この緊急事態に彼はいない。

 どこにいるのだ。まさか、逃げ出したのか? 流石にそんなことはありえないと信じたいが――。


「健くーん!!」

「来ちゃダメです、とばりさんッ!」


 殴ったり蹴られたりの泥臭い戦いの最中、黒髪に白衣、紫のシャツの女性が剣と盾を抱えて走ってきた。

 とばりだ。狙っていた獲物を見つけ、残忍なハンターがとばりに襲いかかろうとする。その寸前で、目にも留まらぬ速さで何者かが横切りとばりを救う。まさか――!


「オレも来ちゃダメだったか?」

「不破さん……」


 疑うべきではなかった。颯爽と現れた彼はとばりを救うと、彼女をかばいながらシェイドと戦い始める。『急いで武器を返してもらえ』と促され、とばりを連れて一緒に安全な場所へ向かう。


「とばり殿!」


 全力で走ってきて疲れたとばりを、アルヴィーが介抱する。


「ごめんね、あたしのせいでこんなことに……」

「あなたのせいじゃない、悪いのはあいつらです!」

「あっ、これ……返さなきゃ」


 健に剣と盾、そしてオーブを返却。どれも少し手が加えられており、手にすると力がモコモコと沸き上がってくる感覚が全身に伝わった。

 とばりが解析した際に、ツールか何かを伝って彼女の温かい心が入って来たのだろうか? そのくらい不思議な感覚だった。


「ありがとうございます。僕、行ってきます!」

「健、とばり殿は私に任せられよ。思い切りあのヒキガエルとぶつかってこい。今のお主なら楽勝だ」

「そうは言うけど、勝てるかどうか……」

「大丈夫よ、あなたならできる。自分を信じて!」

「……はい!」


 不安がる健を、二人が励ます。グズグズしている場合ではない。

 自信を取り戻したかのように頷き、剣と盾をかまえ果敢に敵のもとへ向かっていく。


「このっ!」


 突然の襲来に驚く改造シェイド――スカルフロッグを、剣を大きく振りかぶって牽制。怒ったスカルフロッグが爪を振り下ろすも、即座に盾で弾く。


「がら空きだぜ!」


 背後から不破がランスで切り上げ、上空へと打ち上げる。助走をつけながら跳躍し、レシーブの要領で地面に打ち付けると相手は横たわった。

 両者共に、一気にとどめを刺してしまおうと駆け寄る。が、地面から吹き上がった炎の壁が行く手を遮った。

 更に、どこからともなく火の玉が飛んできた。横に跳んで間一髪かわすが、隙を突いたかもう一発飛んでくる。それは健に命中したが、盾で弾かれていた。


「今のを防ぐとは。やるな、小僧……」

「浪岡……ッ!!」


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