EPISODE332:時代は甲斐崎(クロノス)を選ぶのか?
闘志をたぎらせ、鬼めいた形相で彼はカイザークロノスめがけて突進していく。脇目も振らず、ただまっすぐ――カイザークロノスを貫いてその先にある勝利を手にするためにだ。結果、クロノスの額に激突した。
「どうだ!」
「……英雄気取りとゴロツキの次は暴れ馬か。効かんな」
まるで効いていない? 真正面から食らわせたというのに。不破の全身に精神的な衝撃と悪寒が走る。嫌な予感は当たり、カイザークロノスは先程弾いたイクスランサーの柄をつかんで、一回転して振り回し不破を投げ飛ばした。が、不破は体勢を直して着地する。
(さすがに最凶のシェイドといわれるだけあるな……。これまでのヤツらとは一線を画してやがる)
不破の額から汗が流れた。カイザークロノスは鋭い眼で不破の姿を捉え、コブシを突き出してダッシュ。パワーとスピードが乗った強力なパンチを不破に浴びせる。壁まで突き飛ばされ、不破は瓦礫に埋もれた。
「不破のおっちゃん!」
クロノスの攻撃で吹っ飛ばされた不破を気にかけ、市村が叫ぶ。アルヴィーも片目を瞑りながら彼のことを気にかけていた。
「ふん……」
ここに来るまでにライオグランデをはじめ数多くのシェイドを倒してきた不破もこれまでか? 踵を返したカイザークロノスは市村とアルヴィーに視線を向ける。
――唐突に瓦礫の中から飛び出した筋肉質な腕が、カイザークロノスの足を掴んだ。不破ライのものだ、彼の他には考えられない。瓦礫から這い出した不破は、蒼い体のクロノスをにらんだ。
「やはりな……。しぶとく生き残っていたとは」
「言ったよな。オレたちは最後までエスパーだ……それに、誰も死なせやしないって決めてるんでね」
「誰も死なせたくないから、まだ死ぬわけにはいかないと? 無駄にしぶとい身に生まれた不幸を呪うんだな」
不破を振りほどいて宙を舞わせると、カイザークロノスは不破の首根っこを左手で掴んだ。
「ハッハー! それぃ!」
「うっ」
掴んだ不破を顔から地面に叩きつけて、くぼみを作るとクロノスは目から破壊光線を放ちその爆風で不破を吹き飛ばした。
「バカな奴らだ。まだ気付かんのか? 俺に従うことこそ幸福。俺に逆らうことこそ過ちだ。一週間も考える猶予を与えてやったというのに、自ら選択を誤るなど愚の骨頂」
「何が愚の骨頂だよ。てめえごときが全知全能の神様気取ってんじゃねえよ」
邪悪で傲岸不遜なカイザークロノスには悪態を。不破はイクスランサーの穂先を向け、吐き捨てる。
「ここでホイホイ従ったら東條が浮かばれないんでね。オレは抵抗し続ける。お前の首を獲るまで、まだまだ粘らせてもらうぜ」
「愚か者め! 己の不幸を呪いながら死ぬがいい、不破!」
カイザークロノスの肩の突起からギザギザのビームが撃ち出された。バックラーで防ぐと不破は加速、超高速で撹乱しつつ攻撃を加えんとする。カイザークロノスは直立不動で、様子をうかがう。超高速で走り出したら普通ならば視認など出来ないが、彼には――それが出来た。
「そこか?」
「なにぃ!?」
クロノスは不破が斜めからイクスランサーを叩きつけてくることを予測しており、指先ひとつで攻撃を受け止めた。
掌から衝撃波を起こして遠ざけるが、不破は攻撃をやめずにイクスランサーを構えて突撃。クロノスに弾かれたが、斜めに構えを取ると力を集中させ始めた。
「うおーっ! オレの必殺奥義……ッ! ギガボルトブレイク!!」
至近距離へ一気に詰め寄ってからの、轟く稲妻まとう必殺の一撃が炸裂――かに、思えた。あろうことかカイザークロノスは片手でギガボルトブレイクを遮ったのだ。不破は驚き目を見開く。カイザークロノスは不敵に笑い、「これが必殺奥義だと?」
「ば……バカな、信じられねえ」
「ふん!」
カイザークロノスは鋭い蹴りを繰り出し、不破をたじろがせる。
「なんでや!? あいつは無敵か!?」
「まずい……このままでは、不破殿まで!」
バックで、市村とアルヴィーは不安を抱いた。しかし、不破は必殺奥義を破られて引き下がるような弱虫ではない。苦い顔をして、加速。超高速で動く不破を捉えられるカイザークロノスは、やはりその場から動こうともしない。
「哀れだな。いかにすばやく動けようと、時間が止まれば何の意味も成さない。お前の身をもってそれを思い知らせてやる」
「!」
超高速で走る不破に語りかけるカイザークロノスは掌からエネルギーを発し、時間を止めた。止まるまでの一瞬、不破はクロノスが時間を操る際に何かを動かすことに気付いたが――もう、遅かった。
