EPISODE342:必勝法をさがせ
アルヴィーは傷付いた健に寄り添い、レイザースコルピウスの前に立ちはだかった。
「アルビノドラグーン! いや、黄金龍と呼ぶべきだったか?」
「どこの誰かは存ぜぬが、好きなほうで呼ぶがいい」
自分の名を呼び身構えているスコルピウスを警戒しながら、アルヴィーは健をかばっている。
「これ以上戦闘を長引かせては危険だ。退くぞ」
「なんでさ!?」
「今のお主がかなう相手ではないからだ。わかったら退くぞ」
戦う気力は残っていた。しかし体のほうはスコルピウスによっていいようにやられ、傷だらけ。
アルヴィーから言われるがまま、健はおとなしく逃走した。風のオーブで瞬間移動して。スコルピウスの追撃も届かないほどの速さでだ。
「まあいい、去るものは追わん。ではまたの機会に……」
せっかく手合わせできたのに相手に逃げられてしまい、悔しかったスコルピウスだが、自分を落ち着かせていずこへ消えた。
去るものは無理に追わないというその引き際のよさは、どこかの誰かにも見習ってもらいたかったものである。
◇◆◇◆◇◆◇◆
アパートへ戻った健は、テレビ番組の再放送を見ながら留守番していたまり子に事情を説明した。
「なんですって、レイザースコルピウス!? スコルピウスっていえば伝承の時代から生き続けてきたっていう古強者じゃない!」
「ええええ〜〜〜〜ッ! そ、そんなに強いやつだったの!?」
「とんだ災難だの。また厄介なのに目をつけられてしもうた」
「あうう〜」
まり子によれば、スコルピウスは伝承の時代から生き続けていたらしい。そんなに長生きであの強さとは――恐れ入ったか、健は目を垂れ下げて口をあんぐりさせた。
「ちゅうか伝承の時代って何年前よ!?」
「三千年ほど前だったかの」
「そうだっけ? わたしまだ生まれてないよ!」
「僕なんか精子にもなってないぞ!」
「わたしたちの中で三千年前から生きてるのってシロちゃんくらいだよ」
健たちは、すっかり伝承の時代に関する話で持ちきりだ。盛り上がる一方で、健の中には「あんなヤツに勝てるのか……?」という不安が生じていた。
「とにかく、スコルピウスは甲斐崎さんには及ばないにしてもかなり手強いヤツだからね。もし次に出会ったときは気をつけて」
「……うん」
真剣な表情でまり子は健に注意を促す。一筋縄ではいかないし、力押しも通じない。何か工夫がいるだろう。
と、何か策はないかと頭を使う一方で健はあることを思い出していた。
幼なじみであり相思相愛の関係である少女、風月みゆきから「明日、大事な話がしたい」と言われていたことだ。カイザークロノスはもういない。シェイドも弱体化しつつある。なのに、何か不安なことでもあるのだろうか? 健は首をかしげた。
「かの北欧の勇者ジークフリートにも、ギリシャの英雄アキレスにも弱点はあった。一見すれば無敵のスコルピウスにも何かしらの弱点はあると思うが……」
そんな健の背後でアルヴィーが腕を組み、神話に登場する名だたる英雄たちに弱点があったことを思い出しながら思考していた。
ジークフリートはかつて北欧の森で双頭の竜ファーヴニルを討ち取った際に全身に返り血を浴びて不死身になった。しかし背中に菩提樹の葉が被さった部分――心臓だけはファーヴニルの血を浴びておらず、後に彼が得た富や名声を妬んだものたちによって弱点を突かれジークフリートは殺されてしまった。
アキレスは勇猛果敢な戦士であり何者をも寄せ付けぬ強さを誇ったが、唯一の弱点であるカカト――後にアキレス腱と名付けられる部位を斬られて命を落としたという。
もしスコルピウスにも弱点があったとして、そこを突いて倒せるとしたら見込みはある。
そうして考えを練り、疲れが押し寄せ眠りについたうちに――夜が明けた。