EPISODE347:蠍の火
神奈川県のタツナミ海岸における健とレイザースコルピウスの決闘は、夕方になってもなお続いていた。実力ではスコルピウスがわずかに上回っている。しかし何も、埋められないほどではない。工夫をすれば必ず打ち破れる――。健はそう信じながら斬り合い、殴り合いを続ける。
崖の上にて、健の渾身の一撃をかわしたスコルピウスはトマホークを投げつける。健に命中したそれはブーメランのようにスコルピウスの手元に戻り、健は浅瀬までぶっ飛んだ。
浅瀬に叩きつけられたことで、健には激痛が、彼の周りには豪快な水しぶきが上がる。追い討ちをかけるべくスコルピウスは浅瀬まで飛び降り、健に追い討ちをかけようとゆっくり近寄った。しかし健の姿は見当たらない。
「エースパめ。どこに消えた?」
レーザーサイトを額のサードアイから発しながら、スコルピウスは辺りを見渡し様子を伺う。
そのときだ、健が突如としてスコルピウスの背後に現れ斬りかかったのは! 不意打ちを受けたスコルピウスは後退し、苦虫を噛み潰した顔をする。健は息を荒くしながらもにやついていた。
「な……なんだと?」
「へへへ。もうちょっと遅かったら息が続かなくなるところだったぜ!」
なんと、浅瀬に叩きつけられた健は水中に潜って攻撃のチャンスを伺っていたのだ。浅いとはいえ、エスパーだから身体能力が強化されているとはいえ冷たい冬の海の中で。
水棲生物系のシェイドと契約していれば息切れなどしなかっただろうに、なんと無茶が好きな男なのだろうか。
「しかしまだまだだな。このスコルピウスを倒すことは奇跡でも起こさぬ限りかなわない」
「だったら奇跡を起こすまで!」
「そうたやすく起こせると思うなよ!」
冷たい潮風が吹き冷たい水が押し寄せる浅瀬に移動しても、殴り合いと斬り合いは続く。
スコルピウスは距離を空け、遠くからレーザーで攻撃。レーザーが飛び交い、着弾して水しぶきが上がる中を、健は風のオーブの力を借りて加速し一気に駆け抜ける。
「フッ、また加速か。一撃が軽い風の刃では俺は倒せんぞ?」
この前同じ戦法を使って通じなかったというのに、バカの一つ覚えでまた加速したようだ。ニヤリ、と、スコルピウスは口の端を吊り上げた。
が、健はスコルピウスに接近したところでオーブを氷属性のオーブと交換。周囲に凍えるほどの冷たい吹雪を発生させ、スコルピウスを凍らせた。予想外の出来事にスコルピウスは唇を噛みしめる。
「なにィ!?」
「かかったなスコルピウス! 僕は同じ失敗は繰り返さない!」
体が凍りついて動けないスコルピウスに剣を叩きつけて、スコルピウスを勢いよくぶっ飛ばして陸に揚げる。岩場に突っ込みそのまま派手にぶち抜いた。
健はぶっ飛ばしたスコルピウスを追うべく、海面と大気中の水分を凍らせて滑走路を作り出し、その上を滑る。起き上がったスコルピウスは滑走している健を狙い、針状のエネルギービットを作り出し遠隔攻撃を開始する。
「またビットか、冗談じゃないぜ!」
滑走中のエネルギービットからレーザーが発射された。軽口を叩きつつも健は照射されたレーザーをかわす。
次に放たれたレーザーもかわす。同じようにかわす。この繰り返しだ。
「え!? うわあっ!」
ところが、最後にはビットが直接健を狙って突っ込んできた! 直撃して爆発するも健は地べたへ落ちず、滑走を続ける。この次もビットが直接突っ込んできたが、それは華麗にかわしてみせた。
するとスコルピウスは、サードアイから直接レーザーを放って攻撃をしかけた。すべてひらりとかわした健は、スコルピウスの近くで飛び降りて、急降下しながら剣の刀身を地面に叩きつける。すると超低温のエネルギーが氷の結晶を作り出し、スコルピウスを空高く突き上げた。
しかし、スコルピウスは空中でくるくる回転しながら華麗に着地する。鼻を鳴らして、スコルピウスは笑いながら健を見つめる。
「どうした、まさか種切れではあるまいな?」
「まさか。僕には必殺兵器がある」
「じゃあ使ってみろ。使えるものならな」
スコルピウスは何の脈絡もなく全方位レーザーを繰り出し健を焼き払う。健は吹っ飛ばされて固い岩盤の上に落下、衝突した。
更にスコルピウスが遠くからトマホークを旋風のごとく回転させ突進してきた! すかさず盾を構え、健はスコルピウスの攻撃を弾き返す。怯んだ隙を狙い、健は斜め上に切り上げてカウンターを決めた。スコルピウスはたじろぎ、健をにらむ。
「そんなに見たいならお見せしよう、僕が新たに作り出した必殺兵器を!」
健は氷のオーブから土のオーブに交換し、代わりにエーテルセイバーの柄にはめる。温かく強大な大地の力が宿り、エーテルセイバーは褐色を基調としたカラーリングに変わった。
「はああああああああんッ!」
大地の力宿りし剣を天へ掲げて健は力を込める。さすれば剣はみるみるうちに巨大化し、ついには健よりも遥かに大きくなった。
スコルピウスは目が点になった。いくらパワーがあっても俺の盾はあらゆる攻撃を弾き返す。やつが使う大地の力とて同じ。それにパワーを込めて剣を巨大にして打ち破らんというのか――?
