EPISODE336:傷だらけの大逆転!この刃にすべてを懸けて
葛城、不破と市村には震撼が走った。なぜなら、これまでいかなる相手であっても健は勝利を収めてきた。それが敗れたのだ――。
「クロノス……! よくも……よくも健さんをっ!」
怒りに震えて、葛城は剣を抜こうとする。不破はすぐに、「あずみちゃん静まれ! オレと市村とでクロノスの相手をする。君は東條の傷を癒すんだ。東條はまだ生きてる、そんな気がするんだ」と、冷静に彼女をなだめて、自身と市村はは深く息を吸い込んでいるカイザークロノスに立ち向かった。絶望という闇に一筋の光明を見出だせることを信じて、葛城は倒れた健のもとへ行く。
「サンダーストライク!」
「チャージショットや!」
不破と市村がそれぞれ磨きに磨いた必殺技を繰り出す。しかし――カイザークロノスは両手で片方ずつ受け止めた。それもそのはず、この程度の攻撃は彼にとっては子供だましでしかない。
「何度同じ技を出したと思っている? こんな技でこのクロノスがやられるとでも?」
カイザークロノスは両腕を上げて周囲に衝撃波を起こし、二人をぶっ飛ばした。
更に、胸部を展開させコアに黒い邪悪なエネルギーを集中させていく。それに合わせてカイザークロノスの前方には時計盤のような円形のフィールドが発生した――。
「何かしでかすつもりだな!」
「そうはさせへん!」
二人はカイザークロノスに、イクスランサーの穂先から放った稲妻やビームでエネルギー充填の妨害を試みる。しかしカイザークロノスの頑強なボディは二人の攻撃を簡単にはね除けてしまう。
ああ見えて、カイザークロノスの外骨格は強力な火器を積んだ重戦車の装甲をも上回る。
かつて健に敗れた、シェイドでも随一の硬さを誇る防御のスペシャリスト・バサルタスには少し及ばないものの――半端な攻撃なんかではとても通じない。ついにカイザークロノスのコアに集まったエネルギーがすべて、解放されようとしていた――。
「ネザーワールドの塵となれ……! クロノデストロイヤー!!」
「「うわあああああああああああああああああ!?」」
妨害が通じぬまま、カイザークロノスのコアに集まった青黒い邪悪なエネルギーが、超強力な波動砲となって発射された。
発射された波動砲はクロノスの周囲を焼き尽くす! 岩山を消し炭にしてしまう凄まじいエネルギー量だ。不破と市村は大ダメージを受けると同時に吹き飛ばされ、地面を削りながら枯れ木や岩に激突した。
「終わったな。どれほど力を付けようと――所詮クズはクズなのだ」
クロノデストロイヤーを放った反動か、それともこれまで少しずつ攻撃を受けて蓄積されたダメージが響いたか、カイザークロノスは息を吸い込みその場に佇んだ。
しかし既に、次なるターゲットは決まっている。東條健と彼の看護にあたっている葛城あずみ。そして――にっくき黄金龍。
「う……うう……」
「健さん、意識が戻ったみたいですね。もう少しで終わりますから、それまで辛抱なさって」
カイザークロノスは様子をうかがっている。――葛城の必死の看護の成果もあってか、健は意識を取り戻し傷も癒されつつあった。先ほど、二人に治療を施したときと同じように傷を回復する効果がある甘く心地よい花の香りを漂わせたのだ。
――見す見す放っておくわけにも行くまい。生半可な希望は断ち切ってくれる。カイザークロノスはゆっくりと足音を立てて、右手をかざしながら葛城に近寄った。
「どうやら傷を癒しているようだがそれでは余計に東條健を苦しめるだけだぞ、葛城の小娘」
カイザークロノスに気付いた葛城は、手当てを中断し剣を抜こうとした。対するカイザークロノスは不敵に笑い、サイコパワーを掌に集中させエネルギー球を作り出す。だが、超低温の輝く吹雪がカイザークロノスの下半身を凍らせた。身動きが取れなくなりエネルギー球も消滅。
「なにッ! これでは動けん……」
「……アルヴィーさん!」
カイザークロノスを凍らせたのは、黄金色の鱗を輝かせているアルヴィーだった。巨体でぶつかってカイザークロノスをぶっ飛ばすと、葛城を守るように立ち塞がる。
「あずみ殿、私がクロノスを引き付ける。その間に健を癒してやってほしい」
「はい!」
それから振り返らずに、アルヴィーはカイザークロノスと戦いを始めた。超高温の青い炎を避けてアルヴィーの顔面近くへ飛びかかり、クロノスはパンチを入れる。
しかしアルヴィーはものともせず、爪で切り裂いてから鷲掴みにする。更に地面へ容赦なく投げつけ、地面にクレーターを作った。カイザークロノスは双剣を召喚して斬りかかるも、アルヴィーは回避。すると同時に鋭いキバで噛み砕き、またも地面へ叩きつけた。
「……忌まわしき黄金龍よ。なぜそうまでして人間の味方でいようとする? なぜたかが一人の人間のためにそこまで必死になれる?」
「決まっておろう。私は人間が好きだからだ!」
アルヴィーは長い年月の中で人間の良いところも悪いところもすべて見てきた。今の彼女が言える言葉は、ただその一言だけだ。
「ハハハハ! ……完全に堕ちたものだな。たったそれだけのためにかぁ!?」と、カイザークロノスは笑った。しかし――。
「――健さん?」
「うおおおおおおおおおおおおぉぉ――――ッ!!」
ついに健が立ち上がった。エンペラーアーマーから伝わる強大な力が全身にみなぎる。みなぎってきた!
