EPISODE363:烈風の円盤闘士襲来!
「「ようこそお越しくださいました! どうぞ中へお入りください!」」
「なかなかいいおうちねー♪ やっぱり葛城コンツェルンは次元が違うわ!」
「でしょでしょ?」
一同は葛城邸に到着、大勢のメイドや使用人に迎えられて大きなシャンデリアがひときわ目立つエントランスへ足を踏み入れた。
健とアルヴィーが中へ入るのは以前葛城から呼び出されたとき以来だ。まり子ははじめてだ。白峯は前に入ったことがあったかもしれない。
肖像画や花壇の花、シャンデリアなど、きらびやかな装飾に一同が見とれていると――階段の上から葛城が母のエリーゼを連れて現れた。
もうひとり、健たちがはじめて見る顔の壮年男性は――葛城の父である剛三だ。
「葛城さん、エリーゼさんも!」
「健さん、アルヴィーさん、まり子さん、白峯さん。今日はようこそお越しくださいました」
スカートの裾をつまんで一同へ上品にあいさつをする、葛城。エリーゼはにっこりと手を振り、剛三は左胸に手を当てお辞儀をした。もちろん、健たち四人もあいさつを返した。
「? エリーゼ殿、その方は?」
「そういえば皆様が夫と顔を合わせるのは、今日がはじめてだったかしら。彼は私の夫の剛三です」
「葛城コンツェルン会長の葛城剛三と申します。何とぞよろしくお願い致します」
アルヴィー、いや彼女以外の三人も抱いていたであろう疑問に答える形でエリーゼは夫を紹介する。
剛三は簡単な自己紹介を交え改めて一同にあいさつをした。威厳のある風貌だが物腰は柔らかであった。一同は応接室に招かれ、ソファーへと腰かける。まり子は自分ひとりだけ、窓のほうへ行って外の景色を眺め出した。
「それで、皆様がこちらに来られた用件とは?」
「デミスの使徒が再び活動をはじめたことはご存知ですか?」
「……はい。夫がつい先日、デミスの使徒だと名乗ったものに襲われたそうで」
「本格化するであろう彼らとの戦いに備え、私が警視庁のシェイド対策課や科学班と連携して開発を進めている『パワードテクター』――という防具がありまして。それの性能向上に必要な『ヒヒイロカネ』という金属を、葛城会長ならばお持ちではとお見受けしてこちらへお邪魔させていただきました所存です」
何の用件があってここまで来たのか、というエリーゼの質問に、白峯は凛とした口調でハッキリ答えた。
いつもの、まだ幼さが残る口調とは違う常識ある大人としての面を見せたのだ。エリーゼは手を口に添えて「ヒヒイロカネか……聞いたことはあるわ」と呟き、葛城は父に視線を向ける。やがて剛三が難しげな顔をして、こう答えた。
「申し訳ないが、ヒヒイロカネは私の会社でも所有していないのだ。君たちの要望は叶えられない……」
「そう……ですよね。幻の金属と呼ばれているものを無い物ねだりするなんて私も――」
ヒヒイロカネは持っていないと剛三から伝えられた一同は意気消沈。
白峯は日本有数の大富豪である葛城家でも手に入らないヒヒイロカネをねだるようなマネをしたことを謝罪しようとしたが、剛三は「ただ、可能性が無いわけじゃない」と言葉を遮るように白峯を呼び止める。
剛三の言葉を聞いた白峯は沈んだ表情のまま顔を上げた。
「え?」
「ヒヒイロカネが日本に存在していることは確かだ。個人的にツテのある大学に、とある鉱脈から発掘されたものが保管されていると聞いている。もし、そこを当たってヒヒイロカネがまだあったらそのときはお譲りしよう。だから、そう気を落とさなくてもいい」
「……ありがとうございます!」
沈んだ表情から一転、一筋の希望の光を見いだした白峯は心から感謝の言葉を述べた。あとの三人もこれには大いに喜んだ。
ヒヒイロカネの存在が確かであることを伝えたからには、今後期待に応えなくてはなるまい、と、剛三は意を決する。
「ほかにご用件は無かったかな?」
「はい。あとは何もありません」
剛三から確認をとられ、白峯の隣に寄ってきた健が清々しく答える。
「では改めて――せっかく来てくださったのですから、どうぞごゆっくり」
「「「「お言葉に甘えて!!」」」」
エリーゼの言葉に甘えて一同はこの屋敷でくつろぐことにした。さあ、優雅に、まろやかに、ティータイムだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇
その頃、葛城邸の正門はボディーガードの男性が警備をしていた。怪しいものが入らないようにここでぴったりと警備・監視をしているのである。
「異常なーし。本日も晴天なり」
「いや、午後から下り坂らしいが」
「天気予報が必ずしも当たるとは限らないぜ?」
「そうかい」
他愛ないやりとりを交わしつつも屈強なボディーガードは持ち場から離れず見張りを続ける。風は心地よく空は蒼く澄みわたっている。
森に囲まれた周囲の景色と相まって清々しい気分になれることうけあいだ。
「とは言ったが嫌な予感がする」
