EPISODE367:青き魔弾の射手
交互にビームを撃ち出し市村はシェイドの群れを圧倒。一度撃てば止まらない。
ブロックバスターは、一挺だけでもとてつもない破壊力を秘めているというのに、それが何故か二挺に増えてパワーアップを果たしたというのだから敵からしたら始末に負えない。
「おりゃ! うりゃあっ!!」
「アババーッ」
「グラーッ!?」
「グワー!?」
ビームの弾幕が、鋭い回し蹴りがシェイドの群れを掃討する。次々にシェイドが爆発し塵と化す中で、赤や青に黄色といったジャガーのシェイドが市村を取り囲む。
ピンチに追い込まれたか――に見えるが、市村はまったく動じていない。それどころか鼻を鳴らしてから左右に射撃し、黄色と青のジャガーのシェイドを退けた。
「おどれら、この俺がこんくらいでひざまずく思うたら間違いも間違い……」
市村が引き金を引いて、両手の大型銃にエネルギーを充填する。ジャガーたちは手にした武器を今にも落とさんばかりに震えていた。
「大間違いじゃああああーーーーっ!!」
フルチャージされた極大のビームがジャガーたちに命中、大爆発を起こしブッ飛ばす。更に宙で回転しながらの一斉射撃もおまけして、ジャガーの群れを全滅させた。
スカッとした気分になった市村であるが、空に目をやると撃ち逃したトンボのシェイド――シルバーヤンマが徒党を組んでいた。飛行しながらの射撃をかわして、三体ほど撃ち落としてから市村は右手に持っていたブロックバスターの片割れを隙間に投げる。
すぐさまに念じて、代わりにハサミまたは盾を彷彿させる形状の武器――ガードナーカノンを召喚。シールドを閉じた状態――防御形態をとり、左手に持ったブロックバスターで対空射撃に出た。
「しぎゃーす!」
「へっ、俺がただ撃つしか能のない男やと思うたか!」
敵からの攻撃を防ぎながらブロックバスターを連射し、市村はシルバーヤンマたちを次々撃ち落としていく。
火力が群を抜いて高い反面防御面がやや心許ない市村だが、そんな彼の欠点はガードナーカノンひとつだけでも十分すぎるほどにカバーされている。
「やったったで……」
敵は全滅した。一仕事終えた気分で一息吐く市村、しかし背後にある建物がまるごと吹き飛び、市村はハッと振り返る。
そこには瓦礫の山に足を着け、ライオンの頭と胴体、ワシの頭と翼、ヤギの頭、ニシキヘビとなっている尻尾を持った巨体の怪物の姿が。その名もキマイラヘッダーだ。
「なんやこいつ! まだおったんか、バケモンが!?」
「「「ぐうるおおおおぉぉぉぉ!!」」」
驚く市村へ咆哮を上げて、キマイラヘッダーが走る! 火を噴く! 爪で殴りかかる!
市村はガードナーカノンで身を守りながらビームを撃つがキマイラヘッダーに弾かれ、攻撃もまともに受けてしまった。
キマイラヘッダーから攻撃を食らった市村は血を流して、電柱や建物の壁をぶち抜きながら吹っ飛ばされ、やがて湾岸の道路に移動。植え込みに叩きつけられた。
「「「がるるるる、ごるるるるっ」」」
「くっそ、無駄にごっついナリしよって……」
キマイラヘッダーの巨体がタイルの隙間からゆっくりと姿を現し、舌打ちしていた市村を今にも食らわんと眼光を鋭くする。
どの頭も唸っており口からはヨダレが出ている、このままでは食い殺されてしまうだろう。
「しゃーない! ごっついもんには、ごっついもんや! 出番でっせー、エビちゃん!!」
獰猛なキマイラヘッダーの攻撃をバック宙や横っ飛びでかわして、市村は相手の隙を突き地面に手をつける。
タイルの隙間が光った、まぶしい光に目がくらみキマイラヘッダーは後退。市村は勢いよく隙間から現れた自身のパートナー、エビちゃんことブルークラスターの背中に飛び乗りいつの間にか武器も持ち替えていた。
連射は利かないが破壊力は抜群の強力ランチャー砲――バーニングランチャーだ。市村はニヤリと笑い、砲撃を一発、二発、三発とお見舞い。ダメージは著しかったようで、キマイラヘッダーは苦しげにうめき声を上げた。
「しゃあああああぼっ」
「おうおう、やんのかコラ!!」
尻尾の大蛇が金切り声を上げ噛みつこうと迫る、市村はバーニングランチャーの弾を大蛇の口の中に撃ち込み爆破。
大蛇は焼き尽くされて消滅、キマイラヘッダーは苦痛に喘ぎ、ライオンの口が炎を吐いてもがいた。
「とどめといこか、デカブツ!」
市村は武器をバーニングランチャーからブロックバスターに持ち替え、ブルークラスターの背から飛び降り尾のほうへ移動。穴にブロックバスターを差し込んだ。
さすれば、ブルークラスターの全身に備わった武器はすべて展開し無数のミサイル、ビームによる容赦なき集中砲火が始まった!
