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同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第18.5章 ブレイブリーホリデー
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EPISODE341:フルヤ・ヨウスケ 悪魔の正体は?


 楽しい正月休みはあっという間に明けて、健はバイトと戦いを分けた生活へと戻った。クリスマスイブの決戦前後に休んでしまった分をガンガン働いて取り戻さなくては――。


「みなさんどのようにお正月過ごされましたー? 僕は実家でのんびりしてましたよ」

「ミーは家族とハワイ行っテまシタ」

「あたしは沖縄まで行ってたよー」

「ひ、ひとりで伊勢神宮まで初詣に行ってきました」

「私は東條さんと同じく実家に帰省していたけれど〜」


 健の質問に係長が、浅田が、今井が、ジェシーがそれぞれ答える。ちなみに副事務長だった大杉は、このたび事務長に昇進したようだ。


「っていうか、トージョー=サン、最近のアナタ休ミすギ。イブとカどウしテタの?」

「か、彼女と一緒に避難所まで避難してました」

「ウップス……。アナタ勇気あルねェ東條=サン。ミーは怖くテ家の押し入レニずっと籠っテイたヨ」

「あたしも避難所に避難してたんですけど」

「私もです。そのとき東條さんいたかしら……」


 健が安全な場所へ避難している姿を見かけなかったと語るは、浅田とジェシー。その点を指摘されて健は冷や汗を流した。

 ――言えない。実は安全なところへ避難などしておらず、全国に宣戦布告したカイザークロノスとの決戦に赴いていたなど。


「マア、いいネ。お正月に休ンダ分、有給二日間追加で休んダ分、きッッチり返シてモラうから覚悟シナ」

「……はい〜そうしますぅ〜、そうするつもりですぅ〜ご勘弁をォ」


 辛辣な態度で休んだ分を返せという係長へ対し、情けない声を出して健は返事をした。

 ――人間とは多面性のある生き物である。たとえば普段の健は、ご覧の有り様だが――いざというときは闘志を激しく燃やし敵に立ち向かう戦士となる。そのときの彼は紛れもないヒーローだ。


「よさないか。お説教はその辺にしといて」

「ジッ事務長! アイムソーリー、ひげソーリー……」


 そこに、年配の男性――事務長に昇進した大杉逸郎(おおすぎ いつろう)が現れた。一同は彼に挨拶を交わす。


「お久しぶりです大杉事務長! 昇進おめでとうございます!」

「へへへ。どうも、どうも。君も頑張っとるようだねェ」

「はいっ」

「久々にバイトしに来てくれたわけだから、無理するんじゃないよ。それと……」


 健と談話をしている最中、大杉は一旦言葉を切った。少し間を置いてから、「あまり変なことしないように。いいね」と、健に釘を刺した。


「え? あっハイ」


 この中で健がエスパーであることを知っているのは、彼に命を助けてもらったジェシーと、健が自分から事実を打ち明けた大杉だけである。

 頂点に立っていたカイザークロノスが討たれたことでシェイドは著しく弱体化した。しかし、これからも奴らは人々に襲いかかる。この場にいる全員に、いつか襲いかかるかもしれない。そのときは全力で守ろう――と、健は意識を高めた。



 ◆◇◆◇◆◇



 バイトを終えて、健は帰路に着いた。駅前にあるアパート、みかづきパレス。その二階にある自分の部屋に向けて歩き出す。

 まだ冬なので日は落ちており、空はもう暗い。街灯を頼りに夜の闇の中を歩いていく。しかし、夜を照らすはなにも街灯だけではない。

 広い空に煌めく星々、神秘的な月の光。これらの輝きを見上げずして歩くなどなんともったいない話なのだろう。


「!」


 だが、そんな物思いに耽るムードをぶち壊すかのようにシェイドサーチャーが音を発した。大きな点がひとつ、それも近くにいる――。


「なんなんだ? この攻撃的で体の内側から焦がされるような気配は……?」


 未知の敵を前に、冷静さを保ちながら警戒する健。さすがに一年間戦い抜いただけあって、胆がすわってきている。戦い慣れてきたのは目付きを見れば一目瞭然だ。


「ふふふふ――。そうこわばるな。なにも街の人々を襲おうってわけじゃない」

「なにっ!? 出てこいシェイド!」

「これは挨拶がわりだ、もらっておけ!」


 シェイドと思われる低音の男性の声が聴こえると、唐突に物陰からナイフが飛ばされてきた。健はとっさに龍頭の形をした――ヘッダーシールドを召喚しナイフを弾き返す。


「さすがはヴァニティ・フェアを壊滅させたエースパだ。このくらいは朝飯前といったところか」

「どこに隠れてる。いい加減に出てこい!」

「あせるな。逃げも隠れもしないさ」


 焼けつくような攻撃的な気配の持ち主が接近してくる――。夜の闇から現れた人影は街灯に照らし出され、その全貌を明らかにした。

 濃い赤色のジャケットを着た男だ。がっしりとした体格で、その精悍な顔は自信たっぷりな笑みをたたえている。


「お前は?」

「東條健だな? 俺は古家庸介――」

「確かに東條健だけど、化けの皮被ってないで正体を見せろ」

「やたらにせっかちなボウヤだ。わかっている、わかっているさ……」



 健から辛辣な言葉を浴びせられても動じず、少し気合いを入れて古家は身を焦がすような赤いオーラに包まれてその姿を変えて……いや、戻していく。

 赤いジャケットをハードに着こなしていた古家庸介の姿は、サソリを模した真紅の鎧を全身にまとったサソリの怪人となっていた。目は金色で、肌は青白い。黒いマントを翻しており、どことなく古代ギリシャの騎士のようだ。かのライオグランデとはまた違う風貌である。


