EPISODE362:お迎えにあがりました
「マスター、お疲れ様でした。全盛期のエリーゼ様にまた一歩、腕前が近付かれたのではないですか?」
「いいえ、まだまだお母様には及ばないわ。それにうぬぼれていてはいけない、日々これ精進あるのみ」
剣術の練習を終えた葛城は汗を拭いて、パートナーであるロゼッタと話し合う。本人は謙遜しているが、実際追い抜かんとしている。
「ご謙遜、ご謙遜! マスターはエリーゼ様が出来なかったヴァニティ・フェアの壊滅を成し遂げたではありませんか」
「もう、ロゼッタったらお世辞ばかり言っちゃって!」
ロゼッタから褒め言葉を受け取って葛城が照れ臭く笑う。エリーゼは実際、自分が希望を託した娘が見事カイザークロノスを倒して期待に応えてくれたことを大いに喜んでいたという。
――と、そこで葛城の懐にしまってあった携帯電話が音を鳴らして振動した。携帯電話を取り出して葛城はこう呟く。
「電話だ」
「マスター、どなたからでしょうか?」
「健さんみたい。はい、もしもし葛城ですが」
健からかかってきた電話に応対し、葛城は用件を訊く。
「……わかりました。車を一台手配しますから、それに乗ってこちらまでお越しください」
そう健に告げ葛城は電話を切った。伸びをしてから葛城は屋敷の中に戻ろうと踵を返す。
「健さんたちがこっちまで来るそうだから、川越を送迎に行かせるわ。ロゼッタ、わたくしはこれからお母様とお父様にこのことを伝えてくるからあなたはメイド長たちとおもてなしの準備をしておいて」
「承知しました。ところでお着替えのほうは?」
「これからするわよ」
「失礼しました」
マスターである葛城がプイッと顔を背けたのを見て、余計なことを言ってしまったか、と、ロゼッタは苦笑いした。
それから葛城はすぐに稽古着から白黒で長袖のワンピースに着替え、両親に健たちがこの屋敷へやってくることを伝えた。
その頃、健たちは高天原市の街中にワープしており、ベンチの付近に屯していた。送迎の車を待っているようだ。
とくに白峯は、この街を訪れるのは風のオーブをめぐる一件以来ということで思いのままくつろいでいる。ちょうど天気も快晴で居心地がいい。
「送迎遅いわねー」
「すぐ来てくれると思ったんだけどな」
「ま、ウロウロしなきゃ大丈夫でしょ。私たちがじっとしてたら相手側も場所を特定しやすいと思うし」
「ですね」
「しかし、これ思っていた以上に甘ったるいのぅ……」
「おいひぃ〜」
一同、思い思いのままに語らう。待っている間に喉が渇いたり小腹が空いてはシャクなので、彼らは先ほどコンビニに立ち寄っていた。
健と白峯はとくに何も買っていないがアルヴィーはフルーツオレを飲み、まり子はピザまんをウマそうに頬張っている。こんなに甘いとは予想外だったアルヴィーは苦笑しつつ、感想を述べていた。
「あ、あの車かな?」
「う! あ……あれは……おそらく、いや確実に……」
「ああ、間違いない……葛城家のリムジンでは……!」
やがて送迎車とおぼしきリムジンがそこにやってきた。
見覚えがある健とアルヴィーはオーバーリアクションで驚いていたが、なぜそうする必要があるのか白峯とまり子にはさっぱりわからない。
「わーお……ますます大富豪って感じね」
「さっすがあずみさん!」
一応リアクションをとる、白峯とまり子。直後、リムジンの運転席から運転手――執事の川越が姿を見せた。
「あなたは、確か執事の大河原さん!」
「……川越でございます。あずみお嬢様が屋敷でお待ちになられております、どうぞお乗りになってください」
健が名前を間違えた、執事の川越から勧告を受けて一同はリムジンへ乗り込む。
一度に四人も乗って大丈夫なのかと心配になるところだが、それが乗れてしまったのだ。
気分はすっかりブルジョアとなり愉悦に浸る四人を乗せたリムジンは、葛城邸へと走っていく。
それを――植え込みからひとりの男が見ていた。片目には茶色の小型電子スクリーンがついており、これによってリムジンの行き先をサーチして特定。
「フッフッフッ」
この男は何かを狙っているようだ。男は不敵に笑い、前髪をすかすと姿をくらました。