健が上げた雄叫びを聞いた不破と市村も起き上がり、不屈の闘志を燃やす。「なにい!」と、カイザークロノスも一瞬冷や汗を流しだ。しかしあくまで余裕な態度は崩さず不敵に笑う。
「これは……わたくしのアロマヒーリングとエンペラーアーマーに宿った力が合わさって、化学反応を起こしたということなの?」
「みんな……一気に行くぞ!」
「おうよ!」
「よっしゃ!」
「喜んで!」
健が復活できた理由は概ね葛城の言う通りだ。死の淵より蘇った健は皆に号令をかけ、カイザークロノスに立ち向かう。
「食らえェェーッ!」
「ファイヤー!」
イクスランサーの穂先から稲妻がほとばしり、市村のブロックバスターが火を噴く。カイザークロノスは指一本で攻撃を防ぎ、葛城の鋭い突きも同じように受け止めて愉悦に浸る。
よく見れば、ヤツの身体に走っている水色のラインは胸部を中心に集結している――。胸部のコアを狙えばいいということか。しかし今は胸部は展開していない。どうやってコアを露出させるか? 葛城はひとまずカイザークロノスのパンチを避けた。
「ヌゥゥゥゥーーーーン!」
「あれだ! あれを狙えばいけるかもしれねえ!」
カイザークロノスが気合いを溜めると胸部が展開し、コアが露出した。不破は一か八か、青いコアを狙ってひと突き入れる。
するとクロノスはうめき声を上げてのけぞった。間髪入れずに市村がブロックバスターを連射して、コアに全弾命中させる。
「コアや! あいつの胸のコア狙え!」
「今更気付いたところで、もう遅い……。サイキックデスボール!」
謎を紐解いた顔の市村の言葉に頷く健。しかしカイザークロノスはそう簡単にはやられず、サイコパワーで作り出した青黒いエネルギー球と赤黒いエネルギー球を投げつけた。
飛び交うエネルギー球は健たちをランダムに襲い、爆発する! しかし、彼らは倒れなかった。不破はイクスランサーの穂先にエネルギーを溜めてサンダーストライクを放ち突撃! カイザークロノスは指一本で受け止め、腹をパンチして吹っ飛ばした。クロノスは不敵に笑うと再び力を溜め始め、胸部のコアに青黒いエネルギーを集中させていく。
「食らえ全力のクロノデストロイヤーだ! エスパーどもよ、消えてなくなれ!!」
そしてクロノデストロイヤーが放たれた。直撃すれば今度こそ何もかもが終わってしまう。そうなる前にカイザークロノスを――終わらせる。
「シャイニングオデッセイ!!」
健は両手でエンペラーソードを持って、前方に光のオーラをまとわせながら突進。もはや危険を顧みず青黒い波動砲の中を力押しで突っ切らんとしている!
