EPISODE34:じめじめしたヤツら
「ハァ……ハァ……ッ」
どうすればいい? 全身傷だらけ、とくに顔に至ってはひどい有様だ。
更にメガネをなくし、視界がボヤけて何にも見えない。このまま本部へ帰ってもあの方はお怒りになられる。もう破滅だ。浪岡様は僕を許さないだろう。ごまかしは通じない。どうあがいても公開処刑は時間の問題。でも、ウソついて生き延びたい――。
「く、クソォ……あいつら……こ、この僕を、コケに、しやがって。許すもんですか……」
喘ぎながら足を引きずり、健や不破への怨み言を呟く、かつてメガネをかけていた青髪の男・青山。
そんな彼に、湿った足音を立てて何者かが忍び寄る。半魚人のような青白い不気味な体には、装甲とコイルのような器官、更に曲がった背中から、機械のアームが伸びていた。明らかに普通の動物ではない。こいつはシェイドだ。それも誰かの手で改造処置を加えられたヤツだ。
「な……、なんだぁ?」
ゆっくりと歩いてきた改造シェイドは、獲物を見つけるや否や急速に接近。
立ち止まると、腕が当たらない程度の距離から虎視眈々と青山を狙う。この改造シェイドをなめきっていた青山は、軽はずみに針状のエネルギー弾を射出。だが、まるで効いていない。そんなはずはない、と、焦燥感を覚えた青山はエネルギー弾を乱射。しかしそんなことをしても目の前の現実が変わるわけではない。
「う、ウソだ……ありえない……! グアアアアアアアアアァ!!」
彼を始末しに来た邪悪なハンターはエネルギー弾を吸収、
自分のエネルギーに変えてパワーアップしていた。背中のアームで首をつかみ、そこからカギ爪で胴体を寸断。更に電気を帯びたカギ爪で何度も全身を切り裂き、自分の愚かさに気付かなかったあわれな青山を消し炭へ変えてしまう。
「お前、そこで何してる!」
たま通りかかっていた不破は、その一部始終を目撃。
疾風のような早さで改造シェイドに突っ込み、戦いを挑む。切り払いや突きを目にも留まらぬ速さで繰り出すも、すべて見切られ呆気なく避けられてしまう。
「こんにゃろー……こうしてやる!!」
イライラを募らせた不破は、ボルトランサーの穂先から放電。しかし効いていない。更に苛立ち、電気を纏った鋭い突きを繰り出す。だが、やはり効いていない。
「……しまった。こいつ、この前のカエルと同じタイプだったか!?」
今頃そのことを思い出した不破を嘲笑うように、ニヤリ、と、改造シェイドが不気味に笑った。
全身を発光させ、背中のアームで巨大なエネルギー弾を作り出す。不破はこれを防いでみせようと、バックラーをかまえ防御体制に入った。しかし、それは防ぎきれるようなシロモノではなかった。弾こうとした瞬間に大爆発が起き、不破は吹き飛ばされる。その隙に、改造シェイドには逃げられてしまった。
「イテテ、見くびりすぎたか……。しかしなんで、センチネルズの人間を狙ったんだ? たまたまそこにいたから襲っただけなんだろうか? わっかんねえなぁー……」
なぜセンチネルズの青山を襲い惨殺したのか? 疑問を抱きつつも、不破はバイクにまたがりその場をあとにする。
――翌日――
「東條くん、きれいに作れるようになったわねー!」
「いえいえ、皆さんが手取り足取り教えてくださったおかげですよ」
「今の聞いた? 頼りにされてんじゃん、みはるちゃん!」
「えー、そんなぁ。ありがとうございますぅ」
「あらあら、私たちもそう言ってもらえて嬉しいわ〜。ありがとう、東條さん♪」
先輩のちあきからアンケートの表をエクセルで作成するよう頼まれた健は、
アドバイスを受けつつも自分なりに考えて表を作成。バイトになりたての頃はド下手で失敗ばかりだったが、今ではだいぶ上手に作れるようになっていた。健自身、エクセルだけでも自分の上達を感じられて嬉しいようだ。これについて、周囲は『彼に蓄積されていった経験値が彼自身の成長につながった。素晴らしい上達ぶりだ』と評価している。
エクセルのみならず、健はできる仕事を順調に増やしている。来客への対応も徐々にこなせるようになり、シュレッダーの中のゴミ捨てやポスターはがし、ハンコ押しなどいわゆる雑用の仕事も板についてきた。この辺りについても、みな口を揃えて『はじめて来た時よりもっと良くなっている』、『彼なら正式採用も夢じゃないかも』と高い評価を述べている。
そんな彼が一段落ついてお茶を飲んでいると、携帯電話から着信音が鳴り響く。
「誰からだろう? すみません、ちょっと電話に出ます」
もしかしたら急な用事かもしれない。周囲に一言断ってから、健は電話に出る。
「もしもし、京都市役所事務室の東條ですが……」
「東條か。今からこっち来れそうか?!」
「不破さんですか? すみません、今バイト中でして」
「何時には終わりそうだ?」
「17時には退勤します。それまで待っていただけませんか?」
「分かった。お前のアパートの前で落ち合おう」
電話の相手は不破だった。通信が切れたことを確認すると、またせっせと仕事を再開する。そして、退勤時間がやってきた。
「お先に失礼します、さようなら〜」