EPISODE355:エンペラーアーマー×新バトルスーツ×開発プロジェクト
その翌日、ケガもだいたい治ったので健は市役所であくせく働いた。まだ復興作業が終わっていないので、本人は手伝う気でいたが業者にやってもらうことになったため結局いつも通りの仕事をこなした。
一方のアルヴィーとまり子は何かいい仕事がないか求人情報紙などをチェックし、就活をはじめるためにまり子がスーツを作ったりなどしていた。
……と、そうしているうちに健は定時で帰宅。一同はいつ白峯に呼び出されてもいいように準備を整える。やがてその白峯から連絡が入り、呼び出された健は白峯から待ち合わせの場所を教わり、アルヴィーとまり子を連れてそこへ向かった。
その待ち合わせ先は――四条にあるとある喫茶店だった。健はジャケットの下に長袖のシャツを着てきて、アルヴィーは珍しくパーカーを羽織ったカジュアルなスタイルで、まり子はセーターを着てきた。
先に喫茶店へ来て待っていた白峯は暖かそうなタートルネックのセーターを着ており、その上にベージュのコートという服装だ。
「とばりさん、話するなら何も喫茶店とかじゃなくて自宅でも良かったんじゃないですか? お金は大事ですよ、ムダ遣いしちゃあ……」
「まあまあ。チョコレートパフェおごってあげるから……それで機嫌直して♪」
「へーい」
白峯が冗談を言って周囲を笑わせた中、健がひとりだけ苦笑いし少し落ち着いたところで白峯がノートパソコンを取り出す。
「さて、不破くんと神田さんに協力してもらって昨日東條くんが戦ったらしい相手のデータを分析できたわ。見て」
白峯はノートパソコンに健が先日戦った相手――ヤンのデータを映して健たちに見せた。入手経路はヤンを逮捕した不破と、わざわざ異次元空間を通って関西へやってきた神田の千里眼だ。
あろうことか神田はその千里眼で不破を通じてヤンを逮捕したときの情景だけでなく、健とヤンが交戦しているときの様子まで見通したのだ。
「むぅぅ、なんと憎たらしいツラをしておるのだ」
「でしょー? こいつはとにかくゲスで腹立たしいやつだった!」
「もちろんコテンパンにやっつけたんだよね!」
「ああ、いろいろ卑怯な手を使ってきたけどなんとかやっつけた!」
「このヤンって男がまとっているエンドテクターって防具はダークマターっていう暗黒エネルギーの結晶で出来ていて――」
「こう、必殺技をドッカーン! とぶちかましてさっ……」
白峯が解説を冷静に解説を始めるが、当の健はアルヴィーとまり子にヤンと戦ったときの話をして大騒ぎ。真面目に解説していた白峯もこれにはイラつき、テーブルをドン! と叩いて健たちを黙らせた。凄まじい剣幕だったために周囲の客も言葉を失う――。
「静かに!! ちゃんと聴きなさいな、大事な話なんだからねー……」
「は、はーい……」
返事を聞いた白峯は咳払いをして、改めて健に戦闘データを見せる。
「こいつがつけてる防具――『エンドテクター』はダークマターっていう暗黒エネルギーが結晶化した物質で出来ていて、身につけた人の能力を引き出して更に高める効能があるらしいの」
「でもそういうダークマターってゲームとか漫画にありがちなタイプで、現実でいう宇宙にある暗黒物質のはずだけど……」
「前に東條くんたち、エリアYの地下で見たことあるんじゃない? ダークマター」
「……あ、あぁ〜! アレそうだったんだ!」
「あの安っぽい結晶、道理でいかにも闇っぽい色だったわけだの」
「いや、安っぽいってアルヴィーさん……」
『エンドテクター』と『ダークマター』に関する説明を受ける中で、健は白峯からエリアYで見た謎の結晶の話題を振られ思い出す。
まさかアレがダークマターだったとは――と、健たちは驚かされた。当事者ではないまり子はそちらの話にはあまり興味がなさそうだ。
「おほん。先日東條くんが戦ったこいつはたまたま三下のチンピラだったみたいだからいいけど――、エンドテクターをまとっている相手は本来はかなり危険だし、今後はうまくいくかどうかわからないから十分に気をつけて」
「肝に銘じますっ」
「そうだ、神田さんが交戦したっていう相手のデータもあるんだけど見てみる?」
――これはぜひ目を通しておきたい。今後の戦いに役立てるためにも。白峯から確認を取られた健たちは首を縦に振った。すると、白峯の手によりスクリーンに映し出されたデータがヤンから駿河のものへと変わった。
「こいつが神田さんと?」
「ええ、名前は駿河。元検事で、相手の魂を抜き取ったり罪状を読み上げてから裁いたりするそうよ。神田さんも少し手こずった相手だそうだから、もし出会ったときはよーく注意してね」
「また肝に銘じておきます」
「確かにこの人は手強そうだもんね……」
神田と交戦したデミスの使徒のエスパー、駿河のデータを見て健たちは眉をひそめる。
「それと最後にひとつ……戦闘データじゃないんだけど、この資料を見て」
白峯はバッグから資料を取り出して、三人に配った。表紙には『上位装着式特殊強化外骨格 パワードテクター開発プロジェクト』と記されており、警視庁のエンブレムが入っていた。
「……パワードテクターってなんですか?」
「パワードテクターは、東條くんがまとうエンペラーアーマーからヒントを得て、東條くん以外のエスパーがまとうことが出来るいわば擬似的なエンペラーアーマーとして開発が進められている強化装甲なの」
「擬似的なエンペラーアーマー……ふむふむ」
「警察で使用中のバトルスーツの技術を応用してより機能性と耐久性を高めるべく、素材には軽量ながら頑丈な鉱石・『ミスリウム』、電気や温度変化に強い特殊繊維・『レインドロップ』、衝撃に強い強化金属・『ネオメタル』を使用する予定よ」
「な、なんか専門用語ばかりでよくわかんないけどよくわかった」
「ミスリウム……ミスリル銀とどう違うのだろうか」
「もしかしたら、わたしの糸もレインドロップなのかな〜?」
健たちは資料を読みながら白峯から説明を受けた。専門用語が多すぎてやや、ついていけないと困惑しつつも。大事なところはだいたい聞けていた。
「出来ればコンパクト化して携帯できるようにしたいけれど、今の技術でそれをやろうとすると難しくってさ。それが最近の私の課題なのよ。というわけで――」
「というわけで、僕らは何をすれば?」
「エンペラーアーマーの仕組みについてもっと詳しく知っておきたいから、今夜ウチに来てくれないかしら?」
「……なあああああああにいいいいいいいィィィ!?」
目が飛び出すほど健は驚いて大声を出し、アルヴィーやまり子に白峯をはじめ周囲のものたちは腰を抜かした。
「……お兄ちゃん、リアクションがちょっとオーバーじゃない?」
「そんなデカい声出さなくたって大丈夫。明日もバイトあるんでしょ。朝までには帰すから、ね?」
――苦い顔をして渋った健だが白峯のためにもと思いOKを出し、白峯の屋敷で研究開発の手助けをすることとなった。それにしても白峯の技術力と鋭い観察眼には驚かされるばかりである。