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同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第19章 終焉(デミス)への序曲
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EPISODE357:闇の糸とディナーの約束


「ヤバい寝坊しちゃった、このままじゃバイトに遅れる〜!」


 翌朝、先日の疲れが祟ったか健は寝坊してしまい慌ててアパートを飛び出した。

 風のオーブを手に入れた今はそれを使えば一瞬でバイト先まで飛べるのだが――落ち着いてそれを考える余裕は今はない。


「うわーーっ! だ、誰か助けてくれーー!!」

「はっ!?」


 走っている途中で誰かが助けを求める声がした。路地裏のほうからだ。

 シェイドサーチャーを取り出してみるもシェイドの反応はない。

 ではチンピラに絡まれたのか? どちらにしても早いところ済ませてしまおう。善は急げだ――、と、健は路地裏に向かった。


「? 誰もいない……」


 ――だがそこには誰もいなかった。日の光が建物と建物に遮られ、わずかに射し込んでいるのみ。しかしよく見れば陰りの中には、紫色のにぶい輝きを放つワイヤーが張り巡らされている。


「糸? クモの巣にしては大きいし、まりちゃんのテリトリーというわけでもなさそうだが……」


 まり子は自分のテリトリーにクモの巣を張り巡らせる習性がある。去年はじめて彼女と出会ったときや、いつの間にかアパートに忍び込まれていたときもそうだった。

 ではこれもまり子が張ったのか。健にはそうは思えなかった(・・・・・・・・・)。今の彼女にとって安住の地は健のアパートか、いななき谷にある実家――その辺りだけだからだ。


「糸以外はとくに何もないってことは、あの悲鳴は僕の聞き間違いだったんだろうな。バイト行こう」


 疑問は残るが今はバイトが先決。働けるうちにたっぷり働いておきたい。健は路地裏から去ろうとする。が、その手首には先ほどのワイヤーが絡まりそのまま奥へ体が引きずり込まれていく。

 まばたきひとつする間もなく健の体は怪しげに光る糸でがんじがらめにされた。悶絶する健の背後から不気味な笑い声が聴こえる。


「ハッハハハ! こんな簡単な罠に引っかかるとはな! カイザークロノスを打ち破ったエスパーがこのザマとは笑わせるっ!」

「くっ、デミスの使徒か!」


 目を光らせながら暗がりから現れたのは、紫と黒を基調としたエンドテクターを装着した長い赤毛の男だ。中肉中背で顔はそれなりに精悍であり、アゴを持ち上げてしゃべっていた。

 エンドテクターはよく見ると、クモ――正確にはクモの仲間であるザトウムシを彷彿させる形状をしている。動きやすさを追求したか軽装で装甲は少なく、インナー部分の面積のほうが多めだ。また、健が言及したようにベルトのバックルにはデミスの使徒のシンボルである四つに割れた地球のマークがある。色は銅だ。


「おれは『暗闇から糸引く策略家』左近(さこん)。我が主ダークマスター様の命により貴様の首をちょうだいしに来たものよ」

「だ、ダークマスターだと。そいつは、誰なんだ」

「知る必要はない。どれ、貴様の体をバラして首を持ち帰るとするか」

「ッッッ!?」


 左近が指先から出たワイヤーを引き、きつく締め上げられた健の体にワイヤーが食い込む。徐々に傷口が開き、血が溢れ出していく。このまま行けば健の体は輪切りにされ、肉片と五臓六腑を撒き散らして死に至るだろう。


「貴様の全身に巻きついたワイヤーは少しずつ確実に食い込み、ズタズタになって最終的には首だけがない汚い死骸を市民の目に晒すこととなる。マヌケの貴様にはふさわしい最期だろう?」

「わ……悪いやつらってのは、暇なんだな」


 この期に及んで健は軽口を叩く。左近が眉をひそめ、ワイヤーを更にきつく締め付けようとした。


「僕だって急いでるんだ、お前なんかの思い通りにゃさせるかぁぁっ!!」

「なにっ!?」


 しかし健は少し気合いを入れて全身を締め付けていたワイヤーをちぎった。お返しに左近へ一発、腹部へのパンチをお見舞いする。ちょうど装甲が薄い部分だったためクリーンヒットし、左近は悶える。


「信じられん、おれの『闇の糸』をほどいてしまうとは……。だが、次もほどけると思うな! 闇の糸には相手を衰弱させる効果があるのだ、次に絡め取られたときお前に勝ち目はない!」


