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同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第19章 終焉(デミス)への序曲
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EPISODE364:葛城家の意地

 正門のほうでドンパチが起こっていたのは、そこから遠く離れた屋敷の本館にいる葛城の両親と白峯、三人をガードしているまり子にもわかった。

 音がかすかに聴こえたのである。「健さんたち大丈夫かしら……」と、まり子は心配していた。白峯や葛城の両親も口には出さなかったが、気持ちは皆同じだ。

 ――邪悪な気配を感じ取ったまり子の顔が変わる。シェイドか、それとも悪しきエスパーか? 後者だ、健たちが交戦した相手であるシラーズが不敵に笑って現れた。

 左目につけた茶色の小型スクリーンには四人のステータスやパーソナルデータが映し出されている。


「そのエンブレム……デミスの使徒ね!」

「さすが葛城エリーゼ様、ご明察! わたしはシラーズ。あなた方葛城家の一族を滅ぼしに使わされたものです」


 慇懃無礼に自己紹介をしてエリーゼと剛三を煽るシラーズ。白峯とまり子を見るやいなや、「また馬の骨がいるな」と眉をしかめ唇を噛みしめる。


「何よ、その顔?」

「わたしのターゲットはあくまで葛城家の者だ。なるだけ女性を手にかけたくはない。わかったらどきたまえ」


 まり子も白峯もその場から下がろうとしない。エリーゼと剛三を守るためにボディーガードたちがシラーズを囲んで取り押さえようとするも、

 シラーズは彼らを一蹴。更にまり子と白峯を飛び越えてエリーゼのもとへ、ソーサーエッジを構えて踏み込んだ。


「……下がりなさい。無益な殺生はしたくありません。この場を己の血で汚したくなければ、立ち去りなさい」

「そうは言いますがねぇー、わたし気付いちゃったんですねえ。奥さん全盛期ほど力が強くないんでしょう?(・・・・・・・・・・)


 シラーズが看破したようにエリーゼは、自身のパートナーであるクリスタローズを娘と契約(ディール)させ、エスパーを引退したことによって全盛期と比べ衰えている。

 つまりシラーズからしたら相手ではないし、エリーゼを倒してしまえば残った剛三は言わずもがな。

 娘のあずみが駆け付ける頃には父と母はシラーズに殺されており、あずみは絶望し哀しみに暮れる。となれば抹殺することは容易い――。以上が、シラーズの描いたシナリオだ。


「さあさあそれでは、奥さま旦那さまには死んでいただきましょうかね……」


 凶悪に笑ってシラーズはソーサーエッジを振り上げて、エリーゼに切りかかろうとする。が、しかし、シラーズの体が急に金縛りにでもかかったかのように動かなくなり、シラーズは小刻みに震え出す。


「うぐぐ、な、なぜだあ……」

「あなたたちが何考えてるかなんて知らないし知りたくもないけど、大切な人を奪おうだなんて絶対に許さない」


 シラーズの動きを封じたのはまり子だ。彼女が念動力を使ったことにより、シラーズは金縛りにあったのだ。戦闘能力が皆無な白峯はまり子の背後に立っている。

 更に駆け付けたアルヴィーがドロップキックをかましてシラーズをぶっ飛ばし、ヘッドパーツを破壊されて転倒したところを同じく駆け付けた健が掴みかかった。それも肩からだ。


「と、東條健!? 汚い手をどけろ、エンドテクターに指紋がつくではないか!」

「イヤだね! 誰がお前の思い通りになんか!」


 健に掴まれてもがいているシラーズを前に、急いで駆けつけてきていた葛城がレイピアを向ける。彼女はアルヴィーとともに、シラーズから守るようにして両親の前に立っている。まり子は白峯をガードしている。


「わたくしのお母様を、お父様をやらせはしません。ましてやわたくしの命もとられるわけには!」

「シラーズとやら、覚悟はよいか!」


 自分の体をがんじがらめにしている健を振りほどこうともがく、シラーズ。

 補足しておくと健がシラーズに掴みかかった際に、まり子は金縛りを解いている。必要ないと判断したからだ。


「離せ! 離さないか、このッ、ネズミがあ!」

「ッ!」

「チューチューうるさいネズミどもは、まとめてズタズタにしてやる! エアリアルソニック!!」


 与えられた使命を遂行しなくてはならないという執念から、ついにシラーズは健を振りほどき転倒させる。

 更にソーサーエッジを思い切り投げて無数の真空の刃を作り出し周囲を一斉攻撃、まるで鬱憤を晴らすように真空の刃を打ち付けた。


「ッ……」

「なんて技なの。皆さん、ケガはないですか?」

「ま、まあね」


 幸い健と葛城は盾を持っていたため、エアリアルソニックにより受けるダメージを軽減。

 更に、二人が身を挺して白峯や葛城の両親を守ったため彼女らには被害が及ばずに済んだ。まり子も念力で作り出したバリアを張って少しだけ手伝った。


「フン! わたしはこれまでのアホどもとはわけが違う。見ろ!」


 シラーズは、鼻を鳴らし乾電池を彷彿させる機械的な外見のカプセルらしきものを取り出す。

 それを放り投げれば、とたんに中から大量の――ロボット兵らしきものが飛び出し、一同を取り囲んだ。

 ロボットたちの外見は簡素でドクロを彷彿させ、身長は平均的な成人男性と同じくらい。武器は、曲線を描いた剣から槍、鉈からロッドまで様々だ。


「このかわいいヤツらはマスプロイド。ゴーレムの開発した際の技術を応用し性能や構造を簡素化、代わりに量産化に成功したロボット兵士だ! 君らごときの相手はマスプロイドで十分! わたしが手を下すまでもない!」


