EPISODE356:初公開・パワードテクター製作現場
「し、白峯さん」
「なあに東條くん?」
「エンペラーアーマーの解析もいいですけど、今後のことも考えて擬似的なオーブの開発も……」
「あとで聞いたげるから、静かにしてて」
「うう〜〜」
京都西大路にある白峯の屋敷――その地下にある研究室では白峯がエンペラーアーマーをまとった健にコードを繋いで、ノートパソコンで解析を進めていた。
立会人はそのままついてきたアルヴィーとまり子。神田は『光の矢』の生き残りたちを招集するため各地を回ることになり、残念ながら来られず。不破はそもそも開発プロジェクトに関しては知っているし、今日は捜査に追われて来れなかった。
葛城は父からコンツェルンが『光の矢』に協力することを聞いていたものの、戦いに赴く前に思い出作りをしておきたいと今は学業に打ち込んでいた。市村は今日もどこかでたこ焼きを売っているか、シェイド相手に戦っているのだろう。
「……解析の結果なんだけど、エンペラーアーマー及びダークネスアーマーには装着者の全能力を高める効果がある。ということは、擬似エンペラーアーマーともいえるパワードテクターにも同様の効果を持たせ、装着者が持つ特殊能力とパートナーが持つ特性を反映させなくてはならない……」
「そういえばパワードテクター作るための素体は?」
「解析中にしゃべんないでって言ったじゃん。ま、いいや。素体ならシェイド対策課から借りてきたわ」
健の質問に頬を膨らませた白峯だが、すぐにっこり微笑みリモコンのボタンを押した。すると向かいの壁がスライドして、その中から立て掛けられた状態でパワードテクターの素体となるバトルスーツが出現した。
――色は左から順に、藍色、水色、ピンクだ。どれもシェイド対策課が製作した、バトルスーツの特注品だ。
「これが素体かの?」
「そうよ。このうちひとつくらいは見たことあるんじゃない?」
そう言われたら、健とアルヴィーは前にこの『素体』スーツのうちひとつに見覚えがあるような気がしてきた。オニグモというまり子の卷属でありながら彼女を裏切っていたクモのシェイドと戦っていた最中のことだ。
新型バトルスーツを装着した不破が性能テストを兼ねて助っ人で入ってきたのだ。だが、健たちの記憶が確かならば今見ているスーツのうちどの色のものでも無かったような気もしていた。
「……あんな色だったっけ?」
「記憶違いだったらごめんねー」
うろ覚えの健をよそにしゃべりながら白峯はノートパソコンのキーボードを叩き続ける。やがて解析が終了したので口笛を吹いて、白峯は満面の笑みを浮かべ「出来たー。お疲れさま、もういいよ」と、健からコードを外した。
「もう解析おしまいなの?」
「うん! おかげさまで必要なデータは全部そろえられました。わざわざ付き合ってくれてありがとね」
まり子の問いに快く答える白峯は、続けて「ところで晩ごはんはまだ食べてなかったんだっけ?」と一同に訊ねた。
「そうです。帰ってからすぐこっち向かったんで夕飯作ってる暇が無くって」
「それじゃあウチで食べてかない? お風呂ももう沸かしてるし、入ってって」
「本当ですかッ!? やー、ありがとうございます!」
「いいのいいの。さ、リビングに上がって」
予想外の出来事だがこれは嬉しい。健たちは白峯の心遣いに感謝して笑顔で研究室を出た。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
早速風呂を借りた健は湯船に浸かり疲れを癒す。命を洗濯することはいいことだ。混浴が出来なかったのが心残りだがそれは高望みというもの。
庶民である健にとってアパートの、ましてや実家の風呂より何倍も大きくて広い浴室にいるという優越感はなかなか味わえない。ほどよく暖まって気分も良くなったところで健は風呂から上がった。
「もーホントに、ありがとうございます! お風呂だけでなく夕飯まで出してくださるなんて、感謝感激雨あられ〜!」
「いえいえ、プロジェクト手伝ってくれたほんのお礼よ。遠慮せずに食べてって」
「はい!」
風呂上がりの健はリビングで白峯が腕によりをかけて作った夕飯を味わわせてもらった。肉も野菜も魚も一通りそろっており、それも全員分。白峯の料理の腕がいかほどのものかこれを見るだけでもよくわかる。
「やっぱり白峯さんの料理はウマいっ!」
口へ運んだ料理を食して目を輝かせる健が叫び賞賛。続けてアルヴィーとまり子も「うますぎる!」「おいしいーっ」と賞賛の声を上げた。
「ありがとう、こっちもそう言われて嬉しいわ」
手を合わせて微笑む白峯、見ているだけで一同の心が癒される。食事が終わってからふと思い出したかのように白峯は、「そうだ、渡したいものがあるんだった」
「僕に渡したいものって?」
「これを……」
一服していた健に、白峯が手渡したものはいくつかの手錠。接合部がオレンジ色になっておりずっしりしている。一度かければそう簡単には外れない。
「なんですか、これ?」
「アンチアビリティカフスよ。エスパーの能力を封じる特殊手錠で、ブランドメタルって金属で出来ているの」
白峯が健にアンチアビリティカフスについて説明を行う。その中に名が挙がっていたブランドメタル――この場合のブランドは『烙印』を指す。開発側からすれば烙印を押して能力を封印する、そんなイメージなのだろう。
「……あっ! 思い出したぞ、これ不破さんがヤン捕まえるときにも使ってたような!」
「開発に時間を要したけど、今や警視庁や大阪府警を中心に支給されているのよ」
「そうなのか。科学の力マジぱねえ〜」
「うんうん、科学は人類の英知の象徴よ」
感銘を受ける健と、誇らしく胸を張る白峯。アルヴィーとまり子は二人仲良くまじまじとアンチアビリティカフスを見つめていた。
「今後デミスの使徒のエスパーと戦うことがあれば、やっつけたときにそれをかけて。捕まえたら自動で電波が警察まで送信されてパトカー駆け付けるようになってるから」
「ちょっとご都合じゃないですかそれ」
「気にしすぎちゃダメ♪」
「うむ、そんなにありがたいものをもらった以上はな」
健はアンチアビリティカフスをありがたくちょうだいし、懐にしまった。
「もう遅いから周りに気をつけてね〜」
「はーい!」
そして白峯に見送られ、健たちは駅前のアパートへ向けて帰った。それを街灯の当たる高いところから一羽の――ハヤブサが見ていた。