「食らえ、タイタンブレード!!」
「うぬうううッ」
タイタンブレードがゆっくりと振り下ろされた。盾を構えてスコルピウスはそれを弾き返そうとする。強い震動に襲われたがどうということはない。
「そぉぉぉぉれ゛ぇぇぇぇい!!」
が、健はもう一発タイタンブレードを叩きつけた。地面がくぼみ、スコルピウスの体が沈みかける。盾には亀裂が入った。スコルピウスは目を見開き驚く。
「でえ゛え゛え゛え゛え゛ぇ゛い゛!!」
「のああああああァ!?」
今度は横にタイタンブレードを薙ぎ払った。スコルピウスの盾にはおびただしい数の亀裂が入り、砕け散った。スコルピウスは野太い叫び声を上げてぶっ飛び、岩壁に激突した。
健は巨大化したエーテルセイバーを元に戻して息を整え、「や、やった!」
「さすがだよ。何も言うことがない」
盾を失い、かける言葉も見つからないスコルピウス。もはや笑うしかない。それでも彼は、あとには退かなかった。
「だがそれまでだ!」
「くっ!」
スコルピウスは起き上がり、猛スピードで走ってトマホークを振り回し額のサードアイからレーザーを飛ばしながら健へ急接近する。
やろうと思えば戦術的撤退は出来た。しかしスコルピウスの歴戦の戦士としてのプライドがそれを許さなかったのだ。
「盾はなくなった! お前の心臓を守るものは何もない!」
「構うものかあ!」
健はスコルピウスの攻撃を打ち払い、左胸の心臓に斬撃とキックを叩き込む。鎧をまとっていても弱点を突かれたダメージは大きく、スコルピウスは後退りした。
「僕もお前に勝ちたい……一気に決めさせてもらう!」
「むむ! あの光は、もしや黄金龍の!?」
確実に勝利をつかむべく健は、事前にアルヴィーから受け取っていた白金色に輝く聖なる宝珠――光のオーブをエーテルセイバーにはめる。
瞬く間にエーテルセイバーとヘッダーシールドは光に包まれ、殻を破るようにして真の姿――エンペラーソードとミラーシールドとなり、健の体には黄金色に輝くエンペラーアーマーが装着された。光と闇を受け入れしものだけが、この鎧をまとうことを許される。有り余る力は健の全身に流れ込み、髪をも黄金色に変えた。
「うおおおおおおお!!」
「むんッ」
盾がなくとも臆せずにスコルピウスは斬りかかる。トマホークをはたき落とされるも、健の攻撃を片手で受け止めた。健はスコルピウスの胸を蹴り、力を振り絞って剣を上へ上へと掲げスコルピウスの手を振り切った。
お返しに、縦と横に一発ずつ斬撃を入れる。おまけにもう一発左胸にある心臓狙いでぶちかました。
「ぐふうう〜〜ッ、黄金龍の力をその身に宿したか……」
「そうだ。でも半分間違ってる」
「なに?」
「この力はアルヴィーの力であり、僕自身の力なんだッ!!」
力強く言葉を発して、健は剣を振るって衝撃波を放つ。威力は抜群で、スコルピウスの鎧が一部破損した。「なんとすさまじい……」と、彼は戸惑いつつも感心する。
「でぇやあああああああァッ!!」
「ううっ、ぬがあああああああ」
相手が高潔な武人肌であれ相手はシェイド、健は遠慮はしないし容赦もしない。連続斬りを放ち、更に衝撃波でフィニッシュを決める。それから腰を深く落として、エンペラーソードに気合いを溜めた。
「――破邪、閃光斬り!!」
「ぬぅぅぅぅおおおおおおッ!!」
閃光の刃がレイザースコルピウスをぶったぎる! スコルピウスは火花を散らしながら後退する。首を振って自分を落ち着かせる彼の眼前に飛び込んできたのは――エンペラーソードを両手で持って突進してきた健の姿。
「シャイニングオデッセイ!!」
「うぐはあああああああああああぁぁ――――ッ」
勢いよく突進した健はスコルピウスの心臓を貫いた! 苦悶の叫びとともにスコルピウスは紫色の血を吐き出し、吹っ飛んで岩のアーチの前へ叩きつけられた。
心臓を貫かれたにも関わらず、レイザースコルピウスはもがきながらもなお立ち上がった。だが戦う力はもはや残されてはおらず。敗北を刻み付けられた。だが悔しさは微塵も感じなかった。
むしろ清々しさや、体の中に爽やかな風が吹いたような心地よささえ感じる――。かつてはオリオンと戦い、たった今現代を代表するエースパとも戦えて、スコルピウスに悔いは残っていなかった。
そして、両腕を大きく広げて潔くこう叫んだ。
「負けたぜ、東條健ゥゥゥゥ!!」
刹那、彼は大の字で地面に倒れて大爆発。灰塵に帰した。一息つくと、健は光のオーブを剣から外し解き放った力を眠らせる。感慨深そうな顔で、レイザースコルピウスが立っていた岩のアーチの前を見つめた。
「レイザースコルピウス……敵ながらあっぱれだった」
――思えば、シェイドに生まれたのが彼の唯一の間違いだったかもしれない。
敵でありながら誇り高く、正々堂々とした彼に健は敬意を払った。海に沈む夕陽を背に受けて、彼はタツナミ海岸を去った――。




