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同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第19章 終焉(デミス)への序曲
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EPISODE354:working or not working


 時を戻してヤンが戦いに敗れた後の、とある研究所――デミスの使徒の拠点。培養槽が並ぶ部屋より更に奥にある司令室の隅に立つロギアは、左目につけた機械で戦況を確認すると眉をしかめ、舌打ちした。

 ダークマスターが座する司令室奥の席、その後ろでは巨大な赤黒く発光する歯車らしきものが廻っている。ダークマスターの席の前方には巨大なモニターが、席には地球儀も完備だ。


「……ちっ。ヤンめ、しくじったか。どうにも使えないヤツだ」

「しかし各地に散らばる同志たちを集めるにはちょうどいい時間稼ぎになったわ」


 役立たずだったヤンに対して苛立つロギアにフォローを入れるマリエル。彼女が言うように司令室には多種多様のジャケットやコートをまとい中には既にエンドテクターを装着している、デミスの使徒のエスパーたちがおびただしく集まっていた。

 マリエルとアイコンタクトを交わし、しかめっ面をしていたロギアはニヒルな笑顔に切り替えてダークマスターのそばに立つと振り向き、ひざまずいた。


「「ダークマスター様。我らデミスの使徒一同、改めて忠誠を尽くします」」

「忌まわしき大戦より八年、時は満ちた。今こそ世界を終わらせ各々が望む世界を作り上げるとき! 我がしもべたちよ、力を尽くしすべてを滅ぼすのだ!」


 ――ダークマスターのしもべたちが歓声を上げ拳を突き上げた。戦いがいよいよ始まろうとしている。かの光魔大戦の再来か、それとも――?



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 その晩、すっかりくたくたになった健はアパートに帰宅。居間に上がるとふらりと倒れ、アルヴィーとまり子を沸かせた。


「いきなり倒れるとは、いったいどうしたのだ健?」

「し……市役所にデミスの使徒のエスパーが突撃してきて」

「ふんふん、それで?」

「それからかくかくしかじかで……」

「……そうか。そんなことが」

「大変だったわね〜。戦いのあとちゃんと仕事できた?」

「な、なんか二人ともやけに落ち着いてない……?」


 うつ伏せになった状態で健は視線をアルヴィーとまり子に向け、状況を説明。かくかくしかじかと適当な言い回しをしたのに、相手にちゃんと伝わったことに驚いた。

 しかも妙に冷静というか、ドライというか――。とりあえず健は起き上がって手洗いうがいをきっちり済ませ、風呂にも湯を張って居間に戻った。


「――……さて、ひとまず落ち着いたところで二人に話があるのだが!」

「その話とは?」

「先ほどかくかくしかじかで諸君に伝えたがデミスの使徒が市役所を襲った関係で、僕がエスパーであることが皆さんにバレてしまった!」

「あー、言ってた言ってた」

「しかしバイトは続行させてもらえることになった。週二回ではなく、月から金まできっちりとね」

「それと戦いと両立させるとするとお兄ちゃん体壊しちゃうんじゃない?」

「ふっ、心配するな。ボロボロになるのは慣れっこさ」

「とはいうがそれとこれとは別だろう」


 双方から心配されたが、健にとってはノー・プロブレム。それに今さら泣き言を言える立場ではない。ただ、戦いが本格化した場合は休まざるを得ないのも事実。


「いや僕のことはいい。問題はこれからだ。諸君に頼みたいことがあーる!」

「頼みたい? いったい何を?」

「正直僕ひとりで諸君を養うのはキツいのでお二人にも仕事をしていただきたい!」

「「えー」」

「えー、じゃないッ!!」


 不満を言う二人に健は滑稽な怒り顔で一喝する。鼻から湯気を出すと、少し間を置いて落ち着いてからこう言った。


「とくにアルヴィー! あなたはまりちゃんよりずっと前から僕と一緒にいるもののちっとも働いていない! メイド喫茶だとかキャバクラだとかファーストフード店だとか働き口はいくらでもあるだろっっ! いくら美人でも働かない人には――」


 急に立ち上がり健はアルヴィーを指差していい加減働くように説教、まくし立てる。ガミガミ言われている最中に眉をしかめて至極うるさそうな顔をしたアルヴィーは、立ち上がると健の顔をわしづかみにした。

 確かにスパルタ気味の彼女だがいきなりどうして!? 掴まれた健とそばから見ていたまり子は動揺する。アルヴィーは養豚場の豚を見るような視線を健に向けた。


「お主、誰のおかげで戦えると思っておる? 体調が優れぬときに誰が代わりに食事を作っていると思う?」

「そ……それがなんだ、僕は定職につかない人は……」

「ふん!」


 アルヴィーは健を離したかと思えば、掴みかかってまさかのコブラツイストを決めた。さすがのまり子もこれには冷や汗と苦笑いだ。


「そんなに私を働かせたいなら逆にお主を働けなくしてやろうか!?」

「ごめんなさいゆるしてくだちぃはなして……」


 アルヴィーの豊満なバストと透き通った肌の柔らかい感触という天国と手足をそのままもがれかねんほどの力で締め上げられるという地獄。両方味わわされて健は逝ってしまいそうだった。いろいろな意味で。


「はーーーーっ、はーーーーっ。ま、マジ死ぬかと思った……」

「案ずるな健、シメておいてから言うのもアレだが私も働きたいという願望はある。ただ私に合う仕事をなかなか見つけられる余裕がないだけよ」

「それ、言い訳がましくない?」

「…………」


 床に突っ伏したまま健は鋭い指摘をしてみた。しかし逆効果だったようで、アルヴィーからの視線が冷たい――。まり子にも気難しそうな顔をされた。


「そ、そうだ。そろそろ夕飯にしよう。僕今日疲れちゃったから簡単なのでもいい?」

「「いいよ」」


 アルヴィーとまり子が二人同時に声をそろえて返事をする。ここは肉野菜炒めか豚のしょうが焼きでも作ろう――と、健が意気込んだ矢先。

 健愛用の携帯電話(ガラパゴス携帯)から着信音が鳴り響く。今時の若者に人気のあるアイドルグループの歌だ、爽やかな色気があり聴いていると気分も良くなる。健はすぐ応対した。


「もしもし!」

「あ、東條くん?」

「おほ、とばりさーん! 今日はどうされました?」

「大事な話があるんだけど、明日大丈夫そう?」

「バイト終わってからでいいですよね? 月から金までバイト入っちゃって……」

「いいわよ」


 電話の相手は白峯とばりだ。いつもの白衣の下にワンピースなり、タートルネックなりを着ているのは想像がつく。

 また、風呂上がりなのか声色が少しのぼせているようにも感じられた。

 大事な話があるととばりから聞いた健はこちらにも事情があることを話し、OKをもらう。することがなくて暇なアルヴィーとまり子はバラエティ番組を観ながら、驚いたり笑ったりしていた。


「ありがとうございますー。ところで場所はとばりさん家ですか?」

「明日また連絡するねー。それじゃもう寝るから、お休みなさーい」

「はーい。お疲れさまでした」


 通話を切って携帯電話をしまった健は、にやつきながら夕飯の支度を始めようとする。

 とばりと健はどことなく性格が似ているところがある。だからこそお互い共感できるところがあり、しゃべっていて楽しくなるのだろう。もっとも彼女は健のようなドスケベではないが。


「お兄ちゃん、みずクロがオリコン一位だって!」

「マジ!?」


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