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同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第18章 聖夜の大決戦
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EPISODE333:希望と絶望のはざま

「天国にも地獄にも行くつもりはありません。この剣に懸けて……あなたを倒します!」

「戯れ言を……。今、楽にしてやるぞ!」


 暗雲広がる空に走る閃光は、その強さと激しさを増している。葛城が啖呵を切ったのを合図に戦いの火蓋は切られた。

 圧倒的スピードで葛城に詰め寄るとカイザークロノスはキックを浴びせ、葛城は宙に打ち上げられた。が、ただではやられず体勢を直し空中からレイピアを振り下ろして反撃。双剣で弾かれたが、着地した葛城はカイザークロノスが交互に放った斬撃を回避。関節を狙い横と縦、斜めに一閃ずつ斬撃と突きを入れた。頑強なカイザークロノスもこれは堪えたか、火花が飛び散り後退する。


「くわァァッ!」

「!」


 カイザークロノスは目から破壊光線を発射。葛城は最小限の動きでかわしたが、うしろは大きく焼き払われた。

 次にカイザークロノスは掌に青黒いエネルギー弾を作り出し、投げつけた。連続で放たれるエネルギー弾の中を、葛城はシールドを構えて切り抜ける。


遅延(ディレイ)!」


 カイザークロノスはカッと目を開き、葛城を指差して叫ぶ。指先が、肩の突起が発光し――葛城の動きは遅くなった。


「なんなの、体が……重い。いや、わたくしの時間が遅くなってるの?」

「フッフッフッ……」


 遅延(ディレイ)を発動された影響で、手足が思うように動かせず、走ることもままならない。そこに、カイザークロノスが不気味な笑いを浮かべて飛びかかってきた。吹っ飛ばされ、葛城は起き上がって身構える。ダメージを受けると同時に遅延(ディレイ)は解除されたようだ。


「こおおぉぉッ」


 立て続けにカイザークロノスは口から冷たく輝く息を吐き出す。葛城はとっさに盾で弾き返したため、ダメージは抑えられた。ただ、足元が凍り付いていてやや心許ない。


「安心するには早いぞ」

「ッ!」


 余裕綽々のカイザークロノスは地面に双剣を突き立てると、超スピードで走り出し、高く飛び上がってからのカカト落としを葛城にお見舞いした。しかし葛城はひらりと避けた。カイザークロノスは鼻を鳴らしてラリアットをかます。葛城に命中し、壁に叩きつけられた。


「フッ、流石にあの葛城エリーゼの娘というだけのことはあるな。しかしそれまでだ。何者であっても俺には勝てない」

「いいえ、勝ちます。あなたにだけは絶対に」

「笑止な! 貴様と俺とでは、恐竜と小さなアリほどの差があるのだぞ。やはり貴様にも力の差を見せつけねばならないようだ」


 葛城の凛とした言葉をはね除けたカイザークロノスは手元に双剣を呼び戻すと、両腕を広げ地にどっしりと足を着けて力を溜め始めた。じきにクロノスの体から青黒いオーラが立ち上り、クロノスは鋭い目をカッと光らせ葛城を捉えた。何か良からぬものを感じ取った葛城は顔を険しくして身構える。


「その身に刻むがいい!!」


 邪悪な闇のオーラをまとったカイザークロノスは空中に浮かび、突進すると同時に消える。何度も突進と瞬間移動を繰り返した末、双剣を思い切り叩きつけるように着地。闇の雷を伴う衝撃波で周囲を焼き尽くし、葛城を吹っ飛ばした。


「見たか! これぞナイトメアレイヴ!」

「つ……強い。けど、何のこれしきッ!」


 カイザークロノスが放ったナイトメアレイヴを受けても立ち上がった葛城は、地面にローゼスレイピアを突き刺した。あれほどの苛烈な攻撃を受けても血を流す程度――。強いのは何も、太古の時代に地球を支配していた恐竜の如く強く巨大な力を持つカイザークロノスだけではない。人間はどこまでも強くなれる。誰でも勇気があれば英雄(ヒーロー)になれるのだ。


「ヴァイオレントブロッサム!!」

「ん゛ん゛ん゛ッ」


 そして、彼女は地中から無数の茨を突き出してカイザークロノスを打ち上げた。敵が一瞬怯んだ隙を突いて、葛城は鮮やかなステップを踏み出し――五月雨の舞を繰り出す。


「五月雨の舞!」


 踊るような華麗な動きで敵を斬る! しかし、カイザークロノスは唸り声を上げて攻撃を弾いた。葛城は苦い顔を浮かべる。


「小ざかしい!」

「ううっ!」


 カイザークロノスは葛城を双剣で薙ぎ払った。葛城は柱に叩きつけられ、床に落下。ここでようやく膝を突く。


「お前などにいつまでも時間をかけてはいられん。俺は他の者たちとともに全人類に総攻撃を仕掛けねばならないのだからな」

「させないわ、そんなこと……。それに健さんたちもまだ死んではいないもの」

「なにい……」

「あなたにはわたくしは倒せても、健さんを倒すことは出来ない」

「生きている? あの英雄(ヒーロー)気取りが、か? ……ウワーッハハハハハハハッ!!」


 相手が最凶のシェイドであっても屈せぬ葛城の言葉にも動じず、カイザークロノスは豪快に笑った。


「死を前にしてまだ仲間にすがりつこうというのだなあ? くどい。貴様の体ごと引き裂いてやろう!」


 カイザークロノスは葛城の想いをその体ごと断ち切らんと、双剣を大きく振り上げた。そのとき、倒れていた健が――開眼。もぞもぞと動き出し、剣を抜かんと立ち上がる。

 ――仲間たちが倒れている。自分を助けに来てくれたのか? 今、目の前では葛城がカイザークロノスと戦っている――。勝たねばならない。絶対に勝つ!



