EPISODE366:共闘の誓いとショーの開幕
「お母様、お父様、みんな無事でよかった!」
「あなたもね、あずみ」
両親や健たちの安否が気になって仕方なかったあずみは葛城邸に着いて、とくに何ともなかった一同の姿を見たとたんに母に抱き着いた。
嬉しさのあまり我を忘れた満開の笑みで、だ。つられてエリーゼも剛三も口が綻び、やがてその場に居合わせた皆が笑顔となった。
しばらくして落ち着いたところで、健は咳払いして懐からアンチアビリティカフスを取り出した。
「これを」
「この手錠は?」
「白峯さんからもらったエスパーの能力を封じる手錠だよ。警察でも既に使われてるみたいなんだ」
「それね、私が開発に携わったのよ」
アンチアビリティカフスを受け取った葛城は健と白峯から説明を受け、「いつの間にかこんなものが作られていたのね……」と、関心を示す。
「葛城さんさ、今後戦いは今まで以上に厳しくなりそうなんだ。君の力が必要になってくるだろうし、その――僕に手を貸してくれるかい?」
「よろしくってよ」
「ありがとう! 僕ひとりだけじゃきっと敵を倒しきれないだろうから、本当に助かる!」
「まあ!」
そうして二人は握手し、再び共に戦えることを喜び合う。アルヴィーら、見守るものたちの視線は暖かく、これまた優しいものだった。
「今は少しでも多く思い出を作ろうと学業に専念しておりますので、また落ち着き次第ご連絡致しますわ」
「いいよ、それでいい。友達と会えるのも最後かもしれないからね」
「ちょっと、健さん?」
「あうっ! し、失礼しましたあ……」
自分なりに葛城さんを気遣ったつもりが、一言余計だった。健は速やかに頭を下げて謝罪。葛城は「やれやれ」と呆れながらも笑って許してやった。
「もう行くのね?」
「はい。ディナーまでごちそうになって、すっかり戦いのダメージも回復しました」
「ヒヒイロカネのことなら私が必ず見つけ出そう。君たちはデミスの使途との戦いに専念してくれ、逐次サポートしよう」
「ありがとうございます!」
「エリーゼ殿と剛三殿には世話になってばかりだの。私とまり子もお二人のお気遣いには、本当に感謝しています」
「私からもありがとうございました。ご迷惑おかけしますが、ヒヒイロカネの件よろしくお願い致します」
葛城邸を出る寸前のことだ。エリーゼと剛三からの好意を受けた健は感謝してもしきれない感謝の気持ちを言葉にし、アルヴィーとまり子、白峯もまた感謝を告げた。
「「「「さようならー!!」」」」
「また来てくださいね〜!」
「皆さん、お気をつけて〜」
かくして、健一行は葛城家のものたちに見送られながら葛城邸をあとにした。せっかく来たのだからもう少し、くつろいでいたかったが今はそんな贅沢をしている時間はなかった。残念ながら――。
「は、離せ! 離してくれー! わたしはシラーズだぞ! は、離せーっ!!」
――と、同時刻、がんじがらめの状態で森に放置されていたシラーズは警察に発見され、即・御用となっていたのであった。
◆◇◆◇◆◇◆
場所を変えて、緑にあふれる山に面したところには高層ビルやマンションがでかでかと建ち並び、海からは船の汽笛の音が波風に乗って運ばれてくる街――兵庫県・神戸市。
名物はそばめし、須磨の水族園、巨大な鉄人のオブジェ、きらびやかな数々のネオンが美しいルミナリエなど、数えきれない。
その街で、かの青年は長らく連れ添っている相棒の移動屋台と一緒に生業である『商い』を行い――今は休憩している最中だ。
ファー付きのコートを上着とし下にはジーパン、靴は革のブーツとカッコつけたファッションで決めている彼がまさか、普段は調理用のシャツを着て屋台でたこ焼きや大判焼きを売っているとは彼を知らないものからしたら想像もつかないだろう。
「はぁーっ。海からの風が、今日はまた一段としみますなあ」
ホテルの付近にて、太陽の光を反射して光っている海面を見つめながら青年は感傷に浸っていた。
愛するガールフレンドは今、故郷である大阪で何をしているのだろう。あれから顔を会わせていないほかの連中は、元気にやっているのだろうか。
――そんなことを考えながら。
「きゃああああああっ!?」
「ば、バケモノ! こっち来んなあッ!」
誰かの助けを求める悲鳴! 呼応するかの如くシェイド反応を感知し、激しく音を鳴らすシェイドサーチャー!
ファー付きの青年はサーチャーの反応を辿り、神戸の街を疾走する。
反応があった場所、十字路に駆け付けた青年は先ほど悲鳴を上げた街の人々を発見し、更に人々に襲いかかろうとするシェイドたちの姿も発見。
シェイドに対して攻撃的かつ激しい敵意を示した顔をして、青年は低く唸る。
「あいつらまだ生き残っとったのか!? しぶとすぎる、気に入らん!!」
青年はサーチャーをしまうと愛用の大型銃を取り出してそれを両手に持ち、宙を舞いながら発砲。シェイドたちを威嚇し怯ませた。街の人々の前に着地した青年は、銃口を向けながら人々に顔を向ける。
「あ、あんた助けてくれんのんか!?」
「ここ危ないで、早よ逃げぇや!」
「で、でも……」
「ええてええて、わしは『浪速の銃狂い』なんやからな!」
「な……浪速の銃狂いやて!?」
「へへへっ」
自分もちょっとは名が売れてきたようだな、と、青年――『浪速の銃狂い』こと、市村正史は笑う。人々は、なぜか突き抜けるような安心感を覚えた。
「とにかく俺に任しとき、こいつらは俺が片付けるさかい」
「あ、ありがとうございます〜っ」
「礼はいらんよ礼は!」
――避難勧告と人払いは終わった。市村は、口の端を吊り上げ攻撃的な怒りを隠した笑みを浮かべる。
「……で、お前ら覚悟はええか?」
両手に握った大型銃をくるくると回し、近寄るシェイドの群れに発砲。ビームでシェイドのうち数体を吹き飛ばした。
――シェイドの群れは、溶けかけのドロ人形のような姿のもの、骨で出来た簡素な鎧や武器で武装したもの、トンボのような姿のものや赤や青のジャガーのような姿のものなどで混成されていた。
とはいえこの程度の連中は、死線をいくつも超えてきた彼にとっては烏合の衆でしかない。余裕のよっちゃんだ。
「――答えは聞いとらん!!」
大型銃――ブロックバスターを両手に市村が叫ぶ。今から始まろうとしている過激でスリリングなバトルショーは、地獄でもコロッセオでもそうそう見られないものとなるだろう。
……
その、なんかだいぶお待たせしちゃって申し訳ございません^^;