腹にパンチとキックを叩き込み、更に黒いエネルギー波を放ち、ラッシュをかける。気が済むまで攻撃をしかけ、クロノスが時間停止状態を解除したそのとき、速やかに不破は爆発。地面に打ち付けられ吐血した。
「う……うああああ……クソッタレエエェェェェ〜〜〜〜!!」
傷つき、血を流しながらまたも苦い顔だ。起き上がった不破はいきり立ち、目にも留まらぬ速さで突きの五月雨を放った。しかしカイザークロノスはそれすらことごとく弾き返し、不破が気付かないほどの速さで動いて消えた。
「うしろがお留守だぞ」
「!? ぐわああああああああああああァァ――――ッ!!」
カイザークロノスは超高速を超えたスピードでショルダータックルをかまし、不破をノックダウン。白眼をむいて地に伏せてしまった。
「あかん……おっちゃん、おっちゃんが!」
「不破殿! 不破どのぉぉぉぉぉぉ!!」
□■□■□■□■□■□■□■
健に続いて不破まで倒れた。葛城はまだ到着していない。それ以前に市村もアルヴィーも満身創痍だ。それでも戦うしかないのだ。勝つためには――。
引き金を引くことも満足に出来ない体に鞭打って市村は立ち上がる。銃口を向ける相手は言うまでもなくカイザークロノスだ、アルヴィーは彼の肩を支えた。
「死に損ないめ。まだやられ足りないのか? 戦いはもう終わりだ。お前らの出番はない」
「終わりやない……まだ終わりやない!!」
こんな状態でブロックバスターの引き金を引こうというのだから手が震える。市村はめげず力を振り絞って、チャージショットをクロノスにお見舞いする。
表情を緩めず、クロノスは両手にふたふりの剣を召喚するとチャージショットを打ち払い、跳ね返して市村とアルヴィーに命中させた。市村は衝撃からブロックバスターを落とし、転がった。アルヴィーは体勢を立て直し、市村に駆け寄る。
「負け……へん……!」
苦痛にあえぎながらもアルヴィーに支えられて体を揺り起こし、市村はゆっくりと地に足を着ける。
「こんな傷は気合いでなんとかなるわい……! 死んでもお前には頭なんか下げん! たとえブロックバスターが無うてもパンチ一発で十分じゃ!」
「うるさいハエめ。手足をもぎ取ってからトドメを刺してやる」
「やめろたこ焼き屋! 死に急ぐでないっ!」
怒りと闘志を燃やして己を奮い起たせた市村は、止めようとしたアルヴィーに脇目を振らず雄叫びを上げてカイザークロノスに殴りかかる。クロノスは地面に双剣を突き立て飛んできた市村のコブシを、片手で受け止めた。そして強く握り潰した。
「お……お……おあああああああァ!」
「死ね」
双剣を引き抜いたカイザークロノスは、コブシを砕かれた市村を容赦なく斬る。鮮血が吹き出し、更に腹部を貫かれると同時に大きく突き飛ばされて、彼も完全にダウンした。
「あ……姐さん……アズサぁ」
「そんな……お主まで……」
市村は意識を失った。これで残るは自分と葛城だけ。しかし、その葛城もまだ来ていない。だったら自分が戦うしかない……と、アルヴィーは沸き上がる哀しみを抑えて、カイザークロノスに戦いを挑まんとした。だが今までに受けたダメージの影響により、視界が霞んでいく。意識も遠のいて――そのうち、真っ暗になった。
「フッフッフッ……ハハハハ、フハハハハハハハハハハハハッ、ウワーッハハハハハ!!」
――エスパーどもは、もはや死んだも同然。誰にも俺を止めることは出来ない。地上は俺のもの。人類の時代は終わりを告げ、シェイドの時代が来るのだ。逆らうものには破壊と殺戮を、愚民どもには恐怖と混乱を! カイザークロノスは己の勝利に酔いしれ、狂喜乱舞した。
「……そこまでよカイザークロノス。地上の支配も勝利の余韻も、まだ早いわ」
勝利の余韻に浸ることを許さぬかのように間髪を入れず、凛とした少女の声が玉座の間に響いた。不審に思ったカイザークロノスが声がした方向に視線を向けずとも、そこに葛城あずみの姿があったことは認識できていた。葛城は大扉とはまた別の扉から入ってきている。――健たちとは違うルートを通ってきたようだ。
「そうだ。まだお前が残っていたんだったな。まったく、勝利の余韻に浸っていたかったというのに……。まあ、いい」
薄ら笑いを浮かべてカイザークロノスは、右肩に長いほうの剣を担いで振り返らぬまま残念がる。
「――……地獄に旅立つ準備は出来たか? 葛城の小娘!」