「くたばれ!」


 双剣が振り下ろされようとした刹那、カイザークロノスは本能的に何かを感じ取り目を見開いた。


「なんだぁ……、この凄まじく強大なオーラは!」

「健さん……目を覚ましたのね!」


 エーテルセイバーから、いや、健自身の体から強大な(オーラ)が立ち上っている。健に呼応するかのように、アルヴィーが、市村が、そして不破も目を覚ました。


「健……お主……!」

「うぅおおおおおおおおおおおおおおおおおォォォォ〜〜〜〜ッ!!」


 それは猛り狂う鬼神の如く。逆鱗に触れられ荒れ狂う龍が如く。健は今、正義の血潮を熱く燃やしていた。目付き険しく、歯を食い縛ると――カイザークロノスに狙いを定めて突撃、捨て身の一撃を叩き込んだ。カイザークロノスは石畳を削りながらたじろいでいく!

 いかなる攻撃を受けてもまったく効かなかったあのカイザークロノスが、だ! 健はいつの間にか、剣に炎のオーブをセットしていた。


「ダイビングヒート!」


 急降下しながらの突きが大爆発を巻き起こす。見上げたカイザークロノスはそれを指一本で防いだ。しかし、床に沈んでいく。


「グランドエクスプロージョン!」

「んぐおおおおっ」


 続いて土のオーブをセットし、健は地面に大地の力を借りたエーテルセイバーを突き刺した。地中で大爆発が巻き起こり岩盤ごとカイザークロノスを打ち上げる。


「トリックディバイド!」

「ぬうううんッ!」


 風のオーブをセットしてすばやい斬撃を繰り出したかと思えば、今度は助走をつけて五人に分身。一斉攻撃をしかけるもカイザークロノスは片手で受け止めた。弾かれてもなお、健は攻撃の手を休めない、休めるつもりもなく――。オーブを風から雷へ入れ替えた。


「ライトニングフラッシュ!」

「どぉあッ!?」


 雷をまとった一太刀がカイザークロノスを切り裂く。流石のカイザークロノスも防ぎきれなかったようで、クリーンヒットした。

 アルヴィーたちにとってもこれは目を見張るほどの光景だ。歓声が上がり、皆健に淡い期待を寄せた。


「食らえ! スノウスライド!」

「う! ぐ、ぐはっ! ぐおあああああ!!」


 今度は氷のオーブをセットして、空気中の水分を凍結させその上を滑走。すれ違いざまの斬撃を幾度となくヒットさせた。


「五連発!?」

「見える! 見えるぞ、勝機が!」


 市村と不破が叫ぶ。葛城が治癒の効果がある花の香りを漂わせたため、二人の傷は戦える程度には回復していた。肝心要のアルヴィーの姿は――いつの間にか消えていた。


「ギャオオオオオオッ!!」

「! 黄金龍ッ!!」


 天井高くから放たれた青い炎がカイザークロノスを焼き尽くす。炎を吐き出したのはクロノスにとっては忌々しく、健にとっては頼もしい相手――アルヴィーだ。


「アルヴィー!」

「今起きた。健、今一度お主に力を貸そうぞ」



 険しかった健の顔がパッと、明るいものへ変わった。龍の姿となったアルヴィーは健の周囲を舞い、健は炎のオーブをセットして気合いを高める。


「行くぞ! ファングブレイザー!!」


 健は、アルヴィーを伴い空高くジャンプ。アルヴィーが吐き出した青い炎と自身が発する赤い炎をまとい、カイザークロノスめがけて急降下しつつ突進。かつてクロノスとの初戦で弾かれたあの必殺技を繰り出した。カイザークロノスは、相手の攻撃に備えて両腕を交差するように身構えている。刹那、ファングブレイザーが命中し防御を破らんとしていた。


「効かぬッ……!」

「僕はあのときとは違うんだ! 絶対に勝つ! 絶対にいいいいぃぃ!!」


 火花が散り、両者は歯を食い縛って意地と意地をぶつけ合う。そして――カイザークロノスの防御は破られた。クロノスは爆発しながらぶっ飛び、壁に叩きつけられて壁ごと崩れ落ちた。健は着地し、アルヴィーも地上へ降りる。


「やったか!?」


 希望に満ちた明るい表情で不破が叫んだ。市村と葛城も健の勝利を確信する。



「ハハハハハハ……。なんだぁ、今のは?」


 ――だが、ヤツは生きていた。鋭い眼と体中に走ったラインを青く光らせ、噴煙の中からゆらゆらと姿を現したクロノスの体にはかすり傷ひとつついていない。

 やはり今までの敵とは一線を画している。強さの桁も違いすぎる――。健は、最凶のシェイドを前に剣を杖がわりにして息を乱していた。仲間たちにも不穏な空気が漂いはじめた。



 もはや、絶望しかないのか。


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