このままやられてたまるか、と、抵抗するキマイラヘッダーであったがおびただしい数のミサイルやビームによる弾幕をさばききれず、全弾命中。さしもの巨体も爆発四散した。
「よっしゃあ! やったった、やったったで!!」
今度こそ敵は全滅、役目を終えたブルークラスターは隙間に姿をくらました。
安堵の息を吐いて、市村は移動屋台が停めてある場所へ戻るべく足を進める。神戸市内でもとびきり大きく人気のある、とあるホテルの付近だ。
「体も慣らせたし、商売再開しよかい」
肩を慣らす市村、彼の姿が金髪のウェーブヘアーをした若い女の目に留まる。
しかも彼を見つけた女の表情はまるで、馴染みのあるボーイフレンドを見つけたかのような嬉しげなものだ。
「イッチぃぃー!」
「おわっ!?」
「こんなとこで会えるなんて思わんかった〜!」
「あ、アズサ、ビックリさせんなや! 心臓止まるかと思た」
「なんよそれ、失礼しちゃうー」
金髪のガールフレンド――アズサに突如として抱き着かれ、驚いた市村。苦笑いしながら、「ちゅうかお前、ここまで何しに来たん!?」と訊ねた。
「ブラブラしに。さっき南京街から出たんやけど暇やってん、でイッチー見つけたわけ」
「さ、さいでっか。わし、商売しに」
「ひとりでさみしかったやろ、ウチでよかったら手伝うよ?」
「ええよ。そん代わり晩は野宿か車ん中で寝るかやで」
「はーい」
調子を取り戻した市村はアズサの好意を喜んで受け、二人は意気投合。ともに商売をすることに決まった。
――二人は知らなかったが、その様子は目玉の形をした小型のメカに捉えられていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「Attention,Attention ,Secret catch.映像ヲ転送シマス」
デミスの使徒の基地、司令室。先ほどの偵察メカが捉えた映像が転送され、基地にいたメンバーの目に留まった。ダークマスターに、ロギアとマリエル。ほかは待機中のデミスのエスパーや、マスプロイドたちだ。
「市村正史――神戸に潜伏していたのか」
「ウォッチャーも情報が遅いわね。神戸には既に部下を向かわせたというのに」
眉をしかめているロギアに対し、優雅で余裕のある笑みをたたえているマリエルが呟く。それはダークマスターの耳に入り、ダークマスターは怪訝そうにした。
「話してみよマリエル」
「ハッ。先日、こんなこともあろうかと神戸に部下をひとり偵察に向かわせて市村正史が滞在しているという情報を入手しておりましたの。それに――」
ダークマスターから呼び出されたマリエルが微笑みながら、なぜ市村が神戸にいることを知っていたのか説明する。
終えると、何かを比喩する合図として右手でピースを作ってみせた。マリエルの優雅な笑みは冷酷で恐ろしいものへと変化していく。
「ダブル・オペレーション、どうせなら作戦は二重がよいのではなくて?」
「ほう……」