「またまたサソリ!?」

「レイザースコルピウス! これぞ俺の真の姿よ! ところで、サソリはお嫌いだったかな」

「もうかれこれ三、四回は戦ってるからもう見飽きた! 真紅の衝撃でも打ってみろよ、十五発全部僕に打ち込めたら褒めてやるっ!」

「ふっ……後悔するのだな。そのような軽率な発言をしたことを」


 売り言葉には買い言葉で返して、伝統ある拳法使いめいた動きでスコルピウスは健に接近。

 急に逆立ちを始めたかと思えば下半身を大きくくねらせ、まるでサソリの尾のようにしてポージングを決めた。


「! これは荒ぶるサソリのポーズ……」

「そぉれ!」


 そこから鋭い蹴りと回し蹴り、サマーソルトとソバットが健に浴びせられる。負けじとパンチをかます健。しかしスコルピウスは片手でパンチを遮り、エルボーで健の腹をどつき、怯んだところにデコピンを当てて健をぶっ飛ばした。


「どうした。お前本来の実力はその程度ではあるまい?」

「くっ。こいつ、結構強い……! けどこれならどうだ」


 スコルピウスから挑発された健は、右手にシルバーグレイの長剣――エーテルセイバーを持ち、柄に開いた穴に風のオーブをセットした。

 辺りに風が吹き荒れ、エーテルセイバーはエメラルドグリーンを基調としたカラーリングになっていく。「へへっ」と笑い、健は腰を深く落として足に空気を蓄えるように力をこめた――。


「加速っ!」

「む……」


 目にも留まらぬハイスピードで健は走り出す。スピードについていけずかそれともわざとかスコルピウスは翻弄され、風の力を帯びた斬撃を受け続ける。ところが、当のスコルピウスはダメージをまったく受けていない(・・・・・・・・・・)


「そこだろう?」

「ぐはっ!?」


 右フックを受けて、健は悶える。スコルピウスはわざと超高速で移動していた健についていかず、隙を見せたところを狙おうと待っていたのだ。

 加速中は防御力が著しく下がり、超高速で走れるのも十秒間のみ。強力な分リスキーでもあるため、使いどころが肝心なのだ。


「ふん!」


 スコルピウスに首を掴まれ、健は右ストレートで殴られ腹にキックもぶちかまされて吹っ飛んだ。

 吹っ飛ばされた先は静寂な林の中。起き上がって辺りを見渡し警戒する健。刹那、木の根元の隙間からスコルピウスが現れ健はすばやく対応して切り払い、追撃で一太刀入れる。よろめいたことから、スコルピウスにとっては少し堪えたことがわかる。


「いい剣さばきだ。小手調べは終わりとしよう」

「なんだと? あれでまだ小手調べに過ぎなかったというのか……?」

「勝負はこれからだ、若きエースパよ」


 ニヤリと笑うスコルピウスは、右手に武骨なトマホークを、左手にサソリの紋章が刻まれた大きく重厚な盾を召喚。

 身構えたとたんに身を内側から焦がすような気配は高まり、スコルピウスはより威圧感と荘厳さに溢れた。


「っ!」

「トイヤッ!」


 スコルピウスがトマホークを振りかざした、健は間一髪でかわす。近くに生えていた太い木が健の身代わりとなり、きれいに寸断された。あまりの切れ味に健は目を丸くする。


「……な、なんだと……?」

「驚くにはまだ早い――ベノンレーザー!」


 息を点く暇もなくスコルピウスが第三の眼のような額の水晶体――サードアイからレーザーを発射。

 首を反らして健は回避するが、追加のレーザーがひっきりなしに放たれる。やや滑稽な動きをしながらも健はレーザーをすべてかわし、あるいは盾で防いだ。レーザーが止んだので、健は息を吐き盾を下ろした。


「かかったな。全方位レーザー!」

「なにい!? うぁっ、うああああああああァァァァ!!」


 全方位を狙って放たれたレーザーが一斉に健を襲う。爆発も起きて、今度は噴水のある公園まで吹っ飛ばされた健。

 すぐにスコルピウスがベンチの隙間から現れ攻撃を受けるも転がってかわし、体勢を立て直して斬りかかった。しかし、盾で弾かれてしまう。

 ガードを崩すならこれだ! と言わんばかりに、健は剣に土のオーブをセット。エーテルセイバーは褐色を基調としたカラーリングとなり、重量感を増した。各属性のオーブの中でもとくにパワーに秀でている土の力を宿したならば、スコルピウスの盾も打ち破れるだろう。


「食らえ!」


 大地の力を借りて豪快な一撃を叩き込む。しかしスコルピウスの持つ盾には通じず弾き返された。


「そんな!?」

「セイッ!」


 驚く健へ容赦なく振るわれるトマホーク。吹っ飛んでベンチに叩きつけられた健に、スコルピウスはレーザーで追い討ちをかけた。


「俺のレーザーは周囲が暗ければ威力を増す。しかしこの夜の闇だ。わざわざ明かりを消す必要もあるまい」

「くっ……このままではやられる!」

「とどめぇッ!」


 トマホークを携えて、スコルピウスは健めがけてダッシュする。しかし、そのとき――凛々しい声とともに白銀色の髪をなびかせた長身の女がスコルピウスにドロップキックをかました。スコルピウスは盾で防いだが、衝撃が大きかったためによろめいた。


「貴様は!」

「アルヴィー、来てくれたんだね!」


 どこからともなく現れて、健を窮地から救ったのはアルヴィーだ。凛々しく整った顔立ちに、瞳孔が縦長の赤い瞳は強い意志を感じさせる。そのバストはやはり豊満だ。


「ケガはなかったか、健!」


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