「愚かな! エンペラーアーマーごと砕け散ろうというのだな?」
「違う! 砕け散るのは貴様だ! いっけえええええええええええ!!」
クロノデストロイヤーを押しきることはさすがのエンペラーアーマーでも耐えがたく、痛々しい亀裂が入っていく。普通ならば不可能なことだったのだ。しかし健は――押しきった。不可能を可能にしたのだ。
「なにい!? どぉああああ!!」
健の剣がカイザークロノスのボディを貫き、吹っ飛ばす。岩に叩きつけられたクロノスへ間髪入れず、轟く稲妻をイクスランサーに宿した不破が接近した。
「ギガボルトブレイク!!」
「どぉあッ!」
「マキシマムキャノン!!」
「うぐああああーーッ!!」
不破のギガボルトブレイクが炸裂し、カイザークロノスは宙へ放り出された。更に地上よりいつの間にかエネルギーを充填していた市村のマキシマムキャノンが命中。カイザークロノスは古城の内部まで吹き飛ばされた。
「五月雨の舞!!」
「ぬっ! どぉああああっ!」
戦いの中で荒れ果てた玉座の間で、瓦礫に埋もれかかったカイザークロノスの前に凛々しい顔をした葛城が立ちはだかる。激しくも鮮やかなステップを踏むような軌跡を描き、葛城はカイザークロノスを切り裂く。ダメージがどんどん蓄積してカイザークロノスのコアは黒く濁っていた――。
「この一撃にすべてを懸ける! これで終わりだ甲斐崎イイイイイイイィッ!!」
「うぬううッ」
アルヴィーとともに健がエンペラーソードを白く輝かせながら飛び込んだ! カイザークロノスは健の攻撃を跳ね返そうと双剣を召喚し、防御体勢をとった。
「破邪――閃光斬りぃぃぃぃッ!!」
「どあああああああああああああァァァァ!?」
だが、アルヴィーが吐き出した青い炎を伴い決死の思いで放たれた破邪閃光斬りは、防御を貫き双剣ごとカイザークロノスを切り裂いた。健の背後で、カイザークロノスは火花を散らし、胸部の結晶体は砕けて紫色の血を噴き出した。
「お、俺が敗れるとは……! だが、クロノス滅びようとシェイドは滅ばず! ネザーワールドはまだ開いているぞおおおおおおおおおヲヲヲヲォォォォッ!!」
カイザークロノスに閃光が走り――大爆発が何度も起こった。クロノスの巨大な怨霊のような黒いエネルギーが青い爆炎の中に消えていく――。
同時に光のオーブがアルヴィーのもとへと帰った。エンペラーソードとミラーシールドは眠りに就き、エンペラーアーマーは光の粒子となって外れた。体から力が抜けるように健は倒れたが、葛城がとっさに肩を支えた。アイコンタクトを交わして、一同は微笑む。
「……終わったんだよね? 何もかも」
「うむ。今、全部が終わった。恐怖の帝王はもういない」
「わたくしたちが勝ったんだわ。これでみんな……枕を高くして寝られますわ」
健もアルヴィーも葛城も、安堵の表情で語り合う。そのとき、古城が激しく揺れ始めた。主を失い役目を終えたこの城が崩れ去ろうとしているのだ。
「二人とも、ここから出るぞ! さあ乗れ!」
アルヴィーの背中に乗って、二人は城から脱出。最下級のシェイドたちと戦いを続けていたまり子と鷹梨にも、その光景は目撃されていた。道を埋め尽くさんばかりにいたシェイドたちはすべて倒され、中には恐れを成して逃げ出したものも――。
「あ、シロちゃんたち出てきた。ってことは――」
「……社長……」
一仕事終えた顔をしているまり子の横で、人間態へ戻った鷹梨は寂しげに一言だけ呟いた。そんな彼女の肩を憂いを帯びた笑顔で叩くと、まり子は「お城が崩れてる。わたしたちも行きましょ」と、励まして鷹梨と一緒に城門をあとにする。
「東條お前よくやったなあ! これでもう何にも怖くない! やっと平和が戻ってきたぜ!」
「はよ帰ろうな! 明日クリスマスパーティーするんやからな、はよ帰ろう! なっ!」
不破と市村のもとに戻った三人は、満面の笑みを浮かべている二人から勝利を祝う言葉を受け取り喜びを分かち合った。ちなみにアルヴィーは、いつの間にか白銀色の髪をした長身の美女の姿に戻っていたようだ。
「あっ! みんなそこにいたんだ。探してたのよ〜?」
「へへへ。ゴメンゴメン」
「……まだ喜ぶには早いのでは? どうせなら地上に戻ってからにしません?」
「そうだね。さっ、帰ろう」
まり子は空間をねじ曲げて小型のワームホールを作り出した。全員その中に入って、ネザーワールドから脱出した。
…………
…………そうです。長きにわたって健たちを苦しめたアイツもこれでおしまい。
ヴァニティ・フェアもおしまいです。皆様、よき週(終)末を……