 高笑いを上げて高見の見物を決め込む、シラーズ。マスプロイドたちは既に臨戦態勢に入っており、各々の武器を持ってターゲットに近寄る。


「さあ殺れ!」

「ガー!」


 シラーズの指揮のもと、マスプロイドたちが健たちに牙をむく。動きは機敏で攻撃の精度も高い。しかし――。こんな程度で臆するような彼らではない。

 たとえば、健は回転斬りを放って一気に薙ぎ倒し、アルヴィーは手からブリザードを放って凍結させてからマスプロイドを粉砕。

 葛城はクルクルと華麗に回りながらマスプロイドを切り捨て、まり子に至っては複数のマスプロイドに糸を巻き付けて締め付けただけで破壊してしまった。


「どうした! やけに自信たっぷりだった割には弱っちいな!」

「クッ。マスプロイドたちよ、シラーズの名のもとに告げる! 葛城エリーゼと葛城剛三を抹殺せよ!」

「まずった!」

「お母様、お父様!」


 自信と覇気に満ちた健の言葉に刺激され、怒ったシラーズはマスプロイドたちに抹殺指令を下した。

 至急二人を守らなくては! 健や葛城、アルヴィーはエリーゼと剛三を守るために飛び出す。まり子はマスプロイドたちを止めようと念力を発した。

 だが、マスプロイドたちは二人の目の前にまで来ている。もう間に合わない。エリーゼは既に覚悟を決めたような顔をしていた。剛三も同様だ。しかしそれは――



 決して、あきらめた顔ではなかった。


「――はあああああああああッ!!」

「な、なにい〜〜〜〜!? バカな、あの女にあそこまでの力が残っていたなんて……!?」


 エリーゼは普段の穏やかな雰囲気からは想像もつかぬ雄叫びを上げて、マスプロイドのうち一体の胴を正拳で突き、破壊。同時に周りにいたマスプロイドのうち五体ほどが粉々に砕け散った。

 その光景に娘と夫は閉口。健やアルヴィーにまり子、白峯は震撼。シラーズは驚きすぎるあまり口が開きっぱなしで、尻餅までついてビビり出す有り様だ。


「……確かに前線からは引きました。けれど機械の兵隊を倒すくらいの力ならまだ残っているわ。私を、いえ、葛城家をなめないで!」

「エリーゼ、お前……」

「お母様……!」


 エリーゼは強かった。たとえ全盛期には及ばないとしても。パートナーを娘に譲り渡した今でも、だ。

 すべてはエスパーとして己を磨き上げ高みを目指すため、常に積み上げてきた努力の賜物。最初からシラーズごとき粋がっているだけの小物の手で、倒せるわけがなかった。


「なにがどうなってる、ここにはバケモノしかいないというのか!? く、て……撤退だ!」

「待てッ、シラーズ!」

「ネズミが、いつまでもうっとうしいんだよ!!」 


 焦燥を覚えて立ち上がったシラーズは撤退としゃれ込んだ。あとを追おうとした健とアルヴィーにソーサーエッジを投げて牽制すると、シラーズは大ジャンプして森へ飛び込んだ。

 シラーズを逃してしまったために苦い顔をする、健とアルヴィーに葛城が駆け寄りこう呼びかけた。


「健さん、アルヴィーさんは残ってあのロボットたちを片付けてください。シラーズはわたくしが必ず!」

「……わかった、頼むね。僕たちも君のご両親を必ず守るから」

「はい! 頼みましたよ」

「うむ、約束しよう」


 ――これにて戦局はふたてに分かれた。健やアルヴィーはまり子とともに葛城の両親と白峯、ならびにメイドや使用人に執事をマスプロイドたちから守護し、葛城は屋敷を襲撃してきた張本人であるシラーズを討伐する。



「エリーゼ」

「わかっています。ここで命を散らすつもりは毛頭ないわ。これは生き抜くための戦い。今こそ葛城家の意地を見せて――大切なものすべてを守りぬくときですもの!」

(まるで八年前のお前を見ているようだ。エリーゼ、私は……本当に、いい妻と子を持ったな)


 健とアルヴィーが葛城と約束を交わして屋敷の本館に戻った頃には、ただ戦いを見守るしかない夫の視線を背に受けて――エリーゼが先ほど倒したマスプロイドが落としたブレードを手に、マスプロイドたちに立ち向かわんとしていた。


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