「別に雲行きは怪しくないだろ? それにセキュリティは万全だ。虫一匹入れやしねえ」
「それもそうか、なら大丈夫だわな。ハハハ」
――ところが突然風向きが変わり、向かい風が吹き荒れる。二人のボディーガードは戸惑い、冷や汗をかく。
「なんだ? 風が急に……」
「はう!? な、なんだあれは!?」
驚くボディーガードの眼前に向かい風とともに鎌鼬のごとく飛んできたのは――円盤。三枚の刃がついており勢いよくボディーガードを切り裂くとそのまま門を破壊し――土煙を豪勢に巻き上げた。
「!? 今の音は……」
「健さん!?」
轟音は屋敷の中までも届き、健は何が起こったか確かめるべく応接室を飛び出す。
騒然とするメイドや使用人たちを掻き分けて、外へ出ると――遠目に見える門が破壊されていた。あとから追ってきたアルヴィー、葛城らもそれを目撃。
「いったい何が……僕、見てきます!」
「待て、私も行く!」
正門まで走っていく健を追ってアルヴィーも走る。もしかしたらデミスの使徒が襲ってきたのかもしれない。
だったらここはまり子さんに父と母を任せて自分も――。葛城は、まり子に両親のガードを頼むことに決めた。――それは彼女にとって苦渋の決断だった。
「まり子さん、父と母を頼みます!」
「え、それってつまり……」
「そうです、わたくしも戦いに行って参ります!」
「あずみ……」
父と母、そしてまり子とアイコンタクトを交わし、葛城もまた剣を抜いて正門へと駆けた。
「フッフッフッフッ。こんな程度でわたしの行く手を阻もうとは笑止千万! 日本でも五本の指に入る葛城家がご覧の有り様とは、聞いてあきれるわ!」
門を破壊したのはイタチの特性を持った黄緑色のエンドテクターをまとう、緑がかった黒髪に青い眼の青年。顔は美形で左目には茶色の小型スクリーンをつけている。ベルトには四つに割れた地球の形をした銅のバックル。
――と、ここまで書けばあとは説明しなくてもわかるだろう。
「いかに守りを固めたところでこのシラーズの前では無意味なのさ!!」
ボディーガードをはっ倒して、シラーズは勝ち誇ったように笑う。声高らかに、自信過剰に。そこへ飛ぶ斬撃、剣の軌跡。シラーズは苦い顔でかわしたが、口笛を吹いてしたり顔を浮かべる。
「おや。やはり君も来ていたようだな東條健。美人の……フッ、パートナーも一緒のようだね」
「貴様、デミスの使徒だな!」
「おうよ、わたしの名は『烈風の円盤闘士』シラーズ! 葛城家の諸君を葬りにやってきた!」
「なにぃ……」
「葛城家抹殺を狙うわたしからすれば君ごときはどこぞの馬の骨にしかすぎない。そこをどけ」
一触即発。シラーズに斬りかかる健だが、シラーズは両腕につけた円盤――ソーサーを盾がわりにして攻撃を弾く。
不敵に笑うシラーズ。が、背後からシラーズを狙い鋭い突きが繰り出される。――葛城だ。シラーズは間一髪で突きを防ぎ、距離を空けた。
「葛城さん!」
「おおっ、本命キタ本命キタ!」
「デミスの使徒ね? あなたの狙いはわたくしなんでしょう。だったら健さんは関係ないはずです」
「ところがそうもいかない。わたしはわたし以外の男は大嫌いなのだ。きれいな女は好きだがそこのブ男が視界に入っていると、目が……腐るんだよ!」
(身勝手だが)健を抹殺しなければならない理由を葛城に述べたシラーズは、ソーサーを投げて健を攻撃。健はソーサーが目の前に飛んできたタイミングを見計らって剣で弾いた。弾かれたソーサーが手元に戻り、シラーズは眉をしかめて唸る。
「ふん、どちらもなかなかいい剣と盾を使っているな。しかしわたしの武器は剣などよりも断然便利なソーサーエッジ!」
大げさな身振りで自分の武器を改めて紹介し、シラーズは二人の喉に――狙いを定めた。
「自慢のソーサーエッジにかかれば君たちの首根っこを掻き切ることなど造作もない! くらえソーサー!」
シラーズがソーサーエッジを投げ飛ばし、真空の刃をまとわせて二人を狙う。上体を反らしてかわした二人。が、ソーサーエッジがUターンした。
「来ます!」
「っ!」
飛んできたソーサーエッジを盾で弾く二人。シラーズはソーサーエッジをキャッチして鼻を鳴らす。
しかしアルヴィーがすかさずドロップキックをかましてシラーズを蹴飛ばす。顔面から地面に激突するもシラーズは起き上がった。
「なーんだ、大したことないじゃんか?」
「どうかな、もう一度くらえ! スロートカッター!!」
一同を狙って真空の刃となった二つのソーサーエッジが放たれた! 空気の渦を伴う爆発が起き、三人は噴煙に包まれる。
「はっはっはっは! 女の子二人はあとで脱がせたかったが、まあいい。葛城家の首はわたしがもらう!」
これで勝ったつもりでいるシラーズは正門〜庭の範囲から、屋敷まで速やかに移動。シラーズがいなくなると煙が晴れて、傷を負った健たちの姿が見えた。
「あやつの好きにさせてはならぬ。ヤツを追うぞ」
「はい。父と母のためにも」
シラーズの思い通りにはさせない。健たちは、本館まで全速力で走った。