EPISODE361:超まぼろしの金属
健が左近を撃破した頃、白峯は自宅地下の研究室にてパワードテクター開発に向けて研究を進めていた。
警視庁で使われているバトルスーツをベースとして作っているそれが実用化に至るまでには、いかなる激戦・過酷な環境にも耐えられる耐久性、装着者の移動を妨げない軽さ、潜在能力を引き出し更に高めるためのエネルギー。それらの要素が求められる。
仮に完成できたとしても警察側が装着者をパワードテクターに組み込むための生体ユニット――つまり人間として扱わないというのなら、提供するわけにはいかない。健たちが日々激闘を繰り広げているように、白峯もまた険しい道を歩んでいるというわけだ。
シミュレーションを行った結果、現行でのパワードテクターの素材に使われるネオメタルでは、デミスの使徒のブロンズクラス程度の相手はともかく、シルバークラス以上の相手が強力な攻撃を繰り出して、それを受け止めた際に一瞬で破壊されてしまう危険性があることが予測された。
「……まだ予測段階だけどネオメタルにも限度があるかー。これ以上耐久性を高めるとなると、ミスリウムとレインドロップは続投として……」
白峯は手元にある資料をめくり、ネオメタルに代わる上等で耐久性の高い素材を探し出した。といってもそれはすぐに見つかった。
それはいかなる金属・機材よりも貴重な金属とされている――。だがそれは残存していないといわれ、更に架空の金属ではないかと云われているという。
「ネオメタルの代用には、かのオリハルコンと同等かそれ以上の硬度を誇るとされているヒヒイロカネを使う――それしか考えられないわ」
白峯がごちたヒヒイロカネは、現存しているかしていないか文献によってまちまちだ。中にはオリハルコンと同一の金属という説もある。
「けどヒヒイロカネといえば幻の金属。ミスリルやオリハルコンと並んで世界でも三本の指に入るという金属の中の金属――|まだ失われていなければいいのだけど《・・・・・・・・・・・・・・・・・》」
ミスリルもオリハルコンもヒヒイロカネも、アダマンタイトやダマスカス鋼などと並んでファンタジーにはよく名前が挙がる金属だ。
ミスリルはミスリウムという形で現世に発見され、オリハルコンは海底の遺跡に埋蔵されていたことが過去に確認されているが、ヒヒイロカネは前述のように現存しているか否か曖昧だ。オリハルコンのことを指している可能性もあるし、もしかしたらアダマンタイトを探した方が早いかもしれない。
しかしどうせなら前者であると信じたい。と、白峯はそう思うことにした。もしも、父が同じ立場に立たされたなら前者だと信じていただろうと、考えたからだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「昨夜未明、京都駅周辺地域で原因不明の爆発事故が発生しました。被害者は意識不明が十名、死亡者が約二名。現在も警察による原因調査が続いております」
「えー。マスコミはデミスの使徒のこと隠蔽したのかな」
翌朝――起床した健はニュース番組を見ていた。デミスの使徒の一員である左近が起こした事件については、『謎の爆発事故発生』と報道され、同組織のことについては一切触れられなかった。
「そうだな。警察はデミスの使徒について知っているはずだ。原因がやつらだと判っているなら調査をしなくてもよいと思うが」
「八年前に『光の矢』と戦争してるし、それは教科書にも載ってるらしいし……わざわざ隠す必要あるのかな?」
一緒に起きていたアルヴィーとまり子もその報道には首をかしげた。なぜ教科書にも名前が載っているデミスの使徒のことを市民に隠そうとするのか? 知られたらなにか都合の悪いことでもあるのか?
この場にいた三人にはマスコミが何を考えているのやら、さっぱり理解できなかった。今日は土曜日、バイトは入ってない。気にせず、ゆったり朝食を楽しむとしようと思い、仕度をはじめる。
――と、そんな折に玄関からブザーが鳴った。
「こんな朝早くからお客さん? ちょっと見てくるわ、アルヴィー冷蔵庫」
「あいわかった」
アルヴィーに朝食に使えそうな食材がないかの確認を頼み、健は玄関に行ってドアを開いた。
朝八時からの訪問者、その正体は――健もよく知る人物、ただしあるものが足りない。それは、白衣だ。
「グッモーニン、東條くん」
「オフッ! し、白峯さんこんな朝早くからなんですかー!?」
「ちょっと真面目な話あるんだけど、大丈夫?」
「どぞどぞー、土曜はバイトないんで大丈夫でーっす」
「お邪魔しまーす」
驚いたり笑ったりしながらどこかせわしなく、健は白峯を部屋の中に上がらせる。
一方の健と違って、突然来客してきた白峯を見てまり子とアルヴィーはそこまで驚いたりはしなかった。だが喜んだ。
「ヒヒイロカネ?」
「ええ。世界屈指の硬度を誇っているという幻の金属よ。それを開発中のパワードテクターの材料に使いたいと思ってさ」
三人は手渡された資料を読みながら白峯の話を聞く。健は首をかしげている。
アルヴィーは「こういうのがあったようななかったような」と言いたげに曖昧な顔をしており、まり子は「聞いたことはあるけど見たことない」と呟いている。
「けどそれってオリハルコンと同一視されてたそうだし、一説によってはもう現存してないって……」
「そこはまだこの世に現存してるって信じなきゃダメだと思うなー」
無いものは無い。そう言おうとした健であったが白峯からヒヒイロカネがまだ残っていることを信じなくていいのか――?
と、言われたら信じてみたくなったので、この際そのようなヤボなことは言わないことにした。
「そうだ、みんなにパワードテクターのこと話してくれた?」
「いえ、まだです。ケータイで連絡もしてないや」
「そっか。これから会いに行くなら、不破くんは開発プロジェクトのことは知ってるし、市村さんは音沙汰ないし……」
「神田さんもたぶん知ってるはずだから、となれば――」
パワードテクターのことについて誰から話に行くべきだろうか? 健と白峯は消去法で考える。残ったのは一名。彼女しかいない。
「葛城さんだ。葛城さんに話に行きましょう」
「そうね。葛城コンツェルンならヒヒイロカネを保管しているかもしれないし」
「私もお主らに賛成だ。とばり殿さえ良ければ今すぐにでも身支度をして高天原へ向かうが、良かったかの?」
「いいわよ。支度が終わるまで外で待ってる」
これで話は決まった。アルヴィーから確認をとられた白峯は頷き、三人の邪魔にならないように一度外で待つことにする。
身支度には朝食も含まれていたためかしばらくかかったが準備は終わり、三人は白峯の前に姿を現す。
やがて白峯を加えた四人は風のオーブの力を借りて、葛城あずみが住む高天原へとワープした。
その頃の高天原。葛城邸の広大な敷地の一角で、バラ色の腰下まである髪を一本の三つ編みに束ねた少女が、
自身のパートナーとおぼしきバラの特性を持つ女騎士のシェイドと手合わせを行っていた。動きは洗練されており、突きも斬りも狙いが正確で研ぎ澄まされている。
伊達に天宮学園高校のフェンシング部部長を務めていない彼女こそ――葛城あずみだ。