 捕らえた相手の能力を弱体化させるという闇の糸を伸ばして再び絡め取ろうとする、左近。健はエーテルセイバーとドラゴンシールドを装着し、闇の糸を叩き切って左近に斬撃をかます。目を見開いて左近は叫びを上げ、よろける。


「なるほど、確かに技の威力が弱まってるように感じる……」

「ちょこざいな。次こそ切り刻んでくれる、そぉらああああ!」


 ターゲットの首を執ることに執着する左近はターゲットの健に闇の糸を投げつけた。健は横に宙返りしてかわす。

 背後にあった配管や消火栓が彼の身代わりとなって切り刻まれ、ガスや噴水が辺りに噴き出した。少しだけ振り向いて健は改めて闇の糸の恐ろしさを実感する。


「すごい切れ味だ。さっきは軽いダメージで済んだだけ運が良かったのかも」

「今になって怖じ気付いたか東條健! そちらが動かないならこちらから行かせてもらうぞ!」

「……オーブ、セット!」

「死ねぃ」


 ごちた直後に相手から挑発を受けた健は、軽はずみでそれには乗らず――エーテルセイバーに風のオーブをセット。

 周囲に真空の刃を伴う強風が吹きすさび闇の糸はすべて切断された。左近は苦虫を噛み潰した顔で、「く、くそぅ」


「僕も急いでるからさ、お前に構ってる場合じゃ――ないんだ!」

「おれにはその暇がッ、うぅぅぅお!」


 サマーソルトと同時に斬撃を繰り出し、真空の刃で左近を攻撃。路地裏から歩道に飛び出し、戦いは白熱していく。

 網縄のごとく投げられた黒光りする闇の糸を真空の刃で切断し、更に空中を浮遊して左近の背後に回り込んで健は切り上げる。たじろいだ左近は近くにあったポリバケツに糸を絡み付けて、ヨーヨーあるいはハンマーを叩きつける。

 健に一発入れることに成功したものの次からは盾で防がれ、最終的には眼前に迫ったところを両断された。周りにポリバケツに入っていたゴミが飛び散り左近は苦い顔をする。


「そんなに暇ならお人形遊びでもすれば!?」

「なにぃ……?」


 健は左近を挑発し、空気の渦を伴う回転斬りを繰り出して左近を吹き飛ばした。怒る左近は右手からエネルギー弾を飛ばすも狙った位置に健の姿はなく――舌打ちした。


「ちっ、逃げ足の早いヤツめ」


 左近はそう吐き捨て、歩道の柵の隙間に飛び込んでいずこへ消え去った。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「東條サン、ユーもモウ二十歳なンだシ、ココハ一回飲み会行ッテみナイ?」

「オフィスの完全復興記念ってことで、私からもぜひ♪」


 左近の襲撃を払いのけピンチから脱した健は、無事にバイトをこなしあっという間に帰る直前まで来ていた。ヤンに襲撃されたオフィスは気のいい業者と役所のものたちが力を合わせたおかげですっかり元通り。

 自分を労うための飲み会への誘いを受けるべきか断るべきか、選択のときだ。飲み会の話題を振ってきたケニーもジェシーも、ニコニコしながら期待して待っている。


「すみません、また次のときでもいいですか」

「構いませんよ〜。お酒は飲んでも飲まれるなって言いますし」


 健が出した答えを聞いて、二人とも嫌な顔はしなかった。彼に酒を飲むことを無理強いする気などこれっぽっちも無かったからである。


「それじゃ、お先に失礼しまーす」

「気をつけてね〜」


 定時となったので健はすかさず退勤。伸びをしてから携帯電話のアドレス帳を閲覧し、幼馴染みの彼女――風月みゆきへ電話をかけた。


「もしもし、健だけどー」

「どったの健くん? いまバイト終わったところなんだけど」

「二人でどっか食べに行かない?」

「いいよ、場所は?」

「百貨店の中のヤクド!」

「えー、ヤクドー? わかった、先に行っとくからね」

「へへへっ」


 ちょうどファミレスのウェートレスのバイトを終えたみゆきとディナーの約束をした健は嬉々としてヤクドに向かう。

 ちなみにヤクドとは、有名な大型ファーストフード店、ヤクドナルドのこと。他にはヤックという略称がある。同じファーストフード店であるキスバーガーやコッテリヤとは大昔からずっとライバル関